『We Happy Few』オーストラリアで発売禁止措置に。「幸福でいるために薬物の摂取を強いられる」という世界設定を問題視か

オーストラリアで販売されるゲームや映画などのメディアコンテンツの審査をおこなう政府機関Australian Classificationは5月21日、Compulsion Gamesが手がけるアクション・アドベンチャーゲーム『We Happy Few』を事実上の発売禁止処分にしたことを公表した。

オーストラリアで販売されるゲームや映画などのメディアコンテンツの審査をおこなう政府機関Australian Classificationは5月21日、Compulsion Gamesが手がけるアクション・アドベンチャーゲーム『We Happy Few』について「Refused Classification(RC・分類拒否)」としたことを公表した。

Australian Classificationは、日本でいうとコンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)にあたる機関で、審査結果に応じて「G(全年齢)」から「R18+(18歳以上)」までの5段階の年齢区分に分類している。今回『We Happy Few』に与えられた「RC」というのは、同機関が許容する以上の表現がゲーム内に含まれているため、対象年齢を決定できない。つまり、同国内での販売(輸入販売を含む)を認めないという事実上の発売禁止措置である。

Australian Classificationが公表した『We Happy Few』の審査結果ページを見ると、ゲーム内に含まれる性的表現、薬物の乱用や常習表現、犯罪や暴行、残虐行為などは、一般的に受け入れられる範疇を超えているといった趣旨の説明が、分類拒否とした理由として記載されている。ただし、この説明文自体は「拒否理由:Games 1(a)」というカテゴリの定型文にすぎないため、ここで挙げられたすべての表現が『We Happy Few』において問題視されたとは限らない(もちろん、すべてである可能性もある)。

同機関では、審査を通過して年齢区分を与えたゲームなどについては、各表現項目ごとのインパクトの強さを公表しているが、分類拒否としたものについては一切公表していない。また、同機関および開発元Compulsion Games、販売元Gearbox Publishingからは、本件に関して現在までに声明などは出されていないため、具体的に何が問題だったのかは不明である。

『We Happy Few』は、1960年代のイギリスをモチーフにしたWellington Wellsという街が舞台。人々は「Joy」と呼ばれるハッピーになれるドラッグの服用が義務付けられており、従わない者は住民から怪しまれ、果てには警官に逮捕されて、強制的にハッピーにさせられるという狂気に満ちた世界だ。プレイヤーは、体力や飢え、喉の渇き、疲労といったステータスと共に、周囲に溶け込むためにJoyで得られる幸福度にも気を配りながら、この世界からの脱出を目指す。

こうした設定から、本作ではドラッグの使用表現が重要なファクターとなっている。暴力表現なども含まれているが、ドラッグで溢れ、ドラッグの摂取を求められる、あるいは強制的に摂取させられるという世界観が、Australian Classificationから問題視されたと考えられるだろう。オーストラリアは州によってやや事情が異なるようだが、外務省の海外安全ホームページによると、近年は違法薬物の蔓延が大きな問題になっており、厳しい取り締まりがおこなわれているという。特にメタンフェタミンと呼ばれる覚醒剤については、オーストラリアは使用者1人当たりの消費量が世界でもっとも多いとのことで、大規模な密輸事件も相次いでいる(AFPBB)。Australian Classificationは政府機関であるため、こうした国内事情がゲームの審査にも反映されているのかもしれない。

ドラッグの使用表現は、日本のCEROを含め各国・地域のレーティング機関での審査において留意される項目の一つとなっており、ゲーム内に表現が含まれる場合はコンテンツアイコンなどで明示されている。たとえばCEROの場合、ドラッグ(麻薬等薬物)は「反社会的行為表現」に分類されており、その表現が直接的であるか間接的であるか、肯定的であるか否定的であるか、また必然的・自然的であるか否かや、テーマとの関連で主題的か背景的かを審査。そして一般人の観点からみて不合理に嫌悪感を与えないか、反社会的ではないか、 扇情的ではないかなどを考慮し、表現度合いを判定している。そして限度を超えていると見なされれば、年齢区分を与えられない。つまり、そのゲームは発売できなくなる。

『We Happy Few』は、ほかの国・地域ではすでに審査を通過している例もあるため、オーストラリアでは特に厳しく判定されたと見ることができ、同国以外での発売には基本的には問題はないだろう。オーストラリア向けについては、販売元のGearbox Publishingらは異議を申し立てるか、表現を修正して再審査を受ける道が残されているが、もしドラッグの使用表現が問題となっているのであれば、本作のゲームのコンセプト部分に関わるだけに、修正するのは容易ではなさそうだ。なお、本作は2016年からSteamおよび海外Xbox Oneでの早期アクセス販売をおこなっていたが、現在は一旦販売を停止中。2018年夏にPlayStation 4版と共に正式リリースする計画だ。

【UPDATE 2018/5/23 13:50】
『We Happy Few』の開発元Compulsion Gamesは5月23日、本件について声明を発表した。同スタジオは、本作がオーストラリアにてレーティングを与えられず事実上の発売禁止となったことを認めたうえで、現在Australian Classificationに対して今回の決定に関するさらなる情報を求めているとしている。本作は、Kickstarterを通じて開発資金をあつめ、SteamやXbox Oneでの早期アクセス販売をおこなっており、出資者や購入者は正式リリースを待っている状態だ。そのため、もしオーストラリア政府が判断を覆すことがなければ、影響を受けるユーザーには返金をおこなうとのこと。

また同スタジオは、『We Happy Few』が描く「市民にJoyを摂取させる社会と、それを拒否し戦う」という物語は、小説「すばらしい新世界」や映画「未来世紀ブラジル」といった作品に通じるものだと主張。今後は本作のテーマについて、より詳細な情報を提供していくとしている。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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