『PAYDAY 3』レビュー。華麗なる復活と進化、そして惜しき躓き

『PAYDAY 3』はパブリッシャーであるPLAIONが発売、Starbreeze Studiosにより開発された最大4人協力プレイ対応のクライムFPSゲームだ。自由度の高い強盗FPSとしてのエッセンスはそのままに、前作では二極化していた戦闘システムが「シームレスに移行する」ゲームへと進化している。

発売十周年を迎えた『PAYDAY 2』の続編として登場した『PAYDAY 3』は自由度の高い強盗FPSとしてのエッセンスはそのままに、前作では戦闘と隠密が二極化していた戦闘システムが「シームレスに移行する」ゲームへと進化している。一時は経営難に陥ったStarbreeze Studiosが再び立ち上がり、新たに送り出した本作はリリース直後のサーバー問題やゲーム上の不具合に見舞われている。しかし、ゲームとしては『PAYDAY』シリーズの“核”となるゲームシステムに磨きがかかった作品となっている。

なお筆者は前作『PAYDAY 2』の日本語翻訳者として携わった経緯があり、本シリーズやStarbreeze Studios開発陣に対してのイメージが好意的に偏っている可能性はあるかもしれない。しかし本稿においては、忌憚なく、ひとりのゲーマーとして正直に『PAYDAY 3』についての意見・批評を述べさせていただきたい。

『PAYDAY 3』はパブリッシャーであるPLAIONが発売、Starbreeze Studiosにより開発された最大4人協力プレイ対応のクライムFPSゲームだ。前作『PAYDAY 2』から数年後のニューヨークを舞台とし、ギャングが銀行・倉庫・ペントハウスなどで強盗を繰り広げる。前作での基本的なシステムを継承しつつ、新キャラクターやスキルシステムなどが導入されている。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中。Xbox/PC Game Pass向けにも提供されている。

※本稿はStarbreeze StudiosならびにPLAIONからコードの提供を受け、PC(Steam)版でのプレイに基づき執筆している。




受け継がれる強盗の“エッセンス”

『PAYDAY 3』は前作である『PAYDAY 2』ならびに1作目である『PAYDAY The Heist』から受け継がれてきた“強盗のエッセンス”を受け継いだタイトルとして、核となるゲームプレイはすでに完成されている。本作は『PAYDAY The Heist』のアクション映画のような爽快感ある戦闘はそのままに、『PAYDAY 2』において本格的に導入されたスキルシステムやステルスゲームプレイなどの“深み”が反発しあうことなく調和し、内在している。その上で両作品のなかで足枷となっていたギミックの多くが見直されて“遊びやすさを重視した”変貌を遂げている。

『PAYDAY』シリーズは、その根幹としてアクション映画やクライム映画に影響を受けて制作されてきた。そのエッセンスは1作品目である『PAYDAY The Heist』の時代から血筋のように脈々と受け継がれてきた。映画「ヒート」や「ダークナイト」などのオマージュが採用され、本シリーズで繰り広げられるゲームプレイはクライム映画のようなハードボイルドなアクション映画を彷彿とさせる。警察部隊との戦闘は音楽により彩られ、荒々しく力強いビートにより戦闘シーンを盛り上げてくれる。さながら自分を含む4人のクルーが、主人公になったかのような爽快感をもたらしてくれるのだ。


過去作品と比較してみても、『PAYDAY 3』はシリーズとして初めて(あるいはようやく)“初心者にも分かり易い”内容となっていると言えるだろう。過去作においては長らくチュートリアルが不在で、スキルシステムやギミックの複雑化により、初心者には取っ付きにくい内容となっていた。しかし、今作ではそこにメスが入れられている。“新参者”の手を取るようなチュートリアルの導入とスキルシステムの簡略化により、初めて『PAYDAY』シリーズを手にするプレイヤーにとっても遊びやすい内容となっているのだ。

一方で『PAYDAY 3』が単純なゲームであるかといわれると、そうではない。それは本作が大前提として“協力”を主旨としたゲームプレイを前面に押し出しているからであろう。本シリーズの魅力であるゲームのリプレイ性はそのままに、スキルシステム・戦闘スタイル・武器の選択・目標の進め方など。それぞれにプレイヤー個人の特色を引き立てる内容となっているのだ。プレイヤーが個性をもって“尖る”ことが許される。異なる能力をもつ者たちが同じ空間に集うことで、本作のゲームプレイは格段に深みを増している。それらの各要素を確認していこう。


自由度による“個”の強調と協力による“全体”の調和

『PAYDAY 3』のスキルシステムは、スキルラインと呼ばれる要素へと変更されている。スキルによりプレイヤー個人に「エッジ」「グリット」「ラッシュ」と呼ばれる火力上昇・ダメージ耐性上昇・移動速度上昇などのバフがかかり、バフの有無で別のスキルを発動させるという新たなシステムだ。デッキ構築のような本システムは、高い自由度と遊ぶ者の特色を引き立たせてくれる“深み”をもたらしてくれる。たとえばエッジの付与を可能とするスキルは複数存在し、エッジの消費による追加効果を授けてくれるスキルも複数存在する。そこには「付与スキル→消費スキル」という一面的なアプローチは存在せず、「付与スキルAもしくはB→消費スキルCもしくはD」といった多面的な組み立て方が可能となる。隠密に特化した者、人質交換に特化した者、戦闘に特化した者など。共に強盗を完遂するという4人であっても、デッキ構築の組み方次第で尖ったプレイスタイルをすることが許され、別々の特色と輝きを魅せてくれる。

