『街 〜運命の交差点〜』×『428 〜封鎖された渋谷で〜』×『WILL -素晴らしき世界-』開発者たちが語り合う群像ゲームの作り方(前編)
『街 〜運命の交差点〜』と『428 〜封鎖された渋谷で〜』は、ともに複数の主人公の物語を小説のように読み進めるサウンドノベルと呼ばれるアドベンチャーゲーム。実写を用いているのが特徴で、ともに渋谷を舞台にしつつ、選択肢がほかの主人公の運命に影響を与え、プレイヤーは適度に主人公を切り替えながら物語を進めザッピング出来る事を特徴としている。いまだに新しいファンが絶えない、根強い人気があるゲームだ。そして、今年はその『街』の発売から20周年、『428』の発売からは10周年というメモリアルな年にあたる。
そこで群像劇ゲーム座談会と称して、『街』と『428』を手がけた元チュンソフトの開発者の方々に集まっていただいた。登壇するのは『街』でディレクターを務めた麻野一哉氏。『428』で総監督を務めたイシイジロウ氏。チュンソフトに長らく在籍し、現在は弊誌AUTOMATONを運営するアクティブゲーミングメディアに所属する中西一彦氏。さらに群像劇ゲームの新作『WILL -素晴らしき世界-』を制作した王妙一(ワン・ミャオイー)氏を迎える。
『WILL -素晴らしき世界-』は中国生まれのアドベンチャーゲームで、複数の主人公から物語をザッピングしつつ読み進めるノベルゲームだ(ストアリンク)。Steamでは2017年から中国語版がリリースされていたが、今月、弊社アクティブゲーミングメディアのPLAYISMブランドより、日本語版がPLAYISMとSteamにてリリースされる。また、PlayStation 4版も、のちに配信される予定。今回の企画は、『WILL』についての情報を事前に麻野氏とイシイ氏に伝えず、対談の中でゲームを紹介していく形式でお伝えする。『街』と『428』の節目である2018年に、『WILL』という新たなゲームを介して、群像劇ゲームについて振り返ろう。
――本日は、かつてチュンソフトで『街』と『428』を手がけたベテラン開発者の方々と、『街』と『428』を彷彿とさせる、『WILL -素晴らしき世界-』というインディーゲームを作られたニューカマーの方が一同に会しました。僕は『WILL』を先にプレイしていますが、これはかなり傑作のゲームだと確信しています。『WILL』については、ここにいる方々や読者の方がまだわからない未知のゲームだと思うので、僕のほうからも適宜、解説を加えたいと思います。
――それでは『WILL』を制作された王妙一(ワン・ミャオイー)さんのほうから、ゲームの紹介をお願いします。
王氏:
『WLL』は「他人の運命を変えられることができるとしたら?」というテーマを描いたアドベンチャーゲームです。ゲーム内の人々は色んな悩みを手紙に書きとめています。プレイヤーは神様の少女となって、その手紙に書かれた悩みを解決するというのが主なストーリーです。悩みを解決する方法とは、手紙に書かれた出来事や台詞の文章を入れ替えて、運命を操作していくことです。同じ手紙の文章を入れ替えることもあれば、違う別の人同士の手紙の文章を入れ替えるシーンもあります。
――手紙に書かれた文章を入れ替える、という部分がわかりづらいかもしれないですが、簡単にいえば『街』や『428』の選択肢が、『WILL』では言葉を入れ替えるミニゲームになっています。
イシイ氏:
その言葉の入れ替えが、結果的に選択肢になるということですか。
王氏:
そのとおりです。個々のストーリーが100ほどあるんですが、その毎回の言葉の組み合わせの結果が最大で8つくらいあります。少なくとも最小の組み合わせが2つあり、大体は4、5つの組み合わせで構成されています。
麻野氏:
これまでには、ゲームを何本か作られてきたんですか?
王氏:
このゲームがまさに最初に制作したゲームで、その前には中国の大手のゲーム会社でプログラマーの仕事をしていました。基本的に『WILL』は私一人で制作しているのですが、他の方に任せる部分もあるので、平均的には、2.5人くらいです。外注的な部分も私のほうで管理しています。
麻野氏:
これが初めてなんですね!ゲーム開発は強い意志が必要なので……まさに「WILL」という感じで、すごい。
王氏:
ありがとうございます(笑)。
イシイ氏:
2.5人というと、基本的に絵描きさんと、テキストと、プログラマーの3人が重要だと思うんですけど、兼任している人がいるんですか。
王氏:
テキストとプログラムの一部とUIのデザインはすべて私がやっていて、イラストと音楽を外注になります。音楽は一部のみがオリジナルで、他は既存曲を購入して使いました。
中西氏:
私からも質問があるんですけど、開発期間はどれくらいなんですか?
