『Godfall』レビュー。美しい刀身とこぼれた刃。本末転倒に陥った次世代ルータースラッシャー

『Godfall』レビュー。美しい刀身とこぼれた刃。本末転倒に陥った次世代ルータースラッシャー。『Godfall』はPC/PS5向けに販売中。

PlayStation 5のローンチタイトルとしてゲーマー達のもとに降り立った『Godfall』。“まったく新しい次世代の「ルータースラッシャー」ゲーム”という売り文句に違わず、ハック・アンド・スラッシュの一点に絞り研磨されたその姿からは、確かに前代未聞の偉業を成し遂げようという心意気は感じられる。しかし残念ながら刃は欠け、業物からは程遠い出来栄えであった。


『Godfall』はGearbox Publishingより発売された3DアクションRPG。開発は『ゴッド・オブ・ウォー』、『Horizon Zero Dawn』、『ディアブロ III』など数々の名作に携わってきたメンバーが集結したインディースタジオCounterplay Gamesが担当している。ストーリーとしては、Sci-Fiな世界観の元、プレイヤーは戦士「オリン」として、突如陰謀を掲げ反旗を翻した兄弟「マクロス」を討つべく旅に出ることになる。

本レビューはPC版によるもの。レビュー用のプレイには、国内BTOパソコンメーカーのマウスコンピューターより提供を受けたゲーミングPC「G-Tune HM-Z」を使用した。「G-Tune HM-Z」では、同作をエピック設定(最高の映像品質)にてプレイ可能。エピック設定/1080p解像度の場合、平均フレームレートはおよそ60fpsとなる。スペックはGPU:NVIDIA GeForce RTX2070 SUPER、CPU:Corei7-9700K、メモリ:16GB、ストレージ:512GB SSD & 2TB HDD(※11月23日時点のスペック)。「G-Tune HM-Z」商品ページはこちら

※弊誌運営会社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドであるPLAYISMは、『Godfall』PS5パッケージ版の国内販売を担当している


鋭くも綻んだ刃の切っ先


単純明快。明晰判明。『Godfall』のゲームシステムは、重厚感のある武器で敵を倒し、装備を拾って強くなる。その一点のみ用意、フォーカスし、制作陣の熱意が注がれている。敵を自らの腕で倒し続けるアクションRPGの要素と、頭と数字で戦っていくビルド構築の要素が上手く融合することで「Godfallらしさ」は形作られている。

令和2年現在、ビルド構築とアクションを組み合わせた、俗に「ハック・アンド・スラッシュ」とよばれるゲームは世に多く誕生している。しかしながら、「プレイスキルの上達に由来したアクションの面白さ」と、「データの検証によって生まれるビルド構築の面白さ」を文字通り一体化させている作品はそう多くない。なぜならこの2つの要素は基本的に相反するものだからだ。

プレイスキルの上達は遊び手の対応力と応用力、すなわち汎用性を生み出す。迫りくる敵の動き一つ一つを見極め、瞬時に場面ごとの回答を生み出す面白さを育む。対してビルド構築は、目指すべき理想形を現実のものとするために、すべての無駄な行動を排除する。すなわち効率化と理論値の追求を行う面白さを育むものである。ゆえに、効率化のための仕組みが整わないゲーム序盤〜中盤においてはビルドが機能せず、後半以降になると敵を瞬殺することでアクション部分が役立たずになるという、個人的には歪な構造だと認識してしまうゲームは多い。

だがこの状態の克服を目指した作品は少なからず存在している。たとえば『モンスターハンター』シリーズは攻撃内容がまったく異なるボスモンスターを大量に用意することで、エンディングを越えてもプレイヤーにアクション面での試行錯誤を促し、装備を整えつつアクションも常に鍛えねばならないというフローをデザイン。問題を解決することに成功した。『仁王』シリーズはビルドとは関係ない、プレイスキルに由来するゲームオーバーのリスクを常にシステムに忍ばせる=死にゲーのスタイルを解決策として採用している。


そして『Godfall』もまた、反発する両者を一つにまとめ上げた作品である。彼が採った方法というのは「最初から敵を固く、攻撃の威力を強くする」こと。つまり、ゲーム序盤からビルドの構築とアクションの練習をプレイヤーに強いるという極めて単純な施策である。

本作における戦闘アクションの特徴は、「火力を出すにはひたすら敵に張り付き、攻撃をし続ける」ことにある。継続的な攻撃によって威力が上昇するスキルや、弱点部位の存在を軸に、連続する敵の技をかわしながら攻撃できる攻防一体のアクション、体力を一気に削るソウルシャッターと、異なるアプローチであるブリーチ。一定範囲内のキャラクターを回復し続けるバナーといったシステムたちによって構成されている。プレイヤーが常に攻勢であることに大きな利点と高い気持ちよさが生まれるようデザインされているのだ。

