Steam向け和風3Dホラー『影廊』売上は開発者の「想定以上」。「能面」から逃げ続ける恐怖体験が実況界隈などを賑わす

城間一樹氏は3月10日、『影廊』をSteamにて配信開始した。『影廊』はUnreal Engine 4で描かれる和風3Dホラーゲーム。グラフィックの美しさとゲームプレイの怖さが現在クチコミを呼び、じわじわと人気を博している。

個人開発者である城間一樹氏は3月10日、『影廊 Shadow Corridor』をSteamにて配信開始した。価格は820円。『影廊』はUnreal Engine 4で描かれる和風3Dホラーゲーム。フリーゲームとして配信されていたが、このたび大幅なボリュームアップがはかられ、有料版としてSteamにて配信開始された。追加要素としては複数のステージ追加やストーリー導入、さまざまな敵の追加などされており、実に無料版の「10倍」のコンテンツ増加がはかられている。

 

国産3Dホラーゲーム

『影廊』は、一人称視点のホラーゲームである。舞台となるのは、少し昔を感じさせる日本。目の前に現れた猫に、誘われるように路地裏を進んでいくうちに、怪しげな場所へと迷い込む。見覚えのない暗がりの廊下を歩くうちに、怪しげな能面をかぶった人物に付け狙われていることに気付く。プレイヤーは能面の徘徊者やさまざまな危険から逃れ、元の世界へと戻ることを目指す。

本作は、探索型のホラーゲーム。それぞれ異なるタイプの迷宮らしき場所から、プレイヤーを追いかける脅威から逃れ、勺玉と呼ばれるアイテムを一定数入手し出口に辿り着き、迷宮からの脱出を目指す。本作の主要ステージのマップは、自動生成される形式がとられており、入るたびに構造が異なる。そしてプレイヤーは、徘徊者を倒すことができない。できることは、部屋の物陰に隠れたり、ところどころ配置されているカゴに逃げ込んだりすること。そのほか、敵の気をそらす爆竹などさまざまなアイテム拾い用い、なんとか徘徊者から逃げながら勺玉を集めるのだ。

『影廊』は、無力なプレイヤーとして逃げる点と、構造のわからないダンジョンを探索するという要素が融合されている。「無力感」と「構造がわからない不安」という体験が巧みに組み合わさっており、プレイヤーの恐怖感を強く引き起こすことに成功している。そして和を基調として作られた世界観は、没入感をもたらしているだろう。

Steam版はまだバグが残されている点、そして一部ステージの難易度が高い点により否定的な意見も寄せられているが、前述した恐怖体験が好評を博し、YouTubeやTwitchなどのホラーゲーム実況者の間でも、しばしば話題にのぼっている。発売から1週間が経過したということで、本作を手がける城間氏に手応えやお話をうかがった。

 

売上は「想定以上」

まず『影廊』Steam版の反響についてうかがったところ、売り上げは想定していた以上のペースで、非常に驚いていると城間氏はコメント。主に日本、韓国でとても大きな反響を受けたと語った。特に、YouTubeを中心としたゲーム実況動画では国境を越え多くのユーザーに取り上げられたという。フリー版『影廊』時代から同作は一定の支持を得ていたが、有料版をリリースすると動画が投稿され、その大きな反響にはとても驚いているとのこと。しかしながら、Steamレビューでは、ゲームが難しすぎるという声もあることも認めている。易しい難易度も用意しているものの、テストプレイは開発者一人で行っていたため、要求するプレイヤースキルが高くなってしまったと振り返っている。

また本作は820円という格安の価格設定も、高評価のひとつとしてあげられているが、この価格設定については理由があるとのこと。『影廊』フリー版は、これまで未完成のゲームが多かったことから、「まずは、何が何でも1本ゲームを完成させる!」という強い意志から制作したという。そして、『影廊』は城間氏が世に出した初のゲーム作品となったそうだ。

Steamの「話題の新作」セクションにも顔を出す

 

