『原神』のストーリーを今こそ振り返ろう、「モンド」&「璃月」編とはなんだったのか
本稿はそんな『原神』の物語を大型アップデート前におさらいしてみよう、という内容になっている。今回取り上げるのは、作品の序盤も序盤、「モンド」編と「璃月」編だ。

私が『原神』を始めてはや5年目。「光陰矢の如し」とはよく言ったものだが、サービス開始時に書いた、本作に関するコラムの内容がすでに懐かしく思えてくる。当時、私は本作に対して以下のように言及した。「トレンドのパッチワークには留まらない」「今後このスタイルが、コミュニティを活かしたゲームデザインの流行になるだろう」。何事も言ってみるものだが、実際そうなったのだから面白い。
現在、『原神』はフォロワーを生み出し、今後生まれてくる予定の子どもたちもたくさんいる。相対的に本作は「古い」ゲームになっている。約5年前のゲームである。にもかかわらず、高い人気を保ち続けている。私も出戻りを繰り返しながら遊び続けている。その理由としては、本作が提供する物語体験によるところが大きいと思う。さまざまな話題作が登場しても、なんだかんだ戻って来てのんびり楽しみたくなってしまう。『原神』の物語には5年経ってもなお、他の作品には出せていない、じんわりとした旨味があるのだ。
そして、本作の物語はターニングポイントに差し掛かろうとしている。9月10日に実装が予想されている「空月の歌」編では、数多くの伏線が回収されるという。しかし、『原神』の物語は至って複雑であり理解が難しい。本稿はそんな『原神』の物語を大型アップデート前におさらいしてみよう、という内容になっている。今回取り上げるのは、作品の序盤も序盤、「モンド」編と「璃月」編だ。
神の去った地「モンド」へ降り立つ……「チュートリアル」の意味

『原神』の物語体験は、会話劇を通した起承転結で展開される「メインクエスト(魔神任務)」を軸に、オープンワールドによって育まれる、「マップとフレーバーテキストを用いた物語」が融合して成立している。本作最初の舞台となる「モンド」編は、この物語体験を分かりやすく得ることができる「チュートリアル」となっている。
まず「メインクエスト」については、怪物たちによって暴走した龍を謎の吟遊詩人や騎士たちと共に鎮めるという内容である。剣と魔法によるファンタジー世界の文脈のもと、行方不明な肉親探しのついでに人助けをして国を救うという、非常に「わかりやすい」内容が展開される。事件の裏には謎の組織「ファトス」が関わっていた……という幕引きも、よく見るやり方である。一方「マップとフレーバーテキストを用いた物語」に関しては、アイテムや特徴的なモニュメントに、何やら意味深なテキストがモリモリ書かれている形で表現される。これも広大なフィールドを前提としたゲームに「よくある光景」だ。
正直なところ、ゲームプレイ開始当初、筆者はこの内容に肩透かしを食らっていたことは否めない。見慣れた光景ゆえにスムーズな形でプレイに取り組めるが、同時に既視感にも満ち溢れており、それでいて「メインクエスト」と「マップとフレーバーテキストを用いた物語」という2つの要素がシナジーを形成していないように思えたからだ。ただクエストがあり、ただ意味深なモニュメントがある。それだけ。著名作をベースに作られている割に、オリジナリティの捻出は不十分であると、当時の私は考えていた。しかし、ゲームを進めていくことで「ありきたりな」モンド編の内容が「異常である」ということが次第に分かってくる。