だが利点は利点止まり。本作の敵は他の類型作品と比較してもザコ含めHPが高く設定されており、攻撃をかわして殴り続けているだけではスムーズに敵を倒すことが難しくなっている。どんなに上手くともボールがなければサッカーは出来ないように、前提として装備がある程度ロジカルに考えられた内容になっていなければ、限られた集中力の中で体力を削り切ることは難しい(この傾向はゲーム後半になるほど顕著である)。これは適正レベルの装備を身につけるということだけではなく、素材を用いて強化を行い、複数種ある属性や状態異常特化など、豊富なビルドの中から方向性をある程度決める必要性があるということだ。

またそもそもとして敵の火力は高く、攻撃範囲は広く、攻勢であり続けること自体が難しい。『Godfall』は猛攻をかい潜りつつ弱点を攻め続ける技術力と、ビルドを構築する発想力が同時にプレイヤーへ問われ続けるデザインが成されているというわけである。


正直、この仕様は諸刃の剣と言わざるを得ない。私のように複雑な試行錯誤を好むプレイヤーは楽しむことができるとは思うが、見方を変えればどんなに装備を整えてもプレイスキルが伴わなければスムーズにクリアすることは叶わず、逆もまた然り。ゆえに『Godfall』はゲームオーバーによるストレスの低下ーー自身の体力が0になっても進行状況が保存され、無制限に即座のリトライが可能という仕組みが用意されている(報酬が豪華になる上級者向け難易度になってはじめてリトライ回数は限定される)。

この仕組みに関して効果的に作用しているとは言い難い。何故なら究極的には「ヒット・アンド・アウェイを繰り返していればクリアできてしまう」という、上述した張り付いて試行錯誤を楽しむデザインを自ら崩壊させるシステムだからである。確かにアクションに不慣れなプレイヤー向けの救済措置であることには違いないが、このシステムの悪い点は、難易度の関係ない部分で機能のON/OFFが出来ない点にある。人間とは面白いもので、問に対し最初から回答が1つ提示されていると、挑戦に対するモチベーションが下がってしまう。高難易度を選択してようやくコンセプトが再現されるという具合である。隠された最終手段ではなく、最初から開示されているこのシステムは本作におけるプレイ体験を軽薄化させている。生死をかけた刹那の攻防をさせたいのか、あくまで前述のシステムはプレイヤーの好みで選択すればよく、サクサクと本編をクリアさせたいのか、ゲームデザインの一貫性が感じられないのだ。

デザインの一貫性というものは、基本的に受け手の経験に由来する連想の上で成り立っている。半強制的に頭を悩ませるビルドがあり、接近戦重視の高難易度戦闘という組み合わせがあれば、リトライがこんなにも優しい仕様であるとは思いもしないだろう。「ゲームデザインの一貫性がある」とは、作者の意図を表現するための文脈が、あくまでプレイヤーの経験に沿った構成になっているという状態であり、一貫性の喪失はまるで道につまずいたときのようにプレイヤーの没入を阻害し、混乱させてしまうのである。

この考えに対し、「最初からリトライ回数が制限されるハードモードで遊べば良い」「ハック・アンド・スラッシュにおけるノーマルモードはあくまで踏み台であり、ハードモードにこそ真価がある」という意見もあるかもしれない。だがここにも「一貫性の問題」は浮かび上がってくる。

一般的にノーマルモードとは、制作陣がプレイヤーに受け取ってほしい体験の基準となるゲームモードである認識が根強い。そしてハードモードとは、ノーマルの面白さでは「物足りない」プレイヤー向けの難易度であるという認識も同様に存在する。周回プレイの選択がプレイヤーに委ねられている中、「制作者が考える一番ゲームが面白くなる部分」をノーマルモードとして、体験の基準とすべきなのだ。そして本作のノーマルモードは、リトライ無制限という仕様によって、張り付いて試行錯誤を楽しむデザインを自ら崩壊させ、プレイ体験を軽薄化させている。

加えて、この両刃を叩きつけるボスの種類が少ないという問題もある。『Godfall』は戦闘以外のコンテンツがほぼ皆無だ。ストーリーはゲーム進行の大義名分に過ぎず中身がほぼない。舞台となるMAPは箱庭の形式で散策可能ではあるものの、種類は少なく戦闘用に特化された平坦なロケーションになっており、特にそれ以外の用途を見出すことは難しい。一応、実績と収集要素である読み物アイテムが用意されているが、新たなプレイを生み出す要素になっていない。

