非豪華主義なアクションRPG『Little Devil Inside』は”80年代のパッケージ絵買い”から生まれる

韓国のスタジオNeostreamは、現在『Little Devil Inside』を開発中だ。本作は雇われの冒険家と大学教授が、”外の世界”を探索するアクションRPGである。

韓国のスタジオNeostreamは、現在『Little Devil Inside』を開発中だ。本作は雇われの冒険家と大学教授が、”外の世界”を探索するアクションRPGである。今年4月初頭にトレイラーが公開され、その素晴らしいアートセンスが高い評価を受け、国内外のメディアが本作を取り上げた。現在、25万ドルの獲得を目指す『Little Devil Inside』のKickstarterファンディングが進行中だが、本作のゲームプレイや、テーマである「ミニマリズムでは無いが本質的にミニマリズム」にはまだまだ謎が多い状況である。

そこで今回、Neostreamにて開発を指揮するクリエイティブ兼ゲームディレクターKody Lee氏に取材し、”昔のゲームパッケージ絵買い”から着想したという本作の魅力を存分に語ってもらった。基本的なゲームプレイや、非豪華主義とも言えるデザインコンセプトの概要については、過去に公開したIndie of the Weekの記事を参照して欲しい。

 

10年以上も恋い焦がれた「ゲーム開発」

 

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韓国のマルチメディア企業Neostream

――まず開発スタジオNeostreamと、所属するメンバーについて教えて下さい。

Kody Lee氏: もともとNeostreamは1998年にマルチメディア企業として設立されたんだ。世界中のクライアントに向けてさまざまなマルチメディアコンテンツをプロデュースする会社なんだけど、僕たちの情熱は常にゲームに傾いていたね。過去にいくつかゲームのコンセプトを立ち上げてみたことがあるんだけど、日々の仕事もあったし一時期は2つの国で2つのスタジオを運営している時もあった。全てのエネルギーをゲーム開発に注ぐことは難しかったんだ。

現在僕たちはたった3人のとても小さなインディーチームだ。クリエイティブおよびゲームディレクターのKody Lee、リードプログラマーのJ.J. Lee、プロジェクトの共同コーディネーターでありコミュニケーション担当のJohn Choi。みんなゲーム愛好家さ。特に僕は歩くゲーム百科事典みたいな奴で、たぶん子供だった80年代初頭以降でプレイしていないゲームは無いと思うよ。

Neostreamは、多数のマルチメディアプロジェクトとは別に、地元ソウルのクライアント向けに小規模なカジュアルゲームを開発してきたこともある。でも僕たちが望むテイストを満たすようなものは無かった。オリジナルのコンセプトにいくつか挑戦もしたんだけど、さっき言ったように他の仕事があって、遅々として進まなかった。だけどこれらのコンセプトにはまだ価値があると考えていて、『Little Devil Inside』の後に再び挑戦したいと思っている。つまり、『Little Devil Inside』は僕たちにとって初となる”真の”ゲームプロジェクトになるね。

――みなさんゲーム愛好家とのことですが、例えば日本のゲームをプレイしたことはありますか?

Lee氏: もちろん!素晴らしい日本産ゲームをたくさんプレイしてきたよ。でも今は開発者だから、じっくりとプレイする時間は減ってきたね。セリフは理解できなかったけど、オリジナルの日本語版で日本産ゲームを何度もプレイした。ゲームのデザインは素晴らしくて、問題なくゲームに入り込める没入感があった。もし日本語が理解できたのなら、もっと楽しめたのは間違いないだろうね。日本のゲームをプレイして日本語の言葉やフレーズをたくさん理解したよ。

僕たちだけでなく多くの人々が同意すると思うけど、日本のクリエイターとゲームの影響無くして、今日のビデオゲーム業界は無かったと思う。創造性溢れるストーリーテリング、アートスタイル、細やかなゲームデザイン、今後も世界各地で日本の素晴らしいタイトルが登場して、より多くの人たちを惹きつけてくれることを願っているよ。

10年以上の歴史を持つNeostreamの3人組が、初めて『Little Devil Inside』で自らが望むゲーム開発に挑戦する
10年以上の歴史を持つNeostreamの3人組が、初めて『Little Devil Inside』で自らが望むゲーム開発に挑戦する

「80年代のパッケージ絵買い」

 

