アクションゲームを手がけた「職人」たちに聞く、アクションゲームの作り方。第二回『LA-MULANA』楢村匠氏
アクションゲームを作りたいというユーザーに向けて、アクションゲームを手がけたクリエイターに、その極意を聞くという本企画。弊社アクティブゲーミングメディアが販売に携わり、11月5日(月)までSteamウィークリーセール中の『アクションゲームツクールMV』をプロモーションするという主旨はあるものの、それにとらわれずアクションゲームの「職人芸」をお聞きし、願わくは何かのヒントしていただければ幸いだ。第二回のゲストは、『LA-MULANA』シリーズを手がける楢村匠氏。ちなみに前回のヲサ田サム氏の解説はこちらからチェックしてほしい。
楢村匠氏は、「ゲームが2D のまま進化していたらどうなっていたか」をテーマに、こだわりを持ったゲームづくりをするインディーゲーム開発チームNIGOROのボス。ゲーム業界未経験者にも関わらず、日本インディーゲーム界をけん引し続けてきた男。代表作である遺跡探索アクションゲーム『LA-MULANA』で世界中のゲームファンを罠にかけて苦しめ続けている。2019年春には、その続編である『LA-MULANA 2』の家庭用ゲーム版を発売予定。
『LA-MULANA 2』
『LA-MULANA 2』は、現代的に表現すると、いわゆる“メトロイドヴァニアスタイル”のアクションゲームだ。プレイヤーはジャンプアクションを駆使して、広大な遺跡を探索する。アクションゲームでありながら、アドベンチャー要素も強く、石碑や背景の変化、聞こえてくる音や罠など、さまざまな情報をヒントに、立ちはだかる謎を解く。もちろん、アクションゲームとしても緻密に設計されている。遺跡にはさまざまな敵、そしてガーディアンと呼ばれる巨大モンスターも待ち受ける。うまく行動パターンをよく観察し、敵の攻撃を避け、攻撃を叩き込む。頭脳と腕前の両方が求められるハードコアな作品なのだ。インディーのアクションゲームのトレンドを語る上では、探索型アクションは切り離せない。楢村氏はどういった点に意識して『LA-MULANA 2』を作り上げたのだろうか?
アクションゲームの基盤を作るのに必要なこと
プレイヤーの操作するキャラを完成させることです。その要素は多岐にわたります。基本要素のジャンプの挙動やボタンを押してから攻撃判定が出るまでの時間や歩くスピード。攻撃方法は剣か、銃か、ジャンプしての踏みつけか。パワーアップ要素は何があるか。システムにまで影響を与えるような変化はあるか。もちろんそうは言っても、こういうものは作っては試して、遊び心地や手触りまでを含めて、ゲームを作りながら納得行くまで作りこむことになります。ゲーム中常に表示されていて、プレイヤーの操作を受け付けるものがどんな特徴を持っているかで、作るアクションゲームの特徴が決まります。さらにいえば、プレイヤーキャラの性能が決まっていなければ、マップを作ることもできないはずです。
『LA-MULANA』のような探索アクションだとより影響が出るのですが、例えば制作中にプレイヤーキャラのジャンプ距離を変えたりすると、ジャンプしても届かなくなり、既存のマップが全て作り直しになります。それだけで済めばいいですが、完成まで気づかないような誤動作を残したままになったりします。
理想論ではありますが、アクションゲームとしての基盤・特徴を決めて、どんなステージを用意するかまで最初に考えたほうが良いです。氷のステージを作るのであれば、プレイヤーキャラに滑る動作を用意しておかなければなりませんし、同じ仕組みを敵キャラにまで流用できれば効率も上がります。最初に全部考えると言ってもアイディアを全部突っ込むのではなく、この段階で自分が決めたゲームの特徴にそぐわないものは外したりしてアクションゲームとしての面白さを磨き上げるように計画を立てます。
何から作っているか
先に書いたとおり、プレイヤーキャラから作ります。それと並行してテスト用のマップを作ります。自分がプログラマーと組む以前は、ゲームのアイディアのみを考案していて、仕様まで考えることはありませんでした。プログラマーと組むことで、ゲームを作るには、アイディアだけでなく正確な仕様を決めなければならないことを学びました。具体的にいうと、ジャンプの初速や挙動、対空時間や減速率などは決めておかなければなりません。決め方がわからないのであれば、プレイヤーキャラの実装段階で、自分の頭の中にあるジャンプ動作になるように試行錯誤するだけでもかまわないです。さらに、ジャンプ中に壁にぶつかったらどう処理するかなども重要です。ストンと落ちるのか上昇力だけは残るのか、落下中にも左右の制御を受け付けるのかなどなど。プレイヤーキャラの仕様は、アクションゲームとしての手触りだけでなく、マップづくりにも影響する部分です。