王氏:
プロモーションする期間も含めると、約2年半かかりましたが、そうした時間を除くと2年以内で作りました。
――細かいところをお聞きしますが、東京ゲームショウではスタジオ名が4D DOOR GAMESだったのに、今回、WMY STADIOになったのはどうしてなんでしょうか。
王氏:
(笑)。東京ゲームショウに出展したときは、法人としてチームがあって展開したんですけど、色々な事業的な部分があって、個人事業主みたいに縮小してやったほうがいいなと考えて、スタジオ名も変更しました。
中西氏:
2016年の東京ゲームショウのときに出展したんですよね。私はその時から注目していました。
『街』『428』と比較した場合の『WLL』の群像劇としての構造
イシイ氏:
『WILL』には、登場人物は何人いるんですか。
王氏:
全部で12人で、それぞれの人物に物語があります。
イシイ氏:
それはすごいですね。『街』が8人じゃないですか。『428』は5人、最大に増えて7人なんです。僕は『428』のときに、この7人って意味をすごく考えたんです。この7人理論については正しいかどうかわからないんですけど、人間が把握できるキャラクターって7人ぐらいと言われていて。
――黒澤明監督の映画「七人の侍」がそういう観点が語られることがありますね。
イシイ氏:
『428』の場合、ひとつに収束する事件をあらわすための7人なんですよ。最後に完成するパズルのように、ひとつに向かって最終的に収束するから小さくしたかったわけです。ここが重要なポイントで、『街』は登場するのが8人。だから、ちょっととした“無限”を感じるんですよね。8人というのは、把握できない世界を描くのにすごくいい。
麻野氏:
そもそも『街』の最初の構想は100人を描くことから始まっているので(笑)。
イシイ氏:
『WILL』の12人という数字は、無限に近いイメージを受けますね。つまり把握できない世界というものを描いているんでしょうか。
王氏:
最終的には12人なのですが、物語が開始した時点では、最初からすべてのキャラクターが解放されているわけではなく、選択できるキャラクターを制限をしています。すべてのキャラクターが最初から一緒にいると、プレイヤーは物語に集中できないと思ったので。そういう意味では、無限と言えるほどではないかもしれません。それぞれのキャラクターを1つの国に閉じ込めたくなかったので、ゲームではさまざまな国籍のキャラクターが登場します。フローチャートの画面ではそれぞれのキャラクターが神に祈るボイスが出るのですが、その国ごとの声優さんを使って収録しました。
イシイ氏:
それはすごいですね。
――『WILL』は描かれる場所が遠く離れているものだけでなく、時間の省略があるんですよ。フローチャートだけ見ると『街』や『428』のように場面が連続的に展開するように見えるんですが、実際は1時間後とか、3日後とか時間の省略を挟みます。このあたりもフローチャートを使ったアドベンチャーゲームとしては、すごく画期的に思えました。
イシイ氏:
……もしかして、それだけ時間や場所がばらばらだと、未来が過去を変えるフラグもあったりしますか?
