よくわかるアーケードアーカイブスの歴史教科書(2):クレイジー・クライマー

よくわかるアーケードアーカイブスの歴史教科書、第2回は『クレイジー・クライマー』をセレクト。レバー2本操作でビルを登っていくアクションゲーム。窓に手をかけて、レバーを上下交互に登っていくように動かすのがポイント。

arcade-archives-munetatsu松井ムネタツ(以下、ムネタツ):
このコーナーは、いまは亡きアーケードゲーム専門誌「ゲーメスト」(新声社刊)に在籍してた石井ぜんじと松井ムネタツが、ハムスターからPlayStation 4でリリースされているアーケードアーカイブスシリーズについてあーだこーだ語るコーナーです。今回で2回目ですね。1回目の『ダライアス』はなかなかの反響だったんじゃないですか?

arcade-archives-zenji石井ぜんじ(以下、ぜんじ):
個人的にも思い入れの強いゲームですしね。いろんな想いがちゃんと伝わっているといいのだけど。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
さて、第2回は『クレイジー・クライマー』をセレクトしましょうか。アーケードアーカイブスとしても最初に配信されたのがこのタイトルですしね。

『クレイジー・クライマー』はレバー2本操作でビルを登っていくアクションゲームです。窓に手をかけて、レバーを上下交互に登っていくように動かすのがポイント。閉まっている窓には手をかけることができず、またゲーム中に窓が閉まることもあるので、うまくルートを見つけてどんどん登っていく必要があります。

そのほか、植木鉢や鳥の糞や鉄アレイやいろんなものが落ちてくるので、それもかわしていかなくてはなりません。屋上まで行ってヘリコプターに捕まれば1面クリア。全4面でループしてまた1面からになりますが、難易度は上がっていく感じですね。

レバーを2本使い、「手」の部分を左右それぞれで移動させるイメージで操作する。各レバーを互い違いに上下へ動かせば、はしごを登るように上層階へ上っていく
レバーを2本使い、「手」の部分を左右それぞれで移動させるイメージで操作する。各レバーを互い違いに上下へ動かせば、はしごを登るように上層階へ上っていく

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
 アーケード版のリリースは1980年の暮れあたりなんですなあ。僕は中一でしたよ。1980年は日本がボイコットしたモスクワ五輪とか、ロナルド・レーガンがアメリカ大統領になったり、海援隊の『贈る言葉』が大ヒットしたり。今の若い子にはもう歴史の教科書レベルですな。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
当時のニチブツは黄金期だったと言っていいでしょう。同じく1980年の夏ごろに出た『ムーンクレスタ』は良作でした。ちなみに『ムーンクレスタ』は、個人的にまだまだ過小評価されていると思うんですよ。当時としては人気もインカムもあった伝説級のゲームではないかと。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
ああ、僕も当時すっごい遊びましたよ。これも語れることが多いので、いずれこのコーナーで語らねばなりませぬな。ひとまずこの話題はまだ後日するとして、このころのニチブツは勢いありましたね。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
あのまま行けば、もしかしたらゲームメーカーとしてナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)やコナミ、カプコンと並び称されるみたいな未来があり得たかもしれないな、と思うこともありますね。

鉢が頭に当たると、片方の手が宙ぶらりんになる。ここでレバーをキチンと操作して再び窓枠をつかまないと、連続で鉢が落ちてきた場合、もう片方の手も宙ぶらりんになってビルから落下、1ミスとなる
鉢が頭に当たると、片方の手が宙ぶらりんになる。ここでレバーをキチンと操作して再び窓枠をつかまないと、連続で鉢が落ちてきた場合、もう片方の手も宙ぶらりんになってビルから落下、1ミスとなる

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
では、『クレイジー・クライマー』の名作たるゆえんを説明していきますか。僕はまずその画面のカラフルさにビックリした覚えがあるんです。まだ当時のゲームセンターの店内って薄暗かったんですが、「すごい明るい画面のゲームがある!」と思ったら、それが『クレイジー・クライマー』でした。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
このゲームは、背景がカラーで塗りつぶされて、スクロールするタイプのゲームとしては最古クラスのものではないかと思います。背景が黒じゃないというだけで当時は凄いと思ったものです。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
ああ、さっきの『ムーンクレスタ』もそうですけど、このころのゲームは宇宙を舞台にしたゲームが多かったですから、背景は黒のものがほとんどだったんですよね。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
この作品の発売は、ナムコの『ゼビウス』より数年前だったりするんですよ。当時のゲームと比べると違いがよくわかるんだけど、1980年生まれのゲームだとは思えないグラフィックですよ。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
ゲームデザインはどうです? 当時はシューティング全盛期だったし、その中ではかなり目立っていたと思うんですが。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
そのアイデアには心底驚いた。なぜビルに登るのか意味不明だけど、人間の本能として「登りたい!」というものがあるので何となく納得してしまう。この何となくがじつは大事。しかもなぜビル内の人が植木鉢を落としていくのか本当にわからない。このシュールさは日本離れした感覚で、洋ゲーに近いと今でも思うんだけど、ずっとXboxで洋ゲーに触れてきたムネタツさんはどう思いますか!?

