『Skyrim SE』にスクリプト拡張ツール「SKSE」がいよいよ対応、3月リリースを前に重要性をおさらい

『The Elder Scrolls V: Skyrim』(以下、Skyrim)のスクリプト拡張ツール「Skyrim Script Extender」(以下、SKSE)を手がける開発チームは先月28日、64ビット環境向けにリマスターされた『Skyrim Special Edition』に対応した「SKSE64」を、早くて3月中旬のベータリリースを目指して開発中であることを明らかにした。

『The Elder Scrolls V: Skyrim』(以下、Skyrim)のスクリプト拡張ツール「Skyrim Script Extender」(以下、SKSE)を手がける開発チームは先月28日、64ビット環境向けにリマスターされた『Skyrim Special Edition』に対応した「SKSE64」を、早くて3月中旬のベータリリースを目指して開発中であることを明らかにした。同作は無印版『Skyrim』の既存Modと互換性こそあれど、これまでは外部ツールの「SKSE」が64ビットに対応していなかったために利用できないModが多かった。いまやPC版ユーザーにとっては必須ツールといっても過言ではない。この機会にスクリプト拡張ツールが秘めた可能性と、Mod文化における重要性を紹介する。

「SKSE」は、Mod制作者がゲームエンジンへ自由にアクセスできるようスクリプトを拡張するためのツール。導入することで既存スクリプトの範疇を超えたModの利用が可能になる。中でもユーザーインターフェースのデザインを根本から一新するModや、キャラクターメイキング時に通常では変更できない部位の調整機能やパラメータ表示を追加するMod、新しいモンスターや生態系を追加するModなど、ゲーム体験を大幅に改善する際には必要不可欠となる。また、キャラクターに空腹や喉の渇き、睡眠不足による疲労といった生理的概念を追加するModでは、必須ではないにしても「SKSE」なしでは利用できない機能も少なくない。このほか「SKSE」には、おっぱいやお尻の揺れを再現するのに必要な物理演算用のプラグインも存在する。スクリプト拡張による可能性は無限大と言える。

 

最大の利点はユーザーインターフェースの拡張

何よりも「SKSE」の重要性を実感できるのが、インターフェースの総合オーバーホールMod「SkyUI」である。バニラ(Modを使用していない初期状態のこと)ではごちゃごちゃしていてアイテムの管理が煩わしかったインベントリ画面を、カテゴリ別のアイコン付きで画面いっぱいにリスト表示してくれる。アイテムのタイプやクラス、重量や価値も全て同時に把握できる点が魅力だ。テキスト検索やソートも可能。最新バージョンではクラフト、エンチャント、錬金術、鍛冶の画面にも対応した。また、よく使う装備やアイテムを登録しておく「お気に入り」欄にホットキー機能が追加されるので、わざわざメニューを開かなくても武器や魔法を持ち替えられる。このほか、マップ上の場所を検索できたり、アクティブなエフェクトが常にHUD表示されたりと、細かいところでゲームプレイを快適にしてくれる。

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「SkyUI」導入によるビフォーアフター
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特筆すべきは、対応しているModの設定をゲーム内メニューで一括管理できる機能「Mod Configuration Menu」(通称、MCM)がデフォルトで組み込まれている点だ。元々は『Fallout: New Vegas』向けに開発された一つのModだった。後に「SkyUI」へ応用され、現在では一般的なModのユーザビリティとして概念が定着している。「MCM」に対応したModは制作者があらかじめ表記していることが多い。要するに各Modのオプション画面である。ユーザーインターフェースやゲームシステムを改変するModは、大抵の場合プレイヤーが好みに合わせて変更内容をカスタマイズできるように設計されている。「MCM」という機能が存在するおかげで、ゲームをプレイしながらいつでも設定が変更できるというわけだ。

「SKSE」を利用したインターフェースModの代表例は他にも、没入感を追求するために必要最低限な画面情報だけを可視化する「Immersive HUD」(通称、iHUD)がある。『Fallout』シリーズでもおなじみのModだ。体力・マジカ・スタミナゲージが最大値の時にフェードアウトするまでの時間を調整したり、コンパスの表示をトグル形式で切り替えたり、弓・杖・魔法を構えた際やインタラクト可能なオブジェクトを前にした時だけクロスヘアを表示したり、隠密アイコンを非表示にしたり、コンパスやクロスヘアの透明度を変更したりと、HUDエレメントをプレイヤーの好みに合わせて自由にカスタマイズできる。以前、『Fallout 4』のトイレットペーパーModや、「これなしでは生きていけないベストMod 5選 Skyrim SE編」の記事でも論じたように、“Mod道”とは日常という究極の没入感を追求することでもある。現実世界では目の前にコンパスやクロスヘアなど見えない。「iHUD」は何より先に導入したいModの一つだ。

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「RaceMenu」のキャラクターエディット画面
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オープンワールドのロールプレイングゲームを楽しむ上でもっとも大切な作業は、キャラクターメイキングである。『The Elder Scrolls』や『Fallout』シリーズでキャラクターの顔面を造形する時間が、ゲーム本編に費やす時間を凌駕しているプレイヤーも少なくないだろう。「SKSE」を導入すればキャラクターエディット画面も大幅に拡張できる。もっとも代表的なModに「RaceMenu」と「Enhanced Character Edit」が挙げられる。両者とも全ての調整スライダーに数値を表示するほか、身長や頭の大きさ、バストサイズといった通常では個別に調整できなかった部位のスライダーを数多く追加してくれる。また、エディット画面での照明効果や表情の変更、カメラ位置の調整といった機能の充実によって、細かい作業がよりスムーズに行える。このほか、ヘッドメッシュの編集機能や顔データの移植、新たな顔面パーツの追加、既存パーツの造形修正など、2つのModにはそれぞれ異なる特徴がある。ぜひ両方試してみて欲しい。

