Valveが、Steamで配信される実績解除ゲームの粗製濫造を緩和すべく対策に乗り出す。トレカ制限に続く一手
Steamを運営しているValveは6月14日、同社が取り組んでいる「フェイクゲーム」対策の一環として、Steamの実績機能に制限を設けることをデベロッパー向けのブログポストにて発表した。同様の内容を海外メディアのKotakuやDualshockersが報じている。ここでValveが問題視している「フェイクゲーム」とは、実質上ゲームそのものではなく、トレーディングカードや実績といったゲーム外のコンテンツだけでユーザーを獲得しているタイトルを指す。今回追加されたのは、トレーディングカードの悪用防止策として活用されているValve社のコンフィデンスメトリックス(詳細は後述)と同等の基準を満たすまで、新規タイトルに以下の制限を設けるというものだ:
・1タイトル100実績まで
・グローバル実績としてカウントされない
・Steamプロファイルの実績ショーケースに表示できない
・アカウントライブラリのゲーム数として加算されない
・Steamプロファイルのゲームコレクター・ショーケースに表示できない
・クーポン適用外
今回の変更を受けて、Steam新作タイトルの一部ストアページに「Steam is learning about this game」というメッセージが表示されるようになった。対象タイトルには、上記および以前から設けられていたトレーディングカードの機能制限が適用される。
トレカ悪用防止策として生まれた信頼度基準
Valveは2017年5月、トレーディングカード機能の悪用防止策として、同社独自のデータを基にしたコンフィデンスメトリックス(信頼度基準)を満たすまでトレーディングカードがドロップしないという新しいシステムを取り入れた(Steamブログ)。これはbotではなく実在するユーザーが、実際に対象タイトルを購入してプレイしているかどうかを確認するための基準である。
Valveが想定していたトレーディングカード機能の役割は、ゲーム関連のささやかな収集品としてゲームに価値を追加したり、熱心なファンへの報酬として使われる一つのオプションである。しかしながらユーザー間でのマーケット取引が活発化したことにより、取引時のマーケット手数料から利益を得ることを目的としたカード流通が増え始めた。botを利用したカードの大量生産と組み合わせて悪用するケースが増えたため、上記の仕組みが取り入れられた。
Valveは「ストアはオープンであるが、ポリシーは守ってもらう。クローンゲームのスパムやストアをツールとして利用することは許されない」と当時から決意を表明。Steamアルゴリズムの精度を落としてしまうという問題も、Valveとしては無視できない点であった。なお講じられた対策はコンフィデンスメトリックスの導入だけではない。2017年9月には、トレーディングカード機能の悪用による低品質ゲームの大量生産と、レビューの大量工作を行ったとしてSilicon Echo Studiosの173タイトルがまとめて削除された(関連記事)。
トレカと実績の合わせ技を封じる
だが「フェイクゲーム」根絶という目的のために信頼度基準を機能させるには、トレーディングカードの一時的制限だけでは不十分であった。近年増えつつある、トレーディングカードと実績の合わせ技がその顕著な例である。100円前後の低価格で数千個もの実績が手軽に解除できるという謳い文句によりユーザー獲得を狙うものだ。中身がほとんど無いゲームであっても、実績目当てで購入してくれるユーザーが存在する。ユーザーが集まって実際にゲームをプレイしてもらえれば、上述した信頼度基準はクリアできる。そうすればトレーディングカードによる収益化も進められるというわけだ。
Steamの実績機能に関しては、2017年7月に1タイトル5000個までの上限が設定されたことがRedditにて伝えられた。過去には実績1万個超えの『Zen vs Zombie』を販売していた開発者 putilin_industriesも、2017年7月以降に発売された『Achievement Hunter』シリーズでは実績数が5000個以下に抑えられている。とはいえ、5000個もあれば実績解除ゲームとして売り込むには十分だ。
リリース時点でトレーディングカードと実績機能の両方を封じられると、それらの圧倒的ボリュームをセールスポイントとして訴求することが難しくなる。空虚な実績解除ゲームは自然淘汰されるという考えである。粗悪品の濫造による経済的インセンティブを削減できるのだ。またSteamの実績は本来、プレイヤーに報酬を与える、ひとつのオプションとして提供されている機能である。実績を解除すること自体がゲームの目的と化してしまうと、それはもはや「アチーブメント」ではなくなってしまう。今回Valveが発表した制限には、実績を本来の姿に戻す効果も期待できるだろう。
Valve曰く、実績機能の濫用が確認できたデベロッパー/タイトルはごく一部に限られるが、それでも、そうしたタイトルが存在することでSteamのアルゴリズムとユーザーに混乱を招いてしまう。今回の発表が真っ当なゲームに影響を及ぼす心配はなく、「フェイクゲーム」がマーケットから淘汰されることでユーザーのストア体験は向上するはずだという。
粗悪品ばかりではない
Steamで実績解除ゲームが供給されているのは、実績収集を楽しんでいるユーザーが一定数存在するからである。Steamプロファイルを飾る実績を手軽に集めたいというニーズは確実にある。今後も実績数を売りにするゲームは無くならないだろう。それに、実績数が膨大なゲームの全てが、実績解除だけを目的とした粗悪品というわけではない。
例えば現時点で実績数9821個に達しているカジュアル・ストラテジーゲーム『LOGistICAL』では、実際に時間をかけて遊ばなければ解除されない実績が多い。またパズルを解くと実績が雪崩のように解除されていく『Zup!』や『Oik』といったシリーズも、毎回ひねりを加えた、頭の体操になる物理パズルゲームとして作られている。『Digit Daze』『Dungeon Creepster』といった実績名称・画像が全部同じという手抜き感溢れるタイトルがある一方で、『Minimalism』のようにひらがな五十音・濁音・半濁音を揃えて実績収集家を喜ばせようと工夫しているタイトルもある。
トレーディングカード・実績数に制限がかけられたとしても、ゲーム本体の魅力によりValveの信頼度基準をクリアするだけのユーザーを獲得できれば、そこからトレーディングカード・実績数による収益化を再開できる。これまでゲーム以外の要素に頼り切った収益化モデルを築いてきた開発者は、今後ユーザーを獲得するためのもう一工夫を加える必要に迫られるだろう。