Ubisoftが目指すのは「ゲームと学問の融合」。ゲーム用AI開発で科学実験のコストカットを図る

 

ディープラーニングを用いた3D地形モデル生成(過去記事)など、機械学習の分野に関し目覚ましい躍進を見せているUbisoft。その技術の源となっているのが2011年に発足された、ゲームと科学の調和を目指したAI研究チーム「La Forge」である。その詳細をEngadgetTechCrunchが報じている。「La Forge」プロジェクトの責任者であるYves Jacquier氏はチーム発足の理由に関して、海外技術メディアTechCrunchによる取材の中で以下のように語っている。

ゲームはイノベーションを起こし、イノベーションはゲームよりよいものにします。私たちは2011年早くに、AIをゲームシステムと組み合わせる方法について、研究者の方々と協力し始めました。しかし、我々の間には根本的な断絶が存在していました。Ubisoftの従業員は協力体制によりもたらされる十分な刺激によって、自社の製品をよりよいものにすることができていました。しかし研究者側としては、協力の成果を現実に影響を与える形で世に出す必要がありました。La Forgeは、このギャップを埋めようとする同社の試みです。
 

「La Forge」にはUbisoftの従業員のほかには、学術的な分野におけるAIの研究者や専門家がメンバーとして参加している。AIを使った技術革新の為のさまざまな実験を行うなかで、アカデミックな理論と実践のギャップを埋めることこそが「La Forge」の掲げるミッションだ。ここでの研究成果は既に販売されているUbisoftの製品の中で活かされている。

まず例としてあげられるのが『ウォッチドッグス2』。作品の舞台である、忠実に再現されたサンフランシスコ ベイエリアの中をナビゲートしながら走る車や道端を歩く歩行者に対し、研究を元に作られたAIが使われている。更にゲーム開発で得た情報を活かすことで、実際の車を道路に乗せることなく複雑な状況下(群衆の中など)で自律走行をテストすることができたそうだ。こういった危険な状況を再現するテストは現実世界で行うとなると費用がかかりなおかつ危険だが、ヴァーチャルの世界の中でならば最低限のコストで実験を可能にすることができる。さらには現実で得たデータを活かすことで、さらなるゲーミングAIの向上につながる可能性があるようだ。

そのほか、後にロボット開発やプロテーゼといった機械技術を使用した医療に役立つであろう、運動においてより現実な動きを再現するAIの研究や、オンラインコミュニティ内における有害な行動を検知するAIの研究などを行っている。いずれもヴァーチャルな空間で行うことで、時間とコストをカットすることに成功している。

ゲームから現実へ、現実からゲームへの情報の橋渡しというサイクルが「La Forge」、ひいてはUbisoftの中で構築されつつある。「La Forge」はまだ設立してそれほど歴史がが深いといえない組織とあってか、科学技術的な分野での大きな成功はまだない。ゲーム開発と学問との架け橋になれるかはまだ分からないが、もしうまくそのふたつが融合するとなれば、技術革新の段階がまた新たなステージに到達することになるだろう。


娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。