王氏:
うーん、たとえば、未来からお姉さんが送り、弟の過去行動に影響する可能性はありますね。
――シナリオ的に「未来が過去を変える」という要素はあるんですが、イシイさんが言わんとする意味でのシステム的な「未来が過去を変える」という要素はないかもしれないですね。
イシイ氏:
未来が過去を変えると、選択肢が無限化するんですよ。過去が未来を変える現実と同じルールで考えれば、ある問題を解決するためには、その原因となった過去を探せばいいだけなんですけど、もし未来が過去を変えられるとしたら、すべての可能性を探さなければいけなくなる。『街』も『428』も基本的には未来は過去を変えてはいないし、難しくなっちゃうので、それを整理するためには1時間単位で展開しています。そのあたりは、後々の打越鋼太郎作品や、僕の『タイム・トラベラーズ』では、未来が過去を変えられるSF要素をいれることによって、複雑化させた仕掛けをいくつか入れたりしているんですけどね。
王氏:
2つの手紙の時間的なタイミングが違うことはあるので、手紙と手紙の因果関係そのものは人間世界の時間の経過と同じ順序で展開します。だから『WILL』では選択肢が無限化することは起きません。発想としては、最初から複雑なものを意識してゲームを作ったというより、作っているうちにいろいろな設定が自然にでてきて盛り込んだ感じですね。『428』と比べると、『WILL』のほうは最大8つの選択肢があって、その8つの選択肢にそれぞれ紐付けられる内容と仕組みを考えていったら、このような複雑なフローチャートになった感じです。
――『WILL』はフローチャートのアプローチ自体も斬新なんですが、さらにそれを俯瞰してみている神様の少女が存在しています。フローチャートというのは、『街』や『428』ではプレイヤー自身が見ているものでしたが、『WILL』ではそれをフィクションのキャラクターが見ているメタ的な視点が入っています。
王氏:
フローチャートを見ているキャラクターも1人だけではなく、2人が見ているという設定にしました。そういう2人の視点を置くことで色んな物語を膨らませやすいし、プレイヤーも寂しくないですよね。物語や人生が膨らんでほしくて入れました。
――『WILL』はシナリオも良くできていて、少女の神様が人々を救済していくわけですが、詳しくはいえないですが、システムだけではなくシナリオ自体にもかなり巧みな構造があります。
イシイ氏:
それは救済していくと、結果的に自分が不幸になるのか、他人が不幸になるんですか。そして、それを解決するメタテーマみたいなのが出てくるという形ですか。
――そのへんに関しては、女の子の神様が俯瞰して物語を見ているという設定が、やはり肝ですね。
イシイ氏:
発想としてはタイムトラベルものに似ていますよね。タイムトラベルで目の前の問題を解決するけど、トータル的には大きな問題になってしまう。映画では「バタフライ・エフェクト」や、ゲームだったら『シュタインズ・ゲート』とかもそうで、目の前で解決した問題がすごく大きな問題になってしまう。目の前の問題を解決することを、やめていく再選択をしていくというのが『シュタインズ・ゲート』の面白いところでした。
――『WILL』では……(ここで少しネタバレを告げる)となっています。
イシイ氏:
なるほど、それはインディーゲーム的ですよね。エンタメというより文学的というか。インディーゲームの文学的なところに入っていっている気がする。どちらかというと僕よりは麻野さんの作風に近いのかもしれない。
麻野氏:
いや、僕が作っているのは最後にギャグなるので(笑)。陰惨にはじまりつつ、最後は全部ギャグに陥ってしまうような。
イシイ氏:
でも、ゲームブック版『弟切草オリジナルゲームノベルス 八百比丘尼の斎』とかは……。
麻野氏:
『八百比丘尼の斎』はハッピーエンドじゃないですか。
イシイ氏:
あれってハッピーエンドって言えるかなぁ(笑)。でも『WILL』のそのアプローチは、インディーゲームだからこそできる素晴らしいテーマだと思いますね。
――『WILL』には文章中に辞典や用語解説が参照できるギミックがあります。そこで麻野さんにお聞きしますが、このギミックの原点である『街』のTIPはどのように生まれたものなんですか?
麻野氏:
『街』のTIPは最後の最後、完成の半年くらい前にいれましたね。そのときはZAPしかなかったんで、当時のプロデューサーである中村光一さんが、もっとプレイヤーを関わらせる要素が欲しいと言ってきたんですね。このプレイヤーが関与させる、という部分は『弟切草』のときから気にしていて、『弟切草』では、少なくとも2・3画面に一度は分岐が出るように作っていたんです。ところが、『街』のZAP構造でそれをやると遊ぶのが難しくなるので、あえて減らしました。でも、それだと今度は読んでばかりになって、プレイヤーが飽きてしまう。だから何でもいいから画面に関与する方法を考えてみようといわれて、苦し紛れに語句、用語解説をいれたのがTIP。やっていくうちに、これを利用したら面白いことができると気づいて、TIPからザッピングできるとか、連載小説みたいにTIPとTIPがつながっていて、ストーリーになっているとか、そのように作っていって、『街』のTIPができました。だから最初の動機としては、プレイヤーにもっと画面に関与させたいから、無理やり作っていった感じです。
――王さんは麻野さんとは異なる考えでTIPSを『WILL』に導入したと思うんですが、いかがでしょう。
