『原神』のストーリーを今こそ振り返ろう、「稲妻」&「スメール」編とはなんだったのか
大型アップデート「空月の歌」実装前に、『原神』のストーリーを振り返る企画、第二弾。今回は「稲妻」編と「スメール」編だ。

大型アップデート「空月の歌」実装前に、『原神』のストーリーを振り返る企画、第二弾。今回は「稲妻」編と「スメール」編だ。まずは本題に移る前に、第一回「モンド編」「璃月編」の内容を簡単におさらいしておこう (第一回はこちら)。
『原神』は、オープンワールドアクションRPGだ。そのため、会話劇であるメインクエスト(魔神任務)と、フィールドの景観やアイテムのフレーバーテキストが融合した体験を提供している。キャラクターたちの半生が特定の土地が持つ歴史に強く関連付けられ、物語が展開される。プレイヤーが最初に訪れる「モンド」国はこの仕組みに対するチュートリアルを担当していた。広大な土地を探索し、意味深なテキストが刻まれたオブジェクトに触れていく、オープンワールドRPGとしてよくある体験を提供していた。
一方で、チュートリアルであるがゆえに、キャラクターと歴史の関連付けを「わざと」後回しにしている。物語体験の一番美味しい部分を秘密にしている。それがモンド国の物語であった。次に向かった「璃月」は「魔神」や「仙人」といった上位の生物が下等生物の人間を庇護する国。この関係を親子に見立て、民主化を通じた世代交代劇が描かれた。この世代交代というメッセージ性は「璃月」が提供するさまざまな物語体験において一貫している。
そして、今回扱う「稲妻」編と「スメール」編は、上位生物「魔神」と下等生物「人間」の関係性が物語における大きな主題となっている。『原神』世界には7つの大国が存在し、それぞれに統治者として、強大な魔神が君臨している。しかし、モンドは神が統治をせず、璃月は神が統治を止めた。「稲妻」編と「スメール」編を経て、プレイヤーはようやく世界の実情を知ることになるのだ。
神が統べる地「稲妻」……旅人は宇宙人からテイワット人になっていく

プレイヤーが訪れる3番目の国「稲妻」は、江戸時代後期の日本をモチーフとしているであろう島国だ。中心都市がある「鳴神島」では桜が舞い、日本食としておにぎりや和菓子のほか、ラーメンやチキン南蛮が食べられる。産業の1つとしてライトノベルも売っている。中々にトンデモな日本だが、フィールドを散策すると古代ギリシャの意匠が垣間見える。
ここを統治するのが雷の力を操る絶対神「雷電影」である。稲妻国では彼女を首長とした政治機関「幕府」が成立しており、強力なトップダウン体制のもと、安定した情勢が築かれている……はずだった。とある事情によって「雷電影」は心に傷を負ってしまい、肉体を改造したのち業務を疑似人格「雷電将軍」に委託。結果、前2国でも暗躍していた工作員組織「ファデュイ」による内政干渉と、政治機関の汚職を許してしまう。
鎖国体制はさらに厳しくなり、作中における異能力者を取り締まる法令「目狩り令」が発布されてしまった。政権へのレジスタンス活動は激化し、内戦状態もまた悪化する。さらに言えば、国の運営において神に対する依存度が極めて高いことから、法令の当事者以外から反対の声がほとんど上がらないという状況にある。中央集権の弊害がわかりやすく表現されている。これは中国の政治体制に対する皮肉ではないかと筆者は感じている。
そんな「稲妻」が提供する物語体験の特徴は、オープンワールドを存分に活かした体験構造そのものにある。「政治情勢を鑑みつつ、雷電影の心を鎮めること」「雷電影のトラウマの原因を探ること」「ファデュイによる内政干渉の実情を探ること」「稲妻の政治情勢を変えること」。こういった内容に連続性のあるテーマが、特定の土地に紐づけられる形で、さまざまなクエストカテゴリのもとバラバラに用意されている。

わかりやすく言うと、稲妻の物語はメインクエストにて完結していない。プレイヤーは稲妻の各地を巡り、何が起こったのかを自分の目で確かめ、現在に至るまでにあった1つ1つの出来事をつなぎ合わせていく必要がある。「500年前の世界大戦と雷電影のトラウマ」。「オロバシと抵抗軍の関係性」。「国崩とファデュイの因縁」。「亡くなった姉神と雷電影の決心」。すると浮かび上がるのは、因果の鎖に囚われ、永遠に停止している稲妻の姿であり、宇宙人からテイワット人へ立場が変わりつつある主人公とプレイヤー自身の姿だ。
そもそもこの時点において、主人公の目的は「行方不明になった肉親を探してテイワットを脱出すること」であり、そのために必要なのは「肉親の行方に関係しているであろう国の統治者に謁見して情報を得ること」だ。旅先の国を救うことではない。ゆえに、入国当初は現地のレジスタンス活動に参加してほしいという要請に対して消極的だった。自身の都合上、神との対立は避けたかったからだ。しかし、NPC「哲平」との交流をはじめ、「オープンワールドの自発的な探索=積極的に稲妻各地の問題に関わる」ことで、主人公のスタンスに変化が生まれていく。肉親探しという目的の達成にあたって最短経路を取らなくなる。
たとえば、肉親探しとは関係ない超長編サブクエストが登場するのも稲妻からである。もちろん、最初から主人公は困った人がいれば手を差し伸べる好人物であり、プロの冒険者として、仕事の報酬を確保する強かさは稲妻編が終わっても変わらない。しかし、稲妻での旅は主人公を天外から来た宇宙人からテイワット人に変えた。オープンワールドに付き物な「なぜ目的を達成するにあたって寄り道をするのか」という問題の理由付けを物語体験に落とし込んだ、興味深い体験であった。
神の死した地「スメール」……より洗練された物語体験へ

