売上14万本のヒット作開発者、「次回作は1200本止まりだった」と正直に報告。“ちゃんと宣伝したのに売れなかった”理由を徹底分析

ヒット作『The Matriarch』を生んだインディー開発者が、次に手がけた作品では売上が1200本にとどまっていたという。

14万本を売り上げたヒット作『The Matriarch』を生んだインディー開発者が、次に手がけた作品では売上が1200本にとどまっていたという。その原因を「宣伝ではなくゲーム設計と作り方にあった」と本人が分析した投稿が、Redditのゲーム開発者向けコミュニティで注目を集めている。

投稿をおこなったのは、ベルリンを拠点に活動するゲームデザイナーのChewa氏だ。同氏は個人開発者としてパーティーゲームを中心に制作しており、2022年にリリースした『The Matriarch』では、14万本を売り上げるヒットを記録している。一方で今回の投稿では、今年9月に発売された新作『The Masquerade』の現状での売上が1200本であると報告。さらに同氏は次回作として準備していた『SOS Cannibals』にも触れながら、「なぜ同じ成功を再現できなかったのか」を考察している。

2022年にリリースされた『The Matriarch』は、2〜8人で遊ぶマルチプレイヤーのパーティーゲームであり、最終的に14万本を売り上げた。プレイヤーはNPCの集団に紛れ込み、行動のわずかな違いから正体を悟られないよう立ち回る。この「NPCになりすます」という要素に遊びの軸が明確に定められており、ルールや目的が直感的に理解しやすい構造になっていた。本稿執筆時点でSteamユーザーレビューでは711件を集めており、75%が好評とする「やや好評」ステータスだ。

Chewa氏はまず今回の投稿において本作の成功要因として、可愛らしい2Dビジュアルと、処刑や犠牲といった過激な行為をあえて組み合わせた点を挙げている。穏やかな見た目と残酷な行動の落差が強い違和感を生み、画面を一目見ただけで「何かがおかしい」と感じさせるフックとして機能していたという。こうした分かりやすさが配信や口コミを通じて拡散し、結果としてヒットにつながったと振り返っている。

『The Matriarch』

一方、2025年にリリースされたパーティゲーム『The Masquerade』は、前作よりも踏み込んだ、野心的な設計が採られていた。全プレイヤーが同時に「狩る側」と「狩られる側」の両方を担い、NPCに紛れ込みながら探索や武器の収集、ターゲットの特定を進めていくという内容だ。アイデア自体は意欲的で、Steamユーザーレビューも本稿執筆時点で「好評」ステータスと評価自体が低かったわけではない。ただし、レビュー数は現状14件にとどまっており、この点からも前作よりも売上に苦戦していることがうかがえる。

『The Masquerade』


売れなかった原因は?

しかし、Chewa氏は、今回の結果を「宣伝が足りなかったからだ」とは考えていない。実際、前作『The Matriarch』のゲーム内メニューでの告知をはじめ、約2000人規模のDiscordコミュニティ運営、10万再生を超えるTikTok動画の投稿、Steamフェスへの参加、デモ版やストアページの早期公開など、露出の機会は十分に用意していたという。それでも、無料で遊べるデモ版配信の段階で強い手応えを得ることはできなかったそうだ。同氏はこの点について「内容は理解されていたが、魅力的ではなかった」と述べ、売り方よりもゲームそのものに問題があったと線を引いている。そのうえで、なぜ手応えを得られなかったのかについて、設計や制作の観点から主に4つの原因を挙げ、順に振り返っている。

まず新作『The Masquerade』では、多数のNPCが行き交う空間の中で、周囲に溶け込みながら立ち回る体験を軸に据える構想があった。核として想定されていたのは、「群衆に紛れて正体を隠し続ける緊張感」だ。しかし実際には、探索や移動、タスク的な行動など、複数の要素を並行してこなす時間が多くを占める設計になっていた。その結果、プレイヤーは周囲を観察する余裕を失い、疑心暗鬼の感覚も持続しにくくなっていたという。

Chewa氏は、オリジナリティを出そうとするあまり、異なるジャンルやメカニクスを組み合わせすぎてしまったと振り返っている。近年は『Blue Prince』や『デイヴ・ザ・ダイバー』など、複合ジャンルのゲームも珍しくないが、本作ではそれぞれの要素がコアとなる遊びを補強するのではなく、プレイヤーの意識を分散させる方向に働いてしまったと自己分析している。実際、本作の制作にあたり参考にしたという『Among Us』では、タスクをこなす行為そのものが常に緊張感と結びついており、観察と警戒を途切れさせない構造になっている。一方『The Masquerade』では、メカニクスを足したことで、プレイヤーが「隠れる」「疑う」という行為から意識を外してしまう時間が増え、結果として核となる遊びが薄まってしまったと振り返っている。

