人気メディアミックス伝奇アドベンチャー『被虐のノエル』とは、結局どのようなゲームなのか?少女と悪魔の熱き復讐譚
バカーおよび弊社アクティブゲーミングメディアのゲームパブリッシングブランドPLAYISMは2月10日、『被虐のノエル』Nintendo Switch版を発売した。同作はカナヲ氏が制作し、2016年より「ゲームマガジン」で連載形式で公開されてきたフリーゲームだ。2018年にリリースされたSteam版では、1500件以上のユーザーレビューの内95%の好評を得て「圧倒的に好評」を獲得。漫画版やドラマCDといったメディアミックスも展開中であり、フリーゲームの枠を越え、人気と評価の双方を得ているといっても過言ではないだろう。
そんな本作であるが、「ゲームマガジン」では2021年9月に最終決戦編vol.1のSeason 12が公開されたところだ。興味は持っているものの、未だ連載中であるためまだプレイしていないというプレイヤーも多いのではないかと思う。実は筆者も、完結後に最後まで一気に遊ぶつもりだったのだが、PLAYISM/AUTOMATON編集部より本作を紹介しないかとの相談を受けた。そして2月10日の発売を期にNintendo Switch版をプレイしてきたので、本作の魅力を改めてお伝えしよう。
『被虐のノエル』は、悪魔と契約を結んだ魔人たちが、己の願望や目的のため代償を払ってぶつかりあう、伝奇アドベンチャーゲームだ。本作の舞台であるラプラス市では、若き市長バロウズが市民から多大な支持を得ていた。数年前、バロウズが街にはびこっていたマフィアたちを一掃し、市を立て直したからである。しかし、バロウズには市民たちの知らないもう一つの顔があった。裏社会の支配、警察との癒着、他者を利用した悪魔との契約。バロウズは、自らの利益のためには、人を騙すこともいとわず、使い捨てられて、闇に葬られた者も少なくはなかった。
主人公のノエル=チェルクェッティも、バロウズに利用された人間の1人だ。ある日、ノエルはラプラス市のピアノコンクールに参加していた。ピアノの名家の1人娘であるノエルにとって、ピアノで1番であることは当然であり義務。若きピアニストの憧れである、記念式典での演奏がかかったコンクールでも、ノエルは自身の勝利を確信していた。しかし、コンクールで最優秀賞に選ばれたのは、なぜか親友のジリアンだった。ノエルは結果への困惑とジリアンへの嫉妬から、会場を飛び出す。さらにバロウズに感情を利用され、大悪魔カロンと契約。縁もゆかりもない人物の殺害と引き換えに、手足を喪失してしまう。だが、それこそが復讐者としてのノエルの始まりであった。すべてを失った少女と奇妙な悪魔、バロウズに対する2人の長い復讐が始まる。
ノエルとカロンは、復讐を果たすべくバロウズの打倒を目指す。ただし、バロウズは24時間警護されており、接触は難しい。悪魔との契約自体も違法であるため、ノエルが出歩けば警察に逮捕される恐れもある。そこで2人は困難な道を行く。具体的には、屋根伝いに移動するため箱を押したり、市長官邸に侵入するため見つからないよう動いたりといった具合。探索やパズル、ステルスパートなどがストーリーにあわせて展開されるわけだ。
またノエルたちが誰かと戦闘になった際には、アクションによって戦いが表現される。カロンは大悪魔として強大な力を持っているため、警備員や警察程度の相手なら問題にならない。しかし、悪魔と契約を結んだ魔人たちは話が別である。魔人たちは、常人を超える身体能力や治癒能力、契約によって獲得した能力などを持っており、悪魔に匹敵しうるからだ。彼らは、カロンに対して能力を活かして戦いを挑んでくる。強大な悪魔といえど、特異な能力を正面から相手するのは難しいため、まずは敵の繰り出す攻撃を回避。HPが尽きないよう気を使いながら、能力の隙を付いて攻撃することで、優位に戦闘を進めようとする。悪魔や魔人による、超常の戦いが描かれる。