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
うーん、どうなんでしょうか。洋ゲーというか、なんか不思議なゲームでしたね。説明が難しいんですけど。レバー2本使うアイディアがとにかく斬新でしたよ。レバー1本+1~2ボタンじゃなくて、レバー2本でボタンなしですからね。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
レバー操作が腕と連動していたのがすごい。これこそアーケードが追い求める、本能的にわかる操作感だと言えます。レバー2本というこれまでにない特殊操作でありながら、すぐ操作方法がわかるっていうね。

途中、ビルが分岐したり、大きい障害物が落ちてきたり、鳥が糞を落していくなどさまざまなお邪魔要素が出現する
途中、ビルが分岐したり、大きい障害物が落ちてきたり、鳥が糞を落していくなどさまざまなお邪魔要素が出現する

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
「アーケードアーカイブス」がシリーズ1本目に選んだだけあって、当時は人気もかなりありましたよね。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
こういう変わったゲームはマニアにだけもてはやされて、実際には売れなかったものも多いです。その点『クレイジー・クライマー』は、ゲーム通を唸らせつつ、一般にも人気だったというところに価値があると思います。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
2面、3面と進むとかなり難しくなってくるんですけど、1面の途中でゲームオーバーになったとしてもかなりの充実感というか、やりきった感はありますね。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
今思えば、当時のビデオゲームは気づいた瞬間には即死、というような駄目なゲームが多かったですね。それに比べると、『クレイジー・クライマー』は徐々に追い込まれる緊張感があったように思います。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
どんどん窓が閉まっていって、登れるコースがふさがれていく感は怖いですよね。ここでしばらく待つか、一気に登るか、みたいな。あの緊張感は他のビデオゲームにはなかなかないんじゃないですかね。

ビルの屋上まで上ったら、今度はヘリコプターに捕まらなければならない。一定時間で帰ってしまうので、ヘリコプターが下がってくる場所に素早く移動してつかまろう
ビルの屋上まで上ったら、今度はヘリコプターに捕まらなければならない。一定時間で帰ってしまうので、ヘリコプターが下がってくる場所に素早く移動してつかまろう

arcade-archives-zenjiぜんじ:
個人的な思い出で言うと、この時期は自分が本格的にビデオゲームへハマり始めた時期だったように思う。もちろんこのゲームも遊んだけど、まったくゲームがうまくならなくて、早々に諦めてしまいましたよ。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
ぜんじさんともあろうお方が!

arcade-archives-zenjiぜんじ:
あとさっきムネタツさんも言ってたけど、僕も室内が暗い個人経営の怪しいゲーセンで遊んでましたよ。あのゲーセン、本当に真っ暗だったなあ。洞窟かっていうくらい暗かったなあ。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
僕は思い出ってほどじゃないですが、いろんな攻略テクニックを友だちと教え合ってましたね。植木鉢2個同時に当たるときはレバー2本を上下別々にして踏ん張る(たとえば右レバーを上方向、左レバーを下方向)とやられずに済むとか。これだけヒットしたゲームなら、いろいろパクられそうですけど、結局このシリーズだけでしたよね?

arcade-archives-zenjiぜんじ:
『クレイジー・クライマー』は、その歴史的存在価値は大きいのだけど、後生に与えた影響は薄いのではないかと思う。逆に言えばそれだけ尖ってるというか、誰にも真似ができない天才的なゲームだったというか。ある意味すごいことですよ。

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
そういう意味では今こそ遊ぶべきゲームかもしれませんね。初プレイなら「こんなゲーム遊んだことない!」って感じるはずだし。

ということで、最後に謎かけをしておきましょう! 『クレイジー・クライマー』とかけまして、ズボンのチャックと解きます。

arcade-archives-zenjiぜんじ:
どうしたんですかいきなり!? よくわからないですが……「その心は?」

arcade-archives-munetatsuムネタツ:
ボタンを使わず、上にあげます! ムネっちです!

arcade-archives-zenjiぜんじ:
ギャフン。

 

Munetatsu and Zenji
Munetatsu and Zenji

石井ぜんじ
『パックマン』が稼働していた高校生の頃からビデオゲームを本格的に遊び始め、某有名大学を中退してアーケードゲーム専門誌「ゲーメスト」でライターを始める。後にライター兼編集長となり多忙な日々を過ごす。2000年以降はフリーライターとして執筆、ゲーム制作の仕事にも関わる。著書は『石井ぜんじを右に! ~元ゲーメスト編集長コラム集~』。また『セガ・アーケードヒストリー』『シュタインズ・ゲート公式資料集』などで執筆。現在でもゲームセンター通いが続く毎日。近年はライトノベルのレビュー原稿も書いている。

 

松井ムネタツ
高校卒業の1986年、パソコンゲーム雑誌「テクノポリス」で働き始めて、CGコーナーやゲーム紹介・攻略を担当。1994年にゲーメスト発行元の新声社へ。1999年にはアスキー(のちのエンターブレイン、現KADOKAWA)へ転職してファミ通ドリームキャスト、ファミ通Xbox 360などの編集に携わる。いくつかの雑誌では編集長に就任。現在はフリーライターとしてゲーム関連メディアを中心に活躍中。ゲームと名の付くものなら、家庭用ゲーム、スマホ、パソコン、もちろんアーケードも遊ぶ。近年はボードゲームにも手を出し始める。

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