「博物館化していくゲームセンター 第四部」前編


今回は日本科学未来館(東京・お台場)にて開催されている企画展「GAME ON ~ゲームってなんでおもしろい?~」(以下、「GAME ON」)にてアーケードゲームがどのように扱われているかを特集するのだが、本題に入る前にまずは「現在でもゲームセンターへ遊びに行くかどうか」について来場者の方々にインタビューしたものをご紹介したい。

取材を行なったのは4月下旬。開催場所がお台場ということも手伝ってか、平日でもカップルや家族連れで賑わいを見せていた。そこでふと「普段もゲームセンターへ行かれるのだろうか?」という疑問が浮かび、ゲームのプレイ待ちをされているところや、会場を後にされていたところでお話をうかがうためにお時間を少し割いていただいた。対象としたのは家族連れで来られていたお父様たちで、平均年齢は30代後半だ。

ご協力いただいた8名中4名は「休日にお子さんとぬいぐるみを取りに」「仕事帰りに『麻雀格闘倶楽部』を」「いまでも新しいゲームも積極的に」「秋葉原にレトロゲームを遊びに」とお答えいただいたが、しばらく足を運んでいないという4名の回答は「結婚や仕事を機に時間がとれなくなった」「いまのゲームは100円でサッと遊べるものがない」「行きつけの店が一昨年に閉店してしまい、他の店に行かなくなった」「家庭用機やPC(Steam)で十分なのでわざわざ行く必要がない」というものだった。

「GAME ON」で展示されていたタイトルは現在のゲームセンターで主に稼働しているものと年代が異なることと、あくまでも一部の意見であるために総意とは言えないが、ゲームの展示イベントの賑わいぶりとゲームセンターへの来客数は必ずしも相対しないということが改めてわかった。

今回の「GAME ON」はゲームの歴史を過去から現在に至るまでを紹介しているのだが、その展示方法はゲームを「アート」として捉えた側面があるという。文化として捉える場合は学術的な堅苦しいイメージがつきまとうが、いったいどのような工夫で展示をしているのだろうか? 企画・監修を務められた遠藤諭氏と、日本科学未来館の広報・安藤氏にお話をうかがった。家庭用機や『PlayStation VR』なども扱われているが、本連載ではアーケードゲームが展示されている「STAGE 1 プレイの誕生」と「STAGE 2 ゲームセンターでプレイ」に焦点を当てる。

 

「アートとしてのビデオゲーム」から「おもしろさを考える」

――日本で行われている「GAME ON」はこれまでイギリスのアートギャラリー、バービカンセンター(以下、バービカン)が世界を巡回させてきたものとは違いがあるとお聞きしたのですが?

角川アスキー総合研究所 リサーチメディア本部 担当取締役 主席研究員 遠藤諭氏(以下、遠藤氏)
基本的な構成はバービカンのものに沿ってるんですが、各国で開催されているのを見ていると毎回違うレイアウトなんですね。今回もゲームの誕生や発展の流れといったものを紹介しつつも一部は変更が加えられています。

――具体的にどの部分を変えられていたのでしょうか?

遠藤氏
たとえば、時間軸で構成するのであれば、パソコンと家庭用機とゲームセンターの間でアクション、アドベンチャー、RPGといったゲームのパラダイムであるとか、通信やマルチプレイや体感などのハードウェアを含めたシステムが影響しあって発展してきた歴史が描けると思うんです。ところが、バービカンという場所がらもあって、ゲームやその産業の発展をそのまま見せるというのではなくて、少しアートを意識した構成になっていると思います。

――「アート的な観点としてのゲーム」なんですね。

遠藤氏
日本人から見るとゲームとアートって、それほど違和感はないようにも思いますが業界としては別なところにあると思います。ヨーロッパの文化施設でゲーム展をやるっていうのはけっこう思い切ったことだったんじゃないでしょうか。日本もゲームのこのような展示をやるようになったのは、2000年明けてからですよね。国立科学博物館で「コンピューターとデジタル科学展」があって、私のところで図録を作らせてもらったりしましたが、担当者は恐竜とかミイラの展示は人気もあり容易にやれるけど、テレビゲームの企画展をやるのは大変だったということでした。

――それはまだ「ゲームを文化として捉えるのが早い」ということだと思うのですが。

遠藤氏
「そんなことはないよね」って僕らは思うじゃないですか? だから「GAME ON」という展示が世界をまわっているというのは素晴らしいことだと思いました。それで、日本科学未来館でやるからには、今回、アートっぽい展示からもう一歩進めて副題にかかげた「ゲームってなんでおもしろい?」というコンセプトになった。今回、日本科学未来館の内田まほろさんと、私で企画・監修という立場ですけど、関係者で早い段階でそういう方向で固まりました。そのために、展示会場の中央通路面に6つの大型スクリーンを置いて、ゲームのプリミティブな面白さから対話ソフトやコンストラクション系など複雑な面白さまで、オリジナルコンテンツを制作して展示していますね。

――上野にある国立科学博物館で開催された「テレビゲームとデジタル科学展」(2004年)や、第一部でご紹介したSKIPシティ(埼玉県川口市)の「あそぶ!ゲーム展」など、この10年で博物館や教育機関でゲームの展示が行われるようになった。娯楽としての紹介だけではなくコンピューターやテクノロジーの進化として発展していく例として枠組みされているが、映像技術の進歩という観点ではアート的という見方もできるのだろう。

 

日本が本場であるからこその見せ方

――開催に至るきっかけとか準備期間ってどれぐらいだったのでしょうか?

