『サイバーパンク2077』拡張パック「仮初めの自由」および大型アプデ2.0レビュー。サイバーパンクはエッジの向こう側に到達し、最新ゲームとして生まれ変わりを果たす
白状すれば、たかが拡張パックだ、たかが大型アップデートだと思っていたことは否めない。しかも約2年前のゲームである。今さら新しい物語をソースコードに書き加えたところで、どこまでいっても昔の体験なのだと。サイバーパンクに懐かしさを覚えることになるのかと。私はそう思っていた。しかしこの推測はまったくの間違いであったことを報告したい。アップデートを通じ、『サイバーパンク2077』は2023年度発売の最新ゲームとして、ここに生まれ変わった。
※本稿はCD PROJEKT REDからコードの提供を受け、PlayStation 5版でのプレイに基づき執筆している。
追加コンテンツとして最高のデザイン
まずは『サイバーパンク2077』の有料大型拡張パック「仮初めの自由」について言及していこう。多くの場合、ストーリーを拡張するコンテンツはゲーム中に新たなストーリーとロケーション、及び各種アイテムを「外付け」するものだが、『サイバーパンク2077』という作品において、この形式を採用することは難しい。というのも、『サイバーパンク2077』は本筋に対して一貫性のないゲームプレイをすることにより、「生まれてから死ぬまで」という一貫性……多種多様な人生を表現することを特徴とした作品であるからだ。よって、「仮初めの自由」のプレイを中断し、他のクエストを進行することができたり、あえて「仮初めの自由」をプレイしないことをゲームとして違和感なく成立させる必要がある。
そのため「仮初めの自由」は物語体験の「外付け」を行うのではなく、メインストーリーの体験をグレードアップさせる形を採用している。コンテンツの中に独自の時系列が成立しているわけではなく、メインストーリーにおける物語分岐の選択肢を増やすデザインを採用している。言葉にしてみれば単純だが、実際の内容はすさまじいものだ。「仮初めの自由」の内容に本篇の進行状況が反映されるのはもちろん、「仮初めの自由」の進行状況もまた本篇に反映される、相互干渉の仕組みを作り上げている。
本篇で出会った人物が追加ストーリーに登場するケースがある一方で、追加ストーリーの状況に応じて、本編中のいたるところにセリフが(フルボイスで)追加される。なかにはAIで声優の演技を再現しているセリフもあるというのだから興味深い。もちろん、追加コンテンツを一切遊べなくなってしまう選択肢も用意されている。作品コンセプトを崩すことのないコンテンツデザインであり、『サイバーパンク2077』という約2年前に発売されたゲームに再び1から遊ぶことの価値をもたらしている、追加コンテンツとして非常に美しいデザインであると言える。
ではコンテンツ自体の出来はどうなのかといえば、素晴らしい内容に仕上がっていると言うほかない。本篇ではあまり触れられなかったミリテクと新合衆国、そしてAIという背景設定の掘り下げを下地に、誰が敵か分からない「互いを騙し合うスパイスリラー」が展開されていく。キャラクターが内に秘めた真意を口にすることなく騙し合うという物語と、選択肢によって展開が分岐していくゲームシステムが良く噛み合っている。何かを選ぶという行為自体に先の読めない大小さまざまな面白さが用意されている。やがて事件の全容が明らかになる物語後半に至れば、「仮初めの自由」という表題そのままに、『サイバーパンク2077』における自由とは何かというテーマが語られていく。
本作は自由度の高いナラティブを売りにした作品でありながら、同時にゲームルールという厳格な規則に縛られている。ナイトシティの住民は『サイバーパンク2077』という自由の檻から出ることができない。このメタフィクショナルな構造を、ゲームシステムや背景設定を絡めながら上手く物語に落とし込んでおり、本篇における「栄誉の死と平穏な生涯」というテーマや、各エンディングが持つ味わいをより一層深めることに成功している。
物語を支える視聴覚表現もまた一級品である。まずは主要キャラクターたちの造形に関してだが、彼らの一挙手一投足を通じた振る舞いから、人間が生来持つ二律背反の性質が内面から滲み出ているのが感じられる。騙し騙されを繰り返す中で、どうしても自分自身だけは騙せない。この絶対的な事実が役者による真に迫った演技や素晴らしい音響、モデリングを通じ、作中のなかで上手く表現できている。
ローカライズも相変わらず自然だ。舞台となるドッグタウンの情景は、不夜城と形容できるナイトシティの中心部とは真逆の濁りきったドブ川のような場所だが、生への渇望が溢れている地域でもあった。エリア自体の広さは大きく無いものの、高低差を多用することによって質量的な密度を生み出しており、都市部を散策している際とはまた違った興味深い発見がある。オリエンタルなモチーフを散りばめた都市づくりは、「ニューロマンサー」や「ブレードランナー」に代表される、東アジア的なモノとアメリカ的な概念が融合した既存のサイバーパンク観に新しい表現を持ち込んでいる。
