人気大規模FPS『BattleBit Remastered』はなぜ人気なのか、『Battlefield』と一体なにが違うのか、今どんな状態なのか。インディー開発元が追求したのは、『BF』から巣立つ道
『BattleBit Remastered』 (以下、BBR)は、いわゆる“大規模系FPS”ジャンルに加わった新たなゲームだ。『BBR』はその特徴や成り立ちから『Battlefield』シリーズ(以下、BF)と比較されることが多い。Steamにおけるユーザーレビュー等を見ると「『BF』より面白い」という肯定的な評価が目立つ一方で、「『BF』と同一視して購入しない方がいい」と提言しているユーザーも一定数いる。『BBR』は『BF』のフォロワー作品のように見えつつ、こうした多角的な評価を受ける作品なわけだ。それはなぜだろうか。
結論からいうと、『BBR』は開発早期から「『BF』の“昔ながら”の楽しさを受け継ぐ」ことと「ハードとカジュアルな遊び、両面の整備」の2点をコンセプトとして掲げている。これについて筆者は、小規模運営でゲーム開発・運営をする際に、開発陣の前に立ち塞がる“壁”を乗り越えるための有効な打開策となったキーコンセプトだと分析している。そこで本稿では『BBR』開発の動機と背景を振り返り、立ち塞がった壁とはなにか、開発陣がいかにそれをぶち破ったかを紹介し、本作の魅力を紐解いていく。
その前に、筆者の背景および『BBR』の人気について触れておきたい。筆者はコンソール版『Call of Duty』シリーズからシューターゲームにハマり、以来『BF 4』および『V』を経て、ここ1、2年は『Overwatch』など有名タイトルをカジュアルにプレイするゲーマーであった。そんな折に出会ったのが本作、『BBR』である。
『BBR』は“大規模”の名を冠するにふさわしいスケールで撃ち合いが展開され、建造物を戦闘機や爆弾で破壊することができる環境も備わっている。小規模開発であることや、キャラクターがローポリ風であることも伴って、リリース前からしばしばメディアで取り上げられており、筆者も注目するところであった。そして早期アクセス版配信開始直後にして、180万DLを達成し、Steamレビューにおいて「非常に好評」ステータスを獲得していることからも、本作の人気を窺い知ることができる。
「大規模系FPS」における「面白いゲーム」とは何か――『BBR』開発陣が出した答えとは
そんな『BBR』開発のスタートは2016年にまで遡る。チームは開発者Sgt.OkiDoki氏をはじめとする3名という小規模の構成だ。小規模スタジオである彼らが多人数対戦シューターゲームという開発・運営難易度の高いゲームを制作するにあたって自然と高く立ちはだかった壁が、「面白い多人数対戦シューターの作り方」であった。どのような設計にすれば、多くのシューターファンたちを満足させ得るのか。シューター開発の出発点であり、至上の命題でもあるこの「壁」に対して、Oki氏はあくまでも自身が一人のゲーマーであるという視点から答えを出したようである。
制作の早い段階から、Oki氏たちには設計に関する確固たる構想があった。それが「ハードとカジュアル、両面の拡充」である。『BF』の大ファンであるOki氏とチーム内にいたハードなミリタリーシュータ―ゲームを好むレベルデザイナーの意見をきっかけとして、開発陣は『BBR』のデザインにその双方を盛り込んだ。つまり、大規模のお祭り騒ぎ的なカジュアル戦闘に主眼を置いた『BF』の要素と、『Squad』『Insurgency Sandstorm』『Escape from Tarkov』などを参考にしたハードな要素を織り交ぜることにしたのだ。これによって開発陣は本作がさまざまなゲーマー層のプレイスタイルに対応することを目指し、かつ本作のアイデンティティとして他作品との差異化を図ったのだろう。
さらに、『BBR』は単に『BF』のカジュアルな部分を模倣したわけではなかった。Oki氏は、開発元であるElectronic Arts/DICEの近年の『BF』における開発方針が、自身を含む多くのファンたちの意向に沿っていないと分析していた。そこでOki氏は、長年ファンに支持されてきた“昔ながら”の『BF』のデザインを、『BBR』を通じて踏襲しようと思い立ったそうだ。この発想に基づいて、開発陣は『BF』のデザインから「さまざまな規模で展開される戦場」や、「破壊可能な環境、撃ち合い・戦闘機・チームワークの提供」といった要素を抽出した。 これらを軸にし、かつての『BF』を求める同士たちのニーズに応える方針を採ったのである。
つまり、『BBR』は「『BF』の“昔ながら”の楽しさ」を受け継ぐことで同シリーズ/ジャンルファンたちのニーズに応え、さらに「ハードとカジュアル、両面の拡充」によってターゲットとするゲーマー層の裾野を広げ、独自性をもつよう設計されたのである。これがいわば、開発陣の考える「面白い多人数対戦シューターの作り方」であった。
