『For The King』は名もなき愛国者の叙事詩、ストラテジーとローグライクを融合した古き良きRPG
古代ギリシャはホメロスの「オデュッセイア」に、ローマはヴェルギリウスの「アエネーイス」、イギリス最古の「ベーオウルフ」に、フランス最古は「ローランの歌」、そして中世ドイツには「ニーベルンゲンの歌」。このほか、ダンテの「神曲」やミルトンの「失楽園」など、歴史に刻まれてきた叙事詩には必ず英雄が存在する。彼らはもとより英雄たりうるのか。否。彼らは語られることで初めて英雄となる。『For The King』はストラテジーとローグライクを融合したJRPG風のアドベンチャーゲームであり、名もなき一般市民が力を合わせて愛する王国に平和を取り戻す物語。あなただけの英雄譚である。
ある日、Fahrul王国の王が何者かによって暗殺された。平穏な日々は終わりを告げ、世界は混沌が支配する闇に包まれようとしていた。よくある古き良きロールプレイングゲームなら、ここで勇者や救世主が立ち上がり魔の手から平和を取り戻しただろうが、『For The King』にそんな都合のいい主人公はいない。プレイヤーは王女の勅令によって招集された一般市民たち。魔物退治の専門家でも偉大な魔術師でもなく、普段は鍛冶屋や学者、木こり、狩人、薬師、吟遊詩人として働く凡俗の徒である。亡き王のため立ち上がった彼らの勇気と犠牲はやがて、新たな英雄譚として語り継がれていくことだろう。
戦闘経験のないカタギといっても彼らは特定分野の専門家。それぞれが特有の「スペシャルアビリティ」を使いこなし、無二の役割を担ってくれる。たとえば、防具の知識に精通した鍛冶屋はタフで力も強い。絶対防御を発動できる能力を生かして壁役のタンクに向いている。狩人は隠密行動で敵との戦闘を避けたり、高い感知力を生かした必中攻撃で獲物を射抜くDPSタイプ。ヒーラーならハーブを知り尽くした薬師におまかせ。パーティー全体を同時に回復できる唯一の存在だ。吟遊詩人はサポートが得意で、学者は高度な魔法を使いこなす。罠師は待ち伏せやトラップ解除に長け、木こりは豪腕で両手持ちの斧をぶん回す。パーティー構成とチームワークであらゆる局面に対応できるのだ。
スロットシステムによる行動管理
プレイヤーは3人のキャラクターをソロもしくはマルチプレイで操作して、ヘキサゴンタイルで構成されたマップ上を順番に行動する。スゴロク形式のゲームデザインが特徴だ。特筆すべきは、ダイスやルーレットを一切使わず、移動や戦闘といったすべての行動を「スロットシステム」によって管理している点だ。キャラクターの素早さや装備中の武器に応じた数の行動スロットが用意されており、それぞれに成否の判定がある。たとえば移動スロットがXだった場合、X回の判定で成功ランプが点った数だけタイルを移動できる。戦闘ではコマンドごとに同様の判定が行われ、成功スロットが多いほど攻撃の命中率や威力が増える仕組みだ。中にはパーフェクトでしか発動しないアビリティもある。
こうした特殊コマンドを使用する際に重要なのが、「フォーカスポイント」の有効活用だ。プレイヤーは移動や戦闘、マップ上のギミックなど、あらゆる場面で「フォーカスポイント」を消費することで、任意のスロット数を100パーセント成功させられる。たとえば、タンクが「挑発」コマンドで敵を引きつける際、2つのスロットを両方成功させなければならない。ここで2ポイントを消費すれば確実に発動するというわけだ。「フォーカスポイント」は敵から逃走する際やトラップを解除する際など、失敗できない局面で重宝するため、上手く管理できるかが生存の鍵を握る。
