AUTOMATONライター陣が選ぶ
「Game of the Year 2016」

「私はこのゲームが一番面白かったです」と伝えるのはとても気持ちよく、また他の人が最高だと言うゲームの話を聞くのも楽しいものである。というわけで、肩の荷を降ろしてAUTOMATONのGoTYをご覧いただこう。

「Game of the Year」。それは、その年におけるベストゲームを決める賞。2016年は、すでにPCゲームだけでも4000本以上の作品が輩出されており、これらの作品をすべて遊びきったという個人および組織はまず存在しないだろう。とはいえ、大作からインディーまでごった返しのビデオゲームの波をかき分けて、メディアがキュレーターとして素晴らしい作品を世に示すのは意義ある行為である。またビデオゲームの文化的な価値を高めるためにも、アカデミックなアワードを用意し、その年の“顔”を歴史に刻み賞賛し合うことはきわめて重要だ。

……というのがGoTYの建て前であるのだろうが、実際のところ「私はこのゲームが一番面白かったです」と伝えるのはとても気持ちよく、また他の人が最高だと言うゲームの話を聞くのも、純粋に楽しいものである。というわけで、肩の荷を降ろしてAUTOMATONのGoTYをご覧いただこう。AUTOMATONでは選考委員会を設置して誌として特定の作品にGoTYを与えるのではなく、ライター各人がおのおの考えるベストゲームを挙げてもらう。

 

『DOOM』

――私を地獄から救い出した地獄のゲーム

開発: id Software 発売: Bethesda Software 発売日: 5月13日 機種: PC/PS4/Xbox One

doom今年上半期は私にとって非常に不作だった。ゲームが出ないわけでなく、買ったゲームのどれもが不完全燃焼だったのだ。どいつもこいつもあと変身を二回は残した状態で発売しやがって――私の魂はゲームに対する憎悪に染まり、もはや地獄の底で呪詛を吐き続ける存在と化すのは時間の問題であった。そこに颯爽と現れたのが新生DoomGuyであり、本作『DOOM』だ。

マウスを振り回して状況把握、ダッシュで近づいてスーパーショットガンをもって敵を肉塊に変え、あるいは怯んだ敵を殴り殺してヘルス回復、その後の集中砲火は二段ジャンプでかわしつつ再度マウスを振り回して次の獲物を狙う……シンプル・ゴア・ハイスピードといったFPSの根源的快楽が手抜きなくこのゲームに注ぎ込まれている。地獄に沈まんとしていた私のゲーム魂を地上に引き戻してくれた傑作であり、まさに救世主と言えるだろう。私の今年のベストタイトルには迷いなくこのタイトルを挙げる。ありがとう『DOOM』。

次点として挙げたいのは、『Final Fantasy XV』だ。ゲーム序盤の圧倒的旅情感と、その作り込みが最後まで続いていれば、こちらをGotYに推していた可能性が高い。ゲーム中盤以降でせっかくの旅情感のすべてを放棄していること、そしてシナリオの坂道を転げ落ちるような展開をもう少し別の形で表現してくれていたならば、本稿で紹介する順序は逆になっていたことだろう。
by Rokurou Eyama

 

『Fate GO』

――築き上げたIPの力と、同時体験性と。誰にも真似できないスマホゲームの未来へ

開発: DELiGHTWORKS 販売: TYPE-MOON、アニプレックス 機種: iOS/Android

イベント終了後に非レイドバージョンの終章がプレイ可能になると推測されるが、SNSでほぼ同時に共有されるプレイ経験はまさしく「ソーシャルゲーム」の最高到達点だろう。
イベント終了後に非レイドバージョンの終章がプレイ可能になると推測されるが、SNSでほぼ同時に共有されるプレイ経験はまさしく「ソーシャルゲーム」の最高到達点だろう。

全世界規模で常に新しいニュースが飛び出ているゲームを追っているのもあり、日頃あまり多くのタイトルをプレイしない私だが、スマホゲームはそういった日々の隙間時間に遊ぶゲームとして最適だ。昨年の今頃に始めた『Fate/Grand Order』。それから1年が経ち、2016年の終わりまであと10日ほどという12月22日より始まった「終局特異点」イベントは、大ボス「魔術王ソロモン」の本拠地に乗り込むレイドイベントとなった。7つの特異点から聖杯を回収し終えたプレイヤー全員で7本の魔神柱を折り、ソロモンの目的である人類と人類史の焼却を阻止する。レイドにより全ての魔神柱が折れて中枢への道が開けたのは12月25日の昼前だった。未プレイの読者もいるかと思うので物語の結末とそこへの過程については言及しないが、レイドというシステムによって「参加プレイヤー全員で結末をほぼ同時に味わう」仕掛けは、同時体験の重要性が増すばかりの昨今のオンラインゲームにおいてひとつの偉大な到達点と言えるだろう。制作陣に対しては拍手とともに「今後も期待してしまっても構わんのだろう?」の言葉を贈りたい。
by Sawako Yamaguchi

