『天穂のサクナヒメ』で話題となった噂の稲作を実際に検証。塩気多めの夕食で塩害が起こるのか、トライフォース農法など同時実践
国内の同人ゲームサークルえーでるわいすが開発し、PlayStation 4/Nintendo Swtich/Steamで発売中の稲作アクションRPG『天穂のサクナヒメ』。本作には、羽衣を使った手触りの良い2Dアクションと、作り込まれた稲作パートが収録されており、そんな稲作要素が連日話題となっている。本稿では、話題となった事項から、噂に対する調査なども含めて、雑多な内容をまとめて紹介しよう。
トライフォース農法
本作は稲作要素が本格的であると話題になっているが、現実の稲作知識や外部の攻略情報が必ずしも必要なわけではない。本作の登場人物の一人・田右衛門は、稲作に関する知識を少しだけ持ち、サクナヒメに稲作のヒントを与えてくれる。プレイヤーからはあまり役に立たないとも言われているが、田右衛門は、田植え直後の水量は足首がつかるくらいで良いことや、中干しの重要性についても語る。彼のヒントに従うことで、外部の情報に頼らなくともなんとか収穫を迎えられるわけだ。
またゲーム内には、さらに詳しい米作りのヒントが掲載された農書が存在する。ゲームを進め、農書を手に入れることで、一通りの要素と対決するための足がかりを入手可能。現実の稲作情報を参照するのは、あくまでプレイスタイルの一つであるわけだ。なお、本作には稲作難易度/戦闘難易度があり、標準と低から選択可能となっている。
しかし、そうしたヒントが途絶え、プレイヤーが稲作を自ら試行錯誤する時期がゲーム中にはあり、試行錯誤の中で名前のついている農法がある。”トライフォース農法”はそんな中の一つだ。名前となっているトライフォースとは、力と知恵と勇気を司る三角形ではなく、土壌や肥料の養分を表した三角形のこと。本作の稲作では、土壌に含まれる養分が稲の発育などに影響を及ぼす。養分は肥料によって増やし、肥料の合成時に選んだ素材によって、追加する養分を選択できる。画像のように三角形のゲージが表示されており、追加するものが栄養なので、ゲーマーならとりあえずマックスにしておけばいいと考えるだろう。実際、筆者も5年ぐらいやっていた。
しかし、本作の稲作はそんな単純なものではない。余分な栄養は、余分な何かを招き寄せる。雑草や害虫がどんどん増えるということだ。トライフォース農法とは、そうした稲作初心者が陥りがちな農法を指した言葉なのだろう。ただ本作は複雑であり、トライフォース農法を採用したからといって、必ずしも悪い品質の米が出来上がるわけでもないようだ。
塩を使う農法は、カルタゴ農法と呼ばれている。本作の塩には、肥料の素材として使用すると、虫と草と病の3つを防ぐ効果がある。ただし塩には強力な分、塩害に繋がるリスクもあり、考えなしに使ってしまうと災いをなす。カルタゴとは、紀元前に地中海貿易で栄えたアフリカの都市。ローマとの戦争に破れた後、ローマ人がカルタゴの土地に塩を撒いたことから、考えなしに塩を使う農法に対して、プレイヤー間でこの名前がついているのだろう。そのほか、冬の間に苗を植える農法に対して、ルイセンコ農法という名前がついている。
料理と肥溜め
塩害に関連する話題としては「夕食が肥料に影響を与える」という説があり、それに関連して「塩を使った料理ばかり食べていると、塩害に繋がる」という噂も存在する。本作の肥料は、厠から汲み取ったものと素材を組み合わせ、肥溜めで熟成させたもの。その肥料の元をたどれば料理に行き着く。それゆえに、この説にはもっともらしさがある。本当なら面白いので、この噂を確かめようとしてみたのだが、塩と塩害についていろいろと試していくと、何もわからなくなった。
