『スカイリム』『Fallout 4』にてModを作るクリエイター「ひげよし」氏に聞く。Modは誰がなんのために作るのか?
Modとは、「Modification」を改造や変形というような意味を持つ英単語の略称で、ゲームにおいては改造データを指す。そのゲームのビジュアルやシステムはそのままに、内部データを改造したり追加したりすることで、遊びの幅を広げる。『DOOM』や『Quake』から始まる歴史は古く、PCゲームにおいてはひとつの文化として親しまれている。ModなしにPCゲームを遊ぶことは考えられないという人も多いだろう。
しかしModderと呼ばれるModの作り手については謎が多い印象があるのではないか。Modとは、どのような人がなんのために作るのだろうか。またModの制作にはどのようなものスキルやツールが必要かなど作る工程における疑問も尽きないのではないか。そこで今回は、『The Elder Scrolls V: Skyrim(スカイリム)』や『Fallout 4』といったベセスダ・ソフトワークスタイトルにて50以上のMod作品をリリースしてきたひげよし氏(@HIGEYOSI360)にさまざまな話を聞く。前編はMod制作者としてのひげよし氏にフォーカスを当てた内容をお送りする。
未経験からのスタート
ひげよし氏はもともとニコニコ動画の投稿者として字幕実況プレイ動画を公開しており、そこからひげよしという名がついた。氏はもともとはXbox 360にて『The Elder Scrolls IV: オブリビオン』をプレイしていたが、ニコニコ動画にアップされていたModのプレイ動画を見てPC版を購入。そこからコンソール機とPC版の両方を遊ぶようになったという。普段は、地方都市の広告代理店でデザイナー業をやっているとのこと。
ひげよし氏がModを遊ぶだけでなく作るようになったきっかけは、Modフォーラムで見かけた「プレイヤーと共に成長する剣が欲しい」という投稿だった。ひげよし氏も似たような気持ちを持っており、Mod投稿サイトのNexusで検索したところ、存在することはした。しかしあくまでそれは、プレイヤーのステータスに比例して威力が変わるというもので、イメージしているものとは少し違ったという。最初は弱く、プレイヤーとともに成長し、外観も変化してほしい。そんな風に想像を膨らませるうちに、それならば自分で作るべきだろうと思い始めMod制作を決意した。そうしたMod制作の第一歩として作られたのが『オブリビオン』のMod「金棒」だった。
デザイナーではあったものの、3Dモデリングは全くの未経験だったひげよし氏は無料の3DモデリングツールBlenderを使いこなすことにひどく苦労したという。一方で有志によるwikiやチュートリアルが充実したおかげで、うまく作りたいものを表現できるようになったそうだ。モデリングはBlender、テクスチャはPhotoshopを使う。そしてそこにスクリプトを加えることでプレイヤーとともに成長する武器「Akaviri Cursed Blade YAMIGARASU」が完成した。スクリプトについては、ガイドは存在したもののこちらはスクリプトを何度も何度も日本語で書き、練習することで覚えていったとのこと。
そこからの活躍はModについて見識のある方ならばご存知だろう。「手裏剣」や「刀」「侍」といった和をモチーフとしてModを多くリリース。最近ではどこかで見たことがあるイカした武器「ペライトシューター」やパロディを逆輸入する「Pop Team Epic Helmet」など話題性のあるModをリリースしてきた。
【Skyrim MOD】Pop Team Epic Helmet
Skyrim SEにポプテピピック風の「ヘルメット」を追加するMODです。
コンソール必須。オプションファイルと入れ替えるとオープニングを再現できます。お楽しみくだされ。https://t.co/6Hxm8tiN1X pic.twitter.com/czi1cEO7cc— ひげよし (@HIGEYOSI360) January 17, 2018
どの作品に人気があったのか
ちなみにひげよし氏がNexus modsに投稿したものを人気でソートすると、『Fallout 4』にてドッグミートの可搬重量を増加させるバックパックをそれぞれのサイズで追加する「Dogmeat’s Backpack」は約14万ダウンロード。『スカイリム』にてくまのぬいぐるみのリュックを10種類追加する「Plush Backpack」は約5万7000。『オブリビオン』にて和の装備を追加するサムライ・ショップを追加する「Akaviri Samurai Shop」は約4万7000ダウンロードを記録している。解説文の英語などがより凝っているとダウンロードは伸びやすいのではないかと氏は分析している。
一方でこうしたModは、必ずしも人気と制作者の思い入れは比例しないようだ。氏の作品のなかでDL数がトップの「Dogmeat’s Backpack」はひげよし氏もお気に入りの作品であったというが、ひげよし氏としては「Snow Globe House」にも思い入れがあるという。「持ち運びが出来てかつ雰囲気良い家」を目指して作られたという同Modの室内と庭は、氏の奥様が手がけたとのこと。そしてもっとも苦労したというのが、日本語のネオンを作れるようになる「Iroha Neon」。ひらかなとカタカナと漢字を含んでいるということもあり作業量が膨大で、デザインとしてはシンプルなわりに相当苦労し、かつあまり使われていないというので少し寂しさを感じているようだ。
