よくわかるアーケードアーカイブスの歴史教科書(3):忍者くん 魔城の冒険
松井ムネタツ(以下ムネタツ):
ハムスターからリリース中のアーケードアーカイブスのタイトルを、より深く知ってもらうためこのコーナーも3回目。今回は『忍者くん 魔城の冒険』(以下、忍者くん)をお届けしましょう。これは個性的なゲームを多数リリースしていたUPLの作品ですね。
1984年発売のゲームですが、この年はコアラ日本初上陸だったりエリマキトカゲブームがあったりと、動物で盛り上がってた年だったようで。あ、ロサンゼルスオリンピックも1984年か。いまや国会議員の馳浩氏がレスリングで出場した五輪ですよ。このあと新日本プロレスに入って……。
石井ぜんじ(以下ぜんじ):
はいはい、プロレス談義はいいから(苦笑)。この年はたくさんのヒットゲームが出ているんですよね。『スパルタンX』(アイレム)、『ドルアーガの塔』『パックランド』(ナムコ)、『空手道』(データイースト)、『1942』(カプコン)とか。もちろんこれらのゲームも遊びましたけど、『忍者くん』も当時やり込みました。
ムネタツ:
縦に4画面分ほどあるステージを走り回り&跳び回り、敵を倒していくゲームですね。敵は8人いて全員倒せばステージクリアです。攻撃手段は手裏剣。射程距離が意外と短いので、そこそこ近づく必要があります。ジャンプはレバーを左右に入れながら行い、レバー操作せずにジャンプボタンを押すと一段下に降ります。このジャンプ感覚がちょっと特殊なゲームでした。フワリと跳ぶ、みたいな。
ぜんじ:
画面がとてもキレイに見えました。実際のところ、当時としてはかなり美しいグラフィックだったと思います。文字がキラキラ輝いて見えるのが印象的でしたね。このゲームを始めたのはその影響があったかも。
ムネタツ:
ああ、確かにそうですね。僕は崖の立体感に感動しましたよ。こういう見せ方があったのかあ、って。
ぜんじ:
のちに本作を開発した藤沢勉さんに聞いたのですが、このゲームはキャラクターがプレイヤーとの位置関係などを判定して、1体ずつ思考しながら動いているんだそうです。つまりキャラクターにAI(思考ルーチン)を搭載し、キャラごとに意志をもって動くように作られているんです。AIを搭載したゲームでは最初期のゲームと言っても過言ではないでしょう。だから何回プレイしても同じ動きにならないので、飽きないゲーム性になっているんだと思います。
ムネタツ:
『パックマン』のモンスターも色ごとに個性がついていましたけど、それよりもさらに踏み込んだ仕掛けになっているということですかね。
ぜんじ:
『忍者くん』の開発話は、当時ゲーメスト編集部に藤沢さんを呼んでじっくり話を聞いたことがあるんです。ゲーム開発者という職業にものすごく誇りを持っていた方でした。既に故人ですが、知る人ぞ知るこだわり派ゲームデザイナーでしたね。
その個性にあてられて、当時僕らも若くてマニアとして血気盛んだったので、藤沢さんがゲーメスト編集部に来たときに『グラディウス』の復活パターンのビデオを見てもらったりしたんですよ。
ぜんじ:
僕らも本気でゲームやってるんですよ!と言いたかったのかなあ(笑)。ちなみにこのビデオは通称「逆さグラディウス」と呼ばれているもの(撮影の関係で画面が逆さになってしまっていた)で……まあこの話もそのうちしましょう。
ムネタツ:
よくわからないけど、ぜんじさんが藤沢さんをとてもリスペクトしてるんだなっていうのはわかりました。
ぜんじ:
このゲームは、直接手裏剣を当てれば敵を倒せますが、ジャンプして敵に体当たりするとその敵は気絶します。気絶させてから手裏剣でトドメを刺すと、より確実です。これはアーケード版『マリオブラザーズ』に近いアイディアだと思うのですが、ただ敵を攻撃するだけでなく、ひと手間かけると面白いゲームができることがあります。本作はその典型でしょう。泡に閉じ込めて倒す『バブルボブル』なんかもそう。古くは穴に落として埋める『平安京エイリアン』もこのタイプですね。
ムネタツ:
なるほど、単に「殴って倒す」「撃って倒す」のではなく、「○○して動けなくしてから倒す」、というのがポイントなのですね。これはいまでもアクションゲームを作るときのアイディアとして使えそうです。ダジャレを言って敵を動けなくしてから倒すとか!
