『ステラーブレイド』レビュー。よくまとまっているが独創性の欠落や経験不足が見られる、発展途上ゲーム

『Stellar Blade(ステラーブレイド)』は既存の「売れすじ」を綺麗にまとめている。まとめているのだが、「著名作をリスペクトしたゲーム」の域を超えるものではない。

オンラインゲームを継続して作り続けてきた開発スタジオ……特に韓国や中国のスタジオが「買い切り型」の大作ゲームにチャレンジする、というムーブメントが、昨今のゲーム業界にて巻き起こっている。『Stellar Blade(ステラーブレイド)』はその流れの中にある作品の1つだ。だがそのクオリティは、既存の「売れすじ」を綺麗にまとめているという印象に留まり、「著名作をリスペクトしたゲーム」の域を超えるものではない。業界に「買い切り型」の開発ノウハウが蓄積されていないことを端的に示すものとなっている。

『Stellar Blade』は4月26日に発売されたアクションRPG。対応プラットフォームはPlayStation 5。価格はパッケージ版とダウンロード版のスタンダードエディションが8980円。デジタルデラックスエディションが9980円(税込)となっている。開発を手がけるのは、『勝利の女神:NIKKE』で著名なSHIFT UPだ。

※本稿はソニー・インタラクティブエンタテインメント提供レビュー用コード(通常版)でのプレイにもとづき執筆。またネタバレ防止のため、ストーリーに関する具体的な記述はない。ただしストーリーに関する感想は述べているので、未クリアの人は注意してほしい。



「買い切り型」大作ゲームへの挑戦


キャッチーなビジュアルで話題となっている本作だが、その構成要素は他作品と比較すると、非常に特殊なものになっている。俗に「SEKIROライク」と呼ばれる、ジャストタイミングの防御と専用ゲージの組み合わせをベースに、プラチナゲームズのアクションゲームでよく見られる、回避とコマンド入力による軽妙な展開を組み合わせた戦闘システム。「美女型のアンドロイドが異形の怪物と戦う」というビジュアルとストーリーは、日本のサブカルチャーの影響が色濃い。「銃夢」などをはじめ、国内ではよく観られる物語のフォーマットである。近年発売されたゲームで言えば、『ニーア オートマタ』が代表的である(これはSHIFT UPの別作品『勝利の女神:NIKKE』にも言えることだ)。

いってしまえば、本作は韓国産のゲームなのだが、実態としては日本文化をベースとしたカクテルであり、ゲームの中にはいわゆる「韓国らしさ」があまり出ていない印象を受けた。強いて言えば人間の3Dモデルだろう。韓国といえば世界的なポップカルチャーを生み出し続けている国であり、こうした状況は不可思議に思える。これには韓国におけるゲーム文化と歴史が関係していると考えられる。

韓国では「PCバン」(日本におけるネットカフェ)が非常に安価で利用可能となっている。これに合わせて発達したのが、マルチプレイヤー・オンラインゲームの文化であり、日本をはじめ世界に大きな影響を与えた。

一方でこの運営型ゲームという地元のメインストリームに逆らうように、「買い切り型のインディーゲーム」を制作する流れも韓国では活発である。韓国のゲームショウであるG-STARが、昨年インディーゲームのブースを設けたことは記憶に新しい。

しかしながら、「超大作」かつ「買い切り型」のゲームに関してはまだ発展途上にある。韓国はゲーム専用機とソフトウェアを買う必要性が薄い環境にあるため、コンピューターRPGやJRPGのように、土着の文化に立脚する、かつ超大作のスケールに耐えうる買い切り型のゲームフォーマットを作り上げるには至っていない。外部のフォーマットに依存する状態にある。

また、オンラインゲームを継続して作り続けてきた開発スタジオが(特に韓国と似たオンラインゲーム文化の形態を持つ国のスタジオが)、レッドオーシャン化した市場への対策として、在庫が要らないダウンロード販売を通じ、ロングセールスが見込める買い切り型の開発にチャレンジしている、というムーブメントにも触れる必要があるだろう。これは本作の開発会社であるSHIFT UPに限った話ではない。たとえば、NEOWIZは『Lies of P』を世に送り出し、Paper Gamesは『百面千相』を開発している。日本ではCygamesが『グランブルーファンタジー リリンク』を発売した。

