ルートボックスが規制されても大して困らない。『RDR2』『GTAV』などを主力とするTake-TwoのCEOが自身の姿勢を示す
Take-Two Interactiveといえば、Rockstar Gamesと2K Gamesという2つのパブリッシングレーベルを傘下に置く巨大企業。そのCEOであるStrauss Zelnick氏は、20世紀フォックスのプレジデントおよびCOO、BMG EntertainmentやCrystal DynamicsのCEOなど、映画・音楽・ゲームとさまざまなエンターテインメント業界にてキャリアを積んできた経営者である。実業家として活躍しつつも、60代ながら日々のワークアウトにより強靭かつ若々しい肉体を維持していることでも知られている。
そんなZelnick氏はここ最近、ルートボックスやF2Pモデル、ストリーミングやサブスクリプション、SteamやEpic Gamesストアのレベニューシェアといったゲーム業界のホットな話題について積極的に自身の意見を語っている。『レッド・デッド・リデンプション』『グランド・セフト・オート』シリーズなどの成功により強固な基盤を維持しているTake-TwoのCEOは、ゲーム業界で起きている変化をどのように捉えているのか。本稿ではZelnick氏の発言を追っていく。
ルートボックスが規制されても大して困らない
※Zelnick氏はビジネスの会議や家族との時間と同じだけ日々のトレーニングを大切にしており、何か用事ができたからといってキャンセルしたりはしないという
偶然性により提供アイテムが決まるルートボックスを巡っては、ベルギーやオランダで賭博法違反と判定されるケースが出たり、App Store/Google Playがアイテム提供割合の表記を義務付ける自主規制を始めたりと、規制に向けた機運が高まっている。米国においては5月にルートボックス規制に向けた法案がJosh Hawley上院議員より提出された。業界団体ESAが、法案の内容は実際のゲームおよびゲーム業界の仕組みを反映したものではないと異議を唱える中(USGamer)、Take-TwoのZelnick氏は2019会計年度第4四半期の投資家向け業績報告にて、ルートボックス規制はそれほど懸念していないと回答している(PC Gamer)。同社の業績に特筆すべき影響を及ぼさないからだ。
「ルートボックスによる収入は、前会計年度全体の3%にもおよびません」。Take-Twoほどの巨大企業ともなると「3%」でも数十億円規模の売り上げになるが、割合としてはやはり低い。同社収入の39%はゲーム内少額課金やDLCによる継続的収入であるが、ルートボックスはそのごく一部なのである。
EAを筆頭とした大手パブリッシャーの多くが、ルートボックスの販売により莫大な収益を出している中、Take-Twoはルートボックスによるマネタイズに頼っていない。現在宣伝に力を入れている『ボーダーランズ3』に関しても、ルートボックスは実装しないと公表されている(関連記事)。「(ルートボックスの仕組みは)とくに問題はなく、合理的なメカニックだとは思いますが、私たちのビジネスのごくわずかな割合を占めるにすぎません」。
Pay to Winと呼ばれることの多い『NBA 2K』シリーズを抱えるなど、消費者からマネタイズ手段が懸念視されているタイトルもあるが、少なくともルートボックスを排しても、大手パブリッシャーは十分に生き残れることを示しているだろう。
F2Pに力を入れるくらいなら、ルーレットに賭けた方がマシ
※Zelnick氏にとって筋トレはゴルフのようなもの。部下との交流、取引相手との商談。一緒にワークアウトしていると相手の本性が見えてきやすいとのこと
「Bernstein 35th Annual Strategic Decisions Conference」にてZelnick氏は、基本プレイ無料のゲームに関する考えを述べた(GameIndustry.biz)。売り切り型のゲーム(プレミアムモデル)と基本プレイ無料(F2P)のゲームは共存可能であると述べつつも、Take-TwoとしてはF2P市場に本格参入する気はないと語っている。