 

『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』

――このビデオゲームの選択肢に関わる寓話を、断じて侮ってはいけない

開発・販売: スクウェア・エニックス 発売日: 1月28日 機種:PS3/PS4/PS Vita

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by Koji Fukuyama

 

『Fractured Space』

――「宇宙戦艦の艦長になりたい」という夢を叶えてくれる

開発・販売: Edge Case Games 発売日: 9月22日 機種: PC

fractured-space筆者の体重を幾分か改善した『ポケモンGO』に感謝したい。週3日、1時間ポケモントレーナーとして励み、8時間の座プレイに耐えるゲーミングフィジカルを取り戻すことができた。まあ、こうした重力との戦いは、人類が宇宙進出すれば解決すると信じている。はやく『Sakura Space』のような未来になればよいのだが。そういったわけで、宇宙と未来を楽しめるゲームが大好きだ。『New Space Order』の興奮と感動をいまだ追い求めている。

『Fractured Space』は2016年でもっとも重要なゲームのひとつだ。宇宙ゲームにあらたなサブジャンルを築きあげた。ジャンル名は宇宙戦艦MOBA。その名の通り、MOBAスタイルによって宇宙戦艦にふさわしい敵を用意してある。つまり、敵も同じく宇宙戦艦なのだ。対等な戦力が競争を激化し、宇宙戦艦の意義は純化されていく。こうして本作はユニークで素晴らしいプレイ体験を生みだした。強大な火力と強固な装甲ゆえに鈍重な巨体を活かす、アクションとストラテジーの高度な融合。画面を彩る驚くほど精細なディティールと宇宙を飛び交う砲火、全長1kmを超える戦艦の大爆発。それらすべてが「宇宙戦艦の艦長になりたい」という夢を叶えてくれる(『Fractured Space』レビュー)。
by Hikaru Nomura

 

『Endless Legend – Tempest』

――俺の国奪りな妄想がEndless

開発: AMPLITUDE Studios 販売: SEGA 発売日: 10月15日 機種: PC

sonoharaゲームとは、つまるところ妄想を具現化するためのものと考えている筆者にとって、今年キッチリ楽しませてくれたのは『Endless Legend – Tempest』であった。拡張DLCとしては4つ目となるが、ゲーム性、世界観をアップデートの度にここまでガラっと変えてくれるタイトルは珍しく、プレイするたびに新鮮な妄想を楽しんでいる。4X系ストラテジーといえば、今年はあの大作タイトルがあるが、元来持っていたファンタジーならではの体験の幅広さに加え、”Tempest”による海洋関連要素で差別化を図った点で『Endless Legend』に軍配を上げたい。

「海洋関連」と聞いた時点で、「それ地雷っぽい」と大きな不安を抱いていたが、まるで開発者がドヤ顔で「そんなこと、とっくにお見通しですよ」と語ってくるような仕上がりだ。ゲームを遊ぶ時は、漫画のような展開を妄想しながら楽しんでいるのだが、想定よりも海戦や海洋に潜むクリーチャーが厄介で、「あーこの”俺の国奪りin Endless Legend”は”大航海時代編”だけでコミック10巻ぐらい費やしそう」というぐらいに、追加コンテンツに時間を費やしている。
by Yuzuru Sonohara

 

『Genital Jousting』

――幸せホルモンのセロトニンをぶっかけられた

開発: Free Lives 販売: Devolver Digital 発売日: 11月18日(早期アクセス) 機種: PC

20161226_gameoftheyear2016_ritsukokawai発売から何年経っても色褪せないゲーム体験の復刻。原作と全てのダウンロードコンテンツを所持していれば無料で配布されるという思いやり。今年の最高傑作は『Skyrim Special Edition』しかないと思っていた。そんな矢先に“彼”は現れた。カラフルな陰茎と肛門を大量に引き連れて。誇り高き戦士たちの一騎討ちであるはずのジョストは、肉体と性別の概念を超越した外性器による乱交パーティーと化した。先端から気持ちいいほどに潮を吹きながらヌルヌルと地を這う肉棒の群れは、やがて破壊と調和の均衡の末に死と再生の神竜へと姿を変える。ここにドヴァキンは屈服したのだ。

