家庭用機に移植されていないものを中心に
――お店としてオープンしようと思われたきっかけをお教えください。
バック・トゥ・ザ・アーケード オーナー・岩田幸晴 氏(以下、岩田氏):
いま当店で稼働している筐体が当時のゲームセンターからなくなっていったときから、それらを集めて営業をやりたいなって思ってたんです。家庭用機へ完全移植されずにゲームセンターからなくなっていくのも嫌だなと思ったので、残して未来に繋げていきたいなと筐体を買い始めたのが2008年ぐらいからですね。なのでもともとコレクターではないんですよ。当時やっていた人たちに懐かしんでいただきたいし、若い人たちにもやってもらいたい。押しつけがましいんですが、自分が楽しいと思ったゲームはみんなにも楽しいと思ってもらいたいなと。
――筐体は何台ぐらいお持ちなんですか?
岩田氏:
50台ないぐらいだと思います。金額的な面で苦労したのは『サイバーコマンド』で、時間が一番かかったのは『クールライダーズ』ですね。いろんな業者さんにずっと声をかけて探していたので、見つかったと聞いたときはこの目で見るまで本当に信じられなかったですね。『アウトランナーズ』『クールライダーズ』っていうのは絶対にセットで並べたいっていうのはずっと考えてましたし、『アウトラン』シリーズを全部並べたいっていうのは夢であり目標ですね。
筐体を買い始めたきっかけとして、90年代のアーケードゲームを揃えた店を開きたいという思いをすでにお持ちだったという岩田氏。「ゲーム自体は移植されていても、レースゲームやガンシューティングは専用のコントローラーデバイスで遊ぶからこそ面白いんですよね」と語っていた。
営業を始めるまでの苦労
――オープンされるまでに一番苦労されたところはどこですか?
岩田氏:
「この日までに筐体を取りに来てください」っていう期限をディストリビューターから掛けられるんですよ。リスト化してくれというのも失礼なので、直接その場に足を運んで現物を見ないといけないんですが、その期限まで間に合わずに逃してしまったものもありますね。あと当時はサラリーマンだったので、金曜の夜から土曜と日曜の3日間、深夜に12時間アルバイトをしてたんです。本業を定時の19時で終えてから、そのまま翌朝の8時までアルバイトするっていうのを1年間ぐらいやって、お金を貯めてから筐体を買い始めたり、倉庫を借り始めたり、すべてが並行してるんです。
――もともとの構想と異なった点はありますか?
岩田氏:
まずは場所ですね。田舎だと安くて広い土地が借りられるので私はそうしたかったんですが、千葉市内から1時間かかると、東京からは2時間かかってしまうんですよね。私は田舎だったら筐体をどんどん増やせるし、倉庫も解約できると思ってたんです。でも、協力してくれる仲間からは「あんまり遠くても嫌だ」って言われたので、ここにしました(笑)。広すぎても目が行き届かなくなる恐れもあるので、最初に自分で営業するスペースとしてはちょうどいいかなと思ってます。
副業でアルバイトを始めて筐体を購入し、営業場所も熟考したうえで、2015年の5月にようやくその夢を実現。運営にあたってのノウハウはオペレーター経験で身につけていたが、実際にオープンするまでは不安だったという。
来客の年齢層は意外にも低い
――実際にオープンされてから、お客さんの反応はいかがでしょうか?
岩田氏:
宣伝広告に費用をかけられる余裕はとてもなく、TwitterやFacebook、ブログといったSNSでしか発信できないので、それだけではお客様にお越しいただけないと思っていたんです。ただ、オープンし始めてから絶対に1人以上は必ずいらっしゃってくださるんですよ。そのおかげで、借金してでも続けていきたいという気力や活力のもと、どんどん発展できればなと思って投資してます。ただ、やっぱり待ってるのは怖いので、「この日に何人で行く」というオフ会用の貸し切りにも応えていきたいなと思ってますね。
――お客さんの年齢層は高めですか?
岩田氏:
私と同じ40代ぐらいのお客様が来られるのを想定していたのですが、主に30代ぐらいの方が多いですね。すごく若い人で20歳の子もいましたね。ここで稼働しているゲームを小学生のときぐらいに遊んでいたお客様が多いのかもしれませんね。
――2015年の5月にオープンされてからそろそろ1年経ちますが、認知されてきたというような手ごたえは感じていらっしゃいますか?
岩田氏:
あんまり認識してないんですよね。やっぱりネットで見て来ていただいてるというだけなので、まだまだかなと思うんです。もちろんオープンしたてのころに比べたら雲泥の差だとは思うのですが、そのペースに合わせて運営や入れ替えができるようになったので、それを崩さずに中小規模で続けていきたいですね。
オールドゲームを中心としたラインナップというと80年代のゲームをメインにするケースが多いが、世代の変化によって90年代のゲームを「懐かしい」と感じる20代~30代の来客が非常に多いという。時間入場制であるからこそ、当時は思う存分遊べなかったものをふたたび楽しめるのも魅力だ。
時代に合わせて柔軟な入れ替えも検討
――これからの課題などはございますか?
岩田氏:
録画やネット配信環境を整えたいというのもありますし、お店の規模も大きくしたいですね。あとはやっぱりゲームセンターって100円を入れて遊ぶのが本来の姿だと思っているので、できればコインオペレーションでやりたいです。時間制で運営するのは集金する手間も省けるので楽でいいんですが、お客様に100円を入れてもらったという評価も見たいですよね。場所や人件費といった問題も同時に抱えることになってしまうんですが……。
――ラインナップの入れ替えも定期的に行なったりする予定はございますか?
岩田氏:
そうですね、あとは音ゲーとか入れるのも必要になるのではないかと思ってます。ただ、今までレースゲームとガンシューティングゲームをメインでやってきて、いきなり『Jubeat』などを入れてしまうのもコンセプト的に違ってくるのかなと思っちゃうんですよね。それでも、時代にも合わせて前向きに変わっていこうと思っています。
タイムアタックやハイスコアに挑む常連客もいるようで、「オープンする度にランキングが入れ替わっているというのも、当時やり込めなかった分の熱量が伝わっているのかもしれませんね」と岩田氏は話す。また、単なる「懐かしさ」だけでは長続きしないことから、積極的な入れ替えも検討しているとのことだ。
さて、今回ご紹介した2軒に共通するところがいくつかある。それはゲームセンターからアーケードゲームが姿を消していくことへの危機感や焦りを感じたことが起点であることと、1プレイごとのコインオペレーションとして運営を目指しているところだ。しかし風営法の許可をとるには申請費用もかかるうえに、営業するための立地も限られてくる。駅前の商業立地は人通りがあることから家賃も高く、周りに何もない田舎であればアクセスが非常に不便だ。ゲームセンターの閉店が続く中、前向きな姿勢で目標を達成しようと頑張っているその背中を少しでも押していきたいと思う。
「博物館化していくゲームセンター」第三部では関西編として、80年代の海外ゲームを一堂に集めた大阪府日本橋にある「KINACO」を紹介。ATARIやWilliamsといったメーカーに特化した理由や、立って遊ぶ「アップライト筐体」を集められた理由などをうかがった。
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博物館化していくゲームセンター
「博物館化していくゲームセンター」第一部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第一部 後編
「博物館化していくゲームセンター」第二部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第二部 後編
1989年生まれ。
UNDERSELL ltd.所属。
ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。
新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。