本作においてはプレイヤーである個の力は旧作品と比べると、弱体化されているように思う。その一方で、プレイヤー同士の繋がりや連携を重視する“全体”を意識したゲームシステムに重きが置かれている。本作では独りではどうすることもできない要素が多く存在し、プレイヤー同士が協力し合う事によって物事が格段にスムーズに遂行される。これらは戦闘を主とするラウドにおいても、隠密を主とするステルスにおいても表れている。

特にステルスにおいて、これらの「全体を意識する要素」は顕著に表れる。本作からステージはエリアごとに区分けされ、警戒エリアではマスクを着用していないことで通報されない(もしくは見逃してもらえる)場面が存在する。そういった場合において、ひとりのプレイヤーがマスクを着用して潜入をし、もうひとりのプレイヤーがマスクを被らずに索敵をするというスタイルが活きる。本作は単独でプレイする際、エリアをまたぐ移動が容易ではない。そのため、ほかプレイヤーの助けが、より一層ありがたく感じるのだ。


また、過去作と比べて大きく進化を遂げたのが武器選択の自由度だ。前作『PAYDAY 2』においては、難易度の上昇に合わせて敵の体力が上昇した。難易度が高ければ、敵を倒しきるまでに苦労を有する。それはいたって単純なシステムだが、結果として一部の武器では敵を倒しきれず、特定の武器が好まれるという“メタ”を作りあげてしまっていた。膨大な数の武器があるにもかかわらず、特定の武器が高難易度では推奨されず、使うことが浪漫とされてしまっていたのだ。

しかし『PAYDAY 3』では敵の体力が難易度により変動することはなく、その代わりに敵の命中精度などが上昇している。体力は一定なので、使用武器に関係なく敵を処理することができる。どの難易度でも、好きな武器で対応できる。プレイヤーの好みやこだわりをそのまま反映できる難易度調整により、誰も除け者にはされない――新参者であっても、本作は両手を広げて向かえ入れる準備ができているのである。そこに隔たりはなく、誰もが好きなタイミングで参加できるオープンさがあるのだ。




二極化されていたゲームシステムは“シームレス”な戦闘へ

『PAYDAY 3』においては、ステルスとラウドの戦術が同時に介在することが許されている。前作『PAYDAY 2』においては、警察との戦闘を前提とした“ラウド、そして隠密により見つからないことを前提としたステルスというゲームシステムは完全に別のものとして組み込まれていた。戦闘においては前述した敵の体力を考慮した武器やスキル選択による武装を迫られ、隠密においては隠密値などを考慮した武装を迫られる。どちらか片方の武装を選択してプレイしなければならないという二極化したゲームシステムは、「失敗即ちリスタート」という状態を作り上げてしまっていたのだ。

しかし本作から隠密値の概念が取り払われたことで装備の幅は広がり、ステルス潜入に失敗した場合は、そのままラウド戦術に移行することも許される。ステルスの失敗が咎められる場面は減り、初心者にも取っ付きやすいゲームプレイへと変貌を遂げている。旧作においてステルス活動の失敗はしばしばマッチの終りであったが、本作においては新たなフェーズの始まりに過ぎない。ひとつの戦術から次の戦術へ流れるような“シームレス”なゲームシステムは躍動感あふれる本作のゲームスタイルに合致している。

また本作ではスタミナという概念がなくなり、スライド移動や段差を乗り越えるようなアグレッシブなモーションも追加されたことにより、肩に翼が生えたかのような軽やかな移動が実現している。その上で、敵を銃火器で滅した際のモーションは過剰といえるほど誇張されている。慣性を残しつつ倒れこむ敵の屍を越えていき、また次の敵を処理する。“的当てゲーム”をプレイしているかのような中毒性のあるゲームプレイは、足枷がなくなったプレイヤーの自由な移動モーションと敵のラグドール・モーションにより強みが増している。

進化したゲームエンジンで隅々まで精巧に構築された豪華絢爛なペントハウス、ネズミが這いまわる薄暗いニューヨークの裏路地には破壊可能な物体が複数配置されている。プリンターは破壊されれば紙を吐き出し続け、車は撃たれれば警報が鳴る。ゲームプレイには影響を及ぼさないものの、音響や描写により胸が“スカッ”とするような破壊活動にさえ勤しむことができるのだ。




一方で課題もあり

一方で『PAYDAY 3』の実績やレベリング等のやりこみ要素に関しては、筆者が確認したかぎりユーザーから賛否両論の声が散見されている。これは本作のレベリングが、特定の条件をクリアすることにより開放される「チャレンジ」を完了することで可能となることに起因する。自由度の高いゲームプレイとは裏腹に、チャレンジの完了には縛りが設けられていることに不満を露わにする声も少なくない。確かに本作のチャレンジ要素には、理不尽ともいえる内容のものが複数存在する。それは特定のジョブを100回近くクリアするということであったり、特定の武器で指定の敵を倒すということであったりさまざまだ。

