発売迫るPS4向け『スパイダーマン』の“水たまり”が思わぬ議論を呼ぶ。消えた水たまりをめぐり、ユーザーの不安と期待が交錯
コミュニティサイトRedditにて8月30日、PlayStation 4専用オープンワールドアクションアドベンチャーゲーム『Marvel’s Spider-Man(スパイダーマン)』のスクリーンショット2枚が投稿され、3万件以上ものUpvoteが投じられるほどの注目を集めている。画像は、建設中のビル内でのカットシーンの同じ場面を収めたもの。片方は「E3」、もう片方は「Release」と記載されている。E3というのは、おそらく昨年のE3 2017にて公開されたトレイラーのことを指しており、一方のReleaseは、文字通り発売されるバージョンのものと思われる。本作は、7月30日に開発完了したことが開発元のInsomniac Gamesから報告されている。投稿者は特にコメントしていないが、両者のグラフィックを比較しようという意図のようだ。
消えた水たまりの謎
これらの画像のもっとも大きな違いはというと、床の水たまりだろう。昨年の段階ではほぼ一帯が水浸しだったのが、発売バージョンでは面積が大きく減り、特にキャラクターの周辺を避けるように配置されていることがわかる。水たまりは側にいるキャラクターの姿や背景を反射して映し出すリッチな表現となっており、これが大幅にカットされた形だ。これにはRedditにて「開発を進めている間に水が乾いてしまったようだ」といったジョークまで飛び出している。また、昨年の画像の方が全体的に陰影がより強調されて立体感があるように見える。特にスパイダーマンのスーツでは顕著で、質感の違いすら感じられる。この2枚の画像の比較により、本作のグラフィックの“グレードダウン”を疑う声が集まることとなった。
この違いに気づいた人はほかにもいたようで、開発元のInsomniac GamesにTwitterを通じて直接質問。それに対して同スタジオは、この場面は水たまりのサイズを変更しただけであって、何もグレードダウンしていないと回答している。では、なぜ変更をおこなったのだろうか。当初はPC上で動かしていたが、PS4に移してみると水面の反射にかかるリソースを削減せざるを得なかったのではないかと勘ぐる声もある。しかし、これまで公開された映像はすべてPS4の実機上で動作しているものだという。また、発売バージョンのほかの場面では、水浸しの場所が多く存在することも明らかになっている。Insomniac Gamesのコミュニティ・ディレクターJames Stevenson氏は、水たまりを減らしたのはユーザビリティとアート、デザイン上の理由からで、パフォーマンスとは関係ないとコメントしている。
This tweet shows all the puddles in another area… obv we can still handle them. And it also shows how the suit reacts different to darker lighting https://t.co/nLKgc1DBjR
— Insomniac Games (@insomniacgames) August 26, 2018
では、スパイダーマンのスーツの質感の違いについてはどうだろうか。Insomniac Gamesは、これはライティングの違いに過ぎないとしている。Stevenson氏によると、このビルの場面は開発の過程で太陽の位置を変えたのだという。ライティングの当たり方によって、特に物質の質感は見え方が大きく変わるため、冒頭の2枚の画像のような違いが現れたというのが真相だったようだ。実際に発売バージョンのゲームの中でも、陽の当たり方によってスパイダーマンのスーツの質感がクッキリと見える場面もあれば、ややのっぺり見える場面もある。Sucker Punch Productionsが開発した『inFAMOUS Second Son』でも、かつてこれと同じようなグレードダウン疑惑が持ち上がったが、こちらもライティング(時間による太陽の位置)の違いが原因だったということがあった(DualShockers)。
またこのビルの場面では、太陽の位置を変えたあとに水たまりの変更をおこなったという。ビルではこのあと必ず多人数が入り乱れるバトルになるため、ユーザビリティとデザイン上の理由で変更をおこなったということは、水たまりが床全体に広がっていると、太陽の位置の変更により視認性に差し支えるなどの問題が出てきたのかもしれない。