ただし、本作の戦闘や探索パートは、遊びやすさを意識して作られている。探索パートは、調査や会話の対象に赤いマーク表示されており、どこを調べればよいのか迷うことはない。箱を押して道を進んでいくパズルも、わかりやすく作られているため、何分も思い悩んだりはしないはずだ。戦闘では、難易度は抑えつつもそれなりに激しいバトルが展開されるが、本作にはバトル直前も含めてセーブ可能箇所が多数存在。プレイ中手に入る回復薬を多めに持ち込めば、誰でも障害を突破し、物語の先へ進んでいけるだろう。バトルや探索で物語を表現しながら、遊びやすさを意識した構成にすることで、ストーリーに集中しやすくなっていると言えるだろう。
肝心の物語では少女と悪魔、魔人と超人たちによる熱い展開が繰り広げられていく。繰り返しの説明になるが、本作における魔人とは、悪魔との契約を結んだ者を指す。つまり、魔人たちは例外なく悪魔と契約しており、自身の魂と引き換えにしてでも叶えたい何かを持っているわけだ。弟を救うため、その身を差し出した者。尊い友人のため、立ちはだかろうとする者。最初は何も知らず、後に復讐のため覚悟を新たにした者。契約のカタチや代償、経緯はさまざまであるが、主人公のノエルも含めて、誰もが代償を払ってでも譲れない願いを持っている。本作では、そんな信念や覚悟を抱えた魔人たちがぶつかりあう、熱いバトルが描かれていく。
またストーリー上では、ノエルと共に復讐を掲げるカロンの事情や、最初は失意に飲まれていたノエルの成長、カジノでの変わった戦いなども展開。少女と悪魔の復讐を軸に描かれる熱さが、本作の特徴といっても過言ではないだろう。
前述のとおり、オリジナルの本作は「ゲームマガジン」にてエピソード形式で公開されてきたフリーゲームである。「ゲームマガジン」では、現在最終決戦編の1話目となるSeason 12が掲載中。一方Nintendo Switch版には全12話のうち、ジリアン編の終幕を描いたSeason 7までが収録されている。1話あたりのプレイ時間は1時間から2時間程度なため、Nintendo Switch版では物語が大きな区切りとなる7話目までが、14時間ほどでプレイできるわけだ。
大筋の物語はオリジナルとNintendo Switch版で共通しているため、フリーゲームであるオリジナルを遊べばいいと思うかもしれない。しかしNintendo Switch版では、移植にあたって大幅なリメイクが施されている。具体的にはイラスト演出の追加、UIの変更、セリフの手直し、ストーリーの修正など、多岐に渡る変更が加えられている。ただ歩いているだけのシーンにも、キャラクターのセリフが追加されており、没入感が増加。制作者カナオ氏のコメントによると、絶対に飽きさせない作りを目指して、動きがないシーンはほぼないぐらいに追加要素が詰め込まれているそうだ。
またNintendo Switch版では、システム面の見直しによって遊びやすくなった。アクション部分の処理が、作り直しによって快適に進化。前述の調査箇所の明示もリメイクによる修正点であり、探索が親切になったことでより物語に集中しやすくなっている。
もう一つ、Nintendo Switch版の特徴としては、完全新規のSeason 3.5も挙げられるだろう。Season 3.5では、少女と悪魔がスラムで過ごす1週間が描かれる。猫カフェでくつろいだり、ジャンクフードを頬張ったりなど、可愛らしいノエルの日常が展開。同じラプラス市に身を置く、悪魔と関わりのないキャラクターも登場し、世界の広がりが感じられる。時系列は、Season3とSeason4の間にあたるため、もちろん本筋は進まない。しかし、1本の短編としてよくまとまっており、本作のファンなら遊んで損はないのではないだろうか。総じてNintendo Switch版は、新規プレイヤーにとってはオリジナルよりも熱いストーリーが遊びやすく、既存プレイヤーにとっては新たな物語の魅力に触れられる作品になっているわけだ。
『被虐のノエル』Nintendo Switch版は、税込2480円で配信中。PlayStation 4/Xbox One向けにも、リリース予定となっている。また「ゲームマガジン」ではオリジナル版がプレイ可能。オジリナル版をベースとしたSteam版も発売中だ。