テスト用のマップというのは、1画面だけ、床と壁があるだけの簡単なマップで、そこでプレイヤーキャラの動作チェックやオブジェクトの仮実装を行うためのマップのことで、チェックに必要な段差やオブジェクトなどを用意する程度のものです(※下記画像参照)。それでも、ここでマップの仕様が決まれば、後々マップを作る方法まで決められます。後半のステージに坂や氷と言った要素がある場合も、この段階で実装する方法ぐらいは決めておくのが理想です。ゲームオブジェクトの中で最も複雑な作りになるのは、間違いなくプレイヤーキャラです。作り込んだ後に一部修正といったことをするのが難しいんです。
全体マップの設計
自分の場合、アクションゲームに限らず最初に決めるのは世界観です。次に決めるのがラストダンジョンやラスボスの位置。『LA-MULANA』は探索アクションなので、大きな全体マップの中でスタートとゴールを決めてしまうわけです。それだけでなく、ラストダンジョンの場所や設定でどれだけプレイヤーを驚かせるかを考えるのが好きです。そうしたことを考えながらマップを作っています。探索アクションは普通にアクションゲームを遊ぶよりも時間がかかります。だからこそ、スタートからラストまでの時間の中でどこに山場を、何個用意するか。その山場にもさまざまなタイプを用意する。それらの山場の間の時間をどのぐらいにするか、それを元に山場をマップのどの部分に配置するか。ここまで考えると、マップの中で何度も通る場所や一度しか通らない場所などが見えてきます。
山場というのはイベントであったり、重要アイテム、またはボス戦などさまざまです。探索アクションのマップ計画で重要なのはこれらの山場を完全に隠すのではなく、「いつかあそこに行く時が来る」と感じさせる構造にすることです。具体的にいうと、チラリと見えるのに絶対届かない場所を作るといった感じです。その見せ方にどれだけバリエーションを増やせるかで長くプレイヤーをワクワクさせられるかどうかが決まります。
敵の強さをどのように設定しているか
『LA-MULANA』は探索アクションであると同時に謎解きアドベンチャーでもあります。なので、他の探索アクション以上に「同じ場所を迷ってウロウロする時間が長い」と予想しました。そうした点を踏まえ、雑魚キャラは「ガチャガチャと力押しでも通過できる」程度の強さにすると決めました。何度も通る場所には、一定の行動パターンを取らなければ倒せないような、プレイヤーに固定の行動を求める敵が出ないようにしています。初めて対決するときはそういうものも楽しい要素ですが、何度も繰り返されると退屈どころか苦痛にさえ思われます。
もちろん全部が全部倒すのが容易な敵ばかりを配置するわけではありません。一度しか通らないような場所にはいやらしい敵を配置することも重要です。この場所は「難しそうだ」=「クリアすると何かあるはずだ」と思わせることもできます。あと前作ではあまり深く考えていなかったんですが、『LA-MULANA2』でさらにボス戦へのリトライポイントをどこに置くかもじっくり考えました。
タイル配置時の工夫
デザイナーあがりのこだわりとして「タイルで組んでいるように見せない」よう工夫しました。壁などは仕方がないですが、そこにつける装飾部分まで32*32ピクセルといった四角の中にパンパンに要素を詰め込むと、遊ぶ人にも32*32ピクセルのグリッドが見えてしまいます。自分はタイルの数を無駄に使ってでも大きな円や斜めの要素、数ドットの出っ張りなどを必ず用意します。広い面積に同じタイルが並んでいるように見えるのもイヤです。壁のタイルを作ったとしても、傷の形が異なるものを必ず複数用意してまばらに配置します。
『LA-MULANA』はそういった部分を徹底的にこだわっていますが、たとえそこまでこだわらないにしても広い範囲でのタイルの並べ方、変化の付け方、アクセントのつけ方はマップ制作者のセンスが思いっきり出てしまいます。『LA-MULANA』に限って言えば、舞台が古代遺跡なので建物としての不自然さを感じさせないために「空中に浮いたような床」や「石で作っているとしたら絶対に崩れそうな大きな出っ張り」みたいなものは必ず柱で支えるようにしてあります。こんな部分に気づく人はほとんどいないかもしれませんが、徹底すれば気づかないまでも、何かしら心に残る雰囲気を出せるものです。それと、壁と背景が一目でわかる組み方・色使いも基本中の基本です。
プレイヤーを迷わせないために
これまで自分はプレイヤーを迷わせるようなゲームしか作っていませんが、基本的な考え方は変わらないと思います。視線や方向を誘導するというのはデザインの基本技術です。最近では、説明書を読まなくても遊べるのが良いゲームという意見が多いので、最初のステージに操作案内が置いてある、必要な場所に来ると浮かび上がるという誘導が多くなっている気がします。『LA-MULANA』では雰囲気を壊すのでその手の誘導は使っていません。ジャンプや壁を壊すといった基本動作をしなければ絶対に越えられない場所を最初の方のマップに配置することはもちろん、画面の中で目立つものを置く、動くもので目線を誘導するなども考えます。これらの要素に強弱をつけることで順番のある誘導もできます。