また『Fallout 4』におけるお気に入りの作品は「.44 AUTOMAG」と「Jericho 941」。普段はモデリングから制作しているひげよし氏であるが、この2作品についてモデリングは他の方のものを使っているとのこと。銃器についてはモデリングが大変ということもあり様子見していたが、日本人のModderがモデリングをアップロードしていたのを発見し相談したことでふたつの作品は生まれたという。このふたつのModは、さまざまな人の助けがあったからこそ作ることができたと強調している。ふたつの銃Modについては作品の世界観と合致しているからか、DL数においても根強い人気を誇るようだ。
またひげよし氏の作品といえば、前述したように『スカイリム』パロディを逆輸入する「Pop Team Epic Helmet」が話題を呼んだ。国内だけでなく海外メディアからも取り上げるなど、その反響は凄まじかったようで、特に英語のリプライがたくさん飛んできたという。「ポプテピピック」のパロディは仲間内でも話題になっていたようだ。ひげよし氏が、被り物Modを作ることを得意としており、メッシュとテクスチャを作り内部データをいじればいいと見立てがたったことから作成が始まった。さらには、『スカイリム』がさらに話題になればいいなという想いがこめられていたという。
通常はひとつのModの完成には2週間~1か月の期間を要するものの、「Pop Team Epic Helmet」は2日間という短期間で制作することができたようだ。ちなみにこの「Pop Team Epic Helmet」はあくまで版権をベースとした作品であるので、Modサイトなどで共有する予定はなく、今後も氏のTwitterからのみダウンロードできるとのこと。
[Fallout4 MOD] Pop Team Epic FO4https://t.co/qwmap9FhUt
ポプテピピックMODのFallout4版ができました。DLC Automatron 必須。
人装備はケミストリーステーションで作れます。かぶりもの版と金属版がありますのでお楽しみください。 pic.twitter.com/EagZM2qbJu— ひげよし (@HIGEYOSI360) January 30, 2018
ひげよし氏自身がオススメするModについても教えてもらった。氏がもっとも外せないと考えているのは『スカイリム』の戦闘にヒットストップを導入する「TK HitStop SE」。「手応え」がより感じられるようになり、戦闘が白熱するという。同じく『スカイリム』に冬の概念を導入する「Frostfall」もお気に入りであると語る。難易度は上がる一方で、雪が特徴的な『スカイリム』の土地を旅する臨場感が一気に上がるとも。もうひとつ外せないのは「SkyUI」であるという。プレイヤーによって賛否両論ある『スカイリム』のユーザーインターフェースをより使いやすくするという。「TK HitStop SE」に限らず、制作者のtktk氏のModは戦闘を大きく変化させるものが多いので、ぜひ導入をすすめたいと語っている。
なぜModを作るのか
ひげよし氏はModを作り続けてはや10年になる。今のMod制作の仕組みではひげよし氏にお金が落ちる仕組みもなく、氏は募金もつのっていない。それではなにがひげよし氏、もしくはModderを掻き立てるのだろうか。ひげよし氏はModを作り続ける理由として「Mod作りがひとつの遊び」であると語ってくれた。ゲームを遊ぶことと同様にModを作り、そのModがゲーム内に現れることは、形容し難い楽しさがあるという。『マインクラフト』や『Fallout 4』の家造りといった楽しさをイメージしてもらえればいいとも語ってくれた。この楽しさは極上である分、突き詰めた人はゲームそのものを作りたくなるのではないかとコメントしている。
一方、氏はこの作る楽しさと他者に使ってもらう楽しさはまた別のものであるとも語っている。作るというのは、純粋に自分の創作物が画面内に現れてくる楽しさであるが、他者に使ってもらうと「自分の創造物の価値が認められた」という嬉しさになるという。それゆえに、色んな方のスクリーンショットや動画を観るのは楽しく、使ってもらう楽しさについては「報酬」というニュアンスの方が近いとも語ってくれた。
またMod制作の中で得た恩恵として、モデリングスキルを会得したことにより、広告やポスターのデザインに活かすことができているという。また、Modコミュニティを通じてさまざまな人と出会うことができたことも、よかったと振り返っている。またひげよし氏は、自分がModを作る動機となった「こんなものがほしい」というフィーリングを大事にしてほしいとも語っている。まず自分が「こんなものがほしい」と思うことこそが、Modを作る動機の基盤になるようだ。
ひげよし氏に今後の抱負について聞いてみたところ、今後もModを作り続けていくと意欲的な姿勢を示してくれた。前述した『スカイリム』の「Snow Globe House」をSE向けに完成させることを現時点で目指しており、『Fallout 4』向けには日本刀を導入するModを作りたいとも語っている。一方で、「Pop Team Epic Helmet」を作り上げた時のようなノリや勢いを大事にしていきたいとも。一癖も二癖もありながら、高品質なModを作り続けるひげよし氏の活躍には、今後も目が離せないだろう。
中編は、Modを作ってみたいというクリエイター向けに、Modの作り方について解説してもらう。