機械仕掛けのソ連FPS『Atomic Heart』先行プレイ感想。6年越しにベールを脱いだ注目作は、タガの外れたハードコアな仕上がり

『Atomic Heart』先行プレイ感想。『Atomic Heart』は、タガを外すような独自のチューンナップが施された体験は非常に心躍るものであった。

作品発表から約6年が過ぎ、『Atomic Heart』がついに今年発売される運びとなった。架空のソ連で殺人ロボや怪物相手に銃撃戦をおこなうという作品の概要こそ明らかになっていたものの、詳しいゲームプレイの内容は明らかになっていなかった本作。ついにベールを脱いだ『Atomic Heart』について、このたび一部を先行してプレイする機会に恵まれたため、現時点で判明している作品の内容を紹介していきたいと思う。


『Atomic Heart』は架空のソ連を舞台 にしたファーストパーソン・シューティングゲームだ。開発を手がけたのは、キプロスのゲームスタジオMundfish。プレイヤーは記憶の一部を失った 特殊部隊兵「P-3」として、研究施設「 3826番施設」の調査に乗り出すことになる。機械工学による生活の自動化や、人間の意識のネット接続が目前に迫る時代のなか、突如として発生したロボットたちの反乱の謎を暴くために奔走する。本作は2017年に発表されてから約6年を経て、PC/Xbox One/Xbox Series X|S版が2月21日、PS4/PS5版が4月13日発売予定となっている。

ハードコアにチューンナップされたゲームプレイ


『Atomic Heart』の基本的なゲームデザインは、独特な見た目をした大量破壊兵器と、特製グローブから放たれる超常能力を組み合わせながら、襲い来る殺人マシーンやミュータントを撃滅しダンジョンの奥へ奥へ進んでいくというものだ。広々としたフィールドも実装されており、理想郷の裏側を暴くべく、プレイヤーはあちらこちらを駆け回ることになる。装備のカスタマイズ要素も用意されている。こう聞くと、FPSタイトルに数多く触れている読者の方は何かピンとくるものがあるだろう。兵器と超常能力の組み合わせは、『BioShock』シリーズに代表されるゲームデザインであり、FPSと広大なフィールドの融合は数多くの作品が採用してきた形式である。事実、開発スタジオであるMundfishは本作のゲームデザインに関して、さまざまなタイトルをリスペクトしていることを公言している。しかし、『Atomic Heart』は著名作の二番煎じに収まるような器では決してない。遊びのメカニクスに独自のチューンナップを施すことによって、オリジナリティを演出している。

それは何かといえば、「死に覚えゲー」と呼んでも差し支えないほどの高い攻略難易度である。本作では武術の達人の如き立ち回りをする人型アンドロイドから、魔改造芝刈り機、爆撃機顔負けの殲滅能力を持った量産型ドローンなど、千差万別、多種多様な特徴を持った殺人マシーン、ミュータントたちが敵としてプレイヤーの前に立ちふさがる。そして、みな一様に頑丈で、動きが速い。適当に鉛玉を打ち込んでもショットガンクラスの威力がなければびくともしない。

近接戦闘についてはプレイヤーの攻撃速度が敵の挙動に対して遅く重たく、当たり判定が振り回す武器の大きさ、軌道そのままであるため、慣れるまでに一苦労を要する。一応、難しさに対するフォローとして、難易度調整の項目があるほか、エイムアシストも導入できる。また戦いながらアイテムを補充できるように、落ちている弾薬や強化素材の収集がエイムを合わさずともボタンの長押しでできるようになっているのも嬉しい。


また、戦闘をおこなうロケーションもさまざまだ。うじゃうじゃと湧き出てくるロボ軍団を撃滅していく場面もあれば、広大かつ視界が開けたエリアで、巨大兵器と高速戦闘を楽しむ場面もある。逆に閉所で1対1の緊迫した殺し合いをおこなう場面もあった。ほとんどのエリアには監視用のセンサーが仕掛けられており、引っかかると周辺の敵が一斉に集まってくるだけでなく、引っかかった回数に応じて警戒レベルが上昇。強敵が追加で投入されるようになる。

こうした要因を通じて、プレイヤーは装備の強化段階や獲得している超常能力を考慮しながら、数多くの選択を迫られることになる。正面から敵と戦うのか。ステルスを選択するのか。リソースをどれだけ消費するのか。障害物の少ないオープンなフィールドを駆け回る際は正面の銃弾を防げるバリア能力や範囲火力系の武器を装備したほうがいいだろうし、閉所を進む際は下手な銃を持ち込むより、取り回しの良い近接武器と、敵を冷凍する能力を組み合わせたほうがいいかもしれない。数少ない弾薬を閉所で使って爆風に巻き込まれるより、凍らせた敵を直接鈍器で砕くほうがいろいろと節約できていいかもしれないのだ。


