PinballDays -2017年のピンボール- 第二部 アメリカの文化を色濃く残す街並みが築いた聖地

ピンボールといえばアメリカの遊戯文化を代表する機械といっても過言ではないだろう。キャビネットの大きさ、台を適度に揺らせるといったある種の豪快さも魅力のひとつでもある。

ピンボールといえばアメリカの遊戯文化を代表する機械といっても過言ではないだろう。キャビネットの大きさ、台を適度に揺らせるといったある種の豪快さも魅力のひとつでもある。しかしアートデザインやモチーフに関しては、日本のパチンコがアニメやゲームの版権を利用したものばかりになっていることと同様に、ピンボールにおいても映画やロックバンドをモチーフにした台が多い。否定的な意見もいくつかあるが、コアなプレイヤー以外の新規層を増やすための「第一印象の取っつきやすさ」が大事であり、筆者はこの流れに否定的ではない。

1999年にWMS(Williams/Bally)がピンボール事業から撤退(カジノ用ゲーミングマシンの生産に特化)したことにより、2013年にJersey Jack Pinballが参入するまでの間はStern一社による独占市場となっていた。この14年間、Sternは年間2機種の新台をコンスタントにリリースし続けていたことによってピンボールの文化は途絶えずにいたのだが、購入層の8割はピンボールプレイヤー(コレクター)や台のモチーフとなったもののファンといった個人によるものとなっており、市場はすっかりと様変わりした(2002年から1機種につき「Limited Edition」や「Premium Model」など、デザインやルールが異なる上位版も販売するようになったことも起因している)。

日本ではアトラスがStern社製ピンボールの独占販売契約を結んでいたのだが、2000年代後半に経営計画の変更に伴いアーケード事業から撤退。国内では新台を遊べなくなってしまうのではないかとプレイヤーたちは危惧した。

しかし、日本国内に一大ピンボールスポットのオープンしたことによって、それは一気に覆されることとなる。

大阪府大阪市心斎橋。東の大通りには百貨店や海外のファッションブランド店が数多く立ち並び、西心斎橋には若者の流行発信地であるアメリカ村が広がる繁華街だ。このアメリカ村の象徴とも呼べる大型商業施設「ビッグステップ」に日本最大級のピンボールスポット「THE SILVER BALL PLANET(以下:SBP)」が2013年12月にオープンした。

当初の設置台数40台から現在では100台を超えて、世界でも5本の指に入るほどのスポットとなっており、ピンボールが長らく稼動していなかった大阪の地に突如としてこの一大空間が出来上がったことに衝撃を受けた。

第二部となる今回はSBPが出来上がるまでの経緯、これからの展望、そして有志よる大会の企画・運営についてメールインタビューを刊行したものを掲載する。

 

アメリカ村だからこそアメリカの「文化」を。

――SBPを開かれるまでの経緯をまずはお教えいただけますでしょうか?

ビッグステップ運営管理事務所  難波裕介氏(以下:難波氏)
ビッグステップが運営しているSBPは、経営陣がピンボール、そしてアメリカ文化が大好きで、ピンボールがプレイできる場所を作ってもう一度みんなに遊んでもらいたいという事が発端で誕生しました。

――アメリカ村という立地上、「アメリカらしい遊戯文化」としてピンボールは老若男女問わずに親しまれやすいものと思いますが、やはりそういった狙いは定められていたのでしょうか?