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80年代のパッケージ絵買いから着想した『Little Devil Inside』は、少ない情報でプレイヤーに「想像させる」ことを念頭に置いている

――『Little Devil Inside』をあらためて日本のゲーマーたちに紹介してください。

Lee氏: 基本的に『Little Devil Inside』はサバイバルアクションRPGだ。リアルな環境とインタラクションがあり、プレイヤーの感情に訴えかけ、非現実的な世界が舞台となる。これだけではなんのことかわからないと思うので、このインタビューが終わるまでに、読者が本作のことを理解してくれることを願うよ。

『Little Devil Inside』には、キャラクターのスキルやステータス、武器と防具のアップグレードといった、RPG由来のフィーチャーがある。でも各フィーチャーのデザインコンセプトには、そこまで注力していない。単にゲームをプレイするというよりも、プレイヤーにゲームの中で生きているように感じさせる、没入させるような、エモーショナルな繋がりをどう提供するかに集中しているんだ。

――この『Little Devil Inside』を開発するに至った着想は?

Lee氏: 僕らは完全なるビデオゲーム世代なんだ。情報の少ないカバーアートで購入するかどうかを判断するような、初期の8-bitの頃からゲームに触れてきた。カバーアートにはキャラクターと世界観しか描かれてなくて、ゲームをプレイする前になんとかその絵でゲームの内容を思い描くんだ。このノスタルジックな本質的要素こそが、僕たちが『Little Devil Inside』で作りたいものだ。今日のテクノロジーレベルではしばしば求められるデザインコンセプト「ミニマリズム」を用いる。プレイヤーには自ら自分自身の体験を築き上げて欲しいので、僕たちは多数の細かいコンテンツを注意深く構築していかなければならない。

――『Little Devil Inside』の開発はいつ始まりましたか?

Lee氏: もともとものアイディアやコンセプトを思いついたのはおよそ2年前だね。最初の1年は全ての異なるアイディアを1つのフレームワークに収まるようフィットさせて、ストーリーラインを隅々まで描き、世界観やゲームプレイのコンセプトを作り、実験した。それから、基本的なプロトタイプに取り組んで、アニメーションをテストしたり、雰囲気を高めるエフェクトを試すために一部シーンを構築したり、戦闘メカニックをテストしたりした。

――トレイラーは度肝を抜くようなセンスでしたが、開発は本当に3人だけで?

Lee氏: プリアルファ版は僕たち3人だけで完成させた。現在、僕たちはコアのアセットやメカニックにとても満足しているけど、ファンディングが成功したのなら、才能あるゲームデザイナーやアーティスト、アニメーターやプログラマーなんかを雇って、さらにコンテンツを開発しゲーム本編に投じないといけないね。

 

 

ミニマリズムだが本質的にはミニマリズムでは無い

 

――複数のメディアは本作を「『Dark Souls』と『ゼルダの伝説 風のタクト』が出会ったようだ」と表現しましたが、それは正しいでしょうか。

Lee氏: 広く受け止めるならYESだね。明らかにビジュアルスタイルは異なるし、メディアがその点の類似性からそう表現したとは思っていない。ただ、恐らくみんなは総合的な美的感覚の類似性を心の中で感じ取ったんだと思う。1つや2つの作品だけでなく、多数の作品からさまざまな影響を受けているし、そうなるよう意図したわけではなかったね。

――『Little Devil Inside』に影響を与えたゲームがあるにはある?

Lee氏: 直接的であるかどうかは別として、ゲームだけじゃなく、映画やプリント、アートやデザインなどのメディア作品からも、インスピレーションは間違いなく得ているね。もちろん、『Little Devil Inside』に確かな影響を与えたゲームはあるよ。『Betrayal at Krondor』や『X-COM』シリーズ、『ゼルダの伝説』に『System Shock』のゲームデザインやメカニックなんかだ。それぞれのユニークな要素からインスピ―レションを得ている。

――先ほど「ミニマリズム」という単語が出ましたが、本作のテーマとして紹介されている、「ミニマリズムだが本質的にはミニマリズムでは無い(minimalism but not minimalism per se)」について教えて下さい。

