フランス革命アクションRPG『スチールライジング』レビュー。調整の甘さですべてを台無しにした、優しすぎるソウルライク

『スチールライジング(Steelrising)』レビュー。出来が良くないゲームと一口に言ってもその実態にはさまざまなものがある。中でも『スチールライジング』は高すぎる理想に対し、予算や開発力が追いついていない典型例である。本作はレベルデザインやナラティヴデザインといった、根本的な部分の調整を怠った結果、何もかもが台無しになった作品である。


出来が良くないゲームと一口に言ってもその実態にはさまざまなものがある。表現したい理念に対して間違った手段を選択してしまった作品。理念の表現を優先するあまり、宣伝内容と大きくかけ離れてしまった作品。表現手段が時代にそぐわない作品。中でも本作は高すぎる理想に対し、予算や開発力が追いついていない典型例である。人は本当に美味しいものを口にしたとき、言葉に詰まってしまうというが、その逆も然り。『スチールライジング(Steelrising)』は作品の根本的な部分の調整を怠った結果、何もかもが台無しになった作品である。大きすぎる欠点が良い点を隙間なく塗りつぶしてしまっている。

『スチールライジング』は、3gooより9月8日にPlayStation 5版が発売予定であるアクションRPGだ。PC(Steam/Epic Gamesストア)およびXbox Series X|S版も、海外販売元Naconより同日に国内発売予定。開発はSpidersが担当している。本作は、あらかじめ高難易度アクションRPGであると宣伝していることに特徴がある。プレイヤーは1789年のフランスを舞台に、謎に包まれたオートマタ(機械人形)の「アイギス」として、オートマタ軍団を率いるルイ16世の暴虐をくい止めるべく立ち向かう。

※本稿は3goo提供レビュー用コード(PS5版)でのプレイにもとづき執筆。


優しすぎるソウルライク


『スチールライジング』のゲームシステムは、フロム・ソフトウェアが制作した高難易度3DアクションRPG群のシステムを、アイデアのベースとした内容に仕上がっている。これは俗に「ソウルライク」と呼ばれる形態である。ソウルライクと分類される作品の多くにおいてプレイヤーは、一撃必殺級の攻撃手段をもったザコを押し引きの選択による判断を通じてさばきながら、3Dで描画されたフィールドを散策していく。フィールドの奥にいるボスを倒すことができれば、次のフィールドへ歩みを進めることができる。敵を倒すことで得られる経験値は、ゲーム内において通貨や武具の強化素材としても機能しており、消費することでレベルを上げ、基礎的なステータスを向上するのか、戦闘をサポートするアイテムを仕入れるのか、武具を強化していくことを狙うのか、プレイヤーに選択を強いる。

そうしたゲームにおいて経験値はゲームオーバー時に失われてしまい、倒された地点へ回収に向かわなければならない。ゆえに、道中そもそも敵と戦わず安全策をとるのか、攻めに出るのか、といった選択も行う必要がある。度重なる選択肢との出会いを通じて、プレイヤーの判断能力は次第に研ぎ澄まされていく。長い旅路の果てにようやく「正解」を選ぶことに成功したとき、プレイヤーは得もいわれぬ達成感を獲得することになるだろう。数々の「間違い」を乗り越えて「正解」を選び取る達成感。充実感。これがソウルライクにおけるゲームデザインの大きな特徴であり、醍醐味である。

そして新たなソウルライク作品として生まれた『スチールライジング』は、フロム・ソフトウェア製のゲームの中でも、とくに『Bloodborne』におけるアイデアや意匠を数多く取り込んでいる。ザコの攻撃力の高さや、経験値が通貨、強化素材にもなっており、ゲームオーバー時に回収する必要があるといったお馴染みのシステムはもちろん、変形機構がユニークだった仕掛け武器は、オートマタであるアイギスの設定を活かした独特な攻撃モーションとして表現されている。ストックを消費して発射する水銀弾のシステムは、本作でも似た形で銃型武器の攻撃機構として採用されているほか、武器ごとに設定された大技のリソースにもなっているこれは『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』における形代に近いかもしれない)。このほかにも血液に似た赤い燃料を供給することで回復を行ったり、防具が見た目重視だったり、家に引きこもったNPCと窓越しに会話するお使いクエストが多く存在するなど、フロム・ソフトウェア製の作品、なかでも『Bloodborne』に対するリスペクトは随所に感じられる。犬型のザコ敵の挙動などソックリである。


