『Rise of the Ronin』レビュー。スタジオ歴代最高峰のアクションゲームだが、オープンワールドとしてはまだ周回遅れ

『Rise of the Ronin』レビュー。『Rise of the Ronin』は間違いなく開発スタジオにおける歴代作品の中で最高のクオリティを誇っているものの、なんとも形容しづらい作品である。

「継続は力なり」という言葉がある。国産「死にゲー」開発スタジオとして著名になったTeam NINJAが『仁王』の時代より続けてきたことは、幕末の時代を迎え、1つの到達点を迎えた。だが新たな試みとなるオープンワールドの構築とその活用については上手くいっていない。『Rise of the Ronin』は間違いなく同開発スタジオにおける歴代作品の中で最高のクオリティを誇っているものの、ゲーム全体の歴史からすると、周回遅れの状態にある。なんとも形容しづらい作品である。

Rise of the Ronin』は3月22日発売のオープンワールド・アクションRPGである。対応プラットフォームはPlayStation 5。価格は通常版が8980円(税込)。ダウンロード販売限定版であるデジタルデラックス版 が9980円となっている。また、CEROレーティング「D(17才以上対象)」相当の表現になる通常バージョンと、CEROレーティング「Z(18才以上のみ対象)」相当の『Rise of the Ronin Z version』がそれぞれ存在している。

作品の舞台は江戸時代末期。幕末と呼ばれる時代。プレイヤーは名もなき浪人として、さまざまな陰謀がひしめき合う混沌とした情勢の中を生き抜いていく。劇中で提示される選択肢や、プレイヤーの行動によって、物語展開が変化することを作品の特徴の1つとしている。開発を手がけるのは、コーエーテクモゲームスのTeam NINJAである。

※本稿はソニー・インタラクティブエンタテインメント提供レビュー用コード(通常版)でのプレイにもとづき執筆。またネタバレ防止のため、ストーリーに関する記述はない。

過去作からの想いで踏み固められた道


『Rise of the Ronin』をTeam NINJA歴代タイトルという視点から観ると、その姿は間違いなく最高傑作であり、新たな挑戦の成果といえるだろう。過去作において存在した欠点を解消し、表現の幅を着実に広げている。作品全体の作りとしてはオープンワールド・アクションRPGというジャンルにおいて、オーソドックスな内容に落ち着いているものの、構成要素を1つ1つ確認してみると、過去作の遺伝子がより進化した形で、作品に発現していることが分かる。『Rise of the Ronin』の体験は、「3D戦闘アクション」を「起点」とし、2つの「道」に分かれている。1つはミッション制を採用したことで成立している、ロジカルな戦闘体験。もう1つはオープンワールドを舞台とした散策体験である。

ではまず、何故2つの「道」に分かれる必要があったのか、という点から触れていこう。これにはオープンワールドというジャンルそのものがもつ問題が関係している。オープンワールドは物語を展開するための媒体として、適性がほぼないのである。物語というシステムは、起承転結という言葉が指し示す通り、初めから終わりまで、単一のベクトルに従って突き進んでいく構造を備えている。一方、オープンワールドはプレイヤーの自由なゲーム進行を尊重するための形式であり、当然ゲーム進行のベクトルは単一にならない。いつまで経っても本筋が進行しないことを許容するための形式なのだ。

この問題を解決するには大きくわけて3つの方法がある。1つ目は作品全体における物語の影響力を低くすること。オープンワールドを活かした遊びの部分を強調した作品にすること、と言い換えてもいいだろう。具体例としては『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』や『エルデンリング』がある。2つ目は1つ目の逆である、物語表現の一部としてオープンワールドを採用した作品にすること。戦闘や移動という遊びを物語の一節とみなし、文中に組み込むこと。これによってオープンワールドでありながら体験の一貫性が生まれる。代表的な作品としては、『ゴースト・オブ・ツシマ』『Marvel’s Spider-Man』シリーズがある。3つ目は最初からオープンワールド前提の物語にするという方法だ。散逸したゲームプレイを前提としたストーリーにすることで作品を成立させる。この場合、ゲームプレイの1つ1つが、キャラクターが持つそれぞれの側面を担当し、掘り下げていく内容が多い。『サイバーパンク2077』や『レッド・デッド・リデンプション 2』などが当てはまる。また、オープンワールドのみならず、ミニゲームを多く採用している作品も同様である。


『Rise of the Ronin』はストーリーを売りの1つにしているゲームではあるが、実態としては1つ目の例にかなり近い。本作はミッション制を採用しており、オープンワールドの中にはない「専用のステージをクリアすることで」ゲームが進行する。つまり、オープンワールドとストーリー進行が完全に切り離されているのだ。これは本作が時代劇という極めて時間に厳しいテーマを扱っていることに起因している。

オープンワールドとは世界を創造し、遊びに活かす仕組みであり、故に時間の概念も組み込む必要がある。だが時代劇は時間の進行と展開の面白さが不可分にあるため、勝手に明日になったり明後日になられては困る。ゆえにこうした形式を採用したのだと考えられる。また、自由度のあるアクションは、Team NINJA作品ではすでに『Wo Long: Fallen Dynasty』にて導入されている。しかしながら、この時点では上手く活用できていなかった。戦闘に特化したロジカルな体験を重視するゲームデザインと、広々としたフィールドをあちこち回るギミックの相性が良くなかったのだ。本作ではロジカルな戦闘体験を得られる専用パートをゲーム中に用意したことでこの問題を解消している。