私は戦闘以外の要素をおおかた用意しなかったことに関して特に批判するつもりはない。何事も必要に応じて用意すべきであって、一概に盛れば良いということではないからだ。本作においてはあくまでハック・アンド・スラッシュがゲームのメインであり、プレイヤーに対し強調したいという意図が読み取れる。ただでさえ、アクションとビルド構築という2つの要素を極めねばならない本作において他のコンテンツを用意することは、プレイヤーに対するスムーズな導線という点で難しいというのも理解できる。

だが、肝心の戦闘ボリュームが控えめというのはいただけない。本編で衝突する大ボスはわずか6体しかおらず、本編クリア後のコンテンツにモーションやボス自体の追加はない。ゆえにエンドコンテンツに挑んでいると、鍛え上げたテクニックとビルドをぶつけているのか、周回に伴うルーティンなのか分からなくなる。先述した簡単すぎるリトライの仕様も相まって、印象に残る体験を覚える機会は少なかった。


総じて余分なものを廃した刀身こそ光り輝く美しい煌めきを誇っているものの、刃先はこぼれ切れ味は悪い。『Godfall』は豊富なビルドと、コンセプトを綺麗に反映させたアクションシステムを終始両立させているものの、調整の効かない簡単すぎるリトライシステムの存在や、ユニークボスの少なさによって面白さが薄まっているという印象を受けてしまった。ただし、マルチプレイにおいてはその限りではないということを言及しておきたい。ボスの問題こそつきまとうが、簡易なリトライによりミスを原因とするギスギスとした雰囲気がプレイヤー間に表出することはなく、特にエンドコンテンツにおける連携が非常に容易になる(ただし、高難易度の場合は除く)。惜しむらくはフリーマッチングではないことだろう。

次世代作品らしい豪華なビジュアル


グラフィックの進化はゲーム体験をより良いものにするのか。議論の尽きぬ話題ではあるが、筆者の答えはイエスだ。ビデオゲームにおける面白さの多くは、自分自身がシステムを操作したことによって発生する画面の変化に由来するものである。進化によって変化の幅が広がれば広がるほど、ゲーム体験の種類もまた拡張されていくことだろう。特にアクションゲームという分野において、視覚から受け取る情報は、コントローラーという道具を通じてモニターの中に拡張された身体の実在を、共感という認知を伴って真実性の高いものとして補強する役割を果たす。精巧な造形を持つキャラクターには写実的な風景美を。アニメ調のキャラクターにはトゥーンレンダリングを。題材に対して適切なビジュアルを用意することができれば、ファンタジーから近未来に時代劇。さまざまな世界へ肉体を飛ばし自らの体験とすることができる。

『Godfall』はそういったグラフィックの進化による恩恵を多大に受けている作品であると言える。中でもプレイヤーキャラクターの装備、清廉な騎士の甲冑にメカニカルかつ神話の生物の意匠を施した鎧“ヴェイラープレート”のデザインそれ自体は、国内でいう「聖闘士星矢」の聖衣や「魔法騎士レイアース」における魔神など、別段珍しいものではないが、これほどまでのレンダリング技術によって3Dモデル化され、しかも自在に操作できるというのは非常に珍しい。


ゆえに美しい光沢を伴った、重厚感あふれる鎧を身にまとう騎士となり高速戦闘を行うという体験は、ゲーム内容がシンプルなものである本作において、プレイの動機づけという点で、かなり重要な立ち位置を占めている。というより、「重い鎧で高速戦闘」というビジュアルがあるからこそ、明確な個性が生まれているといっても過言ではない。私は本作のゲーム体験を「難しく、それでいて軽薄な内容」と語ったが、それでもエンドコンテンツまでプレイすることが出来たのは、格好良いヴェイラープレートを仮初の体にまとい、私自身として操作できるからだ。『Godfall』はゲームにおけるビジュアルが持つ力の大きさを示す参考例のひとつと言える。先述したように筆者は本作をPCでプレイしたが、もしPS5でプレイする機会があれば、PS4における映像美と比較することで、その力をよりわかり易い形で体験することができるだろう。


残念ながら『Godfall』はそもそもの戦闘ボリューム不足という問題もあるが、プレイヤー層を拡大するための安直な施策によって、せっかく的を絞ったゆえの興味深いアイデアを十全に活かすことが出来ず台無しにしている。ビジュアルこそ次世代機らしい光るものがあるものの、肝心の中身が伴っていないのだ。だが幸いにして現代のビデオゲームにはアップデートという未来の可能性がある。追加コンテンツ含め、作品の今後に期待したいところだ。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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