本作独自のシステムについては戦闘面を中心に実装されている。まず目を引くのは、先程述べた、武器ごとに用意されたアイギスの独特な攻撃モーションだ。本作ではユニークな機構を持った複数種類の武器が実装されており、見た目からは判断できない使い方を持って、視覚からプレイヤーを楽しませてくれる。たとえば舞うように戦う鉄扇は円状に広げることで盾の機能を発揮。まるで盾と片手剣の関係性のように、攻撃と防御を両立した、堅実な立ち回りを可能とする武器である。長大なリーチを誇る斧槍はアウトレンジからの攻撃を可能とする。強化すればザコであろうとボスであろうと一方的に蹂躙することができる。

このほか、見た目通りの重たい一撃をはなつハンマーや、ガードの代わりにパリィ機能をもった両手爪など、ユニークなデザインの武器が登場する。また本作には継続ダメージを与える火炎傷痍、一定時間動きを停止させる氷雪傷痍、追加ダメージを与える電気傷痍という3種類の状態異常が実装されているが、すべて効果的に作用する。気に入った武器と状態異常を組み合わせることで、決して幅広いとは言えないものの、プレイヤー独自の戦術を構築することが可能になっている。筆者の場合は氷雪傷痍を与える銃で敵の動きを止め、斧槍でチクチク連続攻撃するという遠距離を得意としたスタイルを採用していた。本作はいわゆるスタミナ制、ゲージ消費を通じた行動制限を採用しているが、稼働力(スタミナ)をすべて消費した際、ゲージの表示が変化。ゲージが減少しきるまえにタイミングよくボタンを入力することで一時的にゲージを回復することができる。このシステムによって、ソウルライク作品では珍しい、絶え間ない連続攻撃を可能としている。


この戦術を支えるステータスシステムは、6つの構成要素をそれぞれレベルアップしていく(1つ最大20レベル)シンプルな作りであり、ソウルライクに馴染みがないユーザーでも分かりやすい。ステータスに上昇効果をもたらすアクセサリとしてのモジュールや、ソウルシリーズでおなじみ、回復アイテムの強化要素もある。さらに初心者向けの施策として、被ダメージ量や稼働力(スタミナ)の回復量を調節して攻略を易化する「アシストモード」も存在しており、3Dアクションゲームに慣れないユーザーが、ソウルライク作品の入り口として本作を遊ぶことも想定していることが読み取れる。ローカライズも丁寧になされており申し分ないクオリティである。

以上が本作の評価点である。ここまでであれば、『スチールライジング』はフロム・ソフトウェア作品から影響を受けつつもオリジナリティを持った作品であるという印象を受けるかもしれない。だが、ソウルライク作品において核となる部分のデザインが調整不足に陥っており、そのせいで、個性際立つアクションや、分かりやすく初心者に優しい施策どころか、総合的な体験そのものが台無しになってしまっている。


それが何かといえば、命をかけて慎重に歩みを進めていく冒険の舞台……レベルデザインである。本作のステージは主に、なるべく平坦な地面を用意し、障害物を視界に挟まず広々とした視界を確保。1空間における敵の数を控えめに設定している。種類の少ないザコたちは一撃こそ重いが攻撃モーションの数が多くなく、見切りやすい。落とし穴や落石などといった即死ギミックもほとんどない。このデザインのせいで、プレイヤーは快適にザコ敵と戦闘ができ、出会ったそばから丁寧に全滅させることができてしまう。中ボスはザコの強化版であるため、培ったノウハウがそのまま通用する。これが何を意味するかというと、ソウルライク作品の醍醐味であるさまざまな「選択」をする必要がなくなるのだ。快適にザコと戦えるため「いま戦う/戦わない」の選択は不必要となり、敵を全滅させることで経験値は潤沢に手に入るため、段階的強化を設けたステータスに対する配分の選択もほぼ必要ない。結果、十二分にアイギスは強化され、せっかくのボス戦が軽薄な内容になってしまう。ボス自体もモーションが全体的に隙だらけで攻略の面白みに欠ける。

筆者の場合は中盤が終わる頃になると物理攻撃力を司るステータスのレベルがカンストしたため、クライマックスに突入したにもかかわらず残りの内容が作業になってしまった。快適にザコ敵と戦えることにより、HPや稼働力(スタミナ)を選んで経験値を割く必要がほとんどなかったからである(特に稼働力は戦闘中、一時的に回復できるため、なおさら経験値を割く必要性は薄い)。ボス戦に際しても高めた攻撃力や、道中で使うことのなかった回復アイテムを使用することでゴリ押しできてしまい、強敵を打破した際の快感や、練度の上達による手応えを感じる場面は、ステータスが整わない序盤以降ほぼなかった。


