暗黒コピーゲーム市場“サパーンレック”の真実 – 知られざるアジア最大の海賊盤市場の歴史 Part 1


遂に全てを明らかにする時がやって来た。東南アジアはタイランド、その首都バンコクの奥深くに蠢くアジア最大、いやもしかすると世界最大かもしれない海賊盤市場“サパーンレック”。筆者はバンコクに暮らしながら、月1~2回のペースでサパーンレックを巡回しているが、通い詰める度に疑問が湧き上がっていた。

「一体この市場は、いつ?誰が?どのような形で始めたのか?」と。そして「この創意工夫溢れる海賊盤は、誰が作っているのか?」と。せっかくタイで暮らしているんだし、これを調査するのはジャーナリストの端くれとして大いに魅力的である。何よりも、誰も正式に調査していない。実際のところ、バンコクの名所情報は大抵の場所はWikipediaに記載されており、前回お伝えしたMBKやパンティップ・プラザの項目もある。しかし、サパーンレックだけは例外だ。インターネット上にあるサパーンレック情報はあやふやなものが多く、到達までの道のりも一筋縄ではいかないことから、個人旅行者のブログによる報告などがメインとなっており、扱う商品が暗黒すぎるため当然ガイドブックには未掲載(例外的にバンコクで編集されている日本人向けガイドブック「歩くバンコク」に掲載された地図にのみ、正確な場所が記載されている)。あれだけの規模でありながら情報が少なすぎるのも問題だが、筆者の取材欲を最も刺激したのは、今まさにサパーンレック周辺の再開発が爆発的なスピードで進行している事実だった。

「このままでは、ある日突然消えてしまうかもしれない!」

バンコクでは、これまで普通に存在していた市場やビル、風俗エリアなどが一夜にして消滅したことが多々ある。サパーンレックを擁する中華街ヤワラーでは、万年渋滞状態を回避するための地下鉄工事が開始されて本格的な再開発計画が動き出した。巨大企業による周辺地域の地上げも進んでおり、つい最近までは健在だったはずの中華街の古き良き光景が、容赦なく失われつつあるのが現状だ。そういった状況を踏まえつつ本題に突入する前に、まずはサパーンレックの基本情報について復習しておこう。これまで筆者はいくつかの媒体でサパーンレックに関する記事を執筆しているが、今回は決定版ということで過去最大級の詳細データをお届けしたい次第。ゆえに長文であるが、最後までお付き合いいただきたい。

サパーンレック名物のオリジナル海賊盤GTAシリーズ。PC版ではコン ソールを改造する必要が無いが、焼きミスが多くマトモに起動しないのはご愛嬌。価格は1枚50バーツから80バーツ程度
サパーンレック名物のオリジナル海賊盤GTAシリーズ。PC版ではコン ソールを改造する必要が無いが、焼きミスが多くマトモに起動しないのはご愛嬌。価格は1枚50バーツから80バーツ程度

 

桃源郷は中華街の最果てにある

ヤワラー通り。空を埋め尽くすネオン看板が中華街であることを強烈に印象づける
ヤワラー通り。空を埋め尽くすネオン看板が中華街であることを強烈に印象づける

バンコク最大の中華街であり、観光地としても有名なヤワラーは、タイ国鉄と地下鉄MRTのファランポーン駅からほど近いチャオプラヤー川を起点に北側へ広がる巨大な華人(中華系住民)エリアである。メインストリートとなるヤワラー通りと、反対側にあるチャルンクルン通り(現在地下鉄工事中)を中心に中華料理店、食材屋、漢方薬屋、乾物に果物に肉に魚、とにかくあらゆるものが売られているヤワラーは、チャオプラヤー川に依存した物流の拠点でもあり、楽器や時計を扱うナコンカセム市場、布生地や手芸用品中心のサンペーン市場、インド人御用達のカレー臭漂うパフラット市場、車やバイクのパーツを扱うクロントム市場(通称”泥棒市場”)などがひしめき合っている、東南アジアの混沌を凝縮したかのような特濃エリアだ。しかし、ヤワラーへのルートはファランポーン駅以外に電車利用でのアクセス方法が無く、ヤワラー中心部に向かうにはタイ名物のトゥクトゥク(料金交渉制)かタクシー、もしくは路線バスかモタサイ・タクシーを利用するしかない。このアクセスの悪さが、ヤワラーを昔と変わらない姿に留めさせた遠因かもしれない。

