『Yandere Simulator』、発売前でありながら“インスパイア”が生まれ続ける。野心的なアイディアとユーザーとの協力体制が仇に
『Yandere Simulator(ヤンデレシミュレーター)』は、発売前でありながらインスパイア作品が生まれ続けている。以前より類似ゲームが生まれつつあったが、今はそうしたインスパイアゲームの勢いが増している。『ヤンデレシミュレーター』は、「Senapi」に恋する変わった女子高生「Yandereちゃん(本名はAishi Ayano)」を操作し、恋のライバルを排除していくステルスアクションゲームだ。一風変わったコンセプトのゲームであるが、学校内では時間割が存在し他キャラクターがそうした時間に合わせて行動するというAIが搭載されたり、不意打ちだけでなく毒殺や監禁など「排除」のパターンにバリエーションがあったりと、自由度の高いゲームプレイを実現する野心作として熱い期待が寄せられている。
昨年1月には開発者が病みつつあることを吐露していたが、今年の3月にはインディーパブリッシャーtinyBuildとパートナー契約を締結するなど、製品化に向けて前進しつつあった。しかしその『ヤンデレシミュレーター』は今、インスパイア作品に侵食されつつある。
『ヤンデレシミュレーター』の盗作ゲームが生まれている場所は、Google PlayおよびApp Storeだ。多少のアレンジはなされているものの名前以外はほぼすべてが同じ『High School Simulator』や、ゲームの舞台は街となっているもののゲーム性やモデルには既視感がある『Yandere Killer』、ゴア表現を強めた『Schoolgirl Supervisor – Saori Sato』など、ストアで「Yandere」と検索するだけで『ヤンデレシミュレーター』のシミュレーターを思わせる作品が大量に出てくる。『High School Simulator』にいたってはシリーズ化されており、毎年ブラッシュアップされた作品がリリースされている。そしてついにはSteamおよびAndroidにて『Yandere School』と呼ばれるゲームがリリースされた。
『Yandere School』は、ウクライナのデベロッパーTea & Cake Gamesが開発するステルスゲームだ。前述した作品とは大きく異なり、シェーダーやアセットは別物。主人公やヒロインのデザインは『ヤンデレシミュレーター』とはまた違うものになっている。ノベルパートとアクションパートに分かれたシステムなどは独自性をにおわせる。一方で、やはりそのコンセプトやゲームデザインは『ヤンデレシミュレーター』に酷似していることは否めない。ちなみに本作はWikiaにて『Yandere School』は『ヤンデレシミュレーター』のスピンオフゲームと記されているが、『ヤンデレシミュレーター』の開発側はそのような言及をしていない。
こうしたインスパイアゲームが生まれる理由は、『ヤンデレシミュレーター』がなかばオープンソースで開発されていることが大きいだろう。同作品はボランティアのサポートを受けて開発しており、アルファ版を公開しデバッグや技術的な支援を受けている。もちろん、データの中身は丸見えであるので、これを自由に使うことができる。善意のサポートを受けることを目的としており、その目的は果たせているものの、行き過ぎたインスパイアを生んでしまう結果を生んでいる。
また『ヤンデレシミュレーター』に使用されているアセットは、Unityストアで販売されているアセットで、開発側独自のものとは呼べない。しかしながら、そのアセットを使った明らかに同じ方向性を目指したジャンルのゲームが開発されているのも事実。『ヤンデレシミュレーター』側はこうしたインスパイア作品についてどう思っているのか、実際にAUTOMATON編集部は開発の中心人物であるYandere Devに聞いてみた。
Yandere Devは物腰柔らかく対応してくれたものの、インスパイア作品については「話したくない」と強調し「注意すら向けたくない」と語る。『ヤンデレシミュレーター』とインスパイア作品については「Kung Fu Panda」と「Chop Kick Panda」のような関係である、とも話してくれた。そのうえで「これ以上話せることはない」とあらためて嫌悪感を抱いていることを表明した。
つまるところ、『ヤンデレシミュレーター』のインスパイア作品は非公認であることが明らかになった形だ。ただ一方で、インスパイア作品についても一定の需要があるのも事実。Steamの『Yandere School』のスレッドでは「これは『ヤンデレシミュレーター』のパクりだ。本家を買うべき。」と糾弾する書き込みもある。しかし「リリースされていない作品にパクりも何もあるのか?」「『ヤンデレシミュレーター』の進展があまりないからこっちを買う」「こっちのほうが先に完成しそう」といった声もあり、開発の進行の遅さへの皮肉をまじえたコメントが埋め尽くされている。特に「先に発売された作品こそがオリジナルという意見」は、全面的には否定できない部分もある。
この問題は、とにかく『ヤンデレシミュレーター』が発売されないからには解決できない課題であることは確かだ。魅力的なコンセプトでありながら、なかばフリー素材となっている以上はこうしたインスパイア作品は後を絶たないだろう。インスパイアタイトルが無料でリリースされている現状を考えると、有料販売される予定の『ヤンデレシミュレーター』は、完成度をもってその意義を知らしめることが唯一かつ明確な答えになりそうだ。
【UPDATE 2017/09/04 20:30】
アセットに関する本文の一部を加筆修正しました。