ゲーム改造ツールと、ゲーム改造という行為。そしてその利用者が果たすべき義務 (追記)
半年間にわたる発売延期を経て先月無事発売を迎え、順調にセールスを伸ばしている『モンスターハンター4』。もちろん弊誌スタッフにも、原稿そっちのけで夜な夜なオンラインに繰り出す不届きなハンターが在籍している。
そんな『モンスターハンター4』(以下『MH4』と呼称)であるが、先日発売元のカプコンからこんな声明が出された事はご存じだろうか。
ゲーム内のセーブデータについて、任天堂株式会社が許諾していない装置やソフトを用い、ゲームデータを不正に改ざんする行為が確認されております。
カプコンとしてはセーブデータを改造したデータの存在を確認しており、少なくともカプコンが公式に開催するイベントや大会などでは、そうした行為に対する「対応」を行っていくという内容である。
先日、私も改造ギルドクエストを知らずに受信してしまい、このコメントが他人ごとでなくなってしまった。本稿では、カプコンがこのコメントを出すに至った経緯と、ゲーム改造という行為がもたらすものについて、少し考察してみたい。
【追記 10月17日 21時20分】 (Nobuki Yasuda)
上記画像のキャプションにて「キリンU装備が整っているにもかかわらずキリン討伐数が1であるのは異常」であるとしましたが、これは誤りでした。発掘装備であれば、キリンならびにキリン亜種の討伐数とは無関係にキリンU一式を揃えることは可能です。大変失礼いたしました。
ただし、本稿を執筆した UnFreeMan が”黒”だと判定したこと自体は結果的に間違いはありません。スクリーンショットの掲載は避けますが、
1. HRが6であるにもかかわらず「神秘の護石」を装備している
2. ギルドクエスト攻略回数”0″ (安田の知る限り、この時点でお守りとあわせると相当黒い)
3. 狩猟記録からは一式装備を揃えようとした極端な値が見受けられない
他にもモンスターの討伐数などもろもろを鑑み、チーターであると断定しても差し支えないと判断しました。よって、当該スクリーンショットは取り下げません。
ただし、「キリンU装備が揃っているにもかかわらずキリン討伐数が少ない」のロジックに瑕疵があったことには相違ありません。重ねてお詫び申し上げます。
異例のコメント
携帯機で発売された『モンスターハンター』シリーズの改造行為について、カプコンがこうした見解を公式発表するのは初めての事だが、PSPの『モンスターハンターポータブル』シリーズの頃から、改造データ自体はプレイヤーの間で認知・問題視されていた。不正に改造されたオトモを連れたプレイヤーがオンラインでモンスターに無法な暴力をふるい、オンラインの空気をゲームバランスごと粉砕して去っていく事例が多々見られたようである。
今回カプコンが見解の発表という初の対応を取ったのは、『MH4』はインターネット通信プレイに公式対応した初の携帯機シリーズタイトルと言う事もあったのだろう。オンラインプレイ専用タイトルである『モンスターハンターフロンティア』は言うに及ばず、PS2やWiiで展開したオンラインプレイ対応の据置機シリーズでは、オンラインサーバの運営をカプコン自身が行っていた事から、積極的に改造ツールユーザへの警告やBANなどの対処を行っていた。
PSPで展開してきたシリーズについては、これまでインターネットオンラインプレイに正式対応したタイトルは無かった。非公式のトンネルツールか、PS3のアドホックパーティーという機能を使用してPSPをインターネット接続する必要があり、実態はさておきローカルプレイの延長線上にあるものだった。そのため、もし改造データを使用するプレイヤーにあたってしまっても、それはPSPを持ち寄って遊ぶローカルプレイの範囲内のことであり、顔をあわせているもの同士で解決すべき事案である―――これまではそういう考えもあったのかもしれない。
[追記]
これまでのシリーズでの取り組みについて加筆しました。ご指摘ありがとうございます(2013/10/16 16:15)。
誰の責任か?
