ハンティングアクションは国内を中心に数多くの作品が生み出され、今もなお盛況を見せるゲームジャンルである。そんな中、新たなタイトルが現れた。堂々登場した『WILD HEARTS(ワイルドハーツ)』は、腰を据えじっくりと狩りをする懐かしい類のゲームプレイと、「からくり」という独自の要素を組み合わせることによって、唯一無二の輝きを放っている。しかしその姿は磨き残しが多く、掘り出したばかりの「原石」という評価が似合う。


『WILD HEARTS』はElectronic Artsより発売された3DアクションRPG。開発はコーエーテクモゲームスの中でも「無双」シリーズを代表作とする制作チームω-Forceが担当している。プレイヤーは「獣狩(ししがり)」として、古の技術「からくり」を駆使しながら超常の能力を持った「獣」(けもの)と呼ばれる生物たちの狩猟を行うことになる。本作は戦闘とアイテム獲得、そして装備強化のサイクルを繰り返すことに特徴があり、俗にハンティングアクションと呼ばれるジャンルに位置する作品である。

※本稿はElectronic Arts提供レビュー用コード(PS5版)でのプレイにもとづき執筆。


懐かしく、そして新しい


『WILD HEARTS』をプレイして、私が最初に抱いた印象は「懐かしい」だった。本作におけるゲームシステムの基盤は、敵を倒し装備を強化するまでの1サイクルを、腰を据えじっくりと時間をかけてプレイする、懐かしのスタイルに合わせてデザインされていたからだ。ハンティングアクションに限らず、繰り返しのゲームプレイをプレイヤーに要求する近年の作品には、マルチプレイやローグライクなシステムといった変数を用意し、何十回に渡るであろうサイクルが発生させる作業感を軽減させる仕組みを導入するだけでなく、1プレイ自体の時間短縮を図るものも多い。

だが、本作はフィールドを0から探索し、リソースを増やしたのち、移動補助になる「からくり」を設置して開拓していく必要があり、狩猟対象である獣も自分で発見する必要がある。だからこそマップは広大だが入り組んだ地形にはなっておらず、自然物ではなく闘技場としての役割を強調した、遮蔽物の少ないエリアの連なりによって形成されている。狩りの「事前準備」の段階で結構な時間を使う必要がある。これらの仕様は、まとまった時間を確保して遊ぶことを前提とした、据え置き型ハードウェアに対応していることにマッチしているだけでなく、周りの環境を変化させるほど強大な能力を持った獣に遭遇した際、発生する強烈な印象を表現できている。

異常な環境を描いた美しい背景美術を眺めながら、ゆっくりと事前準備にかける時間の長さは、そのままプレイヤーが獣の脅威に対する想像を膨らませるための時間に繋がり、出会った時に爆発する。この表現は高速化の一途をたどる昨今のハンティングアクションにおいて失われつつあるものであり、現代に蘇ったのは喜ばしいことだ。「からくり」を各地に配置して、移動や採取を快適にしていく準備段階そのものについても、簡易に頭を悩ませてくれるものであり楽しめた。本作のマップは比較的シンプルな作りであり、一見すると探索しがいのない内容に思えるが、「からくり」の最適な設置位置の追求という観点が発生することにより、自発的な探索を促してくれる。そして準備さえ整ってしまえば高速移動が可能になるため、ゲームプレイが低速のままになってしまうことはない。懐かしさに甘えて、単に不便であることをアイデンティティにしているわけではないのが素晴らしい。


このほか、食事や温泉に浸かることでステータスアップを行う、武器と防具を組み合わせて戦闘用スキルを複数発動させる、ゲームの進行に応じてステータス強化版の獣と専用素材が登場するようになるなど、同ジャンルのファンにとっては慣れ親しんだシステムが導入されている。

一方、「懐かしさ」の基盤の上に建てられた本作の戦闘は、明確な「新しさ」を私に感じさせてくれた。『WILD HEARTS』における戦闘の特徴は「からくり」の導入にある。本作のプレイヤーは遮蔽物の少ないフィールドデザインもあってか、武器単体での防御能力に乏しい。扱える武器の中にはジャストカウンターが行える傘や、空中を飛び回れる飛燕刀が存在するが、それ以外の武器種においては防御性能は高くない。これを補ってくれるのがリソースを消費して建築する「からくり」である。内容のラインナップとしては、壁を形成して正面からの攻撃を防ぐ、プロペラで空中を飛び回りながら地面を伝う攻撃を避ける、高速移動して回避を行ったり敵の動きに食らいつく、などが揃っている。攻撃手段としても「からくり」は活用でき、目の前に段差を作り高威力の落下切りを行ったり、重火器を装備していれば空中砲撃が可能。範囲攻撃の爆弾や、キャノン砲を形成するものも存在する。

