『Crimzon Clover WORLD IGNITION』は同人ゲームサークルの四つ羽根が開発した弾幕STGだ。出発点となる作品は2010年12月31日にコミックマーケット79にて発表された無印の『Crimzon Clover』。「同人版」と呼ばれている。その完成度の高さによって国内外から高い評判を集め、新要素を追加したアーケード版『Crimzon Clover for NESiCAxLive』が2013年4月25日に配信された。
『Crimzon Clover WORLD IGNITION』は 2014年6月7日にリリースされたSteam版である。基本的にはNESiCAxLive版の移植だが、難易度すえおきのArcadeモードのほか、初心者向けのNoviceモードが追加された。さらにリプレイ機能、オンラインランキングが実装され、7か国語に対応した決定版となっている。なお同人版は四つ羽根のよつば氏がほぼ一人で開発・販売しているが、NESiCAxLiveとSteam向けのパブリッシュはテーブルトークRPGやボードゲームを製作している冒険企画局が担当した。
Steam版の価格は日本円表記で980円。今年のサマーサールの対象ともなったので、購入した人もいるかもしれない。ここらで積みゲーを崩して、圧倒的な弾幕の世界をのぞいてみるのも悪くないだろう。
虚飾を取りはらった正統派弾幕STG
弾幕STGというとなにを思い浮かべるだろうか。画面をおおいつくす敵弾の嵐、大量のスコアアイテム、当たり判定が小さな強力な自機といったところが一般的な特徴だろう。本作もそのような弾幕STGの基本フォーマットを踏襲している。逆にいえば、これといった新機軸はほとんどない。操作はシンプルに自機の移動と3ボタンであり、それぞれ通常ショット、ロックオン攻撃、ボムおよびブレイクモードの発動に割りあてられる。初期段階で使用できる3つの機体はどれもオーソドックス。移動速度、攻撃力、攻撃範囲などが異なるが基本的な挙動は似ており、ほぼ『怒首領蜂』シリーズに登場する3機体に相当する。アーケードの弾幕STGに慣れたプレイヤーなら即座になじめるだろう。
また本作にははっきりとしたキャラクター設定や世界観、ストーリーは存在しない。敵機やボスには名前が付いているものの、自機に至ってはTYPE-I、TYPE-II、TYPE-IIIというそっけなさだ。「小細工無しのド直球シューティング」というキャッチコピーにふさわしく、複雑なシステムや奥行きのある世界観とはまったく無縁である。圧倒的な弾幕と大量の敵機を自機の力でねじ伏せていく爽快感にフォーカスした純真無垢の弾幕STGなのだ
ただこうした王道の弾幕STG自体は、同人ゲームの世界では意外にめずらしかった。CAVEとともに現在の弾幕STGのフォーマットを作った東方Projectを別とすれば、制約が大きいアーケードゲームに比べると同人STGは個性的なタイトルが多い。そのようななか本作は同人版の段階からアーケードを意識した設計がなされていた。全5ステージというコンパクトさ、エクステンドを見込んだ難易度調整、スコアアタックを前提としたスコアシステムなど、アーケードゲームでつちかわれたSTGの魅力があますところなくつめこまれているのだ。
初心者にも開かれた稼ぎの快楽
では本作は既存ジャンルを踏襲した平凡な作品なのか。たしかに王道をゆく作品ではある。だが凡庸とは言い切れない。細かな部分ではあるが、いくつか新しい試みがなされているのだ。
ひとつはロックオンの存在だ。ロックオン武装自体はSTGではごくありふれたものだ。代表的なものとしては『レイ』シリーズや『蒼穹紅蓮隊』などがあげられるだろう。しかしながら、弾幕STGにかぎるとロックオンという武装は意外とレアになる。CAVEの弾幕STGにも『プロギアの嵐』や『ケツイ〜絆地獄たち〜』などでロックオン系の武装はあるにはある。だが、それは特定の敵機に集中ダメージを与えるものであって、複数のターゲットを同時に攻撃するものではないのだ。
一方、本作のロックオンは円状のサーチ範囲内に計24までのターゲットをロックすることができる。この複数敵機の同時ロックオンのメリットは非常に大きく、一度ターゲットを補足してしまえば、自機の位置によらず撃破することが可能である。たとえ大量の弾幕によって画面端に追い詰められても、ロックオンで反撃することで用意に危機を脱することができるのだ。
