ゲーム開発者は、開発事情をゲーマーに公開すべきなのか?デベロッパーが開発者とゲーマーの距離の近さに警鐘を鳴らす

一昔前は雑誌のインタビュー記事などからしかうかがい知れなかったゲームの開発事情は、インターネットの発達により開発者自身が情報を発信するようになり、少し調べればリアルタイムで裏事情や知識を得ることができるようになった。そんな状況のなかで、「ゲーム開発者は、開発事情を公開すべきなのか」という議論が海外で巻き起こっている。

年々、ゲーム開発側とゲーマーコミュニティの距離は近付きつつある。一昔前は雑誌のインタビュー記事などからしかうかがい知れなかったゲームの開発事情は、インターネットの発達により開発者自身が情報を発信するようになり、少し調べればリアルタイムで裏事情や知識を得ることができるようになった。そんな状況のなかで、「ゲーム開発者は、開発事情を公開すべきなのか」という議論が海外で巻き起こっている。この議論のきっかけとなったのはゲームデザイナーCharles Randall氏のSNSでの投稿だ

ゲーマー文化は腐敗している

Randall氏は、デベロッパーはゲーマーに対し開発について率直(candid)になるべきだとの友人の意見に反論したエピソードを語る。氏は「俺たちは業界の人だけに対して率直になるべきだ。ゲーマー文化は腐敗しているから、彼らに公開するのは危険すぎる」という反論をしたと述べている。率直というとやや曖昧であるが、つまり包み隠さず今ある事情をそのまま話すということだ。

https://twitter.com/charlesrandall/status/911987704128262145

Randall氏が、ゲーマーコミュニティが“腐敗している”と強い言葉を使って主張している理由は、“距離の近さ”にあるようだ。氏は「たとえば内情を公開しても、ダニング・クルーガー(能力が低いのに自己を高く評価する)なやつらがゲームエンジンやマルチプレイについてその困難さを知りもせず上から“高説”する」と述べる。さらに氏は、ゲーム開発の内情を公開しても疑問を問いかけられるだけであり、さらにこの疑問の問いかけはゲーマーからの標的になることを意味し、誤解や拡散により嫌がらせに発展していくのだという。開発者同士で工夫や内情を共有することは楽しいとしながらも、意味のないものだとも語り、リスクを考慮したうえで開発の内情を公開すべきではないと強調している。ただ、この意見は絶対的なものではなく、ゲーマー文化が腐敗していないならば、公開してもいいかもしれないとも答えている。

この意見に対して、Redditではさまざまな意見が寄せられている。ユーザーから発せられるものは、「ゲーマー文化の腐敗」という言葉のインパクトもあってか、否定的な言葉が多い。一方で、開発者を名乗る匿名の人物たちは、この議論についてそれぞれスレッドで意見を表明している。

ゲーマーの声を受け止める難しさ

たとえば、とあるAAA開発者は公開すべきではないという意見に同意し、「巨大プロジェクトのなかで自分の一存で事情を公開すべきでない」「プロジェクトがうまく進行していないときでもゲームを売らなければいけないので、口を閉じるべきときもある」「公での発言はプロであるマーケティングや広報に任せるべきである」と述べている。パブリッシャーと手を組み巨額のプロジェクトに従事し、開発に専念できているクリエイターだからこそ出る意見だろう。

情報公開の難しさの失敗例としてあげられた『Mass Effect: Andromeda』

16年間ゲーム業界で働きコミュニティと関係を持ってきたというゲーマーは、「時々ならいいが、それ以外はひどいものなので、おすすめできない」と語る。このユーザーは、自身の関わっていた作品のゲーム開発がクローズドベータの段階では、開発・コミュニティともにゲームを良くするという思いを持っているがゆえに、非常に生産的であったと伝えている。しかしそのゲームが正式に発売されて以降は、「解雇しろ」「何もわかっていない」「嘘つき」と呼ばれてきたという。パッチチームに所属していた人々は、バグが修正されていないことでチームのデザイナーの死を祈るコメントに幾度も出会ったとも語る。コミュニティでは狂気的な人々も存在し、そういったユーザーとコミュニケーションをすることは憂鬱になるともコメントしている。これらのコメントは開発事情の公開の可否というより、ゲーマー文化が腐敗しているという意見を持つRandall氏への同意に近い。

実際の開発のケースはどうだろうか。その代表といえるのは、近年では『No Man’s Sky』だろう。メディア向けにはゲーム内容については語っていたものの、メカニクスや開発事情といった類の話は発売前からしておらず、発売後も沈黙を守り続け、パッチノートを貼るのみだった。コミュニティからの意見は聞いていると何度も強調していながらも、「対話」については徹底的に拒絶していたのも特徴的であった。8月に大型アップデートを敢行したことにより評価を持ち直したが、Hello Gamesはこの“沈黙期間”によって信用を多く失ったともいえるし、アップデートに専念したことで傷を抑えられたとみることもできるだろう。