サパーンレック内部。非常に狭い廊下の両側に店が建ち並ぶ。エアガン専門店や時計、雑貨、プラモデルを扱う店も多い。天井を埋め尽くす配線がブレードランナー感を煽る
サパーンレック内部。非常に狭い廊下の両側に店が建ち並ぶ。エアガン専門店や時計、雑貨、プラモデルを扱う店も多い。天井を埋め尽くす配線がブレードランナー感を煽る

朝から晩まで渋滞の車で溢れるヤワラー通りは極彩色の中華ネオン看板に溢れ、道端にはドリアン売りの屋台とシーフード屋台の生臭い匂いと排気ガスがミックスされた異様な薫りが漂い、観光客と買い物客で常にごった返している。そこを観光しているだけでも十分にアジアの混沌を堪能できるのだが、我々の目的はビデオゲームだ。

渋滞のヤワラー通りを抜けると、ネオン看板が減り道幅が狭くなる。そのまま信号を2ブロックほど通過すると、明らかに周囲の様子が変わり、鍋釜や調理器具、時計やサングラスを売る問屋街”ナコンカセム”となる。そこまでたどり着けば、サパーンレックはもう目の前だ。そのまま構わず直進すると、細い運河を渡す小さな橋に突き当たる。運河といっても、河面は見えずクーラーの室外機が無造作に設置されたバラックの屋根が広がるばかりだが、橋に向かって右側に、そのバラックゾーンへ人ひとりがやっと通れるぐらいの狭い侵入口が見える。そこが我々の約束の地、コピーゲームの桃源郷サパーンレックへの入り口なのである。

写真中央部分がサパーンレックの入り口。橋の両側から入れるが、異常に狭くて分かりにくい。籠持ち侵入禁止の看板が、かろうじて目印となる。
写真中央部分がサパーンレックの入り口。橋の両側から入れるが、異常に狭くて分かりにくい。籠持ち侵入禁止の看板が、かろうじて目印となる。

あまりにも入り口が小さいため、初見では通り過ぎてしまいそうだが、道に迷ったらそのへんのコーヒー屋台のオヤジか焼きそば屋台のおばちゃんに「ビデオゲーム!ビデオゲーム!」と、コントローラーを持つジェスチャーと併せて連呼すれば親切に(タイ語だが)教えてくれるはずだ。サパーンレックの営業時間は店によってバラバラだが、コアタイムは午後1時頃から夕方まで。5時を過ぎたあたりからバタバタとシャッターが閉まり出すので、午後早め到着を目指そう。平日は休んでいる店も多いので、なるべく週末土日狙いで向かうのがベストだ。

近年増えてきた秋葉原式ショーケース販売のショップ。意外なレアものが発掘できる可能性もあるが、価格はそれなりに張る
近年増えてきた秋葉原式ショーケース販売のショップ。意外なレアものが発掘できる可能性もあるが、価格はそれなりに張る
コンソールの改造/修理専門店。メーカーの正規代理店が無い(=保障サポートを受けられない)バンコクでは、このようなインディー系の修理屋に頼るしかない。
コンソールの改造/修理専門店。メーカーの正規代理店が無い(=保障サポートを受けられない)バンコクでは、このようなインディー系の修理屋に頼るしかない。
サパーンレックの典型的なゲームショップ。子供たちにも大人気!
サパーンレックの典型的なゲームショップ。子供たちにも大人気!