遠藤氏
最初にお声がけいただいたのは去年の春ごろですね。本格的に動き始めたのは夏以降になってからです。バービカンの全体的な構成はいじれないので、展示するゲームをどのようなラインナップがよいのか、そして、それを実現するのにいちばん時間がかかったと思います。この展示のいちばん大切なところは、いっぱいゲームをプレイしてもらえるということなのですよね。なにしろ、ゲームの一本一本がみんな血のにじむような思いで作られたものなので本当に「力」があるんですよ。それに、とにかく触れてもらうことが大切ですからね。

――展示内容を日本では入れ替えたとのお話でしたが、アーケードエリアはどのようなものだったのでしょうか?

遠藤氏:
日本と海外の文化が違うのでオリジナルの展示では日本人にとっては、どうしても違和感があるわけですね。会場に来てもらったからには楽しんでもらわないといけないということで、全体で130作品ほど展示していますが、約半数のタイトルを変更しています。実際に、新しく入れ替えたタイトルは反応がありますね。

――具体的なタイトルでいうとどのあたりでしょうか?

遠藤氏:
必ずしも日本のタイトルを追加したというのではなくて、たとえば、『マーブルマッドネス』とか『ミサイルコマンド』、『ルナーランダー』は反響が大きかったですね。『スペースインベーダー』、『パックマン』とかはもちろん凄い反響がありましたけど。「おもしろさ」という点では、こうしたタイトルに触ってほしいじゃないですか? それから、『ベルセルク』とか『センチピード』など、日本では受けないだろうとは分かりつつ触れてもらいたいというものもあります。そして、やっぱり体感系ですよね。『ダンスダンスレボリューション』とか入っていないと楽しくないじゃないですか?

――ラインアップを入れ替える案はバービカンのリストを見て決めたのでしょうか?

遠藤氏:
バービカンのリストを見ていると、たとえば、『ギャラクシアン』から『ギャラガ』に進化したとか、『パックマン』から『ミズ・パックマン』に派生したっていうのをバービカン的には見せたかったと思うんです。そうしたものを尊重しつつ、我々なりの「これは体験してほしい」というもので展示可能なものを探していったということです。

――日本独自で入れ替えを検討された段階で「日本ゲーム博物館」さん(愛知県犬山市)や、「KINACO」さん(大阪府日本橋)から筐体を借り入れようと決めていたんですか?

遠藤氏:
協力してくださった方々には何度感謝しても足りないぐらいの思いです。今回、BEEPさんやナツゲーミュージアムさんにもお世話になっていますが、秋葉原には基板や古いゲームに関連したお店がありますよね。ちなみに「GAME ON」の担当者でイギリス人のパトリックとメンテしているブラジル人のレオが来日していましたが、2月下旬に来てすぐに「基板を買うんだ」って秋葉原へ出かけていました。いまさらですが、彼らからすると日本はやっぱりゲームの本場なんですね。

――先ほど「日本は本場である」というお話が出ましたが、2002年にイギリスで開催されてから日本に初上陸するまでの14年もの間が空いてしまったのはなにかあったのでしょうか?

日本科学未来館 事業部 展示企画開発課 広報・普及担当 安藤菜穂子氏(以下、安藤氏)
私どもも「GAME ON」があるのは2002年の時点で知っていました。未来館では色々な企画展を計画、実施していまして、今回はタイミングが合致したんです。「GAME ON」も世界を巡回しているので、借りれる期間と借りれない期間があるんです。先端技術を紹介する未来館としても、オンラインゲームの発展やVRが登場してきた今だからこそ、「GAME ON」を開催する意義があると思っています。

 

――アーケードエリアにおいてのバービカンの展示スタイルは「アップライト筐体を単に設置・展示しただけ」という印象を受けてしまう。筐体が並ぶ光景は確かに貴重ではあるが1980年代の海外ゲームの面白さを伝えるプロセスが不親切なようにも思える。その反面、日本独自で入れ替えたゲームには懐かしさとわかりやすさが相まって賑わいを見せていた。

 

ゲームを残すことについて

――ちょっと突っ込んだ話になりますが「本物の筐体で展示する」という点において、ATARIの『スターウォーズ』にエミュレーターが使用されているということが話題になりましたよね。個人的には筐体はそのまま展示して、液晶モニタに別途プレイ動画を用意すべきだったのではないかと思ったのですが。

