「PinballDays-2017年のピンボール-」 第一部 実機のリースを通して感じたビデオピンボールの可能性

打ち出し口から銀色のボールを射出し、やがてそれはキノコ型のバンパーに跳ね返り、フィールドを縦横無尽に目まぐるしく駆けめぐる……。プレイヤーはそのボールを落とさぬよう左右のフリッパーを巧みに操り、ときには台を揺らす。

『Pinball Parlor』で解決したという不満点とはいったい?

――ここからは『Pinball Parlor』のお話をお聞かせいただきたいと思います。この台には新たな試みがあるとお聞きしましたが?

市川氏:
まず1プレイ3球を止めて5球にしたんです。ピンボールの何がいいかというと「実物が動いてる確かさ」なんですよ。ボールが落ちたのをなしにするっていうのは違うと思ってボールセーブ(※)を失くしたんです。初級者を救済したいのはわかるんですが、周知されずに「ボールが落ちたから終わり」って思われてるから意味がないんですよ。ということで僕は5球にする代わりにフリッパーも短くしたんですよ。そういうふうに見方を変える。

(※ボールセーブ)打ち出したボールをすぐに落としてしまった場合、一定時間内であればセーフとして扱われる救済措置。90年代以降から普及したため、それ以前の台には適応されていない。

――1プレイ3球から5球というのは初心者であれば「長く遊べる」という気持ちに働きますし、上級者なら「その分スコアを伸ばせるチャンスが増える」と思えますよね。

市川氏:
それとこのゲームには「again」という大きな目玉となるルールがあって、トップレーン(※)を揃えるとそれまでに落としたボールがなんと全球復活するんですよ。ピンボールってクリアしたらフィールドがグルッと違うものと変わるわけではないじゃないですか? それをどうするかと考えたときに、トップレーンの5個揃えたらすごい嬉しいことが起きるようにしようと。5球目で「あとひとつレーンに通ればagainが完成する……!」と思えばプランジャーの打ち出しも慎重になる。ボールがトップレーンに近づいたときに「あとちょっと動かせればもしかしたら入るかもしれない!」と思ったら自然と台をナッジし始める。そうすれば説明がされなくてもプレイヤーさんが学習していくんじゃないかなというのがあるんですよ。

(※トップレーン)フィールドの最上部に複数で仕切られたボールの通り道。ボールを打ち出す際、いかに効率よくここを通すことができるかが腕の見せ所となる。

――『Pinball Parlor』はミニフリッパーの採用やフィールドの造りからして70年代の台をモチーフにされているのかなと思っていたのですが、80年代中期の「SS機(※)」を意識されたなかったのは意図したものだったのでしょうか?

(※SS機)Solid State Machineの略称。1970年代中盤までのピンボールはスコアの表示も含めてエレメカで設計・制御されていたのだが、ビデオゲームのヒットを危惧し、各社は足踏みを揃えてIC化したピンボールマシンを開発し、その流れは現在までに至る。

市川氏:
僕はピンボールを考えるときに「絵がなくても徹夜で遊べるぐらいじゃないとダメだ」という基準なんですが、Johnは『Theatre of Magic』『Cirqus Voltaire』のように「テーマが最初にある人」なので、「テーマが作り手に魂を注ぎ込むんだ!」ということを熱く語るんです(笑)。Johnの言うことも一理あるし、少なくとも結果は出ている方なので、「ピンボールの復活」がテーマになるゲームがいいなということで決着がつきました(笑)。

――『Pinball Parlor』のリリースはピンボールへの再評価もしくはピンボールで遊んだことのない新規プレイヤーに対して興味を持ってもらうためのアプローチとなり得るのでしょうか?

市川氏:
実機のピンボールで遊んでいる人にとって「実機とビデオは違う」と判別されてると思うので、そういう意味では実機の再評価にはつながるものとは限りません。でも『Pinball Parlor』をふたたび実機で出せたら、その時こそ本当の再評価になると思います。実機のピンボールを再評価してもらえるのはどこまでいっても「実機のピンボールによって」しか為し得ないんです。しかし『Pinball Parlor』が実機で出したときにこそ「ピンボールはすべて出尽くしている」と思っている人たちの意見がガラッと変わるとは思いますね。いまアメリカで「American Pinball Inc」という会社が立ち上がったので、そこと組む可能性があります。ハードウェア提供はもちろんしますし、Johnのプログラムや僕自身もデザイナーとして乗れるように交渉しています。僕が実機に関わるのは『Star Wars Episode1』以来ですね。

――キャッチコピーには「old future」という言葉が使われていますが、古き良きシンプルさに加えてこれまでにない新しい要素、そして市川さんがお考えになられた視点など、その要素がすべて組み合わさっているんですね。

市川氏:
Stern社の方向性もあれはあれで我々も楽しませてもらってるんだけど、でもそれはいろんな娯楽があるいまの社会でピンボールをふたたび押し上げるものにはならず、いいところをキープするのがせいぜいで、しかも現状は、「いいところ」には程遠く最悪時よりは良くなったという位です。若い人でやってくれる人もいるけど、それはたまたま環境に恵まれているだけで、みんなが「ピンボールすげえ!」って言うものにはならない。だけどそこで何かをしようと思うと「新しくて」「説得力があって」「シンプルなもの」っていうワガママなものが必要なんですよ(笑)。そうすると大抵のゲームデザインで「そんなのできない」って始まってしまう。それをやりに行ったんです。

――では最後にピンボール愛好者と、『Pinball Parlor』で興味を持った新規のプレイヤーに向けて一言いただけますでしょうか?

市川氏:
いまでも遊んでいる方々にはこれからもどんどん費やしてほしいですし、リプレイで喜んでいる場合ではないという感じですね(笑)。ピンボールっていうのは揺らすこととフリッパーを動かすことしかできないので、フリッパーをアナログ的に使えるっていうのは重要なんですよ。ドラムピンボールをやると球さばきがぜんぜん変わってくるので「地味なピンボール」という視点をずらしてほしいです。そしてこれからの人たちには、ビデオゲームとは違う進化形態をとった遊びであることを知ってもらいたいですね。アクションゲームにしてもシューティングゲームにしても3機で始まるっていうのはピンボールに由来してるんですよ。もともとはピンボールメーカーもビデオゲームを作っていたし、そういう世界の先輩にあたるゲームとして常に長い時間をかけてゆっくり進化したゲームという意味で見てほしいです。ピンボールは台を揺らしたりフリッパーさばきで体を動かすし、エンターテイメントでありながらスポーティなところもある。これらが融合した非常に面白いゲームで、なおかつアートや音楽など、芸術的にもテクノロジー的にもあらゆるものがあるっていうのが実機のピンボールなのでぜひともそういう視点で見て、遊んでいただきたいです。

もともとはPC用ピンボールゲームの開発を目的に実機で遊んで研究していたところ、メンテナンスの不満点を自らの手で改善した結果、日に日に台数が増していったというエピソードを持つ市川氏。現在では「高田馬場ゲーセン ミカド」をはじめ、いくつかの店舗へのリースを行なう傍らで、『Pinball Parlor』のアップデートや次回作の準備もすでに整えているという。ピンボールプレイヤーとゲームプレイヤーであり、そして開発者でもある氏は、今後も多角的な目線で業界を見据えていくことだろう。

 

マインドウェア
http://pinball.co.jp/

Steam『Pinball Parlor』ストアページ
http://store.steampowered.com/app/514570

Takuya Kudo
Takuya Kudo

1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。

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