『Endless Legend』 求む、ファンタジー世界の国王。未経験者歓迎。
『Endless Legend』はファンタジー世界を舞台とした4Xターンベースストラテジーだ(以降: 4X-TBS)。弊誌では同社前作『Endless Space』をジャンル入門用とすすめた。しかし、どうやらその座は本作こそがふさわしいそうだ。開発・販売は AMPLITUDE Studios。2014年9月18日発売。プラットフォームはPC(Windows,Mac,Linux)。定価35ドル。
無個性からの脱出
前作『Endless Space』はユーザーインタフェース(以降: UI)の完成度と高い映像美術で注目を集めた。だが内容は古典的だった。よく言えばシンプルだが、4X-TBSファンは無個性に感じたことだろう。
本作は背景・内政システム・UIをひきつぎつつ、要素を多数追加し個性をもたせた。Unity公式ページに掲載された開発者のインタビューで言及があるように、さまざまなゲームからしくみをとりいれている。たとえば、幸福資源を消費して一定期間国家出力をあげるしくみは『Sid Meier's Civilization 4』の「黄金期」を連想するだろう。
そういった借り物の要素だけでなく、本作独自の要素もある。その中でもっとも目につくものは「高低差タイル」だ。
タイルには高さがあり、飛行能力がないユニットは2段階以上の段差をこえられない。これが「移動できる段差」を探す視界の重要性をたかめている。また、段差は戦闘にも影響をおよぼす。戦闘タイル周囲がそのままタクティカルコンバットのフィールドになるのだ。高低差のある戦闘は、日本のゲーマーにはSFC『タクティウスオウガ』でなじみ深いだろう。弓兵が強いイメージだが、ユニットデザインのおかげで他の兵種も無駄にならない。作業におちいりがちな4X-TBSの戦闘を楽しめるものにしている。
前作で好評の美しいアートワークからつむぎだされたビジュアル・オーディオも健在だ。宇宙が舞台の前作とくらべ、えがく対象が文化色あふれる種族・建物・景色となり、いきいきとして情緒がある。ゲーム中に表示されるイラストも数多く、ファンタジー世界をイメージするのに一役かっている。
楽しいPDCAサイクル
目にみえない内面にも個性が光る。PDCAサイクルを実感できる調整がそれだ。PDCAとは計画(Plan)・実行(Do)・分析(Check)・改善(Action)の頭文字で、4X-TBSはそれらの行程を繰り返し国家を拡大していく。現状を分析し、改善案を立て、それにむけて計画し、実行する。ターンボタンはこの「実行」に該当する。
本作は成功体験をさきにあたえる調整がほどこされている。序盤は綿密に分析。改善・計画せずとも、ターンボタンを押せばある程度の成果があがる。探索・研究・生産にくわえ、遺跡の調査や少数部族との交渉で得るクエストの存在が大きい。これら各項目は達成しやすいよう調整されており、物事が順調にすすめんでいるよう感じるのだ。ぬるま湯のように聞こえるが、成果ないターンが続きプレイヤーがモチベーションをうしなうよりはいい。
成功をあじわえる序盤の調整は、近隣の探索が終わり研究・生産のコストが高くなる中盤で、成果があがらない状況を「苦戦」として分析するにも役立つ。しかし、中盤で高い国家出力をもてるかは、序盤でどれだけ好プレイを積みかさねたかできまり、それは試行錯誤で学ぶしかない。本作はゲーム進行のチェックポイントを設けて試行錯誤を容易にした。
勝利への「舗装済み」道筋
チェックポイントは3種類ある。ゲーム要素「政策決定」「冬対策」「国家クエスト」がそれにあたる。国家を正しく発展させたプレイヤーへの御褒美だが、他の国家にも同様に機会があたえられており、達成できなかった国家を罰する「選別」として機能する。
政策決定は20ターンごとに発生する。都市で得た影響ポイントを消費し、つぎの政策決定までのあいだ国家を強化できる。技術研究がすすめむと強力な効果をアンロックできるため、他国より研究が劣ると相対的に国家の成長がおそくなる。
冬は定期的に発生する。ターンボタン横の夏期・冬期メーターでおおよそ予測できるが、正確な到来はわからない。冬はすべての国家に等しく、国家出力やユニットへ大きなペナルティを課す。都市・技術の開発がおくれた国家はなにも生産できない。
国家クエストは最初の都市を建設したつぎのターンから発生する。連続したクエストで国家特性をいかした勝利までみちびく。ストーリーというモチベーションをあたえ、チュートリアルとして機能するほか、強力な達成報酬でゲームを優位にはこぶ。
これらの達成が当面の目標となりプレイを分析できる。さすれば改善案をたて、計画し、ターンボタンを押せるだろう。また、チェックポイントの成否はリロード・リスタートの判断材料としてはたらき、試行錯誤の効率化に一役かっている。失敗を分析し、改善案を考え、プレイ方針をたて、つぎのゲームを実行する。ここにもうひとつ大きなPDCAサイクルがあり、成長の手ごたえを感じられる。その先にあるのは勝利だ。
進化した初心者向け4X-TBS
本作はファンタジー4X-TBSの古典『Master of Magic』の模倣をこえた。完成度の高いUI。高低差を使う戦闘システム。目を見張るアートワーク。これら目にみえる個性もそうだが、さきに内面の個性としてあげた「プレイヤーをそだてる」つくりが、かがやきを特別なものにしている。これこそジャンル初心者向けとあげるにふさわしい。
4X-TBS経験の有無を問わず、トレイラー動画(下部転載)で気になったゲーマー、タクティウスオウガの戦闘を楽しんだゲーマー、そしてファンタジー作品が好きなゲーマーは手にとってほしい。もちろん、筋金入りのストラテジーファンは『Endless Legend』を見逃してはならない。今後数年、ファンタジー4X-TBSのマイルストーンとして本作の名があがるだろう。