父(40歳)と息子(11歳)の『ドラクエ5』通信その3「なんか強そうだから」
息子の冒険は順調に進み、いよいよ『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(以下『ドラクエ5』)最大の山場の一つ、結婚イベントに差し掛かりつつある。世界三大ゲーム論争の一つと言われている「ビアンカかフローラか」問題(ニンテンドーDS版以降は第三勢力として「デボラ」も加わったが)について、息子は果たして何を想い、誰を人生の伴侶として迎えるのか。本連載での私の最大の関心項目といっても過言ではない。
主人公の人生最大の選択へ
息子がプレイする主人公の冒険の旅は、いよいよ本格的になり始めていた。「世界のどこかにいる、天空の装備を扱える勇者を探す」という父パパスの遺志を継ぎ、友人であるヘンリーの故郷ラインハットをめぐるトラブルを解決後、獰猛なキラーパンサーへと成長したネコとの再会を経て、サラボナへと到着する。
この街の富豪「ルドマン」には「フローラ」という可憐な娘がおり、なんとこのフローラと結婚した者には、家宝の「天空の盾」を譲るというのだ。婿になるには「炎のリング」「水のリング」という2つの指輪を手に入れる必要がある。危険度の高いこのフローラ争奪戦に身を投じる主人公だが、水のリングが眠る「滝の洞窟」へ向かう道中の村で、なんとビアンカと10年以上ぶりの再会を果たすのだった……。
可憐な富豪のお嬢さん、フローラか。
気が強いが美人な幼馴染、ビアンカか。
はたまたフローラの姉でギャルっ気の強いデボラか。
主人公の人生最大の選択である。
ココまで来ると、息子もだいぶ余裕が出てきており、序盤のような「どうすればいいの?」「すごい!ホイミで回復できる!」といった初々しいリアクションは影を潜め、LINEで送られてくる内容は進捗報告的なものが多くなってきている。とはいえ、『ドラクエ5』のプレイヤーの心を揺さぶるようなイベントの数々は、まだまだ息子に感銘を与えることに成功しているようだ。
たとえば、キラーパンサーとの再会シーンのくだり。カボチ村の村長からの依頼で、主人公たちは時折この村を襲ってくる猛獣を退治しに行くが、幼少時にビアンカがネコに結びつけたハンカチがキーとなり、この猛獣がまさに成長したネコ=キラーパンサーであることが判明、かつキラーパンサーがメンバー入りする。この一連のイベント展開は、RPG初挑戦の息子お気に入りのようだった。
きっと結婚イベントも、息子の心に衝撃を与えるようなものになるに違いない。私はいつものように過剰な期待を抱きつつ、仕事の合間に息子からのLINEでの報告を待つ。
「なんか強そうだから」
一時的にビアンカがパーティーに加わり、10年ぶりの冒険を経て、果たして2つの指輪を手に入れた主人公。だがここへ来て、フローラの父親ルドマンに、結婚相手で迷っている旨を伝えることとなる。普通に考えればとんでもないことではあるが、器の大きいルドマンは「ゆっくり考えたまえ」「私は君が気に入ったから、どんな結論でも納得だ」とえらく寛大なリアクション。ここでプレイヤーは結婚相手を決めるのだが、決断を告げる約束をした明日を控え、眠れぬ夜にふと目が冷めて、花嫁候補その他のキャラクター達と会話をすることになる。(もっとも、フローラだけはなぜかぐっすり寝てしまっているが)。
はて、どちらを伴侶に選ぶんだろうと、ゲームのこととはいえ、息子が実際に結婚するかのようなドキドキを勝手に楽しむ私。そんな私をよそに、息子はアッサリと決断する。
ビアンカを選んだことには「さすがは我が息子」とホッとしたが、理由は「なんか強そうだから」。続いて結婚式イベントで「ドキドキしない?」と聞いたら、「いやあんまりw」との返答。まあ、まだ息子は11歳であるし、そういった話は恥じらい豊富な年頃であるのかもしれない。そう思って息子に「なー好きな子とか、クラスにいないの?」というオヤジらしいベタな質問をしたところ、「俺らのクラス、そういうのドライだよ」という回答だった。本当なのか、恥じらっているだけなのか。
とはいえ、実は当時◯◯歳の私も初回プレイでは、幼馴染であるビアンカを、苦楽をともにした絆があるといった理由では選ばなかった。息子の「強そうだから」という気軽な告白と同様に、クラスメイトの「フローラの方が強い」というアドバイスに従って、私はフローラを選んだのである。その後、私はビアンカを選ばなかったことを後悔し続けることになる。主人公と結婚した虫も殺せないような可憐な少女は、いつしかモーニングスターをブン回し、イオナズンを唱え、敵を次々と血肉に変えていく殺戮マシーンと化していく。私はゲーム終盤にそっとセーブデータをリセットし、愛すべき幼馴染のビアンカを選ぶ道を歩んだ。
果たして、息子は本当にビアンカに愛情を感じていなかったのか。異性のことが気になりはじめる、私の初回プレイ時の年(16歳)と同じころにプレイすれば、またわかるのかもしれない。
「父と子」から「友達」の関係性へ
結婚パートの進捗報告を受ける中、「クリアしたら他の(ナンバリングタイトル)もやってみようかな」などと会話していると、息子が「音楽もいい」とLINEで伝えてきたいうコメントが。早速ならばと公式サウンドトラックサントラのフルオーケストラ版を聴かせてみたが、反応はなぜかいまいち。曰く「8bitのほうがいい」という、以前の企画で『魔界村』をプレイしたときと同じ反応を示した。「本来フルオーケストラを流したいが、ハードウェアの制約上、やむなくピコピコ音で頑張って表現した」という前提で当時ゲームを楽しんでいた我々と違い、息子世代は「ゲームならではの8bit演出がシブい、スタイリッシュ」なのだろうか。
このように、私たち親子2人のコミュニケーションは、父と息子というよりも、なんだか年の離れた友達のようになりつつある。当初のこの企画の目論見では、父親として、息子がドラクエ5を楽しめるよう私が逐一進捗確認をして、都度アドバイスしたりナビゲートすることが前提であった。むしろ「最後まで遊んでくれるだろうか」という最大の不安要素すらあった。だが息子はもうドラクエの文法を咀嚼し、私のアドバイス無しにサクサクと楽しんでいる。並行して私もスマートフォン版をプレし始めたこともあり、最早「父と子」の関係ではなく、ただの「ドラクエをプレイしている友人同士」な関係に変わりつつある。
いわば企画の根幹が揺れつつあるのだが、より近い目線で息子のプレイフィールに触れられるし、何より我々二人が楽しい時間を過ごせているので、「まあ。コレはコレで良いな」と考えている。
結婚の先にあるものと、再び待ち受ける悪夢と
無事に結婚というドラクエ5最大のイベントの一つを終えた息子であるが、この後も衝撃の事実が発覚、さらに幸福と絶望それぞれの絶頂が待ち受けている。恐らくは、息子はもうラストまで無事に辿り着けるであろう展開ではあるが、それぞれのイベントで何を想うのか。また一定の余裕が出てきた中で、どのようなアイテム・メンバー管理や、やりこみプレイをしていくのか。
いよいよクライマックスも近づいてきた、この壮大な物語の展開に、後幾ばくかのお付き合いを願いたい。