「博物館化していくゲームセンター」 特別篇 前編

「GAME ON」の閉幕に併せて全四回に渡る本連載を完結したが、これまでにも記事が公開となったあとはSNSでの反響・反応をチェックさせていただいた。今回は中小経営の店舗から「高田馬場ゲーセンミカド」の店長・池田氏と「Game in えびせん」の店長・海老原氏に取材のご協力をいただいた。

「GAME ON」の閉幕に併せて全四回に渡る本連載を完結したが、これまでにも記事が公開となったあとはSNSでの反響・反応をチェックさせていただいた。そのなかで「(博物館化していく事象を)ゲームセンターの人はどう思っているのだろう?」という意見をいくつか散見した。

かつてのアーケードゲームをこれからも遊べるようにと動態保存している博物館的な店舗とは真逆に、ゲームセンターにとってそれらは唯一無二の商売道具であることに変わりはない。名作といえども人気とともにインカムが下降すれば別のゲームに入れ替えられてしまう世界であり「ゲームの保護施設」では決してない。

ゲームが文化として見られつつある動きや博物館化していく光景を、相次ぐゲームセンターの閉店ラッシュの渦中でいまもなお第一線で営業を続けているゲームセンターの店長たちはどのように思われているのだろうか。個人的にもお話をうかがいたいと常々考えていたのだが、SNS上でのこうした意見は取材への大きな動機となった。

そこで今回は中小経営の店舗から「高田馬場ゲーセンミカド」の店長・池田氏と「Game in えびせん」の店長・海老原氏に取材のご協力をいただいた。メーカーの直営店や大型資本のチェーン店にもお話をうかがおうとも考えたのだが、大型のプライズ機やメダルゲームではなくビデオゲームをメインに据えている店舗こそがゲームセンターだという筆者個人の思いを反映させていただいた。その一部始終をご覧いただきたい。

 

高田馬場ゲーセンミカド

2004年に株式会社INHとして設立。シューティングゲームのスーパープレイを記録した「INSANITY DVD」やゲームミュージックのサウンドトラックの販売を手掛けつつ2006年、新宿歌舞伎町にてオープンし、2009年に高田馬場へ移転。アクセスに便利な立地であることから全国からの来客も多いだけではなく、海外では「伝説のゲームセンター」として紹介されたことをきっかけに、他に類を見ない活気で盛り上がっている。

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競合する可能性や営業維持への疑問視

――個人経営のゲーセンが増えてることってどう思われているのでしょうか? 懐かしまれてる反応があるということはいまだに人気があるのかなと思うのですが、インカムは現実を表しますよね。個人経営店だと一定の人気を保っている(ように見える)という違いが生じているのが気になっていまして。

池田氏:
道楽的に見えてしまうのはちょっと否めないですが、逆に言うとそれで経営が維持できているなら羨ましいですよね。古いゲームってお客さんからの人気があるように感じるけど、実際に置いてみるとねそうでもなかったりするんですよね……。何かしらの企画をやってるところもあるかもしれないけど、「こういうゲームが文化として重要です」って置いてるだけで成り立たせられるのかなって。
――アーケードゲームを扱ってると言えども「新たに生み出される何か」というゲーセン文化までは引き継げないのではないかと思います。

池田氏:
文化として残すっていうのは風俗と相反してるので、博物館的な場所での新しい何かは生みづらいかもしれないですよね。具体的に言えば『餓狼伝説SP』をやり込んでる連中が新しい連続技を見つけるっていうことはないんですよ。文化として大事にされるより、『餓狼伝説SP』で起き上がり時の絶妙なタイミングで飛び道具を重ねるとガード不能になるっていうのを見たほうが感動する。そういうのをいろいろ見てきてるので、「もっと新しいネタくれよ」みたいな(笑)。
――ゲームが文化として見られてることについては店長・個人で、それぞれどう思います?

池田氏:
個人的な意見からするとそれはアリなんじゃないかなと思いますね。僕もゲーム好きだし、70年代後期や80年代のゲームを見ると癒されるものがあるのでそういう見方があっていいと思います。ただ、ゲームセンターって絶滅はしていないので、経営者としては競合しないところでやってほしいなっていうのが本音ですかね。個人的には博物館での展示とかどんどんやってもらいたいし、一個人の店舗も続けられる限りは続けてほしいですが、稼働してる筐体のラインナップや中古流通の相場上昇、場所が近くないから直接的ではないけどインカム面で競合しちゃうんですよね……。そういう意味で言うとミカドは始めるタイミングがよかったんですよ。いまからだったらたぶんオープンできなかったかなと。

 

“そうせざるを得なかった”営業方針

――「レトロを売りにしてる」っていう見出しが付きがちですが、個人的には「新作に頼らない」運営だと思ってるんですよね。

池田氏:
こだわりもって集めたというとちょっと恥ずかしいなと思っちゃうんだけど“そうせざるを得なかった”っていうのが本音なんですよね。たまたまそれで運営できちゃってるみたいなところで。でも“新作もありつつ旧作も”っていうような状況にしたいなっていうのはいまでも思ってるんです。ただ、いまのゲームって店が潰れた分だけ売値が高くなってるんで採算が取れないんですよ。前だったら儲けが出るまで一年だったけど、いまみたいに二年とか三年ってなっちゃうと、それは商売としてどうなんだろうって。新作を入れていきたい気持ちは常々あるんだけど、これで生活してるから赤字にしてまで……っていう。それで、ある時期を境に自分たちに見合う中古価格になってから買えばいいかなって思い始めたんですよね。やっぱり潰れてしまうことが一番まずいことですし。
――格闘ゲームの大会やシューティングゲームの実演などを行われている背景はそこにあるのでしょうか?

