先日、私はこのAUTOMATONで「なぜ我々は苦行のようなパズルゲームを遊ぶのをやめられないのか。『Void Stranger』『The Witness』から考える、高難易度パズルゲームから得られる栄養の正体」という記事を書かせていただいた。つい数日前の記事で、この記事では高難易度パズルゲームならでは魅力や、あるいは苦行っぷりについて語らせていただいた。だが、筆者の舌の根も乾かぬ内に、またしてもパズルマニアの目に留まる常軌を逸したタイトルが発売されたのだ。
その名も『Islands of Insight』。洞察の島とでも訳せるこのタイトルは、1万個以上の手作りパズルが所狭しと並んでいる空島群を飛び回り、仕掛けを解いていくオープンワールドパズルゲームだ。パブリッシャーは『Dead by Daylight』などを手がけるカナダのBehaviour Interactive、デベロッパーはパズルゲーム開発を得意とするカナダのLunarch Studios。対応プラットフォームはPC(Steam)。
本作は基本的には一人でパズルを解いていくゲームでありながら、完全同期型のマルチプレイやスキルツリーといったかなり独自の要素も盛り込んでいる作品である。本タイトルが独自に追加した要素のチグハグさに対し、パズルゲームとしては真摯な作りになっている点など、いろいろな意味で読み解き甲斐のあるタイトルだったので、ここでそれらの点を紹介&解説させていただきたい。
マニアックなパズルゲームに盛り込まれた流行りの要素
上述した通り、本作は1万個以上もの手作りのパズルゲームを解きまくるのが主旨だ。簡単なキャラメイクを済ませると、宙に浮かぶ群島に投げ出され、とにかくパズルを解くことになる。
パズルの中身は様々だ。白黒の盤面を入れ替えて特定の模様を作ったり、エリア分けしたりするボードゲーム風のパズルや、透明な迷路を行き来して出口を探すパズル、ドロドロとしたフラクタル模様の絵を動かして見本と同じものを作るパズル、定番の3マッチパズルや特定の隠されたオブジェクトを探すものもある。時間内にオブジェクトにタッチするだけのプラットフォーマーゲームもあるなど、バラエティはかなり豊かだ。
世界観のフレーバーは古代ギリシャモチーフであり、知恵を尊ぶことを求められ、特にドラマもなければキャラクターもいない。このあたりはかなり『The Talos Principle』に近く、パズルを解きたいという欲求を邪魔するような長いカットシーンは一切ないので、そういうものが好みでないプレイヤーへの配慮がある。逆に言えば、話を読んだところで何も得られない。
本作が数多のパズルゲームと大きく違う点は、オンライン要素にある。この群島には同じ立場のプレイヤーが放り出されており、皆があなたと同じようにそこらにあるパズルを解きまくっている。つまり、ソーシャルゲームないしMMORPG的な要素が存在するわけだが、読者が最初にイメージしたものとは異なるかもしれない。
というのも、協力プレイやPVPの要素は一切なく、パズルに人が群がっているのが視認できるだけである。最初見た時は「パズルゲームなのに人がいる!寂しくない!」という画期的な感動こそあったものの、それだけである。
奇妙な要素があるのはオンラインパートだけではない。スキルツリーやコスメティックアイテムといった鉄板の要素もあり、パズルを解いて手に入れたコインや経験値を払うことで、新しいスキル(パネルクイズの塗り潰しができるようになったり、クイズを解いたときに貰えるコインが増えたりする)を覚えたり、新しい外見をアンロックしたりできる。デイリークエストも用意されており、指定された種類のパズルをクリアするとコインが貰える仕組みだ。
しかも、ハンドメイドのパズルの他に、時間経過で自動生成するリングパズルが大量に浮いているマップもあり、ようはここでレベル上げもできるぞ、ということらしい。まさかオープンワールドパズルで経験値稼ぎをする日が来るとは……。
『Islands of Insight』のゲームデザインは、こだわりか模倣か?
本作は何から影響を受けているかと考えると、間違いなく『The Witness』だろう。『The Witness』では、カラフルでのっぺりとした小さな島に、数百個もの一筆書きパズルが置いてあり、それを解いているうちに風景そのものにもパズルが隠されていることに気付いていくという、インディーゲームの傑作(あるいは怪作)として名高いタイトルである。
『Islands of Insight』にも、視点を変えることでクリアできるパズルがある。というか、ほとんどそればかりである。乱立する塔のすべてが見通せる場所を探したり、同じ柄の描かれたふたつのボックスを繋げられるポイントを探したり、すべての黄色いリングだけが貫通できる角度を探したりと、見た目は違うものの解き方は完全に一緒だ(もちろん、違う趣向のものもたくさんある)。
また、高難易度のパズルはかなり頭を悩ませるほど難しいし、ちょっと3D酔いするところも似ている(後者まで似せなくても良かったのでは……?)。
とはいえ、ただの『The Witness』の模倣と言い切るには難しく、ちゃんとメインストーリーを追っていく中で、パズルの難しさはしっかりとした階段状になっており、プレイヤーを飽きさせない工夫が盛り込まれている。メインとなる群島を離れ、同じ種類のパズルが並ぶ小さい島をクリアして戻ってくるとまた大きなエリアが解放される……という流れは、RPG的な楽しさがある。
だが、ここで気になるのは、やはり盛り込まれた“奇妙な”流行りの要素である。とりあえず人がいるだけのオンライン空間はもう少し手が入る余地があると思うし、大勢が同じ島でパズルを解いているという状態は、奇妙なだけでフレーバーと何ら関係はなさそうだ。マッチングシステムの不具合なのか、現時点ではフレンドと合流する方法もわからないという始末である。一番のフックが出オチなわけである。
スキルツリーもデイリークエストも大きなモチベーションにはなっておらず、このあたりはすべてオンゴーイングのゲームであることを強調するために後から付け足したノイズな気がしてならない。一方でまたパズル部分に立ち返ると、この大量のパズルを一心不乱に解いていく感覚は、言ってしまえば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のプレイフィールに似ている。
具体的に何がどう似ているかというと、ひとつのパズルをクリアすると、視界内に必ず何か他のパズルが移るようになっている点だ。気になるものが次から次へと繋がっていき、止め時が見つからない。オープンワールドゲームを批評する上では、エリア内にあるクエストやゲーム部分の密度がしばしば取り沙汰されるが、『Islands of Insight』はかなり密集しているほうだと考えてよいだろう。ついつい進めてしまう魔力を持っているのだ。
壮大な実験作としての箱庭空間
筆者は冒頭で引用した記事において、地球上で自分しか解いていないのではと思わせるだけの孤独が味わえるパズルゲームを美しさの観点からオススメさせていただいた。だが、まさか数日のうちにその主張と真っ向から対立するようなパズルゲームが出てくるとは思わなかったので、遊びながら変な声が出た。
しかし、結局はパズルと向き合う瞬間は常に一人であるということからは逃れられておらず、協力パズルという意味では『Trine』シリーズや『Unravel Two』などの作品とは根本から考え方が違うようだった。あくまで、オンライン要素は他人がいるという雰囲気だけが味わえる『DARKSOULS』の幻影システムや血痕システムに近いものなのかもしれない。
『Islands of Insight』に対して、「パズルマニアのために作られた偏執的な孤高の作品『The Witness』に、流行りの要素を付け足した実験作」という捉え方をするのは簡単だが、そうバッサリ斬ってしまうには申し訳ないくらい充分にパズルマニアを楽しませるだけのコンテンツがあるのが面白いところである。このジャンルはまだまだ化けそうな気がして、今からワクワクが止まらない。