遠藤氏
実を言うと内覧会まで僕も知らなかったので、来られている人たちにご指摘いただいて驚いたんです。アーケードゲームの動態保存として基板や筐体をそのまま残すか、もしくはゲームとしての形を残すためにエミュレーターを使用することも必要ではないかという議論もあるわけですが。

安藤氏
未来館としては、バービカンの巡回展「GAME ON」展示物の1つとして、プレイアブル展示をしていました。ただエミュレーターで稼働していたことが分かったので、”筐体展示のみ”に切り替えました。

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筐体のデザインやアートワークは『スターウォーズ』の雰囲気をそのままに演出している。なお、5月11日からは『スターウォーズ』の完動品にて展示されているため、デス・スターの破壊と爆破シーンはぜひともご覧いただきたい。

――筐体や基板の現存・保存についてはどのようにお考えでしょうか?

遠藤氏
やっぱり難しいわけですよ。絵とか写真、映画やフィルムだったら残し方は長い歴史の中でできあがってきている。撮ったときの状況やパンフレットのアーカイブとなると話は違ってくるのかもしれないけど、とはいえ「残す」という業界的な合意があるわけですよね。絵画とか文字は比較的シンプルです。それに対して、音楽レコードとか映画っていうメディアはみんな100年ほど前に誕生したものです。そういう技術的なものが入ってきてから記録形式の問題が出てきたわけです。デジタルっていうのはその極みなわけですよ。しかも、ゲームの場合はストーリーが一本ではないですからね? となると、コードや再生装置を残すのか、体験を残すのか、映像を残すのかっていう難しい問題がありますね。一方、「アーカイブ」と「歴史」というものがありますが、この2つって大きな分かれ目で根本的に違うものですよね。アーカイブっていうのは現実の写像をそのまま残すデータベースで、あとから新しい切り口で見るときにも使えるものです。それに対して、歴史というのはその時代の評価という側面があるのではないでしょうか? しかし、いちばん楽しいのは映画のように古い作品が繰り返し楽しめる文化ができあがることではないでしょうか? これらの取り組みがいずれもあるのがよいですよね?

カビ・サビといった劣化の修復や防止したり、数少ない代替部品をやりくりしながらも「本来の姿」として残すことでこれからも遊べるように活動されている例として、これまでの連載で個人が店舗やスペース経営・開放している例をご紹介したが、ほかにもNPO法人「ゲーム保存協会」や立命館大学「ゲーム研究センター」をはじめとする個人・団体が存在している。ゲームの保存という題において、ゲームをデータとして残すエミュレーターの是非についても議論が尽きない。異なるハードウェア上で動作することへの疑問視や、メーカーが保持する著作権を侵害しているのではないかという諸問題など、はっきりとした結論が出るまでにはまだまだ時間がかかりそうだが、これからの動向にも注目したい。

――では最後に、遠藤さんにとって「ゲームってなんでおもいしろい?」と思います?

遠藤氏
できないことができるようになった全能感というか。『グラディウス』でオプションを数珠つなぎしてやっつけまくるあの強さや、俺はここまでできるの?みたいな勇気が持てたり。現実ではそうじゃないわけなので、それをきっかけに頑張れる自己実現なんじゃないですかね? 個人的には、機械、コンピューターとしても面白い。最近すごく感じてるのは、いまコンピューターに求められてる価値っていうのはコラボレーション、コミュニケーション、モチベーションの3つだと言われているんですよ。よく見るとゲームって人間しか相手にしてこなかった特殊なコンピューター分野なんですね。だからゲームに学ぶこととか、ゲームが培ってきたものの価値っていうのはこれから劇的に拡大する可能性がある。たとえば、人間社会全体が大きなオンラインゲームみたいなものになっていくようなことがありうるわけですね。

 

――グラフィックの表現能力が2Dから3D、ドットからCGへと進化を遂げる様子はまさにコンピューターの進歩とともにあるものだろう。それと同時にさまざまなジャンルが誕生・派生しているが、何よりも手元のレバーとボタンというデバイスで画面内のキャラクターを動かせるということがゲームの基本としての面白さだと筆者は捉えている。近年話題となっているVR表現は、今後のアーケード・家庭用にどのような影響をもたらすのか楽しみだ。

「GAME ON」は5月30日(月)まで開催されている。また、毎週金曜日には業界関係者を招いたトークショーなどのイベントも行われる。

企画展「GAME ON~ゲームってなんでおもしろい?~」
http://gameon.tokyo
https://twitter.com/gameon_tokyo

「博物館化していくゲームセンター」第一部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第一部 後編
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「博物館化していくゲームセンター」第三部
「博物館化していくゲームセンター」第四部 前編
「博物館化していくゲームセンター」第四部 後編


1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。