思春期と法執行機関と私 – MOTHER2 at 30 その3

アリアリブラックに苛立ちを感じながらも、ゆっくりとしたペースで『MOTHER2』(海外では『EarthBound』)を進める、グローバル版AUTOMATON編集ライターのグラハム・アーサー。子供のころの思い出を振り返り、ときには娘たちに気を配りながら、今日もまた「『MOTHER2』やりこみプレイ」を続ける。

アリアリブラックに苛立ちを感じながらも、ゆっくりとしたペースで『MOTHER2』(海外では『EarthBound』)を進める、グローバル版AUTOMATON編集ライターのグラハム・アーサー。子供のころの思い出を振り返り、ときには娘たちに気を配りながら、今日もまた「『MOTHER2』やりこみプレイ」を続ける。

 

MOTHER2 at 30 その3

「いいゲーム」の要素の大きな一つは「ある程度の意外性」だと思う。核心に迫ると、『Call of Duty』や『Grand Theft Auto』などのような「パッと見て基本ワンパターンなゲーム」があそこまでリピーターのユーザーが出来てしまう理由の一つとしては、ゲーム内でいつ何が起きるのかが100%読めないことだ。もしかしたらどこかの“悪ガキ”に射殺されちゃうかも。それかどこかの“悪ガキ”に使い方の間違った差別用語をたっぷり浴びせられちゃうかも。とにかくログインするとどこかの“悪ガキ”に何か嫌なことはされるだろうけど、どこの“悪ガキ”に何をされるかは分からないからサプライズ的な要素が成立する。可能性は低いがもしかすると『GTA』をやっている間に、戦車に乗って娼婦をひき殺すことによって、どこかの誰かにちょっとした希望を与えてあげることだってできるかも。そういう意味では人生とはやっぱり面白いものなんだなあと思う。ときには怖いけど。

今週、私が学んだことは、上記のタイトルと違ってオンライン要素がないため、どこかの“悪ガキ”にサプライズを喰らわされることがなくても、『MOTHER2』は何千回やってもやっぱり驚かせてくれる凄い力があるなあということ。「あ、そうだったんだ!?」と思わせてくれる凄い力。そういったようなサプライズを感じさせてくれることによって、何回イーグルランドを訪ねても、ゲームを100%でクリアできても、「いつか必ずもういっかいやりてーなあ」と思わせてくれるところが素晴らしい。例えば、腹足類って体内に軍需品を保管することができるのって、知ってた?まあ、もちろん全種類ではないけど。もしそうだったら腹足類が多い私の出身地のニューイングランド地方は、もう何百年も前にAK-47を持ったナメクジに制覇されて人間全員が奴隷にされているはず。

当然ゲームの話をしているわけなのだが、今回のプレイで初めて知ったのは、むこうみずなナメクジ(ジャイアントステップにいるアリアリブラックのしょぼい従兄弟みたいなもの)は、ときどき(128回中1回)ボムを所持していることがある。ボムだよ。ナメクジが爆弾を。あまりにもびっくりしたため、早速ネットで調べることにした。まさかむこうみずなナメクジがボムを持っていたとはバグではないよな、それとも持っていることがあまりにも珍しくて初めて発見するのが私だってことは……当然ねーよ。とりあえず調べてわかったのは、この現象とはバグなんかではなくて、運が本当に良かったから、むこうみずなナメクジが落としてくれたんだ。

この段階でボムを持つというのは、のび太が核爆弾でジャイアンに反撃するようなものだ。アリアリブラックとの面倒くさい戦いが一気にバカなほど楽になった。敵をぶっ殺しまくって、山の頂上まで辿り着こうとしている私を見たうちの娘が、またもや興奮してくれた。(今回は長女ね。下の子はこの間、自分の親指の存在に気が付いてから他のものには全く興味を持てなくなってしまった。)ボム一個。PSIパンツ一着。虐殺済みのきょだいアリ一体。勝利した私がジャイアントステップに出て壮麗なBGMを浴びる。ここに巨大な足跡がある。そして敗北したボスの残骸がある。「ああ、気持ちえ~わ~」これだけ気分が晴れると思わなかった。