そもそもGame of the Yearの定義とは何なのか。その年にもっとも輝いたゲームのことだ。早期アクセスだろうと、ワンコインで買える価格だろうと、穴に棒を挿れるだけの内容だろうと、そんなことは関係ない。筆者にとっては間違いなく「Genital Jousting」がもっとも輝いていた。幸せホルモンのセロトニンをぶっかけられた。どんなに引きずってもすり減らない後悔の全部を潤滑液が飲み込んでくれた。気がつけば自然と笑顔になっていた。おめでとう。そしてありがとう。
By Ritsuko Kawai

 

『ペルソナ5』

――日本向けに全力投球してくれた作品

開発: アトラス 販売: アトラス、他数社 発売日: 9月15日 機種: PS3/PS4

Image Credit: PlayStation.blog
Image Credit: PlayStation.blog

『ペルソナ5』を開始した時からなんともいえない感触のよさが染み付いて離れなかった。滑らかに動くインターフェイス、アニメ表現とリアルな表現をうまく融合させたビジュアル、ステルス要素などが取り入れられながらもお約束を押さえた戦闘、そして現代社会を風刺したシナリオ。『ペルソナ5』は、日本人によって、日本人のために作られている。そう感じられる純国産ゲームだ。今やゲームタイトルは世界を視野に入れたユニバーサルなゲームデザインが主流となっているが、『ペルソナ5』は日本人の好みを研究し尽し、かつ研究したコンテンツを実現するために、潤沢な予算を投じて生まれた作品であった。

逆にいえば、対象となる客層を絞ったタイトルとも言える。気に入らない方がいるのも当然で、完全無敵のゲームではない。しかし、今や数少なくなりつつ国産RPGという舞台でこれほど日本向けに全力投球してくれる作品が存在することが嬉しい。『ペルソナ5』のような規模な作品が生まれることを期待するのは少々無茶な話ではあるが、2017年も日本のRPGの血脈を受け継いだゲームが多く生まれてくれることを祈りたい。
by Minoru Umise

 

『Hyper Light Drifter』

――新たなる流れを決定づけた一作

開発・販売: Heart Machine 発売日:  3月31日 機種: PC/PS4/Xbox One/Ouya

kasaiピクセルアートのビジュアルでトップビューの広いマップを探索していくゲームプレイは一見すると『ゼルダの伝説』シリーズそのままだ。しかしゲームデザインのスタンスやコンセプトがまったく異なっている。いっさい言葉を使わない、ビジュアルと環境のみでストーリーを語る構成、その空気を彩るアンビエント・ミュージック。その淡いムードに反するかのような、プレイヤーを殺しに来る厳しい難易度の闘い。そのふたつが結びついている。それは近年のインディーゲームの界隈で実践されてきた実験的なアートスタイルとストーリーテリングに、『Dark Souls』的な高難度のゲームデザインの合流。どちらもプレイヤー自身を試すような作りである。すでに本作のフォロワーといえる作品は開発中のインディーゲームで多数みられ、新たなる流れを決定づけた一作。
by Hajime Kasai

 

『Stardew Valley』

――「GoTYを選んでいただけませんか?」と彼らは言う

開発: ConcernedApe 販売: Chucklefish Games 発売日: 2月26日 機種: PC/PS4/Xbox One Switch

goty2016fujita私の書斎に押しかけてきたAUTOMATON編集部の面々は、私の身体をスーパーファミコンのコントローラーのケーブルで拘束した。「GoTYなんて選ばないぞ! こんなにすばらしいゲームがたくさんあるのに、一本に絞れるわけがない!」私はそう叫んだが、彼らは不気味な笑顔を浮かべ、「選んでもらわなきゃ困るんですよ」と耳元でささやいた。誰かが背後から近づき、謎のVRデバイスを私の頭部にくくりつけた。すぐに映像が投影された。それは都会での生活に疲れた私が密かに憧れてやまない、あたたかいコミュニティのなかで暮らす田舎町でのスローライフだった。気がつくと、私は田舎町の中心に位置するサロンで、結婚したばかりのかわいい奥さんと一緒に食事をしていた。「どうしたの? 食事が進んでいないみたいだけれど」と彼女は言った。「いや、ちょっと考えていたんだ」と私は答えた。「……こんなに幸せなことがあっていいのかなって」。彼女は微笑んでからこう囁いた。「偶然ね。私もいま、おなじことを考えていたの……」。それから私たちは永遠に幸せに暮らした。※『Stardew Valley』はVRに対応していません。
by Shohei Fujita