難波氏
はい、そうですね。アメリカ村はアメリカの文化に大きな影響を受けて生まれた街です。ピンボールにはデザインやアートワークも含めアメリカのその時代の文化がぎっしり詰まっているので、たくさんのピンボールに囲まれプレイする事でアメリカを体感してもらいたいと願っています。アメリカ文化の影響を受けて生まれたこの街にSBPを作ったのはそういった意味もあります。

――日本では他に類を見ない台数をオープン時からラインナップされておりますが、購入から設置までに要した期間はどれほど要されたのでしょうか? 稼動を始められるまでのメンテナンスなど、苦労されたところがございましたらお教えください。

難波氏
ビッグステップを所有している会社はアメリカのカリフォルニア州にもオフィスがあり、日本国内で購入した数台以外はアメリカのオフィスを拠点に購入しているので、台を集めるのにそれほど時間もかからず、苦労もありませんでした。購入してから日本向けに台を調整するなどの整備期間も含め数ヶ月だった思います。その後も買い足していき現在に至ります。現在はメーカーにもSBPの事は知られているので、直接メーカーとやりとりもしています。
SBPの成功の大きな要因は、メンテナンスとリペアの優れた技術を持ったメカニックに出会え、常駐してもらっている事です。彼らのおかげで、海外からのお客様にもこれほどの台数が最高の状態でプレイできる場所はなかなかないとお褒めいただいています。

――Stern社やJersey Jack Pinball社の新台を積極的に導入されておりますが、代理店がない状況だからこそ「新台はここでしか遊べない」というのもひとつのアピールポイントとして提示されていっしゃるのでしょうか?

難波氏
私たちはピンボールをレトロなゲームだとは思っていません。ピンボールは今でも作られている事をお客様に知っていただきたいし、コンピューターゲームとはまたちがった、体全体でプレイするスリリングでかっこいいゲームだという事を感じてもらいたい。それが良くわかるのは最新のピンボールなので、新台はなるべく導入するようにしています。その結果として新台があるのはSBPだけということになり、アピールポイントになっているとは思います。

――新しいソリッドステート機だけではなく、エレメカ機(ドラピン)も導入はこれからも考えていらっしゃるのでしょうか?

難波氏
私たちは当初からSBPを博物館ではなく、プレイを楽しんでもらう事に重点を置いたピンボールアーケードにする事を目指しており、新しい台の方がプレイして面白いと思っているので、古いエレメカ機(ドラピン)の導入の可能性は低いと思います。

SternとJersey Jack Pinballの最新台はもちろん、映画やロックバンドをモチーフにした台や、80~90年代の「名機」が並ぶ堂々たるラインナップに、ピンボールプレイヤーだけではなく若者や家族連れが夢中になる光景もしばしば目にすることができる。

ピンボールには規定スコアに到達すると1クレジットぶん遊べる「リプレイ」や、1ボールの猶予が与えられる「エキストラボール」などの賞与が用意されている。SBPで稼働している台の多くは、これらの規定スコアが低めに設定されており、難波氏いわく「(台によって変化をつけていますが)初心者も含めて楽しく遊んでもらえる事を考えた設定にしています」とのことだ。

 

お店としてのアクションではなく「有志」が自ら生み出したコミュニティ

――「ピンボールの実機を久々に見る人」や「初めて見る若者」などで盛り上がっておりますが、中には現役でピンボールを楽しんでいるプレイヤーの方もいらっしゃいますし、定期的な大会を自主開催されています。現役プレイヤーの積極的な活動を、運営という立場から難波さまはどのように思われていらっしゃるのでしょうか?

難波氏
日本でもピンボールは一度流行って廃れたゲームですが、それでもピンボールマニアやピンボール場の経営を続けてきた方々のご尽力により生き残る事ができていると思っていますので、とても感謝し尊敬しています。私たちはSBPに、ピンボールを通じて知り合った人たちのコミュニティーが生まれることを望んでいました。そして現在常連の方々が中心となって「Silverball Satellite」というグループを自主的に組織し、月例大会の運営やサイトで台のルール解説等を行ってくれています。私たちにとってこれは本当に嬉しい事です。ピンボールに限らず一般論として、マニアや上級者が初心者に対して上から目線で対応したり、自分がルールだというような行動をとる事で、初心者が離れ結果そのジャンルが廃れてしまう事があります。SBPに集う上級者・現役プレイヤーの方々はそういった事を良く分かっておられるようで、ピンボール人口を広げる事に重要性を感じ、初心者の方にもピンボールに興味を持っていただき楽しんでもらえるように、色々とご尽力していただいており本当に感謝しています。