Take-Two傘下ではF2Pタイトルの販売も行っているが、主力となるのはRockstar Gamesの『レッド・デッド・リデンプション』『グランド・セフト・オート』や、2K Gamesの『ボーダーランズ』、2K Sportsの『NBA 2K』といった売り切り型のタイトルだ。Zelnick氏は、莫大な収益をあげているF2P市場に本格参入しない理由を2つあげている。
ひとつ目は、F2Pタイトルでは多くの場合、顧客の20%以下からしかマネタイズできない。お金を支払わない顧客の割合が高く、サービス提供・維持にコストがかかりすぎるという理由だ。ふたつ目は、F2Pタイトルのヒット率が極めて低いことがあげられている。ゲームだけでなく映画業界でもキャリアを積んできたZelnick氏によると、映画であれば大作の成功率は約30%だが、ゲームであれば80~90%もの確率でヒットさせることができる(少なくともTake-Twoであれば)。
だがF2Pとなると話は別。ヒットするのはわずか1%だという。それならば「ベガスにいってルーレットの番号ひとつに賭けた方がよい」と、ビジネスとしてリスクが大きすぎると説明している。中規模のF2Pゲームをつくるのに1作あたり5000万ドル(約54億円)かかると想定すると、ヒットを生み出すには50億ドル(約5400億円)も投資せねばならず、非現実的だとZelnick氏は語っている。
Zelnick氏にとって「F2Pに手を出さないのか?」という問いは「宝くじの購入をビジネスにしてはどうだい?」と聞いているのと同等。宝くじを当てれば莫大な収益をあげられることは間違いない。だが、それはビジネスと呼べる代物ではないと意見している。F2Pに本格参入するならば、まずは十分な勝算があると確信できるようなアプローチを見つけねばならないのだ。
『フォートナイト』の流行で揺るぐことはない
続いて「Baird’s 2019 Global Consume, Technology, & Services Conference」に参加したZelnick氏は、質疑応答コーナーにて『フォートナイト』の成功と、ゲーム業界に与えた影響について持論を語った(GameIndustry.biz)。『フォートナイト』『Apex Legends』といったF2P作品の成功が、売り切り型タイトルの価格帯に影響を及ぼすかどうか聞かれたZelnick氏は、「両者は別のビジネス」として否定。F2Pかどうかは問わず、ひとつの作品の成功が他の作品の成功に影響を及ぼすことはないと答えた。成功するだけの品質がともなう作品は、そもそも他作品とは大きく異なるケースが多いからだ。
こうした問いが生まれた背景には、『フォートナイト』が社会現象となり莫大な収益をあげたことで、他作品にしわ寄せがいっていると報じられてきたこと(Bloomberg)。『フォートナイト』が業界の流れを変えつつあると伝えられたこと(The Verge)などがあげられる。Zelnick氏の回答は、そうした懸念を払拭しようとするものだ。
「『フォートナイト』現象はゲーム業界に影響を与えましたかと、ときおり聞かれますが、答えはノーです。少なくとも、私たちには全く影響を与えていません。『フォートナイト』が成功をおさめている間にも、私たちは大ヒット作を出すことができました。『フォートナイト』は私たちが出すタイトルとは部類が違います」。
また「『フォートナイト』の成功を、自社タイトルの不振の言い訳に使っている企業もあるのではないでしょうか」「エンターテインメント業界で優れた作品を出せば、人は集まってきます」という感想も述べている。
ストリーミングには期待大
6月7日にはストリーミングサービス「Google Stadia」の詳細情報が発表されたばかり(関連記事)。Zelnick氏はストリーミング技術には強い関心を示しており、十分な品質でサービス提供できるのであれば、とても魅力的であると述べている(Gamasutra)。Take-Twoの作品を遊ぶためのデバイスを持たない潜在顧客に向けてゲームを届けられるというのは、高スペックなデバイスを要するAAA級タイトルのパブリッシャーにとっては顧客拡大のチャンスだ。