そういえばもう一つ学ばされたことがある。「どれだけうまくいっていても、状態が突然悪化してどん底に落とされてしまう可能性はいつだってある」ということ。

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私が無垢で無知でバカなガキだった頃、ある勘違いでちょっとした事件(爆破装置関連)を起こしてしまったせいで警察沙汰になったことがある。その勘違いがだんだんエスカレートしてしまって(退学処分、法的措置の危機)、最終的に関係者全員で落ち着いて冷静に解決して(大規模な法廷闘争、起訴断念、一生借金状態)なんとか終わった。その結果、私は「権威的存在者」への強烈な不信感を抱くようになった。警察に「こいつ、なんかわかんないけど、もしかしたら何か悪いことしたんじゃないかな?」と思われただけで、何時間も拘留されることのある日本で暮らしている人としては、あまりにも不便な精神状態なのだが……。

それはさておき、とりあえず何を言いたいかというと、そんな警察への不信感を持つ私でも、封鎖された道を通らせてもらえないかと警察官に聞いてみたら返ってくる答えは絶対に次の3つのどれかだと自信を持って言える。

  1. 「いいよ」
  2. 「だめ」
  3. 「俺は警察なんかじゃないし、何言ってんのかよくわかんないけど、子供の誕生日会やってんだからどっか行けよ、変態」

そのどれかが返ってくるはずだ。「すみませんが、ここ(道)を通らせてもらっていいですか」と聞いて「おぉ、いいよ、俺ら警察官5人を倒せたらな!」という返答が返ってくると思わなかった。主人公は10歳児なんだよ?ランドセル背負って赤い野球帽被ってんだよ?それでも「隣の町へ行くにはまず警察官5人をボコボコにする必要がある」というようなルールがリアルにあったとしたら、私は小学校卒業まで持つことはなかったはず。だって体重が45キロにやっとなんとか達成したのはもう大学時代だったし、「人をボコボコにすることができるような体系」よりも「人をボコボコにする時に武器として使われる体系」の方に近い。

とりあえずここでゲームをいったん休憩し、「おまわりさんはお友達なんだよ、だからお前のことを傷つけるようなことは絶対にしないし、逆におまわりさんをSMAAAASH!!しちゃダメだからね?わかった?」と、事前に娘にはっきりと説明しておいた。しないと後が怖いから。ここで説明しなかったら悪影響を受けてしまって、幼稚園に入ったらどんな恐ろしい電話がかかってくるんだろうと想像するだけで怖い。「あの、あんたんとこの娘がね、警察官の膝を折って重体にしたんだけど。パパがテレビでやってたの、とかワケのわかんないこと言ってるんだけど、知らないか?」しょうもない再現ドラマにされそう。『その娘、凶暴につき』とか。

またどうでもいい話で脱線してしまった。とにかくストロングしょちょうとそいつのザコ警官を全員ボコボコにして倒した私は、リュックをハンバーガーでいっぱいにして(先ほどの警官が4つも落としてくれたが、何これ?)クリアになった道を進むことにした。オネットを出るときには、そこで入手のできる食べ物はもう全部試食済みで、くすりやで購入可能なアイテムも全部揃ってた。またまたどうでもいい話なのだが、そもそもスリングショットってなんで売ってるのかがわからない。ちょっとひどくないかというか、命中精度が低いが値段も比較的安い。そのせいでせっかちな私がつい買ってしまって、一度使ってみてすぐに後悔して、そして大量消費文化であるこのイーグルランドを恨んでしまう、というパターンが久し振りに出てきた。ゲームに人生の教訓を与えられるのは嫌いではない、むしろ面白いなあと思えれば全然大歓迎なのだが、このゲームだけにはちょっとやめて欲しい。先ほど「サンドイッチを食べるとより速く走れるようになるよ!」というわけのわからない「教訓」を与えようとしてくれたゲームなので。全てが正しいのか、全てが嘘なのか、どちらでもいいからとにかくはっきりしろよ、『MOTHER2』よ。