こうしたゲームの“グレードダウン疑惑”に注目が集まるのは、E3などの大きなイベントで華々しく初披露された映像と、発売されたものとを比べて、実際に表現が見劣りすると感じられた例がこれまでにあったからだろう。よく引き合いに出されるタイトルといえばUbisoftの『ウォッチドッグス』。2012年のE3で発表された同作は、翌年にローンチを迎える次世代コンソールを見据えたゲームプレイ映像を披露しファンを興奮させたが、結果的にそれよりも落ち着いたビジュアルに留まりグレードダウンの烙印を押されることとなってしまった。これについては、発表当時はPS4/Xbox Oneのスペックが確定していなかったこともあり、最適化の結果であったことがのちに明らかにされている(Wccftech)。
グレードダウンではなく、むしろグレードアップ
今回の『Marvel’s Spider-Man』のグレードダウンについてはファンの思い過ごしだったようだが、発売前に公開された映像だけで判断するのは難しいこともあると知らしめた形となった。また、YouTubeなどで再エンコードされた映像からキャプチャすると、なおさら印象が悪く映る可能性もある。それだけに、Insomniac Gamesが技術的な話を丁寧にファンに説明したことは賢明な対応だったと言えるだろう。開発を進める過程ではさまざまな変更がおこなわれるもので、Redditでは3Dレンダリングアーティストを名乗る人物が、Insomniac Gamesが説明したライティングの違いについて言及し理解を示しているが、ファンの大多数はそうした事情はわからないのではないか。
New Spiderman screenshots appear to confirm devs claim that lighting moved – 2018 screens show different shadows but do not show downgrades – – – in fact, these screens show a lot of new details which appear to be an upgrade pic.twitter.com/l53QO9BZhq
— THE RED DRAGON (@TWTHEREDDRAGON) August 28, 2018
では本作のビジュアルには、ほかにどのような変更がおこなわれたのだろうか。今回のInsomniac Gamesの説明を受けて、ファンが街中での新旧の映像を見比べて調べた上のツイートの比較画像では、ビルの窓から覗く内部の様子に奥行きが出ており、爆破シーンはより派手になっていることがわかる。また、こちらも太陽の位置が変わっているようであるためその影響かもしれないが、建物などの質感も印象良く見える。これらの比較画像を見た人は、グレードダウンどころか、むしろグレードアップしていると感じるのではないだろうか。今回の一件は、本作がどのようなビジュアルに仕上がっているのか、不安よりも期待を高める結果となったかもしれない。
『Marvel’s Spider-Man』は、今週9月7日に発売を迎える。発売日にはアップデートが配信され、フォトモードが追加されるとのこと。ニューヨークの街を飛び回るスパイダーマンの姿を、さまざまなフィルターをかけて美しく切り取ることができるほか、スパイダーマンの目の形を変えて異なる表情にしたり、アメコミ作品らしいスタンプを貼って楽しむことも可能だ。フォトモードの追加は、本作のビジュアルへのInsomniac Gamesの自信の表れとも言えそうだ。
ちなみに、こちらはPAX West 2018にて9月2日に実施された、BioWareによる『Anthem』のパネルセッションでのひとコマ。同作のリードプロデューサーMichael Gamble氏は1枚のスクリーンショットを示し、「この場面はまだまだ手を入れることになるが、何より伝えておきたいのは、中央に見える水たまりのことだ。この水たまりは、98パーセントの確率で差し替えたり移動させたり、あるいは縮小することになるだろう」とコメントした(DualShockers)。今回の『Marvel’s Spider-Man』での一件を受けてのジョークであることは間違いなく、聴衆からも大きな笑い声があがっている。これはInsomniac Gamesを揶揄したというよりも、ゲーム開発の舞台裏を知る同業者として、今回の騒動への同情を示したのかもしれない。