Lee氏: 「ミニマリズムだが本質的にはミニマリズムでは無い」は、『Little Devil Inside』のデザインコンセプトだ。凄まじいテクスチャレベルで、まるで生きているかのようなハイポリのキャラクターとオブジェクトを開発するのとは対照的に、各プレイヤーが自分自身でさらなるディテールを想起するよう、デザインの本質と美的感覚は”巧妙だけど空虚な感覚が強くある”ものを意図している。先ほど話した、プレイする前にカバーアートでゲームを思い描くような、ノスタルジックな感覚だね。

緻密で滑らかなアニメーションとかの一部のデザイン要素については、シンプルな見た目のキャラクターの方が、ゲーム体験においてより力強く感情を訴えかけると信じている。リアルな見た目の人間キャラクターでも同じだって?まあ多分その通りかもね。

本質的にはミニマリズムでは無いが、グラフィック表現を最小限に留め、プレイヤーに想起させる余地を残している。それでもビジュアルが素晴らしく見えるのは、Neostreamのアートセンスが凄いと言うほかないだろう
本質的にはミニマリズムでは無いが、グラフィック表現を最小限に留め、プレイヤーに想起させる余地を残している。それでもビジュアルが素晴らしく見えるのは、Neostreamのアートセンスが凄いと言うほかないだろう

 

ゲームの世界を”広大に感じさせる”

 

――『Little Devil Inside』のゲームプレイはどのような流れになるんでしょうか。『The Elder Scrolls』のようなオープンワールドゲームですか?それとも『ファイナルファンタジー』のようなRPGに?

Lee氏: ゲームはサンドボックスタイプのゲームプレイと、そうではないゲームプレイが面白く混ざり合っているんだ。オープンワールドは存在するし、それ以上のものにもなる。物理的に言えば、ワールドマップは『Borderlands』と同じくらいだけど、重要なのはプレイヤーが実際に感じるサイズだ。各プレイヤーが自身のゲーム体験を通じて、ワールドを小さく感じたり大きく感じたりするよう願っている。

基本的には、安全なメインの街が存在する。外の世界よりは安全と言うべきかな。辺りを散策したり、情報やゴシップを集めたり、店に行って装備を修理したり、アイテムを収集することができる。外の世界では、物理的には異なるサイズの各メインエリアが存在するけど、このサイズは恐らくゲームプレイ体験とは関係が無いようになる。

例えば砂漠エリアについて話してみよう。我々のデザイン目標は、物理的に延々と続くように見える砂漠を単に作るんじゃなくて、エフェクトやパーティクル、シェーディングなどで、雰囲気とキャラクターの脚色、リアクションを作り上げることだ。砂漠という環境における全ての要素を描くことで、プレイヤーは心の中に非常に広大な砂漠のイメージを思い描くんだ。

実際のサイズよりもどうしてゲームワールドが大きく感じるのか、別の例を出してみよう。メインキャラクターが人間で、その行動は人間の制限通りにリアルに描かれているから、歩行や走るといった実際のアニメーションは物理学に基いてとてもリアルに描かれている。もっと簡単に説明することは少しむずかしいよ、ただこれで全体を理解して貰えればと思う。最終的に何が言いたいのかと言うと、もしかしたらワールドの物理的なサイズは『Borderlands』よりも小さいかもしれないけど、ゲーム内ではとても大きく”感じる”ということなんだ。『ファイナルファンタジー』や『ゼルダの伝説 時のオカリナ』、『風のタクト』はそれを上手くやっていると思う。

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プレイヤーの歩行やリアクションなど、さまざまな要素を組み合わせることで、実際のサイズ以上に世界を広大に感じさせる

――『Little Devil Inside』のアクションパートについて教えて下さい。どのように動作するんでしょうか?

Lee氏: 『ゼルダの伝説』みたいに、ベーシックな戦闘と操作メカニックに親近感を感じている日本のゲーマーが多いことを願っているよ。ただ『Little Devil Inside』の戦闘アクションには、独自の異なる”感覚”がある。基本的には剣を使って戦う。プレイヤーはオートロックか、シングルターゲットをロックするかを切り換えることが出来る。オートロックはグループや敵の集団と戦うのに向いていて、シングルターゲットは強い敵と1対1で戦うのに向いていているんだ。