こうした状況を踏まえると、『Stellar Blade』は昨今のゲーム文化を象徴する作品の1つであると言えるだろう。現時点において、ゲームアワードは世界各地で開催されているものの、大賞を受賞した作品の開発スタジオは、日本を除けば欧米が圧倒的に多い。いつか韓国や中国、サウジアラビアなど、アジア圏に所属する国々の作品が大賞を獲得する日が来るかもしれない。本作はその一歩となる作品になるかもしれないのだ。

日本文化をベースにしたカクテル


では文化の話はさておき、『Stellar Blade』の中身に関して、詳しい内容を観ていこう。筆者は本作を形容するにあたって「日本文化をベースにしたカクテル」と評したが、これは構成要素が散らかっているという意味ではなく、混ぜものとして調和が取れているという意味である。アクションRPG作品に必要な要素が過不足なく揃っており、それぞれが足を引っ張り合ってはいない。

まず注目したいのは作品の中核を成す戦闘システムである。先述したように、本作は「SEKIROライク」と「プラチナゲームズ風のデザイン」を組み合わせた戦闘システムを採用している。興味深いのは、この2つの要素が単に「そこにある」のではなく、シナジーを形成しているという点にある。防御行動からの派生として複数の攻撃コマンドを用意することにより、戦闘体験を「カウンター主体」ではなく、「攻防のせめぎあい」という形で表現できている。

主人公の育成が終盤になると自発的な攻撃を通じても敵の専用ゲージを削ることが可能となるため、より体験としては「戦い」に近くなっていくのが素晴らしい。ジャスト防御で減らすゲージとはまた異なるゲージ「シールドゲージ」も用意しており、敵のこのゲージを削るためにプレイヤー側からの積極的な攻撃を奨励しているというのも面白い。リズミカルなサウンドトラックは、戦闘の軽妙さを引き立てることで、性質が異なる2つの戦闘の要素を1つにまとめるためのつなぎの役割を果たしている。

戦術の核となる防御のタイミングに関しては比較的シビアであり、所持量が限定されている回復リソースと合わせて、本作は高難易度指向を採用している。それでいて、アクションゲーム初心者救済用のシステムも用意されている。体験のバラエティを確保してくれる育成要素や敵の種類についてはそれほど多くないものの、飽きを感じさせる前にゲームがエンディングに到達してくれるため筆者としては気にならなかった。


プレイヤーが駆け回ることになるフィールドとダンジョンについては、かなりユーザーフレンドリーな作りという印象を受けた。ゴールまでの誘導が強いだけでなく、裏表からアプローチ可能なハシゴの挙動や、(背景設定ゆえ)酸素吸入が必要ない水中探索、判定がゆるいイライラ棒マップなど、プレイヤーに戦闘以外でストレスを可能な限り感じさせない工夫が観られる。定期的に挿入される射撃専用ダンジョンや簡単なミニゲームは、体験のマンネリ感を解消するためのカンフル剤として機能している。これに関連して、本作には世界観を掘り下げるサブクエストも数多く用意されている。基本的にはお使い形式だが、達成後に依頼の発注者のもとへワープしてくれたり、フィールド中のファストトラベルポイントが豊富であったりと、往復する面倒くささを解消するための工夫が観られる。

『Stellar Blade』は昨今のアクションRPGが備えている要素を一通り網羅しつつ、プレイヤー層の広がりを意識したデザインがなされている。特に自社製のスマートフォン対応ゲームをプレイしているユーザー層に向けた配慮がされていることがわかる。「SEKIROライク」なアクションRPGは本稿の執筆時点における流行の先端ではあるが、それを単になぞるだけの高難易度ゲームを作ったのではない、という気概を感じさせる。