まず注目すべき点として、そもそも『原神』の物語は剣と魔法によるファンタジーではない。剣と魔法のファンタジーをしているのは「モンド」編しかない。実態としては宇宙と上位生物をモチーフにしたSF、及び人間ドラマである。何より主人公が宇宙人だ。よって、モンド編の物語は作品の導入部として実は適していない。また、「モンド」編以降に観察できる、オープンワールドを活かしたマップとフレーバーテキストを用いた物語「」については、しっかり「メインクエスト」をはじめとする多様なクエストとの連携が取れている。要するに、モンド編はチュートリアルという立場を利用して、物語の本題に踏み込ませないという叙述トリックを採用しているのだ(この違和感を覚えるまでがチュートリアル、と言えるかもしれない)。
現に、モンドへ再び訪れるクエストの内容は世界の謎に踏み込むようなものが多く、明かされていない謎もまた多い。「深層螺旋」の存在をはじめ、「THE GATEWAY OF CELESTIA」という文字列。追加されないウェンティのサブクエスト(伝説任務)。最近露骨に強調された「時と風」の関係性……。この「後々にならないと分からない」底しれぬ物語を運営型のゲームで採用しているのが恐ろしい。そして、本作の物語体験における大きな魅力の1つだ。いつかプレイヤーはモンドへ帰る定めにあるが、それがいつになるのかは、運営のみぞ知る。「空月の歌」編にて深堀りされるだろうトピックスに期待である。
神と共にある地「璃月」に到着……描かれるのは世代交代

チュートリアルであった「モンド」編を終え、肉親を探して次に向かうのは「璃月」(リーユエ)。中国をモチーフとした世界観を特徴としており、上位生物「魔神」や「仙人」たちの庇護下にある地域だ。メインのクエストにて語られるのは「民主化」の物語。人間が神々の庇護下を離れ、神託に頼らず自らの足で一歩を踏み出せるのかが描かれる。中国をモチーフにした世界で民主化の物語が採用される、というだけでも興味深いものがあるが、語り口も(モンドと比較すると)独特である。
現地の人間とファトスの対立が表面化したかと思えば、謎のお兄さん「鍾離」先生の主導で、伝統的な神の葬式が淡々と進んでいく。この構図が指し示すのは、上位生物を親に、人間を子どもに見立てた、「若手に現場を任せよう、古い人間は退いて未来を託そう」というメッセージ性だ。また、中国らしく「家族関係」や「食事」といった光景にフィーチャーしたクエストも璃月では数多く発生するが、このメッセージ性は一貫して内容に組み込まれている。
オープンワールドを活かした「マップとフレーバーテキストを用いた物語」」についても上記のメッセージ性は健在だ。もとより原神は土地と人間の関係性に着目した体験も提供しており、言ってしまえば、特定の土地で特定のキャラクターを操作するだけで、物語体験を味わうことができる。その中身は国ごとにさまざまな特色を持つ。「璃月」には「歴史を持った」土地が多く、その場所を「璃月」出身のキャラクターで散歩することにより、「昔は何かあったが、彼らが生きている今の時代はそうではない」という諸行無常の物語が浮かび上がる。

なかでも璃月には古戦場がたくさんあり、「層岩巨淵」はその典型例である。かつてあった悲惨な戦争を経て、今の賑わい豊かな「璃月」がある。そうした背景のもと、今を生きるキャラクターの姿を見れば不思議と安心感が湧き、言葉を使わず語られる巨大なスケールに感慨を覚えるのだ。このキャラクターと土地を結びつけて物語る手法は、本作のゲームデザインにおいて参照元と考えられる『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『レッド・デッド・リデンプション 2』をはじめ、数多くのオープンワールド作品で採用されている。しかしながら、土地とキャラクター、双方が持つ情報量という点において『原神』は抜きん出ており、結果として独特な体験へと昇華されている。
総じて、「璃月」の物語は世代交代劇である。老いた神が人間に未来を託し、人間もまた若人に未来を託していく。託し託されての関係性はやがて歴史と呼ばれ、プレイヤーは旅の中でその目撃者となる。そして、ファンコミュニティの中で歴史は語り継がれていく(「鍾離」先生いわく、プレイヤーは原神世界の歴史のバックアップになるという)。
ちなみに、璃月にて採用された「上位生物と人間の関係性」という文法は、後に舞台となる国々でも手を変え品を変えながら採用され続け、話の軸に据えられている。各国では彼らを社会の頂点とした政治体制が築かれ、土地と歴史に由来した問題を抱えている。しかし今回取り上げたのは、剣と魔法のファンタジーを隠れ蓑にしたモンド、および、上位生物が庇護することを止めた璃月だった。では彼らによる政治の実態とはどのようなものか。そもそも彼らはどこから来たのだろうか。
旅は神が統べる地「稲妻」、神の死した地「スメール」へと続いていく。ストーリー振り返り第二回をお待ち下さい。