 

到達までの難易度別交通機関ガイド

店主の飼うペットも店番として大活躍。購入したディスクに毛が挟まっていても気にするな!
店主の飼うペットも店番として大活躍。購入したディスクに毛が挟まっていても気にするな!

サパーンレックまでの移動距離の目安としては、ヤワラー中心部からだと徒歩で約10分程度。トゥクトゥクならファランポーン駅から50バーツぐらい(人数によって変動/ボッタクリ率高し)、タクシーで向かう場合は、バンコク中心部のスクムヴィットあたりからなら100バーツ前後。ファランポーン駅からだと(渋滞状況にもよるが)50バーツ前後。路線バスならば、ドアも窓も欠損した無料のバス(通称”赤バス”)、もしくは冷房付き有料バス利用だが、ものすごい時間がかかるうえに経路が複雑なので、短期の旅程の場合ではオススメできない。

タクシーでも、行き先を「サパーンレックまで! ヤワラー、チャイナタウン!」と伝えれば大抵通じるが、タイ語は発音が難しいので注意。どうしても通じないようなら、とりあえずヤワラーまで向かい、そのままヤワラー通りを直進してもらえば必ず辿り着ける。

他にもサパーンレック行きの裏技としては水上バスが挙げられる。BTSシーロム線のサパーンタクシン駅がチャオプラヤー川のサトーン船着場と直結しており、そこから水上バスでヤワラーに隣接するサンペーン市場に向かうと、いきなりサパーンレック近くまでショートカットできるのだ。水上バスは観光名所の王宮やワット・ポーなどの寺院、屍体博物館で有名なシリラート病院にもアクセスできるので、他の観光名所と併せて散策する際にも非常に有効な手段である。ただし、ツーリスト用の水上バスは料金が高い上に細かい船着場は通過してしまうので、乗船の際は行き先を確認してローカル路線を選ぼう。行き先や鈍行か急行かは、ボートの旗の色で区別できる。料金は行き先やボートの種類によって変わるが大体20バーツ程度。ちなみに、エラワン廟爆破テロの翌日に同じ犯行グループと思われる爆発騒ぎ(死傷者ゼロ)が発生したのも、このサトーン船着場である。くわばらくわばら……。

サパーンレック内の日本製玩具専門店。輸入品であることがセールスポイントだが、香港製の偽物も混じっている
サパーンレック内の日本製玩具専門店。輸入品であることがセールスポイントだが、香港製の偽物も混じっている

他の有効手段としては現地レンタカーでの移動が挙げられるが、筆者の友人から聞いた話によると、レンタカーで向かおうとしてナビをサパーンレックに設定したところ、必ずズレて表示されてしまい大変道に迷ったという体験したという。サパーンレックは川の上にある違法建築物であるため、ズバリその位置にフラグを立てるとGPSに土地として認識されないのが原因と思われる。そもそも運転マナーが極度に悪いバンコクでレンタカー、しかも自らハンドルを握るのは片山右京でも無事故で済まされないデスレース2015年。読者の皆様におかれましては、くれぐれもレンタカー以外の交通手段をオススメしたい。値は張るが運転手付きレンタカーもある。時間はないけど金がある人はこちらをどうぞ。

ついでに言及しておくと、サパーンレックは位置的にはヤワラーの最も外れにあり、越えるとインド人街のパフラット市場となり、さらに進むと王宮周辺やバックパッカーの聖地”カオサン”にもアクセスできる。カオサンに投宿する場合は、サパーンレックとヤワラーはかなり近い位置関係になるので、タクシーならば速攻で着く。無理すれば徒歩でも行ける……かもしれない。

 

周辺にはバンコク珍スポットが集中!