また『The Masquerade』では、『Among Us』に加えて、『Assassin’s Creed Brotherhood』のマルチプレイ要素も参考にしていたという。同作のマルチプレイでは、ターゲットを探すまでの移動や追跡そのものが重要な遊びになっており、走る・登るといったアクションが気持ちよく成立している。しかし『The Masquerade』は見下ろし型の2Dゲームであり、移動そのものに爽快感やスリルを持たせる設計にはなっていなかった。その結果、ターゲットを探すためにマップを走り回る時間が増え、プレイヤーが群衆を観察するという本来の遊びが薄れてしまったという。Chewa氏は、要素を取り入れたこと自体が問題だったのではなく、「なぜその仕組みが面白く機能しているのか」を十分に分解できなかった点に原因があったと自己分析している。

さらにChewa氏は、『The Masquerade』が「見た瞬間に何のゲームか伝わりにくかった」点も問題だったと振り返っている。成功作『The Matriarch』では、可愛らしい見た目と処刑という過激な行為の対比が強い違和感を生み、画面を一目見ただけで興味を引く力があった。一方で『The Masquerade』は、世界観や設定は用意されていたものの、トレイラーを見ても「これはどう遊ぶゲームなのか」が直感的に伝わりにくかったという。

その背景として挙げられているのが、制作の進め方だ。本作は、群衆の中からプレイヤーを見分けることが重要なゲームであるにもかかわらず、カメラ距離や画面に映る人数、情報量といった遊びやすさの前提を詰め切らないまま、アート制作に進んでしまった。その結果、見やすさを優先すると雰囲気が弱まり、雰囲気を重視すると情報が把握しづらくなるという状態に陥っていたという。Chewa氏は、ビジュアルの出来そのものではなく、「何を優先して決めるべきだったのか」を誤った点を問題として挙げている。遊びの前提が固まらないまま表現を積み上げたことで、結果として作品の印象や伝わりやすさがぼやけてしまった、というわけだ。

投稿の後半では、制作者自身の関心と作品の方向性とのズレにも言及されている。Chewa氏が得意で、強い関心を持っている分野は、心理戦やソーシャルな駆け引きの設計だという。一方で『The Masquerade』は、実際のプレイ体験としてはアクション性が強く、面白さを引き出すには演出や操作感といった手触りの調整が重要になる作品だった。しかし、その領域に強い興味を持ちきれず、結果として磨き込みが後回しになってしまったと自己分析している。振り返りの中で同氏は、「新しいことに挑戦する姿勢そのものは大切だが、本当に学びたいと思える分野でなければ、長い時間をかけて掘り下げ続けるのは難しい」と結論づけている。


「次回作でも成功する」難しさ

こうした振り返りも見るに、ヒット作の次をどう作るかは開発者にとって悩みの種となることも垣間見える。一度大きなヒット作を生んだからといって、次回作や続編でも同じ成功が約束されるわけではない。とくに前作が注目を集めた場合、続編にすると良くも悪くも比較対象になりハードルが上がりやすく、方向性を変えた挑戦作であれば、前作のファンベースが引き続き遊んでくれるとは限らない。その一方で、挑戦には挑戦なりの難しさがあり、前作と同じやり方をなぞるだけでは解決できない課題も生まれる。

そうした状況の中で、Chewa氏の投稿では成功作と、レビュー数さえ少ない次回作を並べながら、どこが噛み合わなかったのかが具体的に整理されている。前作でうまくいった要素を基準に、挑戦した結果生じたズレを冷静に振り返り、その過程を共有している点で貴重な記録といえそうだ。

なおChewa氏は、今回の振り返りを経たうえで未来にも目を向けている。投稿の中では、近年主流となっている「友人同士で遊ぶことを前提にした3Dマルチプレイ作品」、いわゆるFriendslop的な方向性にも改めて挑戦する意向を示しており、商業的な失敗を経たうえで、再び多くの人に届くゲームを作りたいという前向きな姿勢を示している。個人開発ということもあり、1作目の成功で得た資金から新たな挑戦をおこなう余地もあるのだろう。同氏の次なる作品にも注目したい。

ちなみに今回のRedditの投稿では、本稿で引用したほかにも反省点や今後の展望が簡潔に整理されており、コメント欄でもさまざまな立場から意見が交わされている。関心のある人は、原文や議論をあわせて追ってみるのもいいだろう。

この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。

Junya Shimizu
Junya Shimizu

ローグライクが大好きです。映画や海外ドラマも好きなので、常に時間に追われています。

記事本文: 21