『ガイアブレイカー』 素晴らしいMiiverse連携のデモンストレーションと、未完成のゲーム
『ガイアブレイカー』はユビキタスエンターテインメントが開発・販売を手掛ける縦スクロールシューティングゲームである。プラットフォームは Wii U で、Nintendo e-Shop 専売タイトルとなっている。今時珍しい家庭用機向けオリジナル縦シューティング、そしてWiiU固有機能である Miiverse をユニークに活かしたスクリーンショットが配信と同時に公開され、これは期待できそうだと早速購入した。
早速、といっても年末に e-Shop を襲った、ネットワーク過負荷による大規模障害(現在は復旧)に巻き込まれ、購入できたのは配信開始から4日ほど経った12/29、1面から最終面まで通しでクリアしたのは年が明けてからのことだったが。
「競争」の可視化、ゆるいつながり
シューティングゲームは基本的に一人で黙々と遊ぶゲームジャンルである。プレイヤーが競う相手はゲームそのものであり、ゲームを攻略する事こそプレイヤーの勝利である。そこに他者が介在することはない。本作のように、一人プレイ専用のシューティングゲームとあってはなおのことだ。
とはいえ、シューティングゲームにも他者と競い合える要素が存在する。ひとつは「到達ステージ」いわば攻略の進捗度である。ゲームの何面の、どこまで進めたか。ボスのどの形態まで倒したか。それが難しいゲームであればあるほど、どこまで進んだかという実績は価値を持つ。
もうひとつが「スコア」である。進捗とは別にプレイヤー同士の格付けを行い、それぞれの順位を設定する唯一絶対の掟、それがスコアなる数値である。古来よりシューティングゲームのプレイヤーはゲームそのものと競い、同時にこの2つの要素を以て、時にゲーム筐体のハイスコアランキングで、時に専門誌の全国ランキングなどで、自分以外のプレイヤーと競ってきた。
このゲームの Miiverse 連携は、そうした「シューティングゲームにおける競争要素」を大幅に後押ししてくれる。本作では Miiverse に登録された「他のプレイヤーのそのステージでのハイスコア」が画面左側に常時表示されるようになっている。これは攻略上の目標になるし、そのスコアを上回った際、自分のスコアがリアルタイムで順位を上げていくという演出は、プレイヤーの競争心を大いに刺激してくれる。
同時に実装されている「他のプレイヤーの最高到達地点可視化」という機能も素晴らしい。Miiverse 上でのユーザーネームしかわからない相手ながら「その人物より上の腕前」であるという優越感を味わうことができ、本作においては残機エクステンドのおまけまでついてくる。
「スコア」と「到達ステージ」この二つを Miiverse という環境を利用することで可視化し、自然にプレイヤーの競争心を刺激するこのシステムは非常によく出来ているといって良い。そこに表示されているのは同じゲームをプレイするライバルであり、同好の士でもあるのだ。この緩い横のつながりの演出は、このゲームの STG としての評価を何倍にも高めている。
ガイアブレイカーというシューティングゲーム
本作を遊んですぐに気になるのが、手触りの純粋な悪さである。たとえば自機の移動についてだが、本作の自機には慣性が働くようになっており、スティックから手を放してもその場で止まらず、わずかにズレてから止まるようになっている。止まりたい場所で止まるのに修練を要するうえ、1回の移動が大きくなりがちで精密な操作はし辛い仕様である。では本作は精密な操作が要求されないゲームであるのか?
まったくそんなことはない。むしろ本作はいわゆる「弾幕系」に分類されるべきゲームであり、そもそも精密な操作とは弾幕系 STG がゲームとして成立するうえでの必須要件とすら言える。にもかかわらず、本作は移動に慣性のつく自機を採用してしまっており、細かく避けるという選択肢が用意されていない。というよりは「細かく避ける」というプレイングを想定していないように見える。
というのは、本作の敵の攻撃の大半が「自機狙い弾」を採用しているからだ。「自機狙い弾」とは、敵が弾を発射する瞬間に自機の居た場所に向かって撃たれる弾のことで、原理から言うと、弾が撃たれたあとに少しでも移動すれば、その弾は当たらないということになる。こうした攻撃に対しては、一般的なシューティングゲームであれば、自機を少しずつ小刻みに移動させる「コンコン避け」というテクニックを使用するのがセオリーなのだが、本作の場合は慣性で移動距離が無駄に大きくなるのでそうしたテクニックは活かしづらい。
するとどうなるかというと、画面の両端をいっぱいに使ってとにかく左右に動きまくるというプレイングに行き着くことになる。止まれば死、画面端に追い詰められても死。ある程度画面端に近づいたら、今度は反対側に向かって弾避けを行うことを一般的に「切り返し」と呼ぶのだが、このゲームは切り返し能力養成ギブスのように常時切り返しを要求される。このゲームは全部で6ステージあるのだが、3ステージ目以降から露骨に弾幕が厚くなり、最終面ともなると画面を自機狙い弾と誘導レーザーが常時埋め尽くす。