 

ユーザーインターフェースが重要な理由

それではユーザーインターフェースの拡張がどうしてそこまで重要なのか。それはゲームデザインを大幅に改変したり新たな体験を追加する大型Modの多くが、前述した「SkyUI」の機能を前提として開発されているからだ。そのほとんどが「SKSE」と「SkyUI」の導入を必須条件に設定している。「Skyrim Immersive Creatures」が良例だろう。このModは、850種類以上のクリーチャーをLeveled List(プレイヤーのレベルに応じたアイテムやモンスターを登場させるデータリスト)に追加するほか、プレイヤーやNPCが使用できる魔法や、エンカウントエリア、ユニークボス、戦利品の種類を劇的に増やしてくれる。また、敵が強力なPerkを習得していたり、ダンジョンのスケルトンがランダムで復活したりと、全体的な戦闘の難易度が上昇するのも特徴。まったく異なる『Skyrim』が楽しめるだろう。

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空腹は体力・スタミナの自然回復量や攻撃力に影響する
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まったく異なるゲーム体験といえば、広大なオープンワールド探索にリアリティという脅威を付与してくれるのが、生命維持に必要な生理現象を追加するMod「Realistic Needs and Diseases」だ。その名のとおり、プレイヤーは時間が経てば空腹になるし喉も渇く。アルコールを摂取すれば酔っ払う。定期的に適度な睡眠を取らなければ疲労が蓄積していく。不健康や不摂生な状態が続けば病気にもかかる。それぞれの効果とレベルに応じてステータスにペナルティが付与される仕組みだ。それまでは単なる効果の薄い回復アイテムに過ぎなかった食料や飲み物、いまいち有り難みを実感できなかった料理機能、気分的なロールプレイを味わうための道具だったベッドが、たちまち武具よりも大切な存在に変貌を遂げるだろう。もちろん飲食の際にはアニメーションも再生される。

「Realistic Needs and Diseases」は「SKSE」と「SkyUI」なしでも動作するが、利用できる機能が著しく制限されるため導入が強く推奨されている。たとえば、「SkyUI」の機能である「MCM」がなければ、空腹・渇き・疲労レートの調整や、アルコール飲料による酩酊度合い、酔っ払った際につまずいて転ぶ確率、腐った食料や生水を口にした時や不衛生なベッドロールで眠った際に病気にかかる確率、生肉・乳製品・加工食品が腐るまで時間など、各種ゲームバランスの調整が一切できない。「MCM」というユーザーインターフェースのおかげで、本来ならデバッグ用のコンソールコマンドを直接打ち込まなければ確認・変更できないデータへ視覚的にアクセスできるのだ。このように多くの便利なModにおいて、「MCM」なくして全ての機能が発揮できず、「SkyUI」なくして「MCM」も使えず、「SKSE」がなければ「SkyUI」は導入できないというわけだ。

最後に、ゲームエンジンの物理演算を拡張する「SKSE」用のプラグインにも言及したい。『Skyrim』が採用しているミドルウェア「Havok Physics」は、ラグドール物理(主にキャラクターやモンスターの死体に適用される物理法則のこと、骨格筋という概念がないぬいぐるみが語源となっている)のような現象を動的に表現できる。しかし、デフォルトの仕様ではその適用範囲が一部に限定されているため、キャラクターが走った時にポニーテールが風になびいたり、ジャンプした際にひらひらミニスカートが豪快にめくれたり、激しいアクションの中でおっぱいが揺れたりといった挙動には対応していないのだ。

そこで登場するのが「SKSE」の機能を拡張するプラグイン「HDT Physics Extensions」である。スケルトンファイル(キャラクターの骨格を構成する3Dデータ、メッシュやテクスチャと組み合わせてキャラクターを表現する)を書き換える「XP32 Maximum Skeleton」や、フィジクスとコリジョンを追加する「HDT Breast And Butt Physics」、乳揺れ・尻揺れに対応した体型Modと組み合わせることで、巨乳をたゆんたゆんと揺らせるようになる。また、揺れるポニーテールは「Skyrim Hair Physics Project」のような専用の髪型Modを入れれば再現できる。ここでは全てを紹介しきれないが、このほかにもHDT関連のModは数多く存在する。

このように「SKSE」はMod文化の根幹といっても過言ではない。昨年6月に『Skyrim Special Edition』が発表された直後には、『The Elder Scrolls III: Morrowind』の世界を『Skyrim』の中で再構築する大型Mod「Skywind」の行方が懸念された。2012年から100人規模の制作チームで開発が進められていたが、完成の目処が立たないまま64ビット環境で動作するリマスター版が発表されてしまったからだ。「Skywind」も例に漏れず「SKSE」を利用している。仮に4年近くを費やした巨大プロジェクトが完成したとしても、「SKSE」が64ビットに対応するまではリマスター版向けにリリースできない状態だった。いよいよ「SKSE64」が配信されれば、くすぶっていた人気Modが一斉に『Skyrim Special Edition』へ対応することが期待できる。

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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