そのため本作では弾幕STGでは必須とされるテクニック"切り返し"を使用する場面が少ない。もちろん、Arcadeモード以上の難易度では大量の敵弾をうまく誘導して端で切り返す場面はないわけでない。しかしながら、初心者向けのNoviceモードではそういった弾幕STGの基本テクニックを知らずとも十分攻略可能である。追い詰められるよりも先に超強力なロックオンで敵を圧倒していく快感にひたれるのだ。
もうひとつの新たな試みは、本作の最大の特徴であるブレイクモードである。本作のボムは、ロックオンや敵への撃ちこみによって増加するブレイクゲージを消費して使用する。ブレイクゲージはかなりの速さで増加するため、ひとつのステージでボムはすくなくとも5回ほど使用可能である。これだけでも大盤振る舞いなのであるが、このブレイクゲージが最大のときには超強力なブレイクモードが発動可能となるのだ。自機の攻撃力が大幅に強化されるだけではなく、スコア倍率やスコアアイテムの量が倍増。派手なショットが画面を覆いつくし、敵機は秒速でスコアアイテムへと溶けていくのだ。さらにブレイクモード時にロックオンや撃ちこみでゲージを回収することで、もう一段階のパワーアップであるダブルブレイクモードも発動できる。
ただここだけ見れば、本作のブレイクモードは『怒首領蜂』シリーズにおける「ハイパー」と酷似しているように思われるかもしれない。随所にCAVE作品へのオマージュが散りばめられた本作がハイパーのシステムを参考にしたことは想像に難くない。しかしながら、『怒首領蜂』シリーズのハイパーがおもにハイスコアを狙う上級者のためのものであったのに対して、本作のブレイクモードはよりカジュアルに使用できるシステムなのである。
というのも、ブレイクモードの発動はゲージを消費するというコストはあっても、そのほかのリスクはほぼ皆無なのだ。『怒首領蜂』シリーズではハイパーの乱発は難易度の上昇を招くため、クリア重視のプレイではあえて使用しない場面も多々ある。だが本作では、積極的にブレイクモードを積極的に発動することでクリアにもスコアにも有利なる。ダブルブレイクモードにかぎっては、空中敵機の攻撃が激しくなるといったリスクはある。だがその攻撃力アップとスコア上昇の加速はSTG史をひもといても稀有であり、リスクを補ってあまりあるのだ。
このブレイクレートによって、本作では『怒首領蜂』シリーズのハイパーの持っていた爽快感を初心者でも味わえる。超強力な攻撃で大量の敵を粉砕し、スコアカウンターが急激に上昇していくさまは圧巻そのものだ。本作は秒速で1億稼げるSTGであり、初心者でも早い段階でスコア稼ぎの楽しさに気づくだろう。
リプレイにいざなう巧みな調整
本作においてもうひとつ特筆すべき点があるとしたら、いわゆる"調整"についてである。
ここでいう調整とは、難易度やスコアなども含めた最終的なチューニングである。基本的にアーケードゲームに出自がある弾幕STGは、基本となるメカニクスやステージ構成が完成したあとロケーションテストによって最終的な調整がなされる。このロケーションテストによって最終的な難易度、スコア、エクステンド要素などが決定されるわけであるが、アーケードゲームとしてクリアラーにもスコアラーにも長く愛されるためには、ここでの調整は重要だ。いくら斬新なシステム、美麗なビジュアルをフックとしても、調整が甘いとアーケードでは見向きもされなくなる。
同人ゲームとしてスタートした本作は、一般的なアーケードゲームよりも長いあいだ開発されていたとみてよいだろう。ステージ構成やスコアシステムなどをふくめ当初から完成度は高かったが、NESiCAxLive版の配信以降はアーケードで激しいハイスコア合戦が繰り広げられた。それは本作がオーソドックスな弾幕STGでありながらも、何度も挑戦しがいのある調整がなされていたことの証であろう。
練りこまれた調整を感じさせるポイントとしては、たとえばステージ3の巨大なラフレシアをあげることができる。この地上敵は花弁が開くと同時に全方位弾を放ってくる。そしてほかの敵弾と合わさって非常に危険な状態になる。だが、ラフレシアに集中的に撃ちこむことでギリギリの状態で撃破が可能、弾消しが発生することで危機を脱することができる。その他にも本作には弾消しが発生する場面が多い。それらのどれも敵機の耐久力と無敵時間をうまく調整することで、緊張感と解放感をうまく演出している。
