「博物館化していくゲームセンター」第四部 後編

「博物館化していくゲームセンター」第四部の後編。著者のTakuya Kudoは、東西のゲームセンターの取材を通じてなにを思ったのか。

2016年5月5日、アメリカ・ニューヨーク州チェスターにあるストロング博物館が「ビデオゲームの殿堂」を発表し、アーケードゲームからは『スペースインベーダー』が選ばれた。ちなみに去年に開催された第1回目では『ポン』『パックマン』などが選出されている。

本連載の第一部冒頭にて「ビデオゲームが恐竜の化石やピラミッドからの発掘品と同じように展示される光景にモヤモヤとした感情を抱いている」と述べた。しかし、時を経て多くの人に遊んでもらうことで再評価されることや、博物館や教育機関で展示されるということで、保存への関心が確実に高まるということがこれまでの取材を通じてはっきりと見えてきた。

今年の4月に静岡県沼津市で開催された「レトロゲームアラカルト」にて「海外アーケード事情」を講演し、筐体の保存に精通するたます氏とお会いさせていただいた際に「価値が高まる事で結果的に機械は残るだろう」とお話しいただいた。数百年以上前の芸術品が現在でも美術館で展示されているのは、過去に価値がついたものも証だという。

たとえば写楽の「大首絵」や浮世絵の取引は今や数千万ものお金が動いている。日本で評価されず捨てられた版画が審美眼を持つ人々によって浮世絵は芸術としての価値が高まり、結果として市場も生まれたことで修復や歴史を研究されるようになった。たます氏からは「浮世絵はポスターのような存在。ゲームも利用されなけれればで捨てられる運命で同じ。でも高価な物と一般人が気付けば捨てません。だから価値は高い方が後世には残ります」と話す。筆者にはただの絵にしか見えないのだが、「芸術としての感動」を「ゲームとしての興奮」に置き換えると妙に納得できるフシがあった。

産業廃棄物から価値のある骨董品へと変わりつつあるオールドゲームだが、1クレジット50円~100円で成り立たせるゲームセンターの場合は今も昔も「インカム」によって左右される。面白いゲームであっても筐体にコインが入らない限りその価値はない。好きなゲームが別のタイトルと入れ替わってしまったという経験を持つ人も決して少なくないだろう。しかしそれは慈善事業ではなくゲームセンターの営業という確固たる事実だ。

個人経営の店舗や博物館でのゲーム展がじわじわと盛んになっていくなか、既存のゲームセンターと共存しあえるのではないかとどこかで思ってしまうところがある。これから数年の間に業界の環境がどれだけ変わるかは見当もつかないが、不安視するにはまだ早すぎるような気がしている。昨今のゲームセンターの閉店ラッシュも、ただ一方的に減っているわけではなく、時代に合わせた適正数になっているという見方もできる。

そもそも不安を覚えるぐらいならば、20年、30年以上前のゲームを遊べる機会に恵まれているなかで「遊んだ」「楽しんだ」という記憶と体験をしっかりと自分自身の体に覚えさせることが大事ではないだろうか? ゲームセンターであろうと博物館であろうと、プレイヤーは遊ぶことから始めないと何も得られないのだから。


「博物館化していくゲームセンター」第一部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第一部 後編
「博物館化していくゲームセンター」第二部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第二部 後編
「博物館化していくゲームセンター」第三部
「博物館化していくゲームセンター」第四部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第四部 後編

Takuya Kudo
Takuya Kudo

1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。

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