サパーンレックに無事辿り着いたといって、旅はそこで終わりではない。サパーンレック周辺には、強烈なインパクトを誇るバンコク裏観光名所がいくつも存在し、まさに暗黒アジア観光のるつぼとなっている。数え出したらキリがないのだが、せっかく到達難易度最高レベルのエリアまで来たのだから、ゲームだけで帰るのは勿体ないというもの。いくつか目ぼしい場所を紹介するので、観光の計画に役立ててもらえれば幸いである。

【刑務所公園】

その名のとおり、元刑務所を開放して市民憩いの公園に改装した異常な空間。公園内には監視塔がそびえ立つ中、拷問に使われた器具が遊具と一緒に並べられており、その横で華人の爺ちゃん婆ちゃんが太極拳をやってたりする。元刑務所だけに不吉な場所という自覚があるのか、公園なのに園内は撮影禁止。敷地内に併設された「拷問博物館」は現在改修工事中だったりする(再オープンは2年後の予定)。サパーンレックからは徒歩5分程度。

【タダ飯寺】

タダ飯寺の食堂。異教徒たちの黄色いバンダナが眩しすぎる光景である
タダ飯寺の食堂。異教徒たちの黄色いバンダナが眩しすぎる光景である

インド人街のパフラット市場のど真ん中にあるシーク教の寺院。ビル型の寺で毎日早朝から有難い説法と共に食事を無料で提供していることから、カオサンの貧乏バックパッカーを中心に大盛況のカルトスポット=通称”タダ飯寺”として10年ほど前から有名になった。異教徒は入場時に黄色い頭巾を被るルールなのだが、そのおかげで黄色い頭で埋め尽くされた大食堂の光景は圧巻。基本メニューは数種類のカレーを中心にご飯やチャパティ、食後のチャイまで無料で振る舞われる。観光目的でご馳走になるなら、20~30バーツお布施をして帰ると、後ろめたい気分にならなくて済むだろう。お昼頃にはほとんど食い尽くされているので、食事目的なら午前中の早い時間がベストだ。

【オールド・サイアム】

バンコクで最も古いとされるショッピングモール。パフラット市場に隣接し、ケンタッキーやマクドナルドなども出店しており、内部はキンキンに冷房が効いてるので、サパーンレック巡回後に休憩するには最適のスポット。売り物はタイ伝統のお菓子、そして「銃」である。モール内部には菓子屋と銃砲店が軒を連ねており、拳銃はタイ人でないと購入できないものの旅行者にとっては見学するだけもアメイジングワールド! 甘いタイ菓子をつまんで旅の疲れを癒しながら、ズラリと並んだチャカを眺めてみれば、「思えば遠くに来たもんだ」と何とも言えないストレンジャー気分を満喫できるだろう。

他にも、先にも触れた暗黒マーケット”泥棒市場”ことクロントム市場もサパーンレックの程近くにあり、こっちはこっちでバンコク最安値のコピーDVDや、個人のコレクターが玩具やゲームソフト、古本や骨董品の屋台を出すマニアックな市場なので、詳細はまた機会を改めて紹介したい。そして、ここまでに相当な文字数を使ってしまったので、本題のサパーンレック突撃取材の成果に関しては、引き続きPart 2にてタップリ報告する次第。次回更新を刮目してお待ちください!

 


WHO KILLED VIDEO GAME
vol.1: 記録に残らないゲームたち
vol.2: タイランド電脳ガイド

 

mask-de-uh-250x333マスク・ド・UH (Twitter)
自称・洋ゲー冒険家。
元々は別ジャンルで執筆活動を続けていたフリーランスライターだったが、洋ゲー好きという趣味が高じて知り合った某海外有名ディベロッパーに勢い入社。約2年半の勤務を経て再びフリーランスライターに戻り、その経験を活かした洋ゲー愛溢れる深い考察を、盟友であるゲームデザイナー須田剛一と共に週刊ファミ通にて洋ゲーコラムを連載。
2011年よりタイのバンコクに移住し、現在もファミ通.com他、 多様な媒体にて執筆活動を続ける。

 

※「WHO KILLED VIDEO GAME」は、マスク・ド・UH氏による現地リポートであり、アジアゲーム市場の真実をお届けする連載です。犯罪を助長することを目的としていません。