またスコア稼ぎを目的したプレイにも適度なメリハリを感じさせる調整がなされている。本作にはロックオンで同時に敵を倒すことで上昇するロックオン倍率と撃ちこみなどで上昇するブレイクレートという2つのスコア倍率が用意されている。この2つの倍率に素点をかけた「素点×ロックオン倍率×ブレイクレート」がスコアとして加算される。ブレイクレート自体は意識せずとも増加していくため、なるべくロックオン倍率を高く維持することが重要だ。
そのためには中型機や大型機をなるべくフルロックオンで倒すことが理想となる。しかしながら、一回のロックオンでは破壊できない耐久力を持つ敵機も登場する。その場合、「フルロックオン→ショットによる撃ちこみ→ロックオン発動」という手順を踏む必要がある。このロックオンとロックオン発動の間のショットの撃ちこみが難しく、撃ちこみすぎるとショットで撃破してしまい、撃ちこみが足りないとロックオンで撃破できないという状況に陥るのだ。
このように本作でハイスコアを狙うためにはショットとロックオンの適切な配分が重要である。ともすればショットは垂れ流すだけになりがちであった弾幕STGにあって、このような繊細な右手の操作を要求するゲームは新鮮だ。もちろん、Noviceモードではそれほど意識する必要はないが、スコアを意識することで本作の巧みな調整を実感することができる。
ほかにも本作にはハイスコアを狙うための様々な仕掛けが用意されている。基本となるスコアシステム自体は非常に単純ではあるが、無敵時間を利用した撃ちこみや高倍率でスコア回収が可能な小型機ラッシュ地帯など、それを活かすためのステージ構成や耐久力の調整が極めて巧みに調整されている。そして緻密に練られた調整は凡百のアイデアに勝る。ありふれたメカニクスの弾幕STGでありながらも、はてしないリプレイにプレイヤーを駆り立てる。その理由は、この調整にあるのだ。
家庭用としての正しい配慮
最後に本作の難易度について簡単に触れておく。本作の難易度はNoviceモードとArcadeモードの2つが用意されている。Noviceモードは敵弾や敵の耐久力が少ないうえに、ステージ1から4までのボスがエクステンドアイテムを落とす。難易度がひかえめであった同人版に比べても簡単であるため、まず最初にプレイするには間違いない選択肢であろう。慣れたプレイヤーなら初見でクリアすることも十分可能だ。実際、同人版をプレイしていた筆者は2回目のプレイでノーコンティニュークリアを達成した。
それに比べるとArcadeモードは地獄……とまではいわないが、かなりの歯ごたえを感じさせる。多くのプレイヤーの心をへし折ったNESiCAxLive版に準じているだけあって、アーケードゲームの難易度がそのまま再現されているのだ。弾幕が激しくなるのはともかく、なによりもエクステンド条件が非常に厳しい。スコアアイテムを一定量取得することで合計4回までのエクステンドが可能だが、かなりの稼ぎプレイを意識しなければ4回目のエクステンドには到達しないであろう。
それでもいくつかの救済措置はある。ひとつは強力な攻撃力と適度な移動速度をかねそなえた隠し機体のTYPE-Zの存在だ。NESiCAxLive版にも存在した隠し機体だが、本作でも累計スコアアイテム取得数が300万に到達するとアンロックされる。300万というとものすごい量に思えるが、一回に30万ほど稼ぐことができるゲームだ。ゲームセンターに通うわけではないので、それほど時間はかからない。
つぎに重要なのは親切なトレーニングモードである。トレーニングモードでは特定のステージやボス戦をプレイすることが可能だ。さらに残機数やブレイクゲージ、スコアアイテムの量などを細かく設定できるため、パターン作りの手助けとなる。また本作は無制限コンティニューであるため、ノーコンティニューでは到達できないステージも練習できる。
家庭用だからといって安易に難易度を落とすのではなく、練習のための機能をしっかりと取り入れた点は好感がもてる。その他にもアーケードにあったBoost、Unlimited、Time Attackといったアレンジモードも、もちろんふくまれている。ひとたび稼ぎの快楽にとりつかれたならば、基本のモードだけでも数十時間はプレイできる。より高みを目指すプレイヤーなら数百時間は費やすことになるだろう。