そうした見解を示しているのは、Take-TwoのZelnick氏だけではない。UbisoftのCEOであるYves Guillemot氏もストリーミング技術に同様の可能性を感じている。AAA級タイトルをより多くのプレイヤーに遊んでもらえるだけでなく、より高度で新しいゲーム体験を届けられるようになるはずだと、昨年10月に語っていた(関連記事)。
サブスクリプションには懐疑的
一方、サブスクリプション型のビジネスについては、映画や音楽業界ほどの大きなインパクトは残さないだろうと予測している。リニアなエンターテインメントと比べて、インタラクティブなエンターテインメントであるゲームの消費傾向は異なるからだ。
Zelnick氏いわく、米国の家庭では1か月あたり150時間ほどを映画やテレビ番組の視聴に費やすが、ゲームは1か月あたり45時間以下。さらに映画やテレビ番組であれば1か月の間に何十もの作品を消費することになるが、ゲームの場合、45時間で遊ぶのは1~3作品のみ。しかも現代ではライブサービス型のゲームが増えており、同じ作品を何か月も続けてプレイする傾向にある(つまりゲームを個別購入した方が安上がりになる)。そうするとサブスクリプション型の契約は、消費者にとって良い条件とは言えず、あまり利用されないのではないか、というわけだ。
消費者だけでなくパブリッシャーにとっても、十分な収益を生み出せるのかは未知数である。特にTake-Two傘下の『レッド・デッド・オンライン』や『グランド・セフト・オート:オンライン』は継続プレイを促す作品であり、消費者にとってサブスクリプションによるお得感は感じにくい。そう考えると、Take-Twoの主力タイトルにとってサブスクリプションは最適なビジネスモデルではないという考えは理解できる。
Zelnick氏は2018年時点で、サブスクリプションについて「私たちの主力商品には向いていません。旧作であれば、おそらく当てはめられるでしょう。そうしたビジネスに参加する気はあります。ただ自社でサブスクリプションサービスを作ることは、おそらくないです」と語っていた(GameIndustry.biz)。そうしたスタンスは今のところ変わっていないようだ。
ゲーム配信プラットフォームのレベニューシェア
またSteamやEpic Gamesストアといったゲーム配信プラットフォームのレベニューシェアについても持論を展開している。Epic Gamesストアは「開発者取り分88%」を宣伝文句に昨年末に新規参入し、業界の注目を一気に集めていった。それまで業界スタンダードとなっていた「開発者取り分70%」を崩しにかかろうとする競争相手が出始めたことは、業界全体の変化につながるだろうとZelnick氏は予測している。寡占状態にあったこれまでの市場とは違い、競争相手が増えることで開発者の取り分は今後も上がっていくはずだという。
「あなたが新しく配信プラットフォームの運営を始めるとして、取り分について私たちTake-Twoと折り合いをつけることができなかったとします。するとあなたは、業界一のタイトルである『グランド・セフト・オート』や、業界トップクラスの『レッド・デッド・リデンプション』、スポーツゲームでは米国最大の『NBA 2K』。そのほか『WWE』『シビライゼーション』『ボーダーランズ』『バイオショック』といったメジャータイトル抜きで、有力なサービスを築き上げなければなりません。がんばってくださいね」。
配信プラットフォームの選択肢が増えることで、こうした交渉が可能になっていく。なお配信プラットフォームについては、2K Gamesが販売している『ボーダーランズ』シリーズの開発元Gearbox SoftwareのCEO Randy Pitchford氏も、別の立場から雄弁に語っている(関連記事)。
このように何かと発言する機会の多いZelnick氏。ユーザーにとって偶然性の強いルートボックスの販売を控えめに抑え、成功率の低いF2Pモデルには積極参入しない。『フォートナイト』および特定ジャンルの流行などでは揺らがない確実なヒットに巨額投資し、1本のゲームを長く遊ぶというゲーマー像を想定して、サブスクリプションサービスには懐疑的な姿勢を取る。こうしたZelnick氏の発言を追っていくことで、大作づくりを基盤としてどっしりと構えるTake-Two CEOというイメージが鮮明になってくるのではないだろうか。