ぜんじ:
(無視しながら)当時のゲーム性の特徴だと思うんですが、「やられそう!」と気付いたときにはもう遅く、その数秒以内に避けられない死が訪れるんです。そのため、あらかじめ安全マージンを取って、危険を察知して戦う必要がある……それがこの時代のゲームでした。この感覚、ちょっと伝わりづらいかもしれませんが……。
ムネタツ:
ダジャレに少しは反応してくれてもいいのに! まあでも、言わんとするところはわかります。あ、このパターンはやられるやつってのがわかってきますよね。で、なすすべなくやられる(笑)。
ぜんじ:
わかりやすくいうと、気絶させられたら死が確定することがあるし、突然上から落ちてきた敵に弾を撃たれてやられることもあります。でもこれが慣れてくると、まだ起こらないけどこのままだと危険だってことがわかってくるんです。危機察知能力が向上するというんですかね……。それがある意味、このゲームでいちばん面白い部分とも言えるんですが。
ムネタツ:
このままだとやられる!って状況にならないような立ち回りがだんだんできるようになるんですよね。このゲームはプレイする度に上達した!ってすごく感じるのは、そこも要因のひとつなのかも。
ムネタツ:
スコアの稼ぎ要素もなかなかに熱いゲームだったと聞きますが。
ぜんじ:
気絶を利用し、手裏剣を1発も無駄にせず、1人1発の計8発でステージクリアするとボーナスが入ります。
また、敵はやられると下に落ちていきますが、これに手裏剣を当てても点数が入ります。倒した瞬間、一緒に下へ落ちながら撃てばオーケーです。ただ、このボーナスを取ると前述のボーナスは取れなくなりますけどね。
ムネタツ:
僕はスコア狙いというよりはどれだけステージをクリアしたかってほうばかりだったなあ。スコアはあまり意識してなかったかも。周りにスコアラーがいなかったせいもありますけどね。
ぜんじ:
僕は当時はかなりやり込みました。鬼門はステージ24の武者ですね。武者は気絶させてからでないと倒せないので、必ず一度体当たりする必要があるんです。運が悪いとスタート直後にこっちが気絶させられて、何もできずにボコボコにされどんどん残機をどんどん失っていくんですよね……。
ここを超えると少し楽になるんですが、その後の面ではボスを1体残すと、分身の術を使ってきます。分身の術のときは、分身の攻撃はすべてフェイク。ただしどこに本体がいるかわからず、バリバリ攻撃してくるので緊張感がある。気絶したらそいつが本体。分身は体当たりしてもすり抜けるんです。ステージ24を超える人があまりいないのに、ここにこんなギミックを仕込むとは凄いな~と思いましたね。
ムネタツ:
昔のアーケードゲームは終わりがない(延々と続く)ものが多かったので、体力との勝負っていうのもありますよね。
ぜんじ:
電波新聞社の『マイコンBASICマガジン』が行っていたスコア集計に向けて頑張っていたんですよ。かなりいいセンまで行ったのですが、地方のゲーセンでもっといいスコアが出ていて全一(全国1位のこと)は取れなかったですね。
ムネタツ:
ほろ苦い思い出が蘇りましたか。『忍者くん』は、続編『忍者くん 阿修羅ノ章』が出ているんですよね。このアーケードアーカイブスでも好評配信中です。
ぜんじ:
開発の藤沢さんはキャラクターにもこだわりがあって、「自分が描いたキャラクターでなければ自分のゲームとは言えない」というくらいの考えの持ち主でした。『~ 阿修羅ノ章』はそんな藤沢さんの集大成だったと思います。このゲームも本コーナーでちゃんと紹介したいですね。
ムネタツ:
いやそれにしても、ぜんじさんがここまで『忍者くん』をプレイしたとは知りませんでした。あ、そうか、ぜんじさんは忍者の末裔でしたっけ。
ムネタツ:
だってほら、ぜんじさんって小田原在住だし。僕は風魔忍者の子孫なんだ!って言ってたじゃないですか。
ぜんじ:
そういう適当情報をメディアで書かないでください!(笑)
ムネタツ:
ゲーメスト編集部時代は、よく「空蝉(うつせみ)の術」を使ってたじゃないですか。バッグを置いたまま帰るっていう。「バッグが置いてあるってことは、ぜんじさんは会社(の近く)にいるんだな。じゃあ引き続き原稿を書いてくれるだろう」と思っていたら、じつはバッグを置いて帰ってる、っていう! あれは僕らのあいだで「空蝉の術」って呼んでたんですよ!?
ムネタツ:
最近、新しい忍法を覚えていたりしませんか? 「火炎の術だ!」「分身の術だ!」とか。
ぜんじ:
そういうキワドイ発言がムネタツさんから出るとは(汗)。レゲー勢じゃないと気がつかないからセーフかもですが、それ以上はノーコメントで。
- 第1回: ダライアス
- 第2回: クレイジー・クライマー
- 第3回: 忍者くん 魔城の冒険