ちなみにアクションスロットの成功率は、スロットのアイコンに対応したキャラクターのステータスに依存する。両手持ちの武器で攻撃する時や、重い扉をこじ開ける際のスロットは腕のアイコンで表示され、筋力が高いほど成功する確率が上がる。このほか、タンクが敵を挑発する際は体力、魔法の杖やダンジョンの謎解きには知能、弓の扱いや隠密行動には感知、移動や逃走には素早さといった具合に、装備や行動によって異なるアイコンが設定されている。このようにキャラクターの職業によって得意分野がはっきりしているため、戦闘のみならずダンジョン探索時にも役割分担が必須になってくる。
世界の終わりを示すカオスメーター
ほとんどのタイルには、街や賭博場、造船所といった施設のほか、敵のキャンプやダンジョンへの入口、聖なる加護を受けられる銅像など、さまざまなイベントが用意されている。何もないタイルへ移動した際にも、キャラクターの感知力が低いと敵の待ち伏せを受けたり、「薬草採取」のアビリティを持っていればランダムでハーブが手に入ったりと、時として予期せぬイベントが発生する。また、フィールドの時間帯や天候は毎ターン変化しており、環境に応じてタイルの内容も変動する仕組みだ。夜は危険なモンスターが増えたり、雨の日は移動力が下がったり、毒沼だったタイルも数ターン後には干からびていたりと、盤面は常に変化している。
ここで忘れてはならないのが「カオスメーター」の存在だ。混沌に瀕したFahrulには、一定ターンごとにカオスとよばれる厄災が到来する。メーターは最大で3ポイントまで蓄積し、カオスの進行度に応じて危険なカオスタイルや敵の体力が増えていく。「カオスメーター」が最大値になると世界は闇で覆われ、マップ上が呪われたタイルであふれかえるほか、カオスビーストと呼ばれる強敵と頻繁にエンカウントするようになる。そうなれば生き残れる望みは薄い。プレイヤーたちは、冒険を続けながらも定期的にクエストやイベントをとおして、「カオスメーター」の蓄積を阻止しなければならない。
カオスの到来と同様に、マップ上には定期的にプレイヤーたちを苦しめるボスが襲来する。どこに出現するかは完全にランダムで、退治するまで毎ターン嫌がらせを受ける羽目になる。プレイヤーのターンを強制的にスキップするボスや、アクションスロットを細工してコマンドの失敗を誘うボス、はたまたすべての商品を法外な値段に釣り上げて買い物できなくしてしまう厄介者も。彼らを放置すると取り返しのつかないことになる。一方で、ボスを倒すと彼らが装備していたユニーク装備が手に入る。どれも役割に応じた有益な効果が付与されており、ゲームの攻略には欠かせない貴重品だ。
総評
『For The King』の最大の魅力は、容易にクリアできない高難易度と、ゲームを周回するごとにコンテンツが増えていくアンロック要素にある。本作には三段階の難易度が用意されているが、イージーモードでも1回の冒険では到底クリアできないだろう。キャラクターのレベルが上がるごとに敵も強さを増していくことに加えて、パーティーメンバーが死亡した際に蘇生できる回数には上限がある。さらに最初は使用できる職業も少なく、強力なアイテムや便利な施設タイルも解放されていないからだ。こうした追加コンテンツは旅の中で手に入るロアポイントを消費することでアンロックできる。挑戦を重ねるたびに次回の冒険が楽になるということだ。
本作はストラテジーとJRPGの戦闘システム、ローグライク要素を融合したゲームデザインと銘打たれているとおり、ユーザーによっては胸の奥にしまっていた古き良き時代の思い出を呼び起こしてくれるだろう。プレイヤー同士の対戦はできないが、スゴロクとRPGを組み合わせた作風は、90年代初頭に愛された『ドカポン』や『すごろクエスト』を想起させるほか、素早さに基づいて行動順が前後するアクティブタイムバトルは一見『グランディア』のようでもある。もちろん感じ方は人それぞれ異なるだろうが、粗くもキュートなグラフィックも相まって、どこか懐かしさを覚える作風に癒される。そんな懐古の念をフレンドとのマルチプレイで共有して欲しい作品だ。