Steamで販売されていたステルスゲーム、レビューの自作自演を理由にストアから削除される。発端はYouTuberとの衝突か
プラットフォームSteamを運営するValveは1月18日、ステルスアクションゲーム『Art of Stealth』をSteamストアから削除し、開発者であるMatan Cohen氏との契約解消を発表した。
削除と契約解消の原因となったのは、開発者自身のSteamストアにおけるレビューの工作行為。Valveによると、Cohen氏は複数のアカウントを使って自ら『Art of Stealth』にポジティブ(オススメ)レビューを投稿していたのだという。『Art of Stealth』は2017年1月12日から販売開始されていたが、1週間も経たずにストアから消えてしまった。
https://www.youtube.com/watch?v=nwGHMdTTuOs
自腹を切った不正行為
Valveは、こうした開発者による工作を防止するために、昨年からレビューシステムの改善に着手している。具体的には、開発者自身が無限に発行でき、他の販売サイトから入手できる「キー」によるレビューを厳しく取り締まっており、Steamストアで購入したユーザーのレビューのみをゲームの評価とする方針を固めていた。Googleキャッシュに残っている1月17日17時(日本時間)時点の『Art of Stealth』のページを見てみると、キー経由のレビューはひとつ。そもそもキー経由のレビューではゲームの評価は変わらないことを考えると、おそらく開発者が複数のアカウントを作成し、6ドルのゲームをアカウントの数だけ購入していたのだろう。Valveもさすがに自腹をきったゲーム購入による工作を抑止する手段はない。ストアからゲームを削除し、契約を解消することで不正の措置をおこなったわけだ。
Steamストアのレビューが信用に足る場所であり続けるためには、こうした違反者が罰せられることは免れない。一方で、Cohen氏の工作の手法が少々間抜けであるのも事実だ。Steamストアからゲームを購入すれば最終的にその資金の多くは自分のもとへと返ってくるが、プラットフォームを経由した販売には少なくともロイヤリティが存在しているので、痛手がないとは言えないだろう。こうしたどこか奇妙な工作の背景には、とあるYouTuberとの衝突の影響があったと考えられる。
「クソゲー」と呼ばれて
実は『Art of Stealth』が話題にのぼったのは今回が初めてではない。リリース開始直後の1月14日にJim Sterling氏から手厳しい批判を受けている。Jim Sterling氏は辛口で知られているゲーム批評家だ。氏はさまざまなタイプのゲームを評価しているが、特に完成度の低いゲームタイトルを痛烈に批判するパフォーマンスが人気を集めている。Jim Sterling氏は『Art of Stealth』をプレイする動画を投稿し、動画内では「信じられないほどひどいゴミ」と吐き捨て「年始めにしてクソゲーオブザイヤーの有力な候補と出会ってしまった」と毒づいている。Sterling氏はYouTubeにて登録者を40万人以上抱えており、そうでなくとも数々のメディアに寄稿しており、カリスマ的人気を誇る。彼の後を追うようにさまざまなユーザーが『Art of Stealth』をこき下ろす動画を投稿し始めた。こうして『Art of Stealth』への悪評は波のように広がっていき、人の気配のなかったコミュニティにはレビューが公開された直後から多くの人々が押し寄せ、フォーラムはゲームへの批判で埋め尽くされるようになった。
こうした騒動をきっかけに、『Art of Stealth』をマークしたユーザーが次に目をつけたのは、Steamストアで急に投稿され始めた好意的なレビューだった。好意的なレビューのほとんどが1時間以下のプレイ時間で、内容も「ナイスなゲーム。周囲の環境が描き込まれているね。ゲームプレイも同様にいい感じだ。」というものや「他の銃のゲームより戦闘がいいね」といった、いかにも業者というようなものばかり。レビューを投稿した複数のユーザーのアイコンが、『Art of Stealth』のトレイラーにある素材であると判明したり、頻繁なユーザー名変更の履歴などが見つかったりするなど、検証は進んでいき疑惑は確信へと迫っていった。
開発者vsユーザーへ
さらに事態を深刻にしてしまったのは、Cohen氏が弾圧を始めてしまったことだろう。レビュー工作の検証をおこなっていたユーザーはフォーラムから追放され、『Art of Stealth』を手厳しく批判していた動画投稿者対しては、ゲームの映像が無断使用されていることを槍玉にあげ、デジタルミレニアム著作権法を違反しているという理由でYouTube内から動画を削除させると宣告。またSterling氏に対しては名指しし「クリエイターへの敬意を欠いている」と怒りを見せる。一方、Cohen氏は自作自演の疑惑について「あくまで大学時代から自分を応援してくれている友人がゲームを良いと思ったゆえにしてくれた行動だ」と弁明し、不正なレビューをおこなっていないと断言した。
しかし冒頭で説明したとおり、結局これらのレビューはCohen氏がおこなっていたことであることがわかり、『Art of Stealth』はストアから消えてしまう結末となった。Steamspyに残されたレビューの記録を見てみると、騒動が起こった14日からネガティブ評価のレビューが生まれており、その翌々日である16日からポジティブ評価のレビューが生まれている。推測の域はでないが、おそらくCohen氏は「クソゲー」の烙印が押され、真っ赤になりつつあるレビュー欄を変えるべく、不正行為に手を染めることを決意したと考えられるだろう。
ユーザーのすべてがCohen氏を全面的に非難していたわけではない。Cohen氏はゲームのクオリティについて、ゲームの公開が早すぎたことを認めており、初歩的なミスを犯していたと謝罪している。こうした状況について将来的には改善していくことを誓っていた。「誰でも犯すようなミス」と何度も口にしている点で反感を買っていたものの、対話を続ける姿勢について部分的に支持するユーザーも存在していた。いずれにせよ、最終的に自作自演をおこなってしまったことで、将来は潰えてしまった。
今回のケースのようにValveが開発者のレビューの不正を発表し、ストアの削除に踏み切るというケースはやや珍しい。それほど『Art of Stealth』をめぐる不正投稿が話題を呼んでいたとも言えるだろう。システムの改善を続けるValveの努力とは裏腹に、形を変えて現れるSteamレビュー工作問題。Steamストアから不正レビューがなくなる日はくるのだろうか。