「Planetの周りを回る衛星(sattelite)」という意味から名付けられた有志グループ「Silverball Satellite」によって月例大会の企画、運営、進行が行われている。上級者同士のガチンコ勝負だけではなく、台のルールをその場で講習するといった初心者への配慮も怠ってはおらず、コミュニティページではSBPで稼働している台のルールやフィーチャーも随時更新している充実っぷりだ。また、アメリカのピンボール団体「IFPA」に倣って、大会の様子を後日YouTubeにアップして共有するといった試みも頼もしい。

 

ピンボールを「カッコいい」と思わせる演出

――日本でピンボールを楽しめるのはごく一部になっていることから、遊ぶための間口が狭くなっているのですが、SBPはグッと広げた印象があります。大規模とまではいかずとも、徐々にピンボールスポットが増えてほしいという願望はあるのでしょうか?

難波氏
はい。私達はより多くの人に楽しんでいただくために、ピンボールのイメージも再定義したいと思っています。その為にSBPの内装を一般のゲームセンターにはあまり見られない赤と黒でまとめ、ライティングにも気を使い、瓶のコーラの自販機を置いたり、台の設置場所も工夫するなどして、ピンボールはカッコいい遊びだと感じてもらえるように演出し、ピンボールを初めてみる人、老若男女どなたでも気軽に入れるように気を使っています。昔ピンボールで遊んだお父さんが子供さんと一緒に来て、お父さんの上手なプレイを見た子供さんに「お父さんすごい!」と言われていたり、カップルが仲良く並んでプレイしていたり、女の子のグループが写真や動画を撮りあったりしているのを見ると、この場所を作って良かったなと思います。アメリカでもネット社会が進み、コンピューターの前ですごしたりスマホを覗く時間が増え、人と会って一緒に何かをするという事が減って行くと、その反動もあってか今度はみんなが集まって楽しむ事の重要性を認識するようになり、アメリカ人のライフスタイルには欠かせなかったボーリングやピンボールが、現在のライフスタイルにマッチした形で復活しています。日本でもピンボールアーケードが増えて、ピンボールに再び脚光があたる事を願っています。

――最後になりますが、SilverBallPlanetさまにお越しいただいたお客様と、まだ起こしでないお客様にそれぞれ一言コメントをいただけますでしょうか?

難波氏
(SBPにお越しいただいたお客様へ)
SBPにお越しいただきありがとうございます。楽しんでいただけましたでしょうか? ぜひピンボールの魅力を周りの方々にも教えてあげてください。みんなで一緒にピンボールを盛り上げていきましょう!
(まだお越しされていないお客様へ)
本国アメリカにもピンボールが100台ある場所はそれほどないので、ぜひ一度遊びに来て、瓶のコカコーラを飲みながら、時間を忘れてピンボールで遊んでみてください。

大阪の地にビッグバンのごとく出来上がった一大ピンボールスポット、SBP。その背景には、「ピンボールがアメリカらしい文化」であることをアピールするにはアメリカ村という立地が恰好の場であることに加えて、いまなおピンボールを愛する有志によってコミュニティが自主的に形成されたことが後押ししたことにより、一部の愛好家だけが細々と遊ぶものではないことを証明したように思える。また、現役のメカニックマンによる日頃のメンテナンスによって、ほぼすべての台を気持ちよく遊ぶことができることは一プレイヤーとしても喜ばしく、何よりも運営側の愛情をたしかに感じることができるのも嬉しい限りだ。

 

心斎橋BIGSTEP「THE SILVER BALL PLANET」
http://silverballplanet.jp

Silverball Satellite
www.silverballsatellite.com/

Takuya Kudo
Takuya Kudo

1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。

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