オネット
オネット

ここで一つ重要なことを説明する必要がある。ポリとの戦いとオネットからツーソンへの移動の間のどこかで、うちの娘がダンボールにはまってしまって出てこれなくなってしまった。ロボットになりきろうとしていた(子供がよくやること)のか、自分で自分をアメリカへと郵送しようとしていた(うちの子が週1ぐらいのペースでやること)のかわからないが、とりあえずその対応をするために数時間プレイを止めなければならなかった。箱の中から出てこれなくなってバグってしまった娘を、いったん落ち着かせてから一緒に積み木で遊んだり散歩に出たりして、お姫様の城で寝てしまうのを待ってからまたゲームに戻った。「子供を持つゲーマー」はやっぱりいつでもパッとコントローラーを置いて平和と安全を維持したり、リビングの壁への落書きを防いだりする覚悟が必要。もちろん子供を小屋に閉じ込めて鍵をしっかりかけて思う存分にプレイするのも可能なのだが、それはたぶん違法……?じゃないかな?ダメだよね?どうしてもダメなのかな……?

まあ、とにかくこれは「ただのおっさんの私がいかなる外的影響も全く受けずに再びやり込む『MOTHER2 ギーグの逆襲』」という企画なんかじゃないし、それにこうやって生活的な邪魔者や、リアルでのサイドクエストなどをなんとか避けたり解決したりしながらプレイしていると、本来と全然違うゲームプレイになるような気がするのと、このゲームをWii Uでやって良かったなあと思える理由を思い出さされる。それが「中断機能」 だ。Wii Uはデフォルトの設定で、何も操作せずに1時間が経過すると自動的にオフになるのだが、私はあまりにも怠け者でこの設定が変えられるかどうかを調べようとすることがなかなかできない。しかし、『MOTHER2』は本体がオフになった時点で、私がゲーム内のどこにいて何をしようとしていたか覚えておいてくれるのだ。そのおかげでうちの娘がどんなダンボールにどんなわけのわからないことをしようと、私の時間がこういったようなしょーもないことにどれだけ削られようと、後から途切れなくまたそのまま引き続きプレイできる。なんて素晴らしいゲーミングライフ。ダンボールもある意味すげーなあと改めて実感させられた。

ストーリーでは、次の大きな展開が待ち受けている。それがツーソン、ポーラ、そして異常なほど人気を集めているとあるカルト集団。より強烈な敵キャラも現れる。たとえば、胞子をまき散らす攻撃で主人公をまっすぐ歩けなくする「あるくキノコ」とか。やつらと戦った後、病院まで行くのに15分もかかってしまった(大げさではなく)。胞子をばらまかれてキノコ状態になってしまうと操作方法が数分毎に突然わけの解らないことになってしまう(「上」が「下」に!「左」が「右」に!「黒」が「東」に!)。しかし、主人公が何かの病気にかかっていることにリアルで子供が気付くと、子供はそればっかりしか考えられなくなるらしい。「パパ!病院はあっちだよ!!」って。「うん、パパはちゃんと分かってるよ。ネス君も病院に行きたいんだけど、今ネス君はね、脳幹からキノコが生えてきてるの。で、変なおじいちゃんに50ドルを払って抜いてもらわないと死んじゃうんだ。だからちょっと邪魔しないでね」と子供に説明してみたり。

とにかく次の町で起こる訳の解らないゾンビとその行動を娘に説明するのをある意味ちょっと楽しみにしている。テディベアがレーザービームに破壊され、なぜもうそこにいないのかを説明するとどうなることやら。これからさまざまなトラウマを受けてしまううちの娘の将来のセラピストにいろいろ聞かれるだろうし、念のためこの日をカレンダーに印をつけておこう。

 

[翻訳 James R. Mountain]

[校正 AUTOMATON編集部]

MOTHER2 at 30」は、グローバル版AUTOMATONに掲載された「EarthBound at 30」を和訳したものです。雰囲気が伝わるよう、一部の過激な言葉はあえて原文に近いものにしてあります。

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