池田氏:
運営のひとつとして大会とかを頻繁に開催してますが、新作ゲームが買えないから古いゲームを使うしかないわけで、ずっと遊んでもらうための営業努力のひとつなんです。ゲームセンター側から目標を作ってあげて遊んでもらうっていうのはその場限りのノリでは決してないんですよ。新作を買い続けるっていうのは商売的にも見合わないけど、イベントやるぐらいのコストはかけられるんですよ。
――店舗で推したゲームには必ず○○勢がその後についてきてくれているので、素直にすごいなあと思ってしまいますね。

池田氏:
売上って維持していくのが一番難しいので、僕らは純粋にゲームセンターを運営してるから「売り上げがそろそろ落ちるから大会を入れてみようか」とか「初心者講習をやってみよう」とか、タイトルと企画がワンセットになってるんですよね。置いてそのままっていうことはないので、そういう意味ではミカドは強いかもしれないです。自分で仕掛ける場合やプレイヤーからの提案をうまく配置してますね。でも大会って直接の儲けにはならず、大会に向けて練習する野試合とかが売り上げになるんですよ。なのでインカムを稼ぐ企画と人を集める企画っていうのはうまく使い分けてバランスよく配置しないとダメだなっていうのはありますね。

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店内には80年代の体感ゲームやビデオゲームが稼働しており、クリアやハイスコアといった攻略に励むプレイヤーが老若問わず数多く目に映る。その光景は旧作を懐かしんでいるというよりも、いまもなお現役さながらの熱を見せている。

 

ゲームセンターだからこそ残せるもの

――プレイヤーがゲーセンにこだわってしまうところってなんでしょう?

池田氏:
人と会って喝采されるっていうのとネットで何連勝しましたっていうのは感動がぜんぜん違いますよね。みんなと喜びを分かち合ったときに成功体験みたいなものは心に響くからこそゲームセンターに来るんじゃないかな。好きなアーティストのアルバムもいいけど、ライブってやっぱり違うじゃないですか? 行ってよかったとか楽しかったとか、そういうのと一緒じゃないかなと思いますよ。CD聴いて満足な奴もいればライブまで行っちゃう奴もいるから、ゲーセンに来るような奴はライブまで行っちゃうような奴なんでしょうね。
――いまでこそ80年代のゲームが「懐かしい」「貴重だ」と言われていますが、90年代の対戦格闘ブームの再来に焦点は当たると思いますか?

池田氏:
来るんじゃないかと思いますね。ミカドってそういう部分で運営が成り立ってると思うし、だからこそ古いんだけど先駆けてるんです(笑)。これは博物館的なゲーセンがそのうちぶつかる問題だと思ってるんだけど、そろそろ70年代後半のゲームに懐かしさを感じない世代がどんどん亡くなっていくわけじゃない? そうなったときに博物館的なゲーセンのラインナップも変わると思うんですよね。それをずっと続けていくために下の世代に伝えておかないとダメなんじゃないかなって。だって「100年前に開発されたミシンです」って見せられても「へえ、そうなんだ」って感じじゃないですか(笑)。その分、ゲームって多様性が異常にあるんですよ。いまはファミコン世代が情報を操作してる状況だから、10年後にはまた価値観が変わるんじゃないかなと。個人的にあと10年経ったら博物館的なゲーセンにはぜんぶネオジオのゲームが並ぶと思いますよ(笑)。
――1980~90年代生まれに直撃するものをという意味で2015年の8月に導入された『デイトナUSA』はまさにそれを突いていますよね。

池田氏:
そうそう。実際に『X-MEN VS STREET FIGHTER』の大会とか見てて本当に微笑ましいんだけど、みんな上手い(笑)。中学生のときに親の金くすねて楽しんで、連続技の入力とかも手癖になるまでやってたんだろうなって。格ゲーからゲームを始めたっていう連中がどんどん台頭してくると思うので、また変わってくるんだろうなって思ってますよ。

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2階には対戦格闘ゲームが並び、連日のように大会や交流会が開かれている。Ustreamやニコニコ生放送でストリーミング配信されており、家にいながらもミカドの雰囲気や空気を感じ取ることができる。

最後に「文化としてゲームを残すならばプレイヤーよりクリエイターを育てる意味では必要なのではないか?」と池田氏は述べていた。

池田氏:
レトロゲームって限られた容量のなかで最大限に楽しませようとしてるじゃないですか。細かい絵を描けないから『ドンキーコング』のマリオにヒゲのアクセントが付いたとか、そういうところって大事なことだと思うんですよね。長く遊べることがゲームの良し悪しとは違うっていうのを教えてあげたいし、そこを意識してもらえると嬉しいなって。『大魔界村』って前作が遊ばれ続けてしまったがゆえに2週エンド、それにしたって30分っていうのはすごくよくできてるゲームだと思うんです。商売道具としてのゲームって一回のプレイでいかに密度の濃い体験をさせてあげられるかっていうのを考えてもらえると嬉しいですね。

高田馬場ゲーセンミカド
http://mi-ka-do.net/baba/

店舗Twitter
https://twitter.com/babamikado


Takuya Kudo
Takuya Kudo

1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。

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