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ゲームに一目惚れした経験はあるだろうか?音楽CDのジャケ買いならぬスクリーンショット買いとでも言えばよいのか。ゲーム内容を確認するよりも先に「このゲームで今すぐ遊びたい!」そう、思わせてくれたのが、今回レビューする『Eastshade』である。

筆者が『Eastshade』の存在を初めて知ったのは2014年、開発元Eastshade StudiosのTwitter公式アカウントが公開した数枚のスクリーンショットを目にしたとたん、その美しい世界にたちまち魅了されてしまったのだ。もっとこのゲームのことを知りたいと思うのは当然だが、公式サイトを訪れても発売予定日や想定価格といった詳細情報は皆無。一人称視点のオープンワールドで、プレイヤーは旅する絵描きとしてEastshade島をめぐる、という簡単なあらすじ以外の情報はほぼ得られなかった。

それから5年の月日が流れ、2019年2月13日ついにSteamでの配信にこぎつけた本作は、待ち続けたファンの期待を裏切らず、予想をはるかに超える美しい世界と物語をプレイヤーに届けてくれている。決して派手な作品ではないため事前の注目度も高かったとは言い難い『Eastshade』を一人でも多くの読者に知ってもらうべく、今しばらく筆者の“Eastshade島ツアー”にお付き合いいただけるだろうか?

ただ歩いて周囲を眺めるだけ、それが最高に楽しい魅力的な世界

プレイヤーは絵描きであり、かつて母が訪問したいと願っていたEastshade島で4枚の絵を描くために、船で島を訪れるところからゲームは始まる。港町LYNDOWはチュートリアルを兼ねた小さなエリアで、NPC達はLYNDOWの歴史、北にある大きな町の話、絵を描くのに必要なキャンバスの材料集めの方法などプレイに必要な基礎知識を教えてくれる。

島の住人はすべて動物の姿だが家庭内に問題を抱えていたり、ご近所ゴシップが大好きだったりとなかなかに“人間臭い”やつらだ。プレイヤー自身が何者なのか、そもそも彼ら同様に動物なのかそれとも人間なのかは分からない。
森の中には様々な資源が落ちている。キャンバス以外にも夜を明かすテント、様々な効果のお茶を沸かすなどクラフト要素も多少ある。

便宜上チュートリアルという言葉を使ったが、あれこれゲーム内で指示を受けたり次に行くべきアイコンが光るといった、いわゆる“ゲーム的”な誘導はほとんどない。本作の特徴の1つとして画面上のUIは極力排除されており、そのつどTabキーでアイテムインベントリ、クラフト画面、クエストジャーナルを表示する必要がある。ゲームに慣れるまでは少し不便かもしれないが、やがてこのシンプル極まりない画面だからこそ、島の豊かな自然の中を散策しているような没入感を得られると感じるはずだ。

本作は、単にグラフィックが緻密でキレイというだけではない。小高い丘を登り切った瞬間に眼下に広がる湖のきらめき、曲がりくねった森の小道から突然現れる素朴なコテージとの遭遇……島の隅々までただ歩きたくなる、丘の先にはどんな風景があるのか確かめたくなる高揚感をプレイヤーに与えてくれる。全く同じ建物でも夜明けから夕暮れまで刻一刻と変わる空の色とともに印象が変わり、クエストそっちのけでベストショットを探して歩き回り時間がたつのも忘れてしまうに違いない。

 

ちょっとした謎かけとシンプルなストーリーライン

冒頭で述べたとおり、プレイヤーの旅の目的は母が見たがったEastshade島の4枚の絵を描くことだが、その途中で島の住人と交流を図り、彼らのさまざまなお願いごと=クエストをこなしてゲームを進行させていく。残念ながら現時点で日本語には対応していないが、英文が難しすぎてクエストが理解できない、行き詰まってしまうというほど複雑な会話は無い。スマホ片手にWeb翻訳で分からない単語を2つ、3つ調べればNPCの発言内容もほぼ理解できるはずだ。

まれに不思議な詩を解読し答えを導き出すようなパズル要素のあるクエスト、NPCとの会話に重要なヒントが提示される場合もあるが、いずれも難易度は低め。会話の選択肢を誤ると受け取る報酬に大きな差がでるといったことほぼなく(ゼロではない)、やり直しがきかない失敗を心配する必要はない。また、メインストーリーやクエスト関連、あるいはアイテム売買に関わらないNPCの多くはそもそも話しかけられない。街の住人は多いが、お目当てのNPCを見つけるのはさほど難しくないだろう。

謎が解けず行き詰まった……という時には、海外プレイヤーによる丁寧なクエストガイドのBlogなどもある。どうしても分からない時だけ頼ってみるのもいいだろう。

廃屋や農家の室内、大学図書館などあらゆるところで見かける本を開くとEastshadeに生息する動物の話、島の歴史について読める。ただのフレーバーテキストではなく、時にクエストのヒントも兼ねているので見逃さないように。
ピクニックだろうか、街から離れた場所で突然こんなNPC達に出会うことも珍しくない。

『Eastshade』はオープンワールドの作品ではあるが「The Elder Scrolls」シリーズのように、プレイヤーの行動とは無関係にNPCが死亡したり、会話の選択肢一つで展開がガラリと変わるほどの自由度のある世界ではない。前提クエストを順番にこなさなければ新しいエリアに入れないといった制限もあり、人によっては融通のきかない「一本道シナリオ」と感じるかもしれない。だが本作は次から次へとクエストをこなし、急いでストーリーを進めていくタイプのゲームではない。あくまで旅する絵描きの視点で島の風光明媚な風景をいつくしみ、ついでに島民と交流を深めていく。そんな“なりきり”プレイを楽しめる人にEastshadeはおすすめしたい。なにしろSteam上で本タイトルには「リラックス」のタグが付いているぐらいなのだ。

画面右下の数字は絵を描くのに必要な「インスピレーション」。島の特定の場所を訪れるとゲージが溜まり、1枚描くごとに減っていく。
キャンバスとインスピレーションに余裕があるなら、クエストと関係ないお気に入りの1枚を描いてもいい。
街の画廊に所属すれば、依頼リストの中から選んだ絵を描くことで報酬を得られる。キャンバス作製に必要な素材も売ってくれる。

駆け足気味のEastshade島ツアーであったがご堪能いただけただろうか?アクション性や血沸き肉躍る冒険とは無縁だが、島の自然に心惹かれた読者ならば買って損はないはず。ゲーム内の世界には、本文中では触れていない小さないながらも、素敵な数々のサプライズも用意されているので、ぜひ自身で島を訪問してみてほしい。

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