最近の評価は良い傾向にあるものの、いまだ不評の傷を残す『No Man’s Sky』。

対照的であるのは『No Man’s Sky』と比較された、昨年末に発売された宇宙アドベンチャー『ASTRONEER』だ。開発元であるSystem Era Softworksのコミュニティマネージャーは、頻繁にコミュニティに顔を出し密接にユーザーと交流している。円滑なコミュニティに成功しているものの、コンテンツ不足とバグ修正が追いついていないことから絶賛で埋まっていたストアレビューには、不評レビューの影が覆い始めている。情報を公開することでユーザーは多くの情報を受け取り、納得できる材料を見つけるというパターンもあるが、情報だけでは関係の維持は難しい。ユーザーが実際に実感するコンテンツを提供しなければ、情報発信は嘘の証拠として扱われ、命取りになるわけだ。

「するしない」ではなく、「どこまでする」か

確かにゲーマーコミュニティには一部の過激なユーザーが存在し、その危険な思想が伝染していくこともある。現場への理解のない、心無いコメントが多く寄せられるゆえに開発者が、恐ろしい場所であると考えるのも無理はない。しかしながら、現代において事情やメカニクスを公開しないというのは、かなり難しいと言わざるをえない。Kickstarterや早期アクセスなど、進捗を赤裸々に公開するプラットフォームが浸透し始めており、ユーザーにとって内情を“可視”できる環境は当たり前になってきているわけだ。くわえて、Steamではタイトルごとにフォーラムが用意されており、不満やフィードバックはそこへ投じられる。書ける場所が存在するならば、そうしたプラットフォームでゲームをリリースするパブリッシャーは対応しなければいけない。

もちろん、AAAタイトルなど巨大な組織に動かされるプロジェクトにおいては、広報にすべて任せておくことができるが、インディーゲームにおいては、開発者は広報を兼任することが多い。開発者も情報公開を求められる時代になりつつある。さらに、最近では任天堂やスクウェア・エニックスといった大手会社もまた、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『NieR:Automata』などのゲーム・メカニクスを外部に公開する動きを見せている。ただ、開発側がこうした作品の開発情報を公開しているのは、作品が世間に受け入れられた点も大きいと考えられる(ただし『NieR:Automata』については発売前から情報を公開していた)。成功したタイトルにおける開発秘話を公開すると広く受け入れられやすいが、失敗の烙印を押されたタイトルにおける開発秘話は、そのゲームを買ったユーザーならば読んでいて苛立つことは想像に易い。そういった点では、ゲーマーの反応が好意的であると予想できる、成功したタイトルにおける開発事情を披露するのは失敗しない法則であると言っていい。

雲行き怪しい『ASTRONEER』。鳴り物入りのスタートを見せたが…。

では、ゲーマーの反応が未知数である、開発中のタイトルについての開発事情の公開はすべきか、すべきでないか、どちらなのだろうか。この問題における論点は、事情を公開するかしないかというより、どのように公開するかという点が適切だろう。今成功を見せているのは、必要な情報を的確なタイミングで公開しつつ、過剰な対話をおこなわないやり方だ。たとえばChucklefish GamesのCEOであるTiy氏は、『Starbound』のアップデートや『Stardew Valley』の移植について、定期的に発信をおこなっており、情報をうまくコントロールしている。“余計なこと”は言わず、適切なタイミングで近々発表ができると告知したり、スクリーンショットをアップするといった重要な発信をおこなうことでユーザーを満足させるわけだ。このスタンスは、そう珍しいやり方ではないが、もっともわかりやすい成功例とあげることができる。しかしこの手法は厳密にいえば「率直」ではないだろう。Tiy氏のつぶやきや返信は他愛ないものばかり。内情やゲームメカニクスを明かすこととは程遠い。ただ、開発者もゲーマーもお互い幸せでいるためには、うまく情報のコントロールをおこなうことが不可欠であることには間違いない。

今回の議論は、開発者とゲーマーのコミュニティの距離の近さが浮き彫りになった問題であると言える。フィードバックを間近で受けられるようになったが、それゆえにゲーマーもまた罵倒を含めて言いたいことを言えるようになった。距離の近さは、親しみだけでなく危うさもはらんでいるわけだ。コミュニケーションをしつつもお互いにリスペクトを持ち、ある程度の距離感を保つことが長期的に良好な関係を結ぶヒントになるかもしれない。

【UPDATE 2017/10/3 20:20】
本文における『NieR:Automata』に関する記述について修正しました。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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