まず、当然ながら肥料に大量の塩を使い田んぼに撒くと、塩害が発生する。この場合、植えられた稲の塩害が、時間経過と共に上昇していく。また塩水選によって、一定以上の種籾を選別した際にも塩害ゲージが生じる。ただ、塩水選によって発生する塩害は、使った塩の量で決まるわけではない。たとえば、塩を全部入れて1分以上放置した場合でも、まったくかき混ぜず、無選別のまま種籾選別を終えると、塩害は発生しなかった。塩を入れた量ではなく、どこまで選別したかが影響しているのだろう。
そうして発生した塩害は、稲の発育に影響を及ぼしていると思われる。しかし、塩害が発生したからといって即座に稲が枯れたりはしない。塩害ゲージがマックスになっても、そのまま収穫できるのは確認済みだ。なお、即座に土壌から塩を取り除けるわけではないものの、剪枝の妙薬には稲の塩害ゲージを減少させる効果があった。
こうした塩害の性質を踏まえた上で、塩分過多な食生活が塩害を起こすのかを試したものの、塩害を引き起こしているという確かな証拠は得られなかった。いろいろなパターンを試したので大まかな報告となってしまうが、今回のテストでは、猪肉の燻製5つで献立を埋めたり、 蓼水汁5つでお椀を並べたりなど、いろいろと被ってしまったメニューを中心に塩分多めな食生活を送った。その上で、うつろいの粉を除いて何も加えていない肥料が、塩害ゲージを増加させるかをテスト。田植えを終えたあとの春1日から開始し、肥料を撒いたタイミングは、偏った食事を食べた翌日から、最長で一年後までとなっている。
肥料を撒く稲側の条件もさまざまで、塩害ゲージの見えた状態の稲から、塩分控えめの健全な土壌まであったのものの、どの条件でも何も加えていない肥料だけでは、塩害ゲージの上昇は見られなかった。
この結果だけ見れば、食事が塩害を起こすことはないように思える。しかし、本作の稲作には多数の要素が存在し、何がどう影響しているのかはっきりしたことはわかっていない。そこまでしなくとも大丈夫だろうと徹底しなかった部分にも、何かが隠されている可能性はある。また、原因不明の塩害報告が上がっているのも確かで、その理由も現時点でわからない。はっきりしなかった以上、わからないというのが率直な感想だ。答え合わせのためにも、詳細で正確な攻略本が欲しい。
ゲームクリアまで進めても、稲作についていろいろ検証しても底が知れない本作。奥深さを備えた一方で、雰囲気で米作りを進めていてもそれなりになんとかなる事実もある。では、無茶をやってみればどうなるだろう。トライフォース農法、カルタゴ農法、ルイセンコ農法、負のトライフォース揃えても米は収穫できるのか。塩害対策を調べつつ、稲作に挑んでみた。
まずは事前準備として、田のステータスが大きな正三角形になるよう大量の養分を含んだ肥料を用意し、そこに大量の塩を混入。毒性を名水で打ち消しているので、ローマ兵としてはちょっと甘いが、その分一般的なカルタゴ農法に近づいたことだろう。続いて、冬3日に塩水選で種籾を選別し、しっかりと田起こしを実施する。春1日に田植えを行い、以降は正三角形を維持する3つの養分を与える。カルタゴを滅ぼすべく、肥料に毎日塩5と名水も加えるのも忘れない。また、現実の塩害に対しては、真水で塩を洗い流すのが有効だという。そのため、水量は20%から40%程度で変えつつ、基本的にかけ流しで時間を進めている。
大量の塩が含まれた土壌に、真水をかけ流しているとはいえ毎日大量の塩を追加しているのだから、少なくとも雑草は生えないだろうと思っていた。しかし現実には雑草は生え、病気は起こり、虫も湧く。どんどん伸びていく塩害ゲージに目を瞑れば、普通に米を育っているようだった。トライフォース農法としては雑草や病気は控えめだったので、トライフォース農法とカルタゴ農法が相殺しあったのかもしれない。そんな具合だったので、結果的には普通に収穫できてしまった。翌年以降、この塩まみれの田んぼがどうなるかはわからない。しかし、こうしていろいろと話題になる根底には、奥深さだけでなく、こうした懐の広さもあるのだろう。
『天穂のサクナヒメ』は、PlayStation 4/Nintendo Switch/Steam向けに販売中。パッケージだけでなく、ダウンロード版も用意されている。