『サガ フロンティア2 リマスター』は、劇的に遊びやすくなったがまだ人に薦められない。でも遊んでほしいと願わずにいられない、輝けるリバイバルゲーム

結論からいうと、「人には薦めづらいが、遊んでほしい」という気持ちがさらに強まった。

スクウェア・エニックスは3月27日、『サガ フロンティア2 リマスター』を発表し、3月28日に発売した。『サガ フロンティア2 リマスター』は、1999年にPS1で発売された『サガ フロンティア2』(以下、サガフロ2)をリマスターしたもの。対応プラットフォームはNintendo Switch/PC(Steam)/PS5/PS4/iOS/Android。

筆者はオリジナル版をプレイ済みで、当時のプレイ感想は「人を選ぶが、大好きな作品」であった。つまり好きだが人には薦めづらい作品ではあったということだ。今回スクウェア・エニックスよりそんな本作のリマスター版をいち早くプレイできる機会を提供してもらい、喜びと不安を胸にリマスターをプレイした。結論からいうと、「人には薦めづらいが、遊んでほしい」という気持ちがさらに強まった。

オリジナルのまばゆい魅力と、重めのボトルネック

『サガフロ2』の基本情報は……公式サイトを見てもらうとして、オリジナル版に対する自分の所感をまず思い出したい。当時の日記を引っ張り出そう。「ストーリー好きすぎる」「とにかく遊びづらい」「難しい」。記されていた感想はそんなところだ。筆者は本作のストーリーが好きだ。アニマを持たない孤高の男ギュスターヴと、アニマを用いる仲間多き冒険少年ウィル。彼らの歴史を追いながら、因縁たる相手と長きにわたる戦いを描く物語は、記憶に強く残っている。水彩画のようなタッチと、浜渦正志氏の美しきピアノ音。ビジュアルとサウンドは演出をもって強烈なシナジーをもたらし、ストーリーを唯一無二のものにした。クリアできた時の達成感は信じがたいものだった。

しかしながら、システムは難解である。『サガ』シリーズの複雑なシステムに加えて、デュエルといった独特な新要素の導入。覚えることが多い。UIも多層的で直感的ではなく、そして何より戦闘を含めテンポが遅い。さらに、難易度が高いこともあり、周囲に買った人はいれど、クリアした人は自分ぐらいしかいなかった……というエピソードを思い出すのである。クリアをした時は達成感と感動を強く抱いたものの、そこにたどり着くには知略と胆力が求められる。だからこそ、「個人的には名作」「人には薦めづらい」両方の気持ちが正直ある。

大きな変更

スクウェア・エニックスも、そうしたことを承知しているのだろう。『サガ フロンティア2 リマスター』に際しては遊びやすさについては、徹底的にメスが入っている。以下、変更点(あるいは新要素)を羅列する。

★追加要素はある/なし選択可能

グラフィック関連
・グラフィックをリマスター。オリジナルの素材を横に伸ばすのではなく、新たに描き足している
・キャラはドット絵表現で、背景はテクスチャを高解像度化
→なおテクスチャフィルターは、ポイントかリニアかで設定可能
・年表デザインを刷新
・キャラ・ボスの固有グラフィック追加
・UIを再構築、一度に表示する情報量を多くしつつ整理された

マップ関連
・マップHUDはON/OFF切り替え可能
・マップHUDは左右好きに配置できる

戦闘関連
・倍速モード追加(等倍・2倍・3倍調整可能、右スティックで常時切り替え可)
→ひらめき・連携の時だけ通常速度にすることも可能
・全体的に戦闘テンポアップ
・戦闘に敗北するとリトライ可能(ノーコスト)
・戦闘中にポーズをするとアーツ・状態アイコンをいつでも確認できるほか、デュエルシステムや交渉、ディスタンスとはなんぞやというのを読むことができる

システム全般
・等倍~3倍選択可の倍速モードは戦闘だけでなくマップや演出にも適用される
・オートセーブ導入、なおオン・オフ切り替え可能
・キーコンフィグも可能
・色覚・聴覚サポート設定あり
・ポケットステーション向けだったミニゲーム「GO!GO!ディガー」は「DIG!DIG!ディガー」としてゲーム内に盛り込まれた
・ゲーム内情報およびヒントの充実

育成関連
・成長能力継承(別シナリオで成長した分のキャラの値を継承できる、継承ステータスは装備のようにつけ外し可能)
・倉庫機能が追加、アイテムを出し入れして整理できる

新要素
・新シナリオがどどんと追加、キャラ関係性描写などを強めて本編を補完
→追加シナリオは「サガ フロンティア2 アルティマニア」の巻末小説「終末をもたらす者 Beender」を描いたベニー松山氏が担当し、河津秋敏氏が監修
・クリア後要素追加、完全新規シナリオあり、強化ボスとのバトルも可
・NEW GAME+実装(引き継ぎ項目は選択可)

と、ここまで書いたが、かなり手が入っているのがわかる。変更点や新要素はかなり多いので、ここまで書いてもまだ書き漏らしもありそうだ。基本的にはほかの『サガ』リマスターでも手が入ったところが同様にテコ入れされた印象であるが、かなりチューニングされている。

