ヒット作連発ゲーム開発者による4つのアドバイス。「チームは最小限に」「価格の決め方」など“持続可能なゲーム開発”の経験則

ヒット作を複数手がけたインディーゲーム開発者のTom Francis氏の、「持続的なゲーム開発」をおこなうためのアドバイスが話題となっている。

インディーゲーム開発者として15年の経験をもち、高評価ゲームを多数リリースしてきたゲームデザイナーのTom Francis氏が、自身のブログにて明かした4つのアドバイスが話題となっている。

Tom Francis氏はインディー開発スタジオSuspicious Developmentsの代表を務める人物だ。過去には、ステルスパズル『Gunpoint』や宇宙船潜入アクション『Heat Signature』、ターン性戦略パズル『Tactical Breach Wizards』などをリリース。特に『Gunpoint』と『Tactical Breach Wizards』はSteamで約1万件のユーザーレビューを得て、98%という高い好評率で「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。

Francis氏は約15年にわたる開発経験を振り返り、「インディーゲームスタジオを運営する上で重要だったこと」を4つの観点からまとめた長文記事を公開した。なおFrancis氏はゲーム開発における成功の定義として、売上や賞賛の数ではなく、快適なペースで次のゲームを開発できるという確信が持てるかということにあると述べている。そのため、今回は持続可能なかたちで長期にわたって開発を続けるためのテクニックが、もっとも影響力があり、もっとも真似しやすい部分として紹介されている。

『Tactical Breach Wizards』

規模拡大のデメリット

Francis氏が最初に挙げているのは、「できる限り小規模であり続けること」だ。一見すると、チームの規模を拡大すれば開発が速く進み、成功確率も上がるように思える。しかし同氏によれば、現実は逆になりがちだという。人員が倍になれば必要な売上も倍になるため、単純に成功確率がどんどん減っていくと分析されている。

もし2013年の『Gunpoint』がヒットした後に開発規模を大きく上げていたら、次作は駄作となり、その後はリリースできなかっただろうとFrancis氏は振り返っている。実際に2017年にリリースした『Heat Signature』は開発が難航したそうで、開発期間が短ければひどい状態でリリースせざるを得なかったとのこと。ゲームが良い状態になるまでテストと開発を続けられるだけの規模を保ったからこそ、変わらずにヒット作をリリースし続けられたというわけなのだろう。

なお、昨今ではゲーム業界におけるレイオフが相次いでおり、一部ではコロナ禍の収束により巣ごもり需要の終焉も原因として分析されている(関連記事)。人員増加によってレイオフやスタジオの閉鎖が起こるのであれば、本当の意味の雇用創出にはなっていないとFrancis氏は主張。情勢に左右されにくいという面でも、小規模な開発を続けることは効果的というわけだ。

『Gunpoint』

プロトタイプの役割

2つ目に、「短期間で試作品を作れる企画を選ぶこと」が挙げられている。ここでFrancis氏が言うプロトタイプとは、単なる技術検証に限らず、「ゲームの良さが伝わる最低限の形」を指すとのこと。そのため、最終的なビジュアルのクオリティを想定したアート重視のプロトタイプや、ストーリーの冒頭を構築したナラティブのプロトタイプなどもありえるという。結果によって、残りの時間の使い方が明確になるほか、またゲームがどこに向かっているのかチームで確認できるというメリットもあるようだ。

ただ、もしプロトタイプ     を作るだけで何年もかかるのであれば、ゲームのアイデアが機能するかを、方針を変える時間があるうちに確かめるというプロトタイプの役割を果たさないという。そのため、プロトタイプは失ってもいい時間の中で作れるかどうかが重要とのこと。どんなに素晴らしいアイデアであっても、それがプロトタイプ化できないならばインディーゲーム向きではない可能性があるという。プロトタイプを作ってあらかじめ“安全確認”をおこなうことは、リスクを避けるための鍵となるのだろう。

ちなみに『Heat Signature』では「Supporter’s Edition」を購入することで、初期のプロトタイプを遊んで開発の裏側を体験することができるようになっている。開発者による解説ビデオも付属しており、こうした施策は同氏がプロトタイプを重視する姿勢の表れとも言えそうだ。

フィードバックで洗練させる

3つ目として、Francis氏はテストの重要性について語っている。Tom氏はこれを「the magic bullet(特効薬)」と表現している。テストは時間も手間もかかるが、テスト不足のまま発売することほど高くつくものはないとも述べており、この「ゲームを良くする」段階に時間を取れない場合には、大きな問題になるという。