未だ黎明期ゆえに


しかしながら、『Stellar Blade』は遊びの中に独自性のある明確な強みがない。『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』や『ニーア オートマタ』ではなく『Stellar Blade』を遊ぶ理由をゲームシステムを通じて提供できているとはいえない。「日本文化のカクテル」であるがゆえに生まれる強烈な既視感を打ち消すことができていないのだ。この既視感を通じて、リスペクト元と比較した際に洗練されていない部分が悪目立ちしてしまっている。

たとえば戦闘に関して、本作と同ジャンルの作品は、プレイヤーキャラクターと敵の姿が被らないよう、敵の大きさやカメラワークを調整するものである。被ってしまうと敵のモーションが視認できないからだ。特に本作のようなカウンター戦術が核となっている作品においては重要な点である。だが、本作では主人公と敵キャラとの体格差が一貫しておらず、基本的に固定されているカメラ位置と相まって、小さな雑魚敵との戦いやボスの形態変化時など、死角から攻撃されている感覚を覚えることは少なくない。

また、戦闘には初心者救済用として敵の攻撃がほぼQTEになるシステムを採用しているが、QTEになる攻撃とそうならない攻撃があり、その基準が明白ではない。さらに言うと、戦闘の大部分をQTEにすることで、本作の持ち味であるスタイリッシュな軽妙さを殺してしまっている。

フィールドデザインに関しては、1つ1つのダンジョンが完全クリアまで微妙に長いというのもあるが、それ以上に、後半の難易度調整に関して「雑さ」を感じてしまった。即死トラップが主体となる内容や、急激なボスの強化(特に即死攻撃を使用してくる点)、そしてクライマックスとなるダンジョンの中身。

ゲームプレイの推進力となるストーリーが良ければ、こうした「雑さ」は気になりにくいのだが、本作のストーリーはあまりにもわかり易すぎるため、体験としては薄っぺらく映った。よくあるプロットの上で怪しいキャラクターが「私は怪しい人物です」とアピールし続け、事実その通りに進んでいく驚きのない展開には、白けてしまった。また、本作はキャラクター中心の物語を展開しているが、人物像の深堀りに乏しく、登場人物の多くに記号的、舞台装置的な印象を受ける。こうした物語と合わせ、本作はゲーム全体が尻すぼみな体験構造になってしまっている。


ほかにも本作に対して言いたいことはたくさんある。探索可能な広いフィールドに対しミニマップを設けないなら、主人公の位置が分かりやすいよう、特徴的なランドマークをたくさん設けたほうが良いし、マルチエンデイングを採用するなら周回プレイを快適にする機能を設けたほうが良い。本作はアクションゲームに慣れていない人もユーザーとして想定しているのだから、体験の完遂に向けて、内容をスキップできる機能を設けたほうが良いだろう。

こうした重箱の隅をつつくような「つまらない指摘」は、作品を突き抜ける強烈な遊びの魅力があればいくらでも塗りつぶせるものである。本作におけるセールスポイントの1つとしては、『NIKKE』開発元によるモデリングとアニメーションが美麗な3D美少女ゲームであるという点が挙げられるものの、筆者はそこに価値を置いていない。世に名作が溢れている状況の中で何故『Stellar Blade』を遊ぶ必要があるのか、という筆者の序盤に抱いた疑問に対し、作品はクリア後もなお答えてくれなかった。

この「遊びとしての強みを構築できていない」問題は、先述したように、韓国における超大作の買い切り型ソフト開発が黎明期にあるがゆえに発生したものだと筆者は推測している。業界全体にノウハウが蓄積されていないのだろう。オンラインゲームに対し、買い切り型の開発がまだ洗練されていないことの現れなのだと筆者は考えている。


総じて『Stellar Blade』は韓国のゲーム業界が発展途上であるということを強く認識させるゲームである。よくぞ世に出してくれたという気持ちもあるが、筆者としては「既存の要素をうまく取り入れ中身がまとまっている」以上のコメントを残すことができないもどかしさが上回っている。だがこれは業界の行き詰まりを示すものではなく、伸びしろがあることを意味している。オンラインゲームの雄達が「買い切り型」にチャレンジするというムーブメントがいつまで続くのか、それが国の文化に根付くのかは分からないが、SHIFT UPの活躍をはじめ、彼らの今後が楽しみである。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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