ステージの探索を通じた報酬のほとんどを、経験値を獲得できるアイテムとしていることが、この状況を悪化させている。もちろん、報酬の中には武器やファッションアイテムとしての防具もあり、探索の動機として機能してはいるのだが、戦いやすさを優先している都合上、ステージそのものが入り組んだ探りがいのある構造になっていないため、効用としては不十分である。トレイラーにも登場したワイヤーを使ったグラップリングや空中ダッシュといった、オートマタらしいフィールドアクションは、単なるギミック解決や新たなエリアのアンロック以上の役割を持たせることに成功しておらず、宝の持ち腐れである戦闘中にも攻撃手段として使用できるが、当然武器で攻撃したほうが効果的である。ステージの外観こそ、歴史的建造物やロココ建築が登場したり、メカニカルなアニメーションを伴った敵や宝箱が出現したりと、観察しがいのあるビジュアルになっているにもかかわらず、このような状況になっているのは非常にもったいない。

レベルデザインは、「選択」を通じた達成感を体験の肝としているソウルライク作品において魂とも呼べる部分である。『スチールライジング』は残念ながらこの調整が上手くいっていないため、動作不十分に陥ってしまっている。ステータスのシンプルさや、アシストモードの存在からして、ユーザー層を広げたい意図によるデザインなのだろう。だがその優しすぎる姿は、人にストレスを強制し、そこからの開放と快感を与えるソウルライクの醍醐味を表現するにはまったく向いていない。快適さを優先するあまり生まれた探索しがいのない浅薄なレベルは結果として、ユニークな戦闘アクション、作り込んだビジュアル、初心者向けの配慮といった本作独自の施策も殺してしまい、作品のクオリティを大きく損ねてしまっている。


革命はアイギスが全部やってくれました


体験の核となるレベルデザインに失敗した結果、独自の要素を巻き込んで遊びの全体的な体験が損なわれてしまっている『スチールライジング』であるが、もう一つの売りであるストーリーの出来栄えもイマイチである。起承転結のうち、承と転がほぼ皆無であり、よって物語の決着も味気ない。これが何故かと言えば、本作のテーマであるフランス革命の具体的な描写がまったくなされていないことに加え、おそらく開発の都合上、物語る上での尺も十分に取れていないからである。

本作はステージ制を採用しており、ステージの進行に伴って物語も進行するが、そもそもステージ数が少ない。よってフランス革命という長大なドラマを語りきれていないのだ。これをカバーするべく、本作ではすでにクリアしたステージを舞台とするサブクエストや収集要素を多く設けることで、背景設定の深掘りや、不足描写のカバーを狙っているが、デザインに失敗しているステージを探索するのはシンプルにつまらない。しかもこの脇道散策に物語の描写を頼り切っている印象も受ける。それほどまでに本編で語られる内容は薄く短い。ちなみに、筆者はサブクエストをいくらかこなした上で、エンディング到達までにかかった時間は約14時間30分程度であった。


本作にはマクシミリアン・ロベスピエールやラファイエット侯爵、ジャン=シルヴァン・バイイ、トゥサン・ルベルチュール、ジャン=ポール・マラーなどフランス革命の立役者たちが多数登場する。だが、物語は基本的に「アイギスがなんとかしてくれる」展開が延々と続き、彼らの具体的な活躍は映像として描写されず説得力に欠ける。サブクエストを行わない限り、彼らはフランス革命を物語の背景にするための記号になってしまっている(丁寧なローカライズを通じた彼らの台詞回しはオシャレなのだが)。サブクエストの魅力については今しがた語った通りだ。また先述したように、市民はオートマタの脅威に怯え、家に引きこもって出てこない。そしてフランス革命とは市民革命である。アイギスを主役にしたいのは理解できるが、人間の活躍がまったく描写されない市民革命を語る意味はあるのだろうかと私は疑問に思う。ルイ16世をひっ捕まえてギロチンにかけることだけがフランス革命ではないのだ。

出来が良くないゲームと一口に言ってもその実態にはさまざまなものがある。中でも本作は高すぎる理想に対し、予算や開発力が追いついていない典型例である。人は本当に美味しいものを口にしたとき、言葉に詰まってしまうというが、その逆も然り。『スチールライジング』はレベルデザインやナラティヴデザインといった、作品の根本的な部分の調整を怠った結果、何もかもが台無しになった作品である。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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