『スーパーマリオ オデッセイ』のアップデートがランナー達を惑わせる。トップを目指すユーザーは記録を求めて“本体を初期化し新品を買う”

『スーパーマリオ オデッセイ』の最速クリア記録が1時間3分33秒に更新された。この記録を叩き出したNicroVeda氏だ。『スーパーマリオ オデッセイ』の最速記録更新がコミュニティを賑わせる一方で、ちょっとした事件をきっかけに“ランナー”達が困惑する状況が続いているという。

『スーパーマリオ オデッセイ』のany%(クリア率を問わない)ルールの最速クリア記録が1時間3分33秒に更新された。この記録を叩き出したNicroVeda氏だ。『Wii Sports』でも記録を残してきた凄腕プレイヤーが、前任者の記録を0.14秒更新。たちまちトップに躍り出たわけだ。まだスピードランを始めて一年にも満たない氏は、『スーパーマリオ オデッセイ』に愛着を持ち日々の練習と研究により今回の記録を達成したと弊誌に話してくれた。今回の記録の更新は、努力の賜物だろう。

NicroVeda氏は記録更新に充実感を見せる一方で、とある点を懸念する様子も見せている。というのも、『スーパーマリオ オデッセイ』の最速記録更新がコミュニティを賑わせる一方で、ちょっとした事件をきっかけに“ランナー”達が困惑する状況が続いているという。その事件とは、『スーパーマリオ オデッセイ』のアップデートだ。

『スーパーマリオ オデッセイ』は先日1.2.0アップデートが実施された。主な追加要素は風船を隠し、見つける「バルーンファインド」の追加であるが、それにあわせていくつかの修正もはかられていた。修正点で大きいとされているのがまず「Sphinx clip」。こちらは「砂の国 アッチーニャ」にてスフィンクスの裏側にすり抜けワープするというグリッチだ。そして「Turnip clip」は「料理の国 ボルボーノ」にて金のカブを使いすり抜けるというグリッチ。ふたつのグリッチを併用することにより、15秒近くのタイムを短縮していたのだという。このふたつのグリッチが修正されたのだ。たかが15秒であるが、最速記録には大きな違いが出る。競技者にとっては、1.2.0アップデートは重要な事件であった。

*「Sphinx clip」

こうした影響から、初期状態であるバージョン1.0.0を戻そうとする動きがコミュニティで目立ち始めたという。その手法はというと、ニンテンドースイッチの初期化すること、そして『スーパーマリオ オデッセイ』のパッケージ版を購入することだ。1.0.0の状態で遊ぶには、ニンテンドースイッチ本体もろとも初期出荷状態にする必要があり、かつバージョンアップされていないデータを搭載するパッケージ版を所持する必要がある。この15秒を追い求めるがゆえに、ランナーたちは本体の初期化とパッケージ版購入をする者がコミュニティ上で後を絶たないという。

ただこうした動きは1.1.0アップデートの際にも見られたようだ。というのは1.1.0では最初のムーンをスキップする「First Moon Skip」グリッチが修正されたからだ。前回のアップデート時にもこうした動きが見られたが、1.2.0でも同様のケースが発生しており、コミュニティはアップデートされた環境のままでやるべきだという一派と、速さを追求するやり方を認めるべきだという派に分かれているようだ。セーブデータなどを移動させる手段はあるものの、初期化とパッケージ版購入(必要とあらば)はランナー達への負担を強めるという意見もある。

*「Turnip clip」

NicroVeda氏もまた、本体の初期化とパッケージ版所持といった過度なスタンダードの要求は新規ランナーの参入を妨げているのではないかとも懸念している。「Sphinx clip」と「Turnip clip」は成功させるのが難しいテクニックであるので、新規ランナーはまず1.2.0でプレイすればいいのではないかともコメントしている。ただこうしたジレンマはトップユーザーにとっては悩ましいものだ。なにせ1.0.0ならば「First Moon Skip」を実行できるからだ。

事実として、現在Speedrun.comで記録されている上位プレイヤーはほとんどが1.0.0もしくは1.1.0。盛んに記録が更新されている本作で、バージョン1.2.0のプレイヤーの最高位は25位。1.0.0との理論上の差は30秒もあるのだ。NicroVeda氏は全体的な競技性を考えるように務めている様子を見ているものの、現時点で1.2.0にアップデートする理由は何ひとつないとも語った。ルールによってバージョンを指定するケースもあるが、そうしたものは設けられていないようだ。

開発スタッフにとっては、あくまでソフトにできた穴を埋めているだけであるが、その行為が一部のプレイヤーにとっては大きな意味を持つ。大事であろうニンテンドースイッチを初期化し、あらたにゲームを購入させることもあるのだ。もちろん、開発スタッフはなすべきことをしているだけ。グリッチは「バルーンファインド」の“ズル”にも利用されるケースが目立つだけに、修正することはユーザーからも求められている。グリッチを修正することこそがやるべきことだろう(関連記事)。それだけに、それによって当惑するプレイヤーがいるのは、奇妙な状況だ。

NicroVeda氏に、1時間の大台を切れる自信があるのかを聞いたところ、1時間切りはよく聞かれることでネットスラングにすらなりつつあると前置きし、理論上は不可能であるけれど、日々新たな発見があるのでその日は近いと答えてくれた。1時間を切る記録が出る際には、やはりそのプレイヤーのゲームバージョンはやはり1.0.0なのだろうか。秒を争うスピードランナーとアップデートの戦いは、今後も続きそうだ。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

Articles: 5173