今回の試遊体験ではいくつかの武器や能力を試すことができた。武器についてはAK-47っぽい自動小銃や、RPGっぽい重火器といった、オーソドックスな使用方法を通じて馴染み深い感触を与えてくれるものから、レールガンや、のこぎりを鉄の棒に融合させたような近接武器など、世界観に合わせた独自のものがそれぞれ確認できた。能力に関しても、前述した内容に加え、敵をまとめて浮かばせてから地面に打ち付ける重力操作や、電気ショックなどが存在していた。なかでも電気ショックは専用の装備枠が設定されており、敵の動きを止めるだけでなく、監視用センサーの一時停止、謎解きの解決など、多岐にわたる使用方法を備えている。試遊版では電気ショック+他2種類の超常能力、そして複数種類の武器を組み合わせで戦うことができた。製品版は、さらなる武器の追加を通じてプレイヤーひとりひとりの選択、プレイスタイルを尊重できる内容になっているはずだ。


さらに本作にはアクションパズルの攻略がメインとなっているロケーションも存在する。今回体験できたのは、「電気ショックを使用して磁力操作をおこない、上下左右が変動する足場を飛び回る」というものだった。パズルのアイデアこそよく見るものではあるが、シビアな銃撃戦が続く本作において、一種の箸休めとして機能しているように感じた。クリアするとご褒美として、能力アップグレードが手に入る。

作り込まれた唯一無二のビジュアル


『Atomic Heart』の個性を語る上では、架空のソ連を描いた美しくも破滅的な映像表現もまた欠かせない。全体的なアートスタイルの特徴としては、レトロフューチャーな外観に有機的な丸みを混ぜ込んでいる。どこか古く、同時に近未来的で生々しい気持ち悪さがある。特に人型のロボットについては、意図的に不気味の谷を引き起こしていることが分かる。そしてその顔面が花咲くようにパカッと開いてビームを出すのだから最高だ。対象に抱いた生物的な印象が、無機物なものに裏返る気持ち悪さといったら筆舌に尽くしがたい。


今回の試遊体験ではキャンペーンのスタートから約2時間分をプレイすることができたが、始まって早々、本作の美術に魅了されることになるとは思わなかった。近未来的な見た目のボートを手動で漕ぎながら、鏡面のように輝く水面の表現に目を奪われたかと思えば、豚を犬のように引き連れてアンドロイドの大道芸を見守るセレブが視界に入った。ボートを降りて目的地に向かうまでには、しっかりとしたアニメーションを伴いながら、アイスクリームをもしゃもしゃ食べた。ロボットがロボットの研究をおこなう研究所や、ドローンで輸送される「アメ車」なんてものもあった。「 3826番施設」に降り立てば、緑豊かな大自然と、鉄腕アトムで描かれたようなメカニクスが一体となった光景が広がる。薄暗いダンジョンには、点滅する照明に照らされた人間だった肉塊、ホコリで煤けた家具、そして不気味なまでに綺麗なロボットたちが待ち受ける。作り込まれたビジュアルは、ただフィールドをぷらぷらと歩き回るだけでも(殺人マシーンたちが黙っていないだろうが)プレイヤーを存分に楽しませてくれる。

音響も素晴らしい。本作には『DOOM(2016)』『DOOM Eternal』のコンポーザーとして知られるMick Gordon氏が関わっており、コンポーザー陣によるロシアのクラシックの再解釈を通じて生まれた劇伴はレトロフューチャーな世界観とマッチしている。銃声や鉄の拳が風を切る音といったサウンドエフェクトも極上の一言だ。

ここまで評価点を述べてきたが、懸念点もある。それはカメラワークだ。本作はとにかくカメラが動く。絶叫マシンに乗っているときのような視界が結構な頻度で再現される。たとえば本作には近接攻撃の中に「回転斬り」が存在するが、これを放つと攻撃に合わせて視界もぐるぐると回る。本作にはロックオンの機能がないため、高速移動する敵相手に、死ぬ気 でサイトを動かす必要に迫られる。このカメラワークは映像表現、なかでもパニックホラーな部分を演出する上で活用されており、単純に悪い点であるとは言い切れないのだが、ゲーム酔いに弱い方は注意が必要である。ちなみに筆者はそれなりに耐性がある自覚があるものの、試遊体験は常に酔いとの戦いであった。ローカライズの内容に関しては未だブラッシュアップ中とのことである。


試遊体験における『Atomic Heart』の総合的な印象としては、既に評価された規格をさらに鋭敏な形へ尖らせることによって、オリジナリティを強く演出している作品という印象を受けた。「いろんな場所で、いろんな装備を組み合わせ、いろんな強敵たちと撃ち合う」。言葉にしてしまえば単純だが、パレットに載せた色のグラデーションをより彩り豊かな内容にすることによって、いまだ観たことのない一枚絵として描かれている。難易度調整の項目は存在するものの、本作は確かに人を選ぶゲームであり、ハードコアなゲーマー向けの内容であることは否定できない。しかしながら、タガを外すような独自のチューンナップが施された体験は非常に心躍るものであり、発売日が待ち遠しくなるようなクオリティであったことをここに報告したい。

『Atomic Heart』はPC/Xbox One/Xbox Series X|S版が2月21日発売。PS4/PS5版は4月13日発売予定となっている。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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