まずは社内向けのプロトタイプを、ほかの人が遊べる形にすることが目標で、最初は少人数のテストでも構わないという。ただ、あくまでもここで得られるフィードバックは真に受け過ぎず、あくまでも大規模なテストに移行する前に、深刻な問題などを修正するためなどに利用するべきとのこと。そしてコンテンツが揃っていなくとも、次は大規模なテストを実施することを推奨している。目安として挙げられているのは100人以上、多ければ2000人規模だそうだ。

『Heat Signature』

プレイテストをするにあたってはGoogleフォームを用いてフィードバックを集めるべきだといい、10点満点でゲームを評価してもらうことで、それがゲームを本気で嫌っていた人の文句なのか、もしくは10点満点中6点をつけた人の解決しやすそうな小さな不満であるのかをフィルタリングすることができるとのこと。こうしたプレイテストを繰り返すことで、効率よくゲームをブラッシュアップしていけるということだろう。加えて、人々がプレイしている様子を直接見るテストも重要だといい、実際に『Heat Signature』では、物理法則に基づく宇宙船の動きの制御に苦戦するプレイヤーが多いことを知り、便利な機能の追加に繋げることができたとのこと。

なお、Francis氏は奇抜なゲームを作りたい人ほどテストをするべきと主張している。ゲームのテストは、プレイヤーに何を変更するべきか訊いて仕方なくそれに従うといったものではなく、最終的に決定を下すのはゲームデザイナーである自分自身だと述べている。テストの質問も自分で決められるため、達成したい目標に合わせて質問を調整することも大事だそうだ。

価格を決めるアンケート

4つ目は価格設定についてだ。Francis氏によると、売上は大きく分けて「ストアページを訪れる人数」「購入したくなるかどうか」「価格」の3要素で決まり、このうち価格だけは時間をかけずに簡単に変更でき、そのうえ一回のテストによって適正値を探れるという。同スタジオでは、テスターに「いくらなら妥当だと思うか」を尋ね、その結果をもとに、一番多くの人が選んだ値で価格を決めてきたが、その方法でいずれの作品も高い評価と売上を得られたとしている。

なおFrancis氏は、「これだけ苦労したのだからもっと高く売りたい」といった考え方には否定的だ。開発者が売るゲームのコピーには原価がかからず、販売ターゲットになるユーザーは実質無限。価格を上げても、その分販売本数が減れば収益は変わらないどころか、レビューの好評率や口コミの盛り上がりが削がれる可能性もあるとのこと。重要なのは、プレイヤーが納得して払うことのできるゲームの「適正価格」を見極めることだという。

とはいえ、現代では価格が安くなる方向へと向かういわゆる「底辺への競争(a race to the bottom)」がおこるのではないかとの懸念に対しても同氏は回答。インディーゲームのプロとしてPCのインディーゲームの価格を注視してきた22年間を通して、一度も価格が下がったことはないと話している。『Gunpoint』をリリースした2013年ごろには、3時間のプレイに対して10ドル(当時のレートで約1000円)は高すぎるとの議論も起こった一方で、ひどい出来のゲームが無鉄砲に5ドルで販売されるといった例もあったという。近年ではどの価格帯でも成功や失敗が起こるものであり、開発者の増加とともに競争やノイズも増加。そうした中では、価格を決める際には周囲の傾向に左右されるべきでないと同氏は考えているのだろう。

『Tactical Breach Wizards』

ゲームを作り続けるために

売上本数を増やすための指南書ではないと強調されていることからも分かるように、Francis氏のアドバイスは、限られた資金と時間のなかで「ゲームを作り続けるための現実的な考え方」を示したものと言えるだろう。同氏は、良いゲームを作っても必ずヒットするわけではないものの、出来の悪いゲーム     を作れば確実にヒットから遠ざかってしまうと述べている。また大規模なヒットの可能性を上げるためにはマーケティングなどが噛み合うかどうかも関係してくる。プロジェクトが小規模であるほど、利益を出すために求められる売上も少なくなり、たとえば良い口コミが集まるといった要因でも“成功”を掴みやすくなるようだ。    

参入障壁が低くなったことや、大ヒットを収める作品の出現により、近年では市場には膨大なインディー作品があふれている。そのレッドオーシャン的な様相を指して、業界では「Indiepocalypse(インディーポカリプス)」なる言葉も登場していた。競争は年々激化し、インディーゲーム開発者を取り巻く環境が厳しさを増すなか、長年スタジオを存続させてきた開発者の経験談はこれからゲーム開発を進めていく上で頼りになる道標になるかもしれない。

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Motoharu Ono
Motoharu Ono

隠れた名作に目がない一方で、話題作にもすぐ手を伸ばすミーハー気質のゲーマー。『ゴースト・オブ・ツシマ』では本編よりもマルチプレイにハマり、アーマードコアの新作を心待ちにしている。

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