この件で責められるべきは誰だろうか。改造ツールをシャットアウトできなかった任天堂だろうか。改造データが流通しやすいゲームシステムを作ってしまったカプコンだろうか。私にはどちらを責めるにも筋が通っていないように思える。
責められるべきは「改造データを利用したプレイヤー」だろう。もう少し細かく切り分けるとすれば「改造データを利用し、それを広めてしまったプレイヤー」ということになるだろうか。
彼らは改造ツールユーザが負うべき義務を果たさなかった。だから改造データが拡散し、それを受け取る「被害者」が増えていった。彼らが義務を果たしたのなら、このような事態は防げたはずである。
では、その「義務」とは何だろうか。その話の前に、まずは、本稿における「ゲーム改造」というのがどういう行為であるかということを明らかにしておきたい。
ゲームを改造するということ
ゲーム改造とは、つまりそのゲームを破壊するという行為に他ならない。元のゲームがどのような内容であったとしても、そのゲームにこめられた開発者の意図、ひいてはゲームプレイそのものを、改造ツールユーザにとって都合の良いように破壊する行為である。
もちろん、お金を払って購入したゲームを、どのように遊び、どのように扱うかは自由である。当然その自由の中には「ゲームを破壊する自由」も含まれる。ディスクをグラインダーで真っ二つにしたり、カードをハンマーで叩き割ったり―――あるいは、ゲームを改造して楽しむ事だって、プレイヤーの自由である。そのため、改造行為そのものの是非については本稿では触れない。
問題は、その自由に「他人のゲームを破壊する自由」は含まれていないということだ。自分のゲームの破壊に他人のゲームを巻き込む自由は含まれていない。むしろ破壊を自分のゲームにとどめるためのあらゆる努力をすべきである。改造ツールユーザの「義務」とはこのことだ。
だが今回の場合は、あるときはすれ違い通信で、あるときはオンラインで、ゲームを破壊しうるデータを次々と拡散させてしまった。破壊行為を自分のゲームだけでとどめておく事が出来なかった。この問題の一番の発端はそこにある。
こうしたゲーム改造は、基本的にゲームを「楽」にする。ゲームに仕込まれた隠し要素を暴き立て、共有することをも容易にする。それは自分にとって良い事のように思えただろう。改造データのバラマキも、あるいは純粋な善意によるものなのかもしれない。改造できないプレイヤーに、改造データの恩恵を分け与えるという慈善なのかもしれない。そのデータを積極的に求めるプレイヤーも存在するだろう。その事自体は否定しない。
だが、それを無差別にばらまいたり、無遠慮にオンラインで使用したりといった行為は「正規のゲームプレイをしたい」人間にとっては邪魔でしかない。そうした改造データに当たってしまうと、もはや「正規の」セーブデータは戻ってこない。ゲームを始めからやり直すしか術が無い。改造データを忌避するようなプレイヤーにとって、改造データを送り込まれる事は迷惑であり、ただの破壊行為に過ぎないのだ。
まして今回の場合は、改造データに対してカプコンは厳正な対応をすると表明している。改造データをそれとは知らずに受け取ってしまった正規プレイヤーが、改造データの痕跡を理由にカプコン公式イベントへの参加を断られるという事態を招かない保証は無い。そうなるとすれ違いやオンラインといったシステムも、改造データの混入を恐れて利用されなくなってしまう。
なお、弊社が主催しているモンスターハンターフェスタ等のイベントでは、参加者に改ざんデータの存在が発覚した時点で、本イベントへのご参加および、今後開催される全てのイベントへの参加をお断りさせていただきます。 (本ページより抜粋)
改造データの存在がゲームシステムを殺し、ゲームの崩壊を招きかけている。もはや発端になった改造ユーザさえ止めることの出来ない、改造データの感染の連鎖の完成である。
大げさな話に聞こえるかもしれないが、これが『MH4』で進行している事態だ。そして、それを引き起こしたのは改造ツールユーザである。改造ツールが無ければ、改造ツールユーザが改造データを漏らさなければ、今回の事態は起こりえなかったのだ。
改造ツールユーザの「義務」
だから、改造ツールユーザには破壊行為をまき散らさないようにする「義務」があると私は考える。自分以外のゲームを破壊してしまわないように、設定や通信状況に気を配らなくてはならない「義務」が生じる。今回の場合、多くのユーザはそれを怠った。そしてそのうち何割かは、むしろ積極的に改造データの拡散に努めたかもしれない。その結果「被害者」は拡大の一途をたどり、ついにはカプコンが動かざるをえない事態にまで発展してしまった。
本来、改変・改造する自由というものはゲームにおいては許容されがたい。それはもちろん『MH4』で起きているような事態を憂慮してという事もあるだろう。少なくとも家庭用ゲームでその自由を公式に認めた例は皆無である。
ゲーム改造ツールと言うのは、そうしたユーザの自由を後押しする存在だといえる。開発者が許していない、許したくないゲーム改造と言う自由を実現する一つの方法であり、それ自体は便利な道具にすぎない。そして改造ツールというものが存在し、それが今や家電量販店ですら、ゲームコーナーの一角を取って堂々と販売されているという事実は覆らないし、それを買い求める人間が一定以上存在するという事実も否定できない。
そうしたツールを使用するのであれば、自分の行為が「本質的には破壊行為である」という自覚と「正規プレイヤーに迷惑をかけない」という責任は負わなければならない。改造データの拡散を防ぐ義務を果たさなければならない。それができないのであれば手を出してはいけない、とても危険な代物なのだ。『MH4』の一件は、それを改めて浮き彫りにしたに過ぎない。
そもそもご禁制ですから
最後に、改造ツールや改造データの利用―――とくにオンラインプレイは、多くの場合そもそも明確にサービスの使用規約等で禁じられているということも付け加えておきたい。例えば任天堂の場合はニンテンドーネットワークの使用規約(PDF注意)の中にこう明記してある。
お客様は、ニンテンドーネットワーク機器本体およびニンテンドーネットワークにおいて、任天堂または任天堂の許諾を受けた第三者が製造販売する周辺機器およびソフトウェア等のみを使用することができるものとし、不正に改造されたかまたは任天堂の許諾を受けていない周辺機器およびソフトウェア等を使用することはできません(第13条より部分抜粋)
今のところ、3DSで本体がネットワーク使用不能にまで追い込まれた例は筆者の知る限りでは無いようだが、Xbox360とWiiでは本体がそれぞれのネットワークに接続不能になる措置をとった前例が既に存在する。非公式のツールと言うのは、その本体の使用を禁じられてしまうことすらありうる、本来とてもリスキーなアイテムなのだという事を、導入前に知っておくべきだろう。
それでも改造ツールのを使うというのであれば、私はそれを止める言葉を持たない。私にできることは、せめてこれまで述べてきた「改造ツールユーザの義務」を果たしてくれるように―――ひいては私のゲームを破壊されることがないように、ただそれを願うことばかりである。