なかでも特筆すべきは「敵の特定のモーションに対し、特定のからくりを使うとカウンターとなり、大きくダウンが取れる」ことだろう。この仕様によってさまざまな「からくり」を使い分ける必要性が生まれているほか、練度上達の分かりやすい指標として機能している。カウンターとして強力な「からくり」を使用するには多くのリソースを消費するだけでなく、複数のからくりを組み合わせる必要があり、瞬時のコマンド入力が必要になる。だがカウンターを意識し続けると普段の防御が疎かになり、攻撃するチャンスが減ってしまう。「からくり」の導入はカウンターを通じた直感的な面白さと、リソースを管理しながら戦い続ける長期的なゲームプラン構築の面白さという相反する楽しみを同時に生み出している。マルチプレイにおいては画面上の華やかさを表現するだけでなく、カウンターの存在によって、意識せずとも他プレイヤーと連携している感覚を分かりやすく生み出すことに成功している。連携行動の強制を誘発するマルチ専用のアクションを導入せずとも、協力プレイの楽しみを生み出せる優れた仕様である。


また、本作のメインストーリーを進行させる任務には狩猟達成までの制限時間がなく、防御の要となる「からくり」のリソース切れに対応しているのか、補給できる回復用アイテムの総数が非常に多い(任務内容によっては回復アイテムの途中補給ができないものもあるが)。アクションに慣れていないプレイヤー向けの仕様であり、マルチプレイ以外の救済策を提示せず、諦めさせることもせず、難易度を保持したままクリアさせるこの方式は、プレイヤーが時間をかけて1プレイを行う「懐かしい」ゲームデザインの現れでもある。時代に安易に迎合しない「懐かしさ」の上にからくりを交えた「新しい」戦闘を成立させた『WILD HEARTS』のゲームシステムは、作品あふれるハンティングアクションというジャンルの中で独自のアイデンティティを確立することに成功している。


噛み合わない歯車


懐かしく、そして新しいゲームシステムによって独自の強みを作り上げた『WILD HEARTS』ではあるが、残念ながら強みの部分が洗練されていない。まず指摘したいのは、戦闘における「からくり」の導入に合わせた獣のアクションデザインや、難易度調整が上手く行っていないという点だ。先述したように本作において「からくり」は基本的に防御手段として用いることになる。これは言い換えると、「どのからくりを使っても効果的な防御手段として成立するように、獣の攻撃を似通った内容にしている」ということでもある。1つの「からくり」で複数の獣のモーションに対応できるようにするため、獣の攻撃に関する多様性が損なわれている。突撃する、飛んで遠隔攻撃をする、自分を中心に範囲攻撃をする獣が多すぎる。似通った獣の攻撃内容はユーザーに提供する体験のバリエーションを損ない、繰り返しのプレイを推奨するゲームデザインにおいて、作業感が増してしまう。

さらに言えば、獣の強さに関して火力だけではなく「からくりが防御手段として効きづらい」「からくりの強みを潰す」という形でも表現している。具体的には壁をすり抜けて足元から攻撃する、高速移動しても攻撃がホーミングするという手段をとってくる獣がゲーム後半に向かうにつれ増える。本作は「からくり」が防御手段として強力である(極論を言うと、連続してカウンターし続けることができれば一方的な蹂躙が可能である)ためなのか、からくり用のコマンドを覚える必要があるためなのか、武器単体でできることが少ない。ゆえに、「からくり」の強みを潰されると、プレイヤーができることが大きく減り、ストレスフルな体験になる。「からくり」という本作ならではの要素自体も死んでしまう。

エンドコンテンツの充実具合に関しては、毎月の定期アップデートが控えているため、発売直後の現時点では言及を避けることとする。ただ、スキルをある程度自由に組み合わせることのできる武器の強化に関して、同じ武器を複数本作ることに意味のある仕様であるにも関わらず、派生表の途中から製造できないのは非常に面倒くさい。強化段階の巻き戻しと素材返却は存在するものの、巻き戻した分の素材をすぐに使えるほかのシステムが防具製造以外になく、そもそも同じ武器を複数本作ることに意味のある仕組みになっているので、巻き戻したくなる機会がそこまでない。本作は強力かつ効果が目に見えて分かりやすい「からくり」が存在するため、武器強化の恩恵を任務のクリアタイム以外で感じづらい。ダメージの数字を高める面白さを表現する上で、武器の生産についてはもう少し制限を緩めても良かったのではないかと思われる。

「からくり」の導入は独自のビジュアル表現だけではなく、カウンターの発生による爽快感や練度上達、マルチプレイでの簡易な連携など、本作独自の強みを表現する上で柱となっている要素である。だが同時に、この要素のせいで作品全体に軋みが発生しているのも確かだ。アップデートや次回作の発売を通じて、より洗練させてほしい限りである。


総じて『WILD HEARTS』は唯一無二の輝きを放っているものの、まだまだ研磨の足らない、掘り出したばかりの「原石」という評価が似合う。本作は手軽に遊べるような仕組み     をあまり重視しないだけではなく、「何か(武器・防具)を少しずつ強化していくゲームの中で、強化があまり必要ない要素(からくり)を全面に押し出す」という、珍しいデザインを行っているゲームである。理想像としては装備の強化段階やプレイスキルが低いときには「からくり」の恩恵を感じられ、装備強化が済んだ頃には「からくり」と合わせて独自の戦法が成立するようになる……と思われるのだが、現状は残念ながらそうなっていない。とはいえ、その個性には人を引き付ける魅力があり、行く末が気になるタイトルでもある。美しい宝石に仕上がるのか否か。注意深く見守る必要があるだろう。