もう一つの壁は「人口」
もうひとつの壁が、「一定プレイヤー数の獲得」である。いくら面白いゲームを開発しても、プレイしてくれるユーザーがいなければサービスはいずれ廃れていく。「大規模」を謳うゲームであれば、アクティブプレイヤー人口は尚更重視されるだろう。この「壁」に対して『BBR』開発陣は、二つのアプローチを取っている。
まず、テストプレイ期間を長期的に設け、テストプレイユーザーを多く募ることで『BBR』という作品を「口コミ」で周知させる広報的施策をとった。その一環として、開発陣は進んでストリーマーにアクセスキーを配布し、彼らの配信で本作を取り上げてもらうことを繰り返した。配信というメディアを通し、配信者たちを通じて本作のデザインを多くのゲーマーたちに伝えてもらうことで、さらなるユーザーの増加を狙ったのである。テストプレイの枠が毎回満員だったことからも、この施策が効果的だったことがうかがえる。
次に、テストプレイユーザーのゲーム内におけるプレイデータやフィードバックを把握し、「どのような環境にすればゲーム体験が改善できるのか」を分析・調整した。これによって、ユーザーは不満だったゲームの問題点が都度改善されていることを目にし、より一層ゲームにハマることができるという構図である。ユーザー意見や行動分析によるいくつかの方針転換を経て、『BBR』はゲーマーたちのニーズに見合うデザインへと変化していったのである。
以上の2点によって、開発陣はユーザーの『BBR』に対するエンゲージメントを高めることに成功し、発売前にしてすでにプレイ人口の基盤を確立させていた。そしてユーザー側も、7年間という長期にわたって成熟したコミュニティを形成しており、開発陣との相互的関係を築き上げていたのである。こうした施策の上に、『BBR』の成功は成り立っていると言えるだろう。
次に立ちふさがるは「息長くプレイされる」という「壁」
ここまで、開発陣のゲーム設計および実装の成功と、『BBR』のコンセプトを長期的に浸透させてきたその手腕を分析・紹介した。こうした背景を考慮に入れると、早期アクセス配信開始からわずか2週間で売上180万本を達成したのも頷ける(関連記事)。しかしこれは初動時における、短期的な成功と言えるだろう。それでは、リリースから約半年を経た現状はどうだろうか。長期的なスパンに視座を据えた場合、開発側・ゲーマー側の双方がそれぞれに抱える様子のストレスが無視できなくなってくる。以下からは、本稿の締めくくりとしてこの問題について言及していきたい。
配信開始から半年の間に、本作のアップデートに伴う多くのパッチノートが公開されている。フィードバックを重視する開発陣の姿勢から、こうした修正を頻繁に行うのはユーザーたちの動向を注視しているのがよくわかる。そして直近の本作の調整傾向は、「ハードからカジュアルへ」と転向する傾向がメインとなっている。となると、ユーザー全体の総意としては「本作はハードすぎる」と見做されていることになるだろうか。こうした丁寧といえる頻繁なバランス調整は、反面、ハードとカジュアルの“天秤”を急速に傾け、Oki氏が最終目標として掲げている「ハードとカジュアルの両立」から遠ざかってしまう懸念も感じさせる。結果的に開発陣も設計上のジレンマに陥ったのか、バランス調整にどんどん注力している様子も見られる。
とはいえ、小規模チーム運営における大規模シューターのバランス調整は至難の業。その莫大な工数は、DDOS攻撃やチート対策、サーバーの整備やコンテンツ追加などそのほかの開発目標を圧迫している気配もある。本作においては、相次ぐDDOS攻撃やチートへの対策は大手開発元ほど徹底されてはいないといえる。また、多数のサーバーを維持することができない結果、日本サーバーは消えてしまったようである。Oki氏らも早期アクセス配信版から正式版までの目標として、グラフィックやオーディオなどの技術的向上、サーバーの維持など必須としているタスクを挙げ意欲的に取り組んでいる旨を発言しているが、小規模チームであるが故に時間を要する作業となっているようである。
『BBR』が“大規模系FPS”というジャンルにおいてその存在を確立し、長期的により質の良いゲーム体験をもたらすことができるかどうかは、今後の動向にかかっている。幸いにも、コミュニティの動向を見るに、多くのユーザーたちは開発陣の長年の努力を見てきており、まだ相互的関係は崩れていないように見える。これからの追加コンテンツやアップデートに期待する声も引き続き見られる。ユーザーたちの意見に耳を澄ませている『BBR』開発陣にも、きっとこうした声が届いているはずだ。日々新たなゲームが多数発売されている中で、『BBR』は今後「息長くプレイされる」という壁を乗り越えることはできるのだろうか。