これだけであれば「切り返しの動きに特化したシューティングゲームなのだな」と思えるかもしれないが、このゲームの自機に課せられた「左右にしか移動できない」という制約が、この「切り返し」というテクニックの難易度を大幅に上昇させてしまっている。左右にしか移動できないのだから、例えば画面の左側に逃げていく場合、敵弾が反対側に逃げるスキマを与えずに自機を追い詰めていってしまったら、切り返しできずに弾に押し潰されて死んでしまうし、真横やそれに近い角度から攻撃されたら、上下に動けない以上やはり確実に死んでしまう。
であれば、そういう攻撃はしない―――横方向からの攻撃はしないし、弾幕に適度に穴を作って「切り返せる」攻撃を演出する―――ように作られているだろう、とかんがえるのが人情なのだが、本作にそうした紳士協定はない。切り返すスキマの見えない弾幕も、斜め方向や横方向からのえぐい攻撃も、そのどちらも率先してプレイヤーに放ってくるし、むしろ左右にしか動けないというシステムを十二分に活かした殺し方をしてくる。このゲームの敵の攻撃は「左右の動きだけでかわせる」ようには出来ていない。
要するにこのゲームのシューティングゲームとしての作りは極めてテキトーなのだ。「左右にしか移動できない自機」に合わせた敵配置や攻撃のデザイン、約束事の設定は全く出来ていない。自機の慣性、左右移動オンリーの制約、横から殴ってくる敵弾……どれもこれも「ひたすら難易度を上げる」という1点のためだけに設定された要素であり、プレイヤーを楽しませようというエンターテイメント性は微塵も感じられない。だから敵は本当に絶え間なく弾を吐いてくるし、横から回避不能な弾だって飛んでくる。このゲームにプレイヤーを楽しませようという意思は一切感じられず、あるのはプレイヤーを殺そうという悪意だけだ。
守られない「ゲームルール」
テキトーなのはシューティングゲームとしての作りばかりではなく、もっと根本的なところも同様だ。全体的に処理が重く、しばしばガクガクとした処理落ち、フレーム飛びが発生するのも大きなストレス要素。おそらくその処理落ちのせいだと思われるが、自機のロックオンレーザーのロックオン判定がまったくアテにできず、4機編隊で飛んできた敵の真ん中の1機だけロックオンが漏れるなどという事態が日常茶飯事である。ゲームの方が「ボタン押しっぱなしで敵機をロックオンできる」というルールを守ってくれないのだ。
処理落ちと何らかのボタン入力が重なった時の挙動も怪しく、ボタン入力がなかったことになったり、逆にボタンを離したという認識がされずにロックオンレーザーが発射されなかったりということまで起こる。こうなってくると、もはや攻略やゲームプレイという以前の問題である。処理落ちはプレイ時間が長くなればなるほどひどくなり、最終的に画面に絵が出なくなってフリーズする。実機でのデバッグを行なっていなかったのだろうか。
なお本作には「ロックオンレーザー一発で破壊できるが、速く仕留められないと大量のレーザーを吐かれて窮地に陥る」という場面が多い。これはつまり「ロックオンレーザーで出現即破壊せよ」という意図でデザインされた場面なのであろうことは容易に想像がつく。しかし、ゲーム側がきちんとロックオンしてくれるかどうか、レーザーが出てくれるかどうかがわからないので、プレイヤーとしてはロックオンを仕掛けるという選択肢が選びづらい。
後半面はこれが顕著で「きちんとロックオンが動いてくれればレーザーを撃たれる前に処理できて楽になるんだけどな」「むしろロックオンで出現即破壊してほしい敵配置だよな」と感じられる場面―――テキトーではなかったかもしれない場面がチラホラ見受けられる。だが肝心のロックオンの挙動が怪しく、敵機を適切に処理することが難しい。結果的に「きちんと敵を処理できなかったペナルティとしての弾幕」だけをプレイヤーが味わうことになり、開発側の想定した以上に難易度が高くなってしまっているのではないだろうか。ゲーム全体を包み込むテキトーな作りこみが、巡り巡って開発者側の意図すら台無しにしてしまっているのかもしれない。
一級品のデモ 未完成のゲーム
先ほど、私は Miiverse 要素を指して「このゲームのSTGとしての評価を何倍にも高めている」と書いた。これは私の偽らざる本心である。先述したとおり、本作の「他者との競争要素の可視化」の試みはこれまでにないものだったし、そこだけ抜き出せばかなり楽しいシステムであることは間違いない。
しかしながら、肝心のシューティングゲームとしての本作が、最大限譲歩しても未調整、作りかけの「未完成品」という評価がせいぜいであり、凡作と呼べるレベルにすら達していないのだ。本作にゲームとしての価値は感じない。ゼロは何倍してもゼロのままだ。
結局のところ本作は、ゲームエンジンであるHTML5/JavaScriptベースのゲームエンジン「enchant.js」の、ユビキタスエンターテイメントによるデモンストレーションに過ぎない。本作を「ゲーム」として値段をつけ、プレイヤーに販売すること自体がそもそも間違いだったのだ。
そんなデモンストレーションをお金を払って鑑賞しようという人には、本作をクリアするまでプレイした私から一つだけアドバイスを送らせて欲しい。購入時の決済方法にはクレジットカードを使用すべきだ。このゲームの値段は1890円。下手にニンテンドープリペイドカードなどで支払ってしまうと、端数の110円を使い切れずにいつまでも悶々とすることになるだろう。