とはいえ、稲妻の物語構造は、プレイヤーがゲームをプレイする上で非常に労力がかかってしまう。これを受けてか、「スメール」編では構造に大きく変化が入っている。土地と物語を結びつける手法こそ変わらないが、全体的な構造としては今代の神である「ナヒーダ」と国の首都を結びつける物語の方向性、先代の神である「マハールッカデヴァータ」と国の地方部を結びつける物語の方向性、という2つの方向性に明確化された。
今代の神「ナヒーダ」と首都にまつわる物語は主にメインクエストや、彼女自身に関するサブクエストが担当し、先代の神「マハールッカデヴァータ」に関する物語はは地方を旅する超長編サブクエスト群が担う。
これによって、メインクエストをプレイするだけでも、しっかりとした読後感が生まれるようになった。この「首都でメインクエストを語り、地方で超長編クエストを語る」という手法は、この後に続く国でも採用されている。
では具体的な内容に移ろう。「スメール」は熱帯雨林と砂漠という極端な地形を領土に抱えた巨大な国だ。特徴としては、学術機関と政治機関が一体化しており、知識を資源として扱う学術国家として存在感を放っている。また、国営の擬似的なインターネットが成立している、しかし厳しい検閲もまた導入されており、ここでもまた中国の現状に対する皮肉を感じざるを得ない。
そんなスメールで展開されるメインクエスト及びナヒーダのサブクエスト(伝説任務)は、稲妻編と真逆の内容である。「もし、神が統治者に相応しくなかったら」。自らの依存先として強力なリーダーを求める人心の暴走を描いていく。人造の絶対神を作るというプロジェクトに端を発し、ファデュイの大幹部である「博士」によりインターネットを用いて民衆が扇動される描写があったり、すでに亡くなった神の復活を熱望するグループがいたりといった、理性的ではない人間の描写が目立つというのが味わい深い。「理性は感情の奴隷」とはよく言ったものだが、学術国家でそれを描写するのは舌にピリッと来る。
最終局面において、インターネットが効果的に用いられる描写もまた非常に痛快である。現代の自然科学の興りには「全能神がデザインした世界の意図を調べる」というものもあるが、新米の神ナヒーダが知っているのは「無知の知」だ。ゆえに民の知恵を借りて自らも共に世界を知っていく。強力なリーダーなど必要ない。美しい物語体験であった。

一方、超長編サブクエストでは強力なリーダーだった先代神とその友人だったキングデシェレト、花神の関係性を辿ることで、「アビス」や「亡国カーンルイア」といった、テイワットの外側に関連する要素へ到達するという内容になっている。スメール国の歴史探訪が世界の根幹に関わる内容へシームレスに接続する物語体験は、本作が宇宙と上位生物をモチーフにしたSFであることを強調しつつ、物語のスケール自体に感動させてくれる。そして同時に世知辛い。「稲妻」編の時点でもそうだったが、キャラクターのヒロイックな活躍を取り扱うメインクエストに対し、超長編サブクエストは世界の在りようを担当しているからなのか、剥き出しの世界が持つ残酷さを描写するのが現在恒例になっている。テイワットは魔物が跋扈する世界であるということを忘れてはいけない。
総じて、「稲妻」編、「スメール」編共に、神を頂点に据えたそれぞれの社会体制を描写しつつ、オープンワールドを駆けずり回って世界の歴史を探訪するという内容になっている。この物語体験を通して、プレイヤーは『原神』が描こうとする世界の広さや多彩さを、身を持って知ることになるのだが、続く「フォンテーヌ」編「ナタ」編において、このムーブメントは更に加速する。決して1枚岩ではないファデュイの内情や、龍族と魔神という上位生物同士の侵略戦争。そして明確化される宇宙の存在。歩みを進めるほどにテイワットが数ある1惑星に過ぎないことが明らかとなる中で、あなたの旅はどんな意味を持つのだろうか。振り返り記事の第三回をお待ち下さい。