より多くの人に伝えるための820円

そして、次の目標として設定したのが、自作ゲームをSteamで販売することだったという。『影廊』フリー版は多くのユーザーの支持を得ながら、アップデートを繰り返しており、プレイヤーの方々の声に後押しされる形で、『影廊』を有料版として出せるようなクオリティまで高めようと決意したそうだ。『影廊』は氏にとっての出世作であり、多くのプレイヤーやゲーム実況者様との繋がりを作ってくれた、とても思い入れのある記念碑的な作品であるとコメント。より多くの人にプレイしてもらいたいという気持ちから、この価格設定にしたそうだ。

なお今後のコンテンツの追加予定について尋ねたところ、「クリアタイムやスコア等のランキング機能は追加したいと思っています。」と語った。本作においてはクリア時間3分を叩き出すような、熱心なプレイヤー方もいるようで、そうしたプレイヤー向けにも追加の機能を検討しているという。またロシア語等の追加を予定しているものの、そのほかの追加コンテンツの予定はしていないとのこと。

要求スペックは高いものの、映像クオリティは高い

 

開発は基本的にひとり

本作は、「3Dモデリング、プログラミングを全て一人で行う」と公式サイトに掲載されている。そうした部分について尋ねてみたところ、音声やイラスト、翻訳等は外注しているが、それ以外は全て氏一人で制作したとコメント。3Dモデリングやプログラミングや脚本、外注した素材の組み込みなど、基本的には多くの分野において城間氏がひとりで手がけたそうだ。

自動生成マップについては、一から試行錯誤して作ったという。開発初期は完全な自動生成を目指したのですが、技術が追い付かず断念したそうだ。色々試しましたものの、あらかじめ作っておいた固定のエリアをランダムに配置するという形で落ち着いたとコメント。結果的に、プレイすればするほど対応できる状況が増え、プレイヤーが成長を感じられるような形になって良かったと振り返る。

敵やギミックのデザインは、色々な作品から影響を受けているそうだ。「『Left 4 Dead』のウィッチや、『サイコブレイク』の回転する刃の仕掛けなど、ゲームをプレイしてると「xxxっぽい!」というのが沢山見つかると思います。」と話してくれた。ゲーマーである城間氏だからこそ実装できたアイデアがいくつもあるのだろう。

 

ゲームで生活することに現実味

なお氏は、前出の公式サイトにて「大学院を中退後、フリーターとして働きながら独学でゲーム制作を学び、個人制作を開始」と掲載している。現在どのようにゲームを開発しているのか訊いたところ、早朝から昼までの6時間パートとして働き、その収入のみで生計を立てているとのこと。午後の時間は、制作時間にあてているようだ。今は実家に住んでおり、それが生計を助けている部分も大きいという。氏にとっては、『影廊』の製品版が初の有料ゲーム。「売り上げも好調でゲーム制作で生計を立てるということが、発売から1週間にして現実味を帯びてきました。」とあらためてその反響を語った。

なお、コンソール版の可能性については「『影廊』を遊びたいけど、ゲーミングPCを持っていないというお声を沢山頂くので、コンソールへのリリースも視野に入れています。」と回答。まずはPS4でのリリースを検討しているとのこと。未だ検討段階であるようだが、売上がさらに伸びていけば、その可能性は高まっていくだろう。

穏やかな口ぶりで『影廊』の反響を語ってくれた城間氏。氏の人柄の良さはTwitterからも感じられるだろう。一方、『影廊』はというと、極めていやらしい配置や演出をもってプレイヤーを苦しませる高難易度ゲームなのだというから、そのコントラストは非常に面白い。不具合や難易度設計など荒削りな面もありながら、アート・ストーリー・ゲームデザインなど多岐にわたる面で、氏のクリエイターとしての確かな才能を感じさせる『影廊』。ユニークな恐怖体験が味わいたい方は、ぜひ同作を購入してみてはいかがだろうか。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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