王氏:
私はキャラクターよりストーリーを設計してからゲームを作っているんですが、今回の場合は、はじめてゲームを作ったので、そういう風に作ろうとしていながらも、もう一度、最初に戻して修正したり、後から遊び方も入れたりとか、いったりきたりの作業をしていました。そして最後の段階になって、解説すべき用語があったらと思い、まとめて用語解説を入れてみましたね。
――『WILL』の用語解説では中国ではこうなっています、というような中国トリビアというか、中国を紹介する目線がありましたよね。
王氏:
たとえば、日本では大学試験はそれぞれの大学の試験があると思うんですけど、中国は統一試験なんです。その試験で成績を決めて、順番に大学に入学するんですけど、そういう海外とは違う部分を、文化紹介のために説明として入れました。あとパンダなどは世界的には知られていますが、そのあたりの中国のいいところも詳しく紹介したいと思い、解説に入れています。
イシイ氏:
『428』や『街』では、日本トリビアとしては全然こだわってなかったですね(笑)。
麻野氏:
王さんの考えを聞いて、世界の目を意識していてすごいと思いました。僕たちは日本人しか相手にしてなかったし、TIPも日本人向けの内輪のあるある、みたいな感じ。エスカレーターが右側、左側どちらに寄るとかそんなことばっかりで。
中西氏:
当時の我々とは志が違う(笑)。
イシイ氏:
『428』は今、海外向けに作り直しているんで、そのあたりの日本っぽいものはどうなっているのかなぁ。日本人しかわからないものが、かなり多いと思いますよ。
麻野氏:
海外の人にもわからない部分とか、説明が必要ですよね。僕なんてなんとなく書いていただけなんで、世界なんて全然意識していませんから。
――僕は『街』のTIPSは独自で好きですが、たとえば透明人間とかカップルがTIPSで連載小説風に描かれます。あれは最初の構想の名残りなんですか。
麻野氏:
全部がそうではないのですが、少し名残りはありますね。自転車に乗っている男とかそうです。軍服を着た変な男とかは、書ききれずにメインストーリーに採用しなくて、TIPに残ったものなんですよ。
中西氏:
そうでしたね。
王氏:
質問があるんですけど、『街』はSteamバージョンの企画はされてないですか?
中西氏:
それはわからないですね。もう我々は会社が違うので(笑)。
イシイ氏:
今、作っている海外版の『428』も英語版だけで中国版はなかったかな。
中西氏:
『街』や『428』の中国版を出したら、売れると思いますか?
王氏:
私は売れると思います!
中西氏:
そこはスパイク・チュンソフトさんに伝えておきます(笑)。
後編では、ストーリーゲームのそれぞれのルーツや、群像劇ゲームをどのようにアプローチして作り始めたのか、語ってもらう。
■タイトル
428 ~封鎖された渋谷で~
■内容
200X年4月某日、渋谷で突如起こった誘拐事件をきっかけに、登場人物たちの物語が動き出す。幾重にも積み重なるストーリー、息をもつかせぬ展開、一瞬たりとも油断できない局面の連続がプレイヤーを惹きつける。5人の主人公のうち、一人の主人公の何気ない選択が、他の主人公を窮地に陥れたり、全員の運命を悲劇にするなど、主人公それぞれのストーリーが交差し、連鎖。プレイヤーは、誰のどの段階の、どの選択肢を選べばいいのかを推理しながら、全ての主人公をハッピーエンドに導いていく。
■機種
Wii/PS3/PSP(PSP版はPS Vitaでプレイ可能)
PC/PS4(2018年夏)
■PSP版ストアページ
https://store.playstation.com/ja-jp/product/JP0365-NPJH50020_00-0000000000000000
■権利表記
(c) Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved.
■タイトル
街 ~運命の交差点~
※SS版は『サウンドノベル 街 -machi-』
※PSP版は『街 〜運命の交差点〜 特別篇』
■内容
渋谷を舞台に、渋谷中央署の刑事、恋人の為にダイエットをする女性や売れない役者等8人の主人公とその周りの人達の5日間の物語を読み進めて行くサウンドノベル。ある主人公の行動により別の主人公に悪影響を与えるとバッドエンドになる。プレイヤーは複雑に絡み合う8人の主人公達の接点や関連性を読み解き、“ZAP”(ザッピング)で主人公を切り替えてバッドエンドを防ぎ、8人の5日間の物語を最後まで読んでゲームをクリアする。
■機種
SS、PS、PSP(PSP版はPS Vita対応)
■PSP版ストアページ
https://store.playstation.com/ja-jp/product/JP0365-NPJH50598_00-0000000000000000
■権利表記
(c) Spike Chunsoft/長坂秀佳/難波弘之
■タイトル
WILL -素晴らしき世界-
■内容
「神様、どうかお助けください……」世界中から届く、神様への願い。
主人公の少女は、手紙のテキストを入れ替えることで運命を変えることができる神様。
いくつもの絡み合う運命を組み替えて、人々を幸せに導くことができるのか。
■機種
PC、PS4(2018年夏)
[取材・撮影:Koji Fukuyama]
[資料提供:Gabriel ito]