 

『DARKSOULS III』

――「君はまだゲーマーを名乗る気なのかい?」という免罪符を持って来訪するケモノ

開発・販売: フロム・ソフトウェア 発売日: 3月24日 機種: PC/PS4/Xbox One

本文では触れてないがマルチプレイのその場限りの付き合いもゲームの醍醐味だ
本文では触れてないがマルチプレイのその場限りの付き合いもゲームの醍醐味だ

内容の新鮮さとプレイ時間を単純に比べれば今年は『Overwatch』の年だったように思う。しかしどちらにするか大分悩んだが、プレイの質を考えて今年の個人的GoTYは『DARKSOULS III』にさせてもらった。僕にとって当シリーズは数年毎に現れる「ゲーマー認定試験」のようなものだ。初見を殺すという意思が明確に現れているゲームデザインは、ふと親切なゲームに慣れてしまっている自分をトライアンドエラーという、アクションゲームにおいてもっとも当たり前に要求されるべき反復行動の中に叩き込み、問題発見とその解決のプロセスを考える純粋な喜びを与えてくれる。これを無視して知らない間に「ゲーマー」ではなく「ただゲームが好きな人」になるにはまだ少し早い。もちろん、ただの自己満足なのだが、自己満足の欲求を満たす以外の目的でゲームをプレイしている人間を、僕は寡聞にして知らない。世に溢れ出る攻略情報を完全に遮断し、協力も呼ばずに一週目をクリアで一応数年分の免罪符を得た気分になれると思えばたいした労力ではないが、攻略情報も協力も「使っていいんだよ?」とぐいぐい迫ってくる制作者と、それを拒否する自分との追いかけっこの中交わされる対話はいつも得がたい思い出となる。
by Nobuhiko Nakanishi

 

『TIME Locker』

――リアルタイムの要素をなくしてもいい

開発・販売: sotaro otsuka 機種: iOS/Android

goty_timelocker私のGoTYは、スマートフォン向けに制作されたシューティングゲーム『Time Locker』。当サイトでも紹介済みだが、現在はiOS版に加えてAndroid版の配信や新キャラ追加などの進化を続けると共に、日本におけるインディーゲームの祭典「INDIE STREAM AWARD 2016」で大賞を受賞、AppleのApp Storeで主催された「Best of 2016」で次点として選ばれるなど、各所で評価されている。

このゲームを選んだ理由は、自分のSTGに対する考え方を根本からくつがえされたため。STGには、敵を速攻で次々と破壊していくことで味わう爽快感や、大量かつゆっくり近づいてくる弾幕を恐怖を受けながら避けるスリルなど「速度」が重要な要素の一つだと考えていたが、本作は速い・遅いどころか「リアルタイムの要素をなくしてもいい」というものだった。

その概念を先に見せたのは『SUPERHOT』だが、STGに取り込んで、弾避けや爽快感などを他のSTGと同じような感覚で楽しめる。そこに衝撃を受けたということで選ばせてもらった。
by Takashi Tsukasa

 

『RunGunJumpGun』

――死にゲー・ラヴァーたちをうならせる

開発: ThirtyThree 販売: Gambitious Digital Entertainment 発売日: 9月1日 機種: PC/iOS/Android

goty_2016_ishii今年一番というよりはサプライズ・オブ・ザ・イヤーと呼ぶべき作品。ガトリングガンのような重火器をぶっ放しながらも繊細な操作が求められる強制横スクロールのランナー系ゲームであり、鬼畜度はA+。まったくノーマークだった本作を購入する気にさせたのは、そのサイケデリックかつレトロなビジュアル。掴みはOK。実際に遊んでみると、プレイヤーの神経を研ぎ澄ませトランス状態へと誘うヒップホップ風味のエレクトロサウンドが筆者を病み付きにした。銃撃音とBGMが重なることで心地良いリズムが生まれ、失敗しても曲のドライヴ感は損なわれることなくリトライ地点までスムーズに推移する。ステージをクリアするまで勢いは失われず、リブ・ダイ・リピートし続ける。そのコンスタントなリズムを活かしきるステージ構成も見事。入念に計算し尽くされた高難度なレベルデザインに理不尽さはなく「必ずやクリアできるはず」と挑戦し続ける気にさせる。 とくに精密機械のような操作を求められる終盤ステージは必見だ。PCとモバイル両方の死にゲー・ラヴァーたちをうならせるだろう。ローカライズも本作の世紀末的な台詞回しをうまく表現し直している。当ジャンルにおいては文句のつけようがない出来栄えなのだ。
by Ryuki Ishii