――トレイラーでは銃撃戦も確認できました。

Lee氏: 車から銃撃する時も敵をターゲットすることができる。敵をロックする度に、クロスヘアと選択した敵にヒットするかどうかの確率を示すパーセンテージが表示される。『Fallout』におけるターンベースの戦闘システムに基本的には似ているけど、リアルタイムで動作するんだ。ターゲットエリアのサイズは、ターゲットにどれだけ近づいているかと、プレイヤーのスキルステータスによって劇的に変化する。パーセンテージが高い巨大なターゲットエリアなら攻撃がヒットする可能性は高いし、確率がとても低い小さなエリアならヒットするのは難しい。リアルタイムで敵の集団と直面した場合、プレイヤーには素早く大胆な決断が求められる。素早く銃口を複数のターゲットに向けてただ撃ちまくったり、しっかりと狙ってヒットするパーセンテージを上げてから銃撃する。

ほかにも戦闘攻撃アクションは存在するよ。キャラクターは敵や環境に呼応したさまざまなアクションも持っているんだ。崖から飛び降りたり、泳いだり、登ったり、攻撃を緊急回避したり、回転したりすることができる。

――ストーリーに関しても、もう少し詳しく教えて頂けますか。

Lee氏: 2つの理由があって、あまり語りたくはない部分だね。あまり詳細に話すとゲームのネタバレになってしまうし、ストーリー自体を追うことがデザインにおけるメインの目標では無いからね。

プレイヤーは雇われの探検家で冒険家――たぶん若いインディアナ・ジョーンズみたいな?――で、危険で困難な仕事を探し求めている。外の世界はモンスターやクリーチャー、デーモンに神話や謎に満ちているんだ。大部分の人間にとっては危険な世界であり、彼らは頭の中で外はどんな世界だろうと思うぐらいで、安全な都市や街に住んでいる。ある日、プレイヤーはとある大学教授に雇われることになる。この教授は外の世界における超常現象について研究していて、調査のために君が必要なんだ。さまざまな噂や神話の真相を探り、アーティファクトを見つけるに君はミッションに挑戦し、帰還して報告するんだ。彼が研究を続けることで技術が発展し、人々はより安全な生活を送れるようになる。

旅を通じてプレイヤーは新たな友人と出会い、予想外の出来事に巻き込まれる。生き残るためにキャラクターをマネジメントしなければならない。ストーリーの中で大小さまざまな体験に遭遇して、異なる意味合いや満足感を得る。僕たちは各プレイヤーに独自の体験を築いて欲しいと願っている。それが僕たちのデザインにおける目標だね。

 

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危険な冒険を求めている探検家と、超常現象を研究している大学教授が物語の中心人物となる

 

発売は2016年を予定、日本での発売も切望

 

――『Little Devil Inside』はいつごろリリースされそうでしょうか?完成まではどれほどかかりそうですか?

Lee氏: 現在ゲームは早期アルファビルドの段階で、もし望んだだけのファンディングが成功すれば、2016年の後半にリリースしたいと願っている。クロスプラットフォームでのローンチも目標としていて、PC、Linux、Mac、PS4、Xbox Oneでの発売を目指している。

――日本でローカライズリリースする考えは有りますか?

Lee氏: 『Little Devil Inside』は絶対に日本に持ち込みたいね、日本語を含むさまざまな言語で提供したい。適切な時期にローカライズの会社やパブリッシャーと協力できることを願っているよ。

――もし日本のゲーマーやAUTOMATON読者にメッセージがあればお願いします。

Lee氏: 最初に簡単に言ったんだけど、もう一度言ってもいいと思う。世界のビデオゲーム業界は、日本産ゲームの影響によって形作られたと思っているよ。伝説級のタイトルが沢山存在する。『ドンキーコング』、『パックマン』、黄金期のアーケードゲームを覚えてる?カシオの『妖怪屋敷』や『ツインビー』、『武蔵伝』に『Saint Eyes』、『ワンダーボーイ2』に『魔城伝説2』、『サーク』と、僕に影響を与えたゲームを挙げるとキリがないよ。日本のゲームは全てのゲームの世代に多大な影響を与えてきた。ゲーム自身も素晴らしいんだけど、それをプレイし楽しできたゲーマーたちが居たからこそ、ゲームはより素晴らしくなっていったんだと信じている。

いま挙げた全てのゲームは、ゲームクリエイターとしてだけではなく、現在の僕自身にも直接、あるいは間接的に影響を与えた。ゲーマー自身として、日本のゲーム業界、ゲーマーとクリエイター、パブリッシャーやメディア、全員に感謝したい。

――ありがとうございました。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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