戦闘体験そのものに関しては、Team NINJAゲームとしては『仁王2』→『Wo Long: Fallen Dynasty』→『Rise of the Ronin』へと、要素を継ぎ足し、継ぎ足し、それでいて全体のバランスが損なわれないデザインがなされている。ベースは『Wo Long: Fallen Dynasty』のような、パリィと専用ゲージを組み合わせた「SEKIROライク」な戦闘システムと、ランダムステータスの装備品を組み合わせた内容となっているが、コマンド入力を通じたゲージ管理や武器入れ替え攻撃など、『仁王』シリーズより観られた、アクションゲームとしてのやりこみ要素は健在である。採用できる武器種とそれに伴う操作感は、装備できるコマンド集「流派」の存在により、RPGとしてプレイヤーごとの個人差を生むには十分だ。『Wo Long: Fallen Dynasty』の時点で見られた、パリィという戦法に合っていない武器種がなくなっているのも良い。カウンター主体であるということと、自分から攻めるという戦術が両立できているため、プレイヤーが採用できるアクションに幅が出ているのだ。

また、過去作に共通して見られた問題である「ゲームを隅々まで遊んでいると、強化されたプレイヤーキャラによって終盤に難易度が踏み倒されてしまう」という点もおおむね改善されている。これは主人公の強化要素がスキルツリーとパッシブスキルを重視した簡易的な作りとなったことが大きい。特化したステータスを作りづらくなったことで、戦闘の強度を最後まで維持できている。それでいて、理不尽なキツさを感じさせない体験になっているのは素晴らしい。本作はあくまで「死にゲー」ではなく、万人受けを目指して開発されているが、筆者としては丁度いい難易度に仕上がっていると感じた(難易度ノーマル時点)。


本作の売りである分岐を重視した物語体験については、過去作からの飛躍、挑戦であると同時に、過去作でやりたかったことの実現であると言える。この分岐を通して物語を展開するという方式やNPCとの関係性は、『仁王2』の時点で登場していたものの、内容としては不十分であり、メインディッシュに対する添え物どころか、フレーバーの域を出ていなかった。物語という要素自体が、ゲームを進行させる大義名分以上の価値をもっていなかったのだ。だが本作では好感度を通じたキャラクターとの関係性を含め、しっかりと実体のある物語を描いている。もしかすると、『ストレンジャー オブ パラダイス ファイナルファンタジー オリジン』の開発を通じたノウハウが活かされているのかもしれない。尺などの都合上、カットされている歴史的事件や、扱いきれていないキャラクターたちが存在するものの、史実をベースにした伝記ロマンとしては十分なクオリティであると言える。また、これは後述するオープンワールドにも言えることだが、幕末の歴史を描いた物語をしっかりとゲームに落とし込んだことそれ自体に、先行者としての大きな価値がある。今後登場していくであろう幕末を舞台とするゲームの品質に対し、本作の存在が1つの基準になることは想像に難くない。

開拓に失敗した新たな道


過去作からの進歩を感じさせる戦闘体験。過去作からの野望を思わせる物語体験。両者によって構成された1本の道。経験によって踏み固められたその道は、堅実な面白さをプレイヤーに提供することに成功している。一方で、本作を構成するもう一つの道……Team NINJAにとっては初めての試みとなるオープンワールドの構築。新たな道の開拓は上手くいっていない。先述した通り、本作はジャンルの問題からオープンワールドと時代劇的な物語体験を切り離している。よって先例に挙げた作品のように、オープンワールドそのものにも、インタラクション可能な独自の魅力を用意しなければならなかったのだが、本作にはそれがない。場所と空間を利用したコンテンツのバラエティに乏しく、世界を遊び場として活かしきれていないのだ。マップは広いが、広いだけである。

ゆえに本作は、同開発スタジオの過去作と比較すると、歴代最高作品と言えるのだが、ゲーム業界全体でのオープンワールドゲームの1つという視点から観ると、その背中は小さく写ってしまう。成熟したジャンルの中に新作を投入する充分な意味を消費者に提供できておらず、筆者としてはオープンワールド抜きでも本作は成り立ってしまう予感がある。

確かに、幕末の世界を広大なジオラマとして再現したことは、先行者としてそれ自体に大きな価値がある。ワイヤーアクションと滑空を駆使し、各地を巡って歴史的建造物を鑑賞するのは楽しい。美しさだけでなく、当時コレラが流行していたという背景も欠かさず描写しているのには好感が持てる。だが、視覚情報に魅力を依存しているため、飽きが来るのも早い。本作はその対策としてフィールドを3種類用意したり、地域にちなんだサブクエストを用意してはいるものの、前者はコンテンツバラエティの問題から、後者は演出をはじめとするクオリティの問題から、解決方法として有効な働きを示していない。本作の宣伝文句である「幕末にタイムスリップしたような没入感のある体験」は残念ながら成立していないのだ。


総じて『Rise of the Ronin』は、Team NINJAが昔から継続している部分こそ進歩を感じられ、非常に高いクオリティでまとまっているが、完全に新しい分野となるオープンワールドの構築については上手くいっていない。オープンワールド要素が時代についていけていないことで、ゲーム全体の歴史からすると、本作の「オープンワールドアクションゲーム」としての設計は周回遅れの状態にある。進化と停滞の両方が根っこにある、なんとも形容しづらい作品になってしまっている。

ただ少なくとも現時点で言えることは、「継続は力なり」ということだ。Team NINJAがオープンワールドゲームを今後も作り続けるのかはわからないが、もし次回作があるのならば、そのジャンルとしてのクオリティは間違いなく上であるということは断言できる。Team NINJAが「死にゲー」開発スタジオというだけでなく、「オープンワールド」開発スタジオとして知られる日も、そう遠くないかもしれない。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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