あとは『スーパーマリオ』の普及のおかげか、ほとんどのプレイヤーは右方向に進もうとするので、こうしたゲームプレイの習慣も誘導に使えます。探索型アクションの『悪魔城ドラキュラ』作品なんかは、だいたい全体マップの左端からスタートします。マップ中央からスタートさせると、「右に行った後に左に行こう」というような誘導もできます。これを左右逆に誘導したければ、右側に進むと危険だと感じるような要素をおけばいいわけです。
『LA-MULANA』ではゲーム中に2回ぐらいは全く誘導をしない重要ルートを仕込んであります。これは進む場所がわからなくなり、全マップをしらみつぶしに歩くと見つかるような場所にわざと置いてあります。「散々迷った挙句に偶然見つける」ように仕向ける、これもある意味誘導と言えると思います。
アクションゲームを作りたい人のために
誰がなんと言おうとアクションゲームは、ゲームの花形です。コントローラーを触れば絵が動く。ゲームの面白さの根っこが、一番活かされるジャンルだと思います。アクションゲームを作ることができる環境はたくさんあります。ありますが、これまでは英語版が基準でなかなか日本語の情報が得られないもの、あるいはプログラムありきで難しいものなどが主流でした。その点、『アクションゲームツクールMV』はプログラムが必要なく、インターフェースもサポートも日本語、さらにかなり自由度が高いときています。ただこの自由度が高いというのは危険でもあります。ざっと説明された機能を見る限り、2Dアクションゲーム黄金期である8bit末期から16bit時代のようなゲームは、ほぼほぼ作れそうなツールだと思います。
しかしこの黄金期というのは斬新なアイディアが生まれた時期ではなく、いろいろな要素を組み合わせていた時期だったと思います。サイドヴューだったのにダンジョンに入ると見下ろしになったり、ボス戦だけはカードバトルといった具合で。先に述べたとおり、アクションゲームはプレイヤーキャラを作るのが一番大変です。1つのゲームに視点が違う・システムが違う場面があるだけで、この大変なプレイヤーキャラ作りを、仕組みを変えてもう1種類作ることになります。「自由度が高い」=「なんでも出来る」ということではありますが、そこはしっかりと計画立てたほうがいいと思います。引くべきところは引くのが大切です。ただし「最初は必ず簡単なものから作ってみては」とは言いません。中にはいきなり大作に挑戦してモノにしてしまう人もいるでしょうから。覚悟の問題ですね。
今後作りたいゲーム
先に「あまり盛り込むな、引くべきところは引け」という話をしておきながら、自分はNIGOROで盛りに盛り込んだゲームしか作っていません。規模が大きく中身も作り込んだゲームを作るのは楽しいですが、このままでは一生の間に後何本作れるのか心配になります。まだまだ作りたいものはたくさんあるので、せっかくだからこの『アクションゲームツクールMV』を使って小粒な作品を1人ででも作ってみようかと思います。
なお告知となるが、11月4日実施予定のデジゲー博にて『アクションゲームツクールMV』で『LA-MULANA2』にて「ラタトスク戦」を再現するデモを展示予定。『LA-MULANA2』のアニメーションは、『OPTPiX Sprite Studio』で作られており、このデータを読み込ませて、アクションゲームツクールMV上で「ラタトスク戦」を再現する。楢村氏が作りこんだ『LA-MULANA』の世界をどれほど『アクションゲームツクールMV』で再現できているのか、ぜひその目でチェックしてみてほしい。当日は14時から、KADOKAWAのデザイナーである門田氏とスペシャルゲストを招き今回の再現プロジェクトについて語るトークセッションを開催するので、立ち寄ってみてはいかがだろうか。
『アクションゲームツクールMV』とは
自在に動くゲームを作りたい。でもプログラミングは難しい。そんなあなたに贈る『ツクール』シリーズの新作(ストアリンク)。オーソドックスな2D横スクロールアクションはもちろん、ベルトスクロール、トップビュー、多人数対戦、レース、パズル、ビンポール、シューティング、メトロイドヴァニア…王道のアクションだけでなく、ホラー、アクションRPGも制作できる。自由度が非常に高い分、覚えながら理解を深めることが多いが、使いこなせれば多岐にわたるジャンルの作品が自由に作れるようになる。あなたの頭の中だけにあったオリジナリティに溢れるゲームを世界に生み出すことができるツール、それが『アクションゲームツクールMV』である。現在Steamウィークリーセール中で、11月5日までお安く購入できる。
[執筆:Takumi Naramura]
[協力:Sayuri Murabayashi(PLAYISM)]
[編集:Minoru Umise/Ryuki Ishii]