また本作は前述のとおりスタイリッシュなスライド移動やマスク着用前の駆け足が可能となったことで、スピーディな移動が可能となっている。しかし一方でステルスにおいては足音の概念が追加されているため、素早く移動することで警備員などに発見される危険性が存在する。スピーディな移動が可能な本作において、その行為自体に制限がかけられてしまっている点には歯がゆさを感じる。


本作にはほかにもゲーム内UIなど説明不足な点がいくつか散見される。自由度の高い武器の改造要素だが、攻撃力や反動などのパラメータはゲージ制。『PAYDAY 2』のような数値での表記になっていないため、装備中の武器の実質的な火力が不透明なのである。スキル効果も実数的な表記がなく、効果説明も「一定の確率」など曖昧な表現が多く使われている。こういった痒いところに手が届かない説明不足な点は、今後の調整やアップデートにより修正されることを願いたいところだ。

『PAYDAY 3』はUIや「痒いところに手が届かない」といった感じの細かなバグや説明不足な点は気になるものの、『PAYDAY』シリーズの血筋を継承したゲーム作品としての“核”は完成しているといえる。往年の『PAYDAY』シリーズファンを楽しませるようなスタイリッシュなゲームスタイル、スキルや武器のやりこみ要素にも充実している。一方で過去作品において初心者を遠ざける要因のひとつとなっていた“分かりづらさ”がいくつも解消され、チュートリアルの導入やスキルシステムの簡略化などにより、新たに強盗団に入団を希望するものにとっても楽しめる内容となっていると言えるだろう。




サーバー問題とStarbreezeの今後に思うこと

さて『PAYDAY 3』ローンチを語るにおいて、恐らく言及を避けては通れない問題はリリース直後に起きた「サーバー問題」であろう。本作はサーバー問題やマッチメイキングエラーにより、プレイすらままならない状況がリリース直後から一週間ほど続いていた。本稿執筆段階でサーバーには数回のアップデートが施され、公式発表によるとサーバー問題は少しずつ解消しているとのことだ。筆者も初めてプレイしたときと比べると、格段にサーバーから切断されるような事態は減ってきたと感じる。

非常に手痛い走り出しとなった『PAYDAY 3』の現状を見て、本作とStabreeze Studiosの今後に不安や憤りを感じるユーザーもいることだろう。そこで、本シリーズを9年前から追ってきた筆者の個人的な見解を述べさせていただきたい。『PAYDAY 3』は走り出しこそ懸念つのる状態ではあったものの、『PAYDAY 2』の開発経緯を知るとStarbreeze Studiosの今後には少し期待がもてそうだからだ。

まず『PAYDAY 2』の開発は、決して順風満帆と呼べるものではなかった。Starbreeze Studiosは『PAYDAY 2』開発経緯において、課金要素である「金庫」の追加でユーザーから大きな批判を受けていた時期がある。また、使いづらいValhallaゲームエンジンの買収やStarVR開発、『Overkill’s The Walking Dead』の失敗などの経緯から、経営破綻に陥った過去もある。そういった大きな失敗を重ねてきたStarbreeze Studiosのもとには賛否両論がありながらも、根強いファンが残っている。その要因のひとつとして挙げられるのは「コミュニティとの対話」である、と筆者は思うのだ。


Starbreeze Studiosは経営破綻からの再建後、コミュニティとの対話をより円滑にするためQ&AやModdingグループへのサポート、コンテンツクリエイターとのプログラムを創設している。さらにグローバルマーケティング担当のAlmir Listo氏は、毎週にYouTube/Twitchにおいて配信をおこない、本シリーズのユーザーたちを交えながら本シリーズをプレイしたり、ユーザーの質問に答えたりしているのだ。

今回大きな問題となっているサーバー問題についても、Starbreeze StudiosはQ&Aを実施。数日ごとに配信やReddit上でプレイヤーの質問に答え、近状を伝えるなど、透明性を重視した動きを見せている。開発陣のこういった行動はユーザーたちからも評価されており、根強いファンは開発陣の頑張りや、『PAYDAY 3』の今後の成功を願ってエールを送っている。また新たに参入してきたプレイヤーの声も聞き入れ、今後の調整内容について触れたりもしている。『PAYDAY 2』の失敗から学んだ「コミュニティとの透明性」が活かされているのだ。

『PAYDAY 3』はサーバーやマッチメイキングなどの問題解決や、バグ修正など課題も多い。しかし、Starbreeze Studiosがユーザーやコミュニティの意見を取り入れようとする姿勢を貫くことで、今後の改善も見込めるだろう。

『PAYDAY 3』はPC(Steam/Epic Gamesストア/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中。Xbox/PC Game Pass向けにも提供されている。

Mayo Kawano
Mayo Kawano

豪州在住の薬剤師およびにゲーム翻訳者。サバイバルクラフトゲームを主食として、ステルスゲームはデザートとする。

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