これら以外にも評価すべき点としてはサブクエストの内容が挙げられるだろう。拡張パックを通じて追加されたサブクエストはどれも既存のものより内容が凝っており、プレイヤーの行動を通じて展開が分岐していくものが多く、ドラマや世界観の掘り下げに富んでいる。メインストーリーのおまけと呼ぶには勿体ないクオリティのものばかりだ。一方で追加物資の投下や車の改修といったランダムイベントは、メインの体験に添えるアクセントとしてのミニゲームという立ち位置に収まっている。筆者としては新たな遊びごたえのあるエンドコンテンツが欲しかったため、少々残念ではある。
生まれ変わりをもたらすアップデート
続いては無料の大型アップデート2.0の内容に移ろう。本作はソフトウェアバージョン2.0への更新に伴い、ゲームシステムの大規模な改修を実施。キャラクタービルドや戦闘アクションといった部分を中心に、より直感的に、より奥深いゲーム体験ができるような、アップデートが行われた。
まず特筆すべきは、パークツリーの内容が一新されたことだろう。同系統の強化内容が分かりやすくまとまっており、自分が理想とするビルドの最終形からの逆算がしやすくなった。コストの概念を通じたサイバーウェアの装備制限の導入も行われた。これはゲーム中のパワースパイクを遅くする、というだけでなく、「個々人によって異なる耐性以上のサイバーウェアを肉体に組み込むと発狂、暴走する」という背景設定をゲーム体験に組み込む狙いもあるだろう。本作のアニメ化作品「サイバーパンク: エッジランナーズ」ではこの設定がドラマの根幹を成しており、少なくともアニメを視聴済みのユーザーにとっては納得の行く制限になっているはずだ。
これに合わせて、敵が全体的に強化されている。近接攻撃と高速移動を組み合わせた戦法を繰り出す武闘派が登場した一方で、ハッカーたちは多種多様なハッキングでプレイヤーを苦しめる。ボスもボスらしい強さを獲得している。以前のバージョンでは、ビルドが固まってくる中盤以降になると敵との戦闘が生ぬるいものになってしまっていたが、上記の制限や既存ビルドの弱体化調整も合わせて、終始歯ごたえのある戦闘を楽しめるようになり、敵の討伐おいて優先順位の設定や、ステルスプレイを選択する意義も大きくなった。
回復アイテムと爆発物の類がチャージ式になり、戦闘中のブリーチプロトコルが不必要になったのもありがたい。ゲーム体験のテンポを改善しつつ、難易度調整に貢献している。筆者は1からゲームをやり直し、ハッキング主体→銃撃主体→近接攻撃主体(刀)という形でビルドを推移していったが、体験の多様性は保たれ、それぞれに異なる面白さが用意されていることを確認できた。戦闘が苦手というユーザーには強力なエイムアシスト機能が用意されているため、単に難易度を向上させたわけではないということにも言及しておきたい。
このほかにもさまざまなアップデートがなされているが、なかでも個人的に良かった点は衣服が防具ではなくなったことだ。これによって好きな衣服を組み合わせることが可能になり、上述のサイバーウェア制限と合わせ、ロールプレイの幅が大きく広がったように思える。そしてこれらの施策は、ゲーム体験の変化を通じ作品を1から遊びなおすことに対して明確な理由を提示している。これは周回プレイというコアユーザー向けの遊び方をゲームが推奨しているのではなく、本作がアップデートを通じて生まれ変わったことの報告であり、単なるコンテンツの延命策とは一線を画している。
一方で、ビルドに関連するほとんどのコンテンツの難易度が、ロケーション依存ではなく、レベル依存になっているのは少々問題であると感じる。というのも、能力値チェックの際にもこれが適用されるため、レベルが高まるゲーム終盤になると限界値付近を要求されるギミックが途端に増えてしまうからだ。普通にプレイしていれば最終的にほぼすべての能力値が限界値に達するとは言え、ステータス構築の際においてわざと数値を一定の値に留める、キャラクターの個性を表現するという観点からのステータス配分が普通に損になってしまうのは、ロールプレイが重要な本作において問題だと感じる。また、残念ながらバグも多い。筆者が本稿を執筆している時点(バージョン2.01)においてゲームが途中でシャットダウンする不具合が多く発生しているだけでなく、特定のエンディングにおいてほぼ進行不能になるバグが発生している。継続的な修正を通じて改善してほしい限りだ。
総じて、『サイバーパンク2077』は有料大型拡張パック「仮初めの自由」と無料の大型アップデート2.0を通じ、約2年前のゲームでありながら、業界の最新作に匹敵するほどの輝きをいま一度取り戻している。これは未完成から完成に至る軌跡ではなく、さらなる体験の進化……本作風に言うのであれば限界を越え「エッジの向こう側」への到達を果たしたのだ。運営型の仕組みを採用していないにもかかわらず、既存プレイヤーに新鮮な体験を提供し、再びゲームを1から遊ぶ明確な理由付けを行っている。それらすべての施策が作品の完成度を高めることにひと役買っている。アップデートを通じた後出しの作品修正や、継続的なプレイ理由の提供が当たり前となった現代において、まさに理想的な形態と言えるだろう。