個人的に大きいのは、やはりテンポ面。なまじ長大な作品で1戦闘も長かっただけに、テンポアップおよび倍速導入は嬉しい。また戦闘に負けたらすぐさまリトライできる要素も嬉しい。新シナリオについても嬉しいものの、すべて体験できていないので包括的な感想は述べられないが、自分が体験したものでいうと「良い感じに余白を埋めている」と感じた。『サガフロ2』のストーリーは年表から出来事を選んでいくシステム上、それぞれのキャラが何をしていたかの余白が多い。筆者はそれも好きなのだが、そういった点が突拍子のなさや説明不足と捉える人もいた認識だ。そういう意味でいうと、今回の追加ストーリーは弱点をカバーするアプローチになっているだろう。

しかし、変わらないものは変わらない

かなり遊びやすくなった『サガ フロンティア2 リマスター』。スクウェア・エニックスがオリジナルの課題を認識し、それに徹底的に取り組んだことは高く評価したい(とはいっても、ここ数年の同社の『サガ』リマスター・リメイク関連の対応はどれも的確なので本作に限った話ではないが)。一方で、では他人に薦められるようになったかというと、なかなか返答に困る。遊びやすくなったとて、『サガフロ2』は『サガフロ2』なのである。

筆者が遊んだ限りでは、基本的なゲームバランスはいじられていない印象。覚えることが多く、ちゃんと難しい。筆者はサクサク進めようとして失敗し、ハンの廃墟で青スケルトン相手に修行することになった。複雑さと難しさは本作のある種のアイデンティティであり、そのアイデンティティは健在。不親切な部分が親切になったものの、『ロマサガ2』リメイクのように根本から大改造しているわけではなく、コアは『サガフロ2』のままである。リマスターなのだから、当然であるが。難しく長く、理解度を求めカロリーが高い。なので、プレイヤーの胆力を……資質を問うゲームである本質は変わりないように見える。

同時に、『サガフロ2』の味わえるゲーム体験は極上であるという、かつてのオリジナル版の抱いた意見も変わらない。BGM「Auβenwelt」を聞きながら思い馳せる年表と歴史、「Romantik」を聞きながら散策するヴェスティア、「Feldschlacht III」を聞きながら抱く戦いの決意。『サガフロ2』は「長きにわたる血濡れた死闘」を美しくも儚く描く、壮大な歴史譚なのである。筆者はかなりの数のゲームを遊んできたが、『サガフロ2』のような物語体験を得られるゲームには遭遇したことがない。さまざまなキャラの人生の苦楽を理解し、共に戦いあるいは共に死ぬ、ここだけしかない物語がある。2025年の今遊んでもこの物語体験は味わう価値があると言い切れるだろう。筆者の思い出補正もあるかもしれないが、単純にテキストもいいしストーリーもいいと、今遊んでもなお感じるのだ。

今だからやる価値がある

そして今遊ぶことに意味があるところにも着目したい。ストーリー面での「主人公は王族であったが特別な力がないことで追放され、そこから物語が始まる」というフォーマットは、今ヒットしている「なろう系」作品でも見かける設定である。展開として「なろう系」作品にはないエッセンスも多くあるので、未プレイの人は、基本設定は理解しやすい一方で、先の展開が気になり読み進めたくなるだろう。本作の物語は奇しくも今のトレンドにも合っていると感じるのだ。

また発売当時よりインターネットが普及していることで、本作で躓いた時の救済措置も見つけやすいし、ストーリーの謎も補完しやすいだろう。あるいはリマスターの発売に際して、今後充実していくと予想される(筆者としてももっともっと増えると嬉しい)。

なお先述したようにリマスターにあたっての調整後もまだ独特のクセがあり、遊び手の胆力を問うゲームなのは確かだ。一方で、クセがリマスター版では緩和されており、程度としては易しくなっているのは間違いない。難解さはヒントやUIでフォローされているし、テンポも速くなっている。難しさについてもリトライしやすくなっている。本作に興味がない人を馴染ませる間口はないが、挑戦者をより広く迎え入れる扉にはなっている。

ただし『サガフロ2』の扉は依然として堅牢ではある。そうした扉をくぐり抜けてでも、遊ぶ価値はあると筆者は信じている。おそらく『サガフロ2』の遊びやすさのハードルはこれ以上下がることはないと思われる。逆説的にいうと、今がもっとも良い遊び時なのである。『サガフロ2』は決して軽い作品ではない。ストーリーもゲームプレイも重い。遊びやすく徹底改良されてもなお重い。しかし本作でしか得られない体験がある。

そんな経緯があるので、『サガ フロンティア2 リマスター』については、「お薦めはしづらいが、以前よりずっとお薦めしやすくはなった」し、何より物語体験が素晴らしいのでぜひ遊んでほしいと願ってやまない。興味がある人はぜひ、愛と裏切りと友情の、壮大な歴史を体験してみてほしい。本作への感想を共有できる日を楽しみにしている。

サガ フロンティア2 リマスター』は、Nintendo Switch/PC(Steam)/PS5/PS4/iOS/Android向けに発売中だ。


© SQUARE ENIX ILLUSTRATION: TOMOMI KOBAYASHI

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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