 

『INSIDE』

――圧倒的な体験の塊となって脳裏に刻み込まれる

開発: Playdead 販売: Playdead 発売日: 6月29日 機種: PC/PS4/Xbox One

001本作をプレイし始めてまず感じたことは「これ、『LIMBO』と同じ…?」という軽い落胆だった。2014年の発表以降、公開された情報の中には開発元Playdeadの前作『LIMBO』を彷彿させる部分はあったものの、まったく別のゲームになるのではという雰囲気も感じられた。なにも同作が気に入らなかったわけではない。むしろ高く評価したからこそ、彼らの新しい作品への期待感を持っていたのだ。結果的に本作は前作と同じスタイルのゲームだったが、その落胆した気持ちは次第に消え去っていく。

誰も何も語ることはないが、その物語を必死で訴えかけようとしているかのような世界観。その焦点は決して定まろうとはせず、クリア後もずっと考えさせられる。そして、その世界観を包み込む音とディテール。その精緻な仕事は画面の隅々にまで行き渡るもので、ずっと聴いて触れていられる。それらは圧倒的な体験の塊となって脳裏に刻み込まれる。前述したようにこれは『LIMBO』と同じスタイルだが密度や深度が桁違いだ。そしてエンディングまで導くペース配分も申し分ない。その体験こそがすべてであると感じるため、ネタバレはしたくなく抽象的な説明になってしまったが、今年プレイした中で最も強く印象に残っている。
by Taijiro Yamanaka

 

『ABZU』

――ただただ「海」そのものを描くという異常な情熱

開発: Giant Squad 販売: 505 Games 発売日: 8月2日 機種: PC/PS4/Xbox One

ss_b1038245a188f63c24a8112b7a36311e3d851935-1920x1080とあるライターとの打ち合わせ。「“泣いてしまった”“涙が止まらない”なんて用いるのは、くだらないレビューだなあ」という話をした。ずっとその話がこの忙しい年の瀬まで引っ掛かっていて、この作品をGame of the Yearに挙げるべきか否か迷っていたのだが、やっぱり今年の私のGoTYは『ABZU』だ。だって泣いちゃったから。

私が好きになった作品は、いずれもゲームメカニックやデザインが物語やテーマと巧みに絡んでいる。『Life is Strange』の時を巻き戻すパワー、『The Vanishing Ethan Carter』の操作キャラクターの正体、『Brothers – A Tale of Two Sons』の最後のシーン、『The Swapper』で自分の存在をコピーペーストする寒々しい体験。だが『ABZU』にはそういった巧みな手法は見られない。『風ノ旅ビト』のアートディレクターだったMatt Nava氏が、“海”というテーマを掘り起こし、それをビデオゲームというフォーマットに落とし込んだ作品である。もしNava氏が映像作家だったら映像作品として世に出たかもしれないし、彼が小説家だったら小説になっていたかもしれない。海を別の手法で描ける・書けるのなら、『ABZU』がビデオゲームである必要は、突き詰めるとどこにもないのだ。

ただそういった論理的な考えを張り巡らせる暇もなく、時にエンターテイメント作品の単純かつ圧倒的な熱量は、人の感情を極限まで揺さぶる。『ABZU』には唸るようなストーリーも、考察してしまうような世界観も、革新的なゲームプレイもない。だが、ただただ「海」そのものを描くという異常な情熱があり、各種の開発技術や表現技法が駆使されている。だから「綺麗だ」「荘厳だ」「恐怖だ」といった言葉しか出てこない。正直、困ってしまう。プレイするものなのか体験するものなのか、ビデオゲームの枠が広がりつつある昨今、この苦悩は今後も続くのかもしれない。『ABZU』は私の中にある「ビデオゲームとはこういうものだ」という壁を水のようにすり抜けて、心に一撃を食らわせてしまった。これをGoTYに選ぶことはまだ私の脳が拒